――事の発端は……ドッザの征服にこそある。
そもそも野心家である彼は〝バシレウス〟を支配する為にその議長の座に就く野望を抱えていた。
それを叶える為には大きな手柄を手にしなければならない彼は〝ガロプラ〟と〝ロドクルーン〟と〝エルガテス〟――3つものの国を征服しようとしたのだ。
その企みは――確かに成功した。
攻め込まれた3国が手を組んでまで反攻を試みたが、それでもドッザが率いる軍団には敵わず――まんまと〝バシレウス〟、性格にはドッザ派の支配下に置かれる事になってしまった。
その3国が〝バシレウス〟にとって手強い国々であるのはそうだが、それだけではなくそれぞれの文明も中々だという。それこそ〝バシレウス〟の発展に貢献できる程だろう。
その事実によりドッザも上機嫌になり、その手柄を早速持ち帰っていった――
――だが、彼は知らなかった……
征服してきた3国のうち――〝エルガテス〟はある海賊団と揉め事を起こした事を……
――その海賊団こそが……「七武海」〝海賊女帝〟ボア・ハンコックが率いる九蛇海賊団であった。
そういう背景からハンコックは〝エルガテス〟を征服しようと考えたのだ。
――だが、そんな彼女に狙われていたその国はもちろんドッザによって先に征服されてしまった。
その事に対してハンコックは――もちろん激怒した。
自身が征服しようと考えていた〝エルガテス〟を不遜にも奪った不埒者、それも汚らわしき男。そんな者にハンコックは怒りを抑える道理がどこにもなかった。
――〝エルガテス〟はわらわが狙ったんだぞ!!
――それをよくも先取りしおって〜!!
唯我独尊である彼女はどれだけ愚かしい事を犯してしまったのかをドッザに思い知らせてやる為に彼がいる場――〝バシレウス〟に向かっていったのだ。
そうして――暴獣海賊団と〝バシレウス〟の戦争に「七武海」の1人が参戦する成り行きになったのだ。
「――さぁ……どれだけ愚行を犯したのか、それを思い知らせてやる――ドッザ!!!」
堂々と立つハンコックがドッザに対して鋭く指差し威圧的にそう言い放った。
汚らわしき男等丁重に扱ってやる事はない。それを証明するかのように彼女は彼を見下ろす――あまりにも見下ろしすぎて上を見上げる格好になっていた。
そんなハンコックの姿にドッザは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「――おいおい!!まさか、あの「七武海」が〝エルガテス〟を狙っていたのか!?」
その事実を突如突き当てられた彼は今身を置かれている状況がすごく悪いのに気付かせざるを得なくなり――歯を食いしばった。
――暴獣海賊団が〝バシレウス〟の中枢である城にまでも殴り込みにやってきて、しかも城内で最も重要であるといっても過言ではない会議室で戦いが展開されてしまったというあまりにも類を見ない程の非常事態が発生してなお、ドッザはそれでも狼狽しなかった。
彼には確かにあんまりな大事を起こしやがったんだろうが――それでもたかが一海賊団だ。どれだけ威勢が良かろうが、どうせ自身達に敵わずに打ち破られるのがオチだ。
それなら、せっかく起こったこの混乱を楽しめればいい。責任に関してもそれが起こった原因であるハイレイン派が負う事になる故に心配もないから気楽だ――ドッザはそう考えたのだ。
……〝暴獣のスサノオ〟が率いる暴獣海賊団の事を知らない程に無知である故の――あまりにも浅薄すぎる見通しであった。
とにかく、そんな考えから気楽にやろうとする彼のご機嫌も――ハンコックの登場により跡形もなく消えていった。
その彼女は無知なドッザでも知っている程に名声を轟かせられる「七武海」の1人だ。その実力ももちろんあるのは間違いはない――だからこそ彼も今更ながら焦り始めた。
何せ――たかが一海賊団といえ中枢の城までにもやってくる程に威勢がある暴獣海賊団に加えて「七武海」の参戦だ。
それを受けてドッザもようやく〝バシレウス〟――というか、自身の危機的状況をようやく実感したのだ。しかも「七武海」の参戦の原因が自身の行いにあるのでかえってだ。
そういう成り行きであれば、彼に責任が確実に発生する事になってしまうからだ。
その事実を認識した途端にドッザは苦悶の表情を浮かべ――そして怒りを露わにした。
「(〜〜!!ざ、ざけんなぁ!!色んな事をやってきて、ここまでやってきたってのに――ここでくだらねぇ事で終わってたまるかぁ!!)」
……実は彼は今の立場に就くまでには色々な事をやってきたのだ。それこそ不正――汚い事にも手を出していた。
そうし続けていくうちに一国のリーダー、評議会メンバーに就くまでやってこれたのだ。そのように苦労してまで築いてきた全てを終わらせられかけているという事実をドッザはもちろん受け入れられず――何としてでも足掻いてみせるのを決意した。
だが、今の窮地を脱するには――慢心を捨てて戦いに勝利しなければならない。その事実に彼はしかし腹をくくり――ハンコックに対して大斧を掲げた。
「――どれだけ愚行を犯したのか思い知らせてやるだとぉ?――そんなの知るかよぉ!!」
「むしろ、テメェこそここまでやって来やがって――つけ上がってんじゃねぇかぁ!!?」
「テメェこそ覚悟はいいのかぁ!!?この――」
「薄汚ぇ海のクズアマがぁ!!」
「…」
――おそらく自身を奮い立たせる為なのだろうか、随分と小馬鹿にするように言い放ったドッザに対してハンコックは――無表情になった。
それは実に重苦しい威圧感を放っていて――まさに能面の如きであった。
だが、それに気付いているのか気付いていないのか彼は構わずに素早く彼女の元に駆け向かって――そして大斧を強く握りながら構えた。
「(――コイツはあの「七武海」だ!!なら、その実力はもちろん高ぇ筈!!――ならよ!最初から全力でやってやら!!)」
今身を置かれている状況と相手の考えられる実力の程から全力を出してケリをさっさと着けるべきだと判断したドッザは出方を待たずに手に持つ大斧――に宿らせている〝悪魔の実〟の能力を発動しようとする。
「(コイツに宿った力なら……!「七武海」なんだろうが――倒せる筈だ!!なぜなら、その能力は――……)」
――その場に鈍い音が響かれた。
……大斧を大きく振り下ろそうとしていたドッザの顔には――ハンコックの足が強く当てられていた。
そう、彼が攻撃を本格的に開始しようとする直前に彼女がそれは実に目にも留まらぬ速さでその元に勢いよく駆け寄り――そして、その顔を猛烈な勢いで蹴り落としてやったのだ。
「あ゛……が……!」
「――むん!」
――そして、それだけに留まらず……ハンコックが自身の足にさらに力を容赦なく入れてやる。
そうした事でドッザは顔面に更なるダメージを入れられ、体勢をも崩され――しまいにはその足元の床にはヒビを入れられていた。
そんな彼に対して彼女は――さっきの無表情とは一変して鬼の如き形相を浮かべていた。
「……〝薄汚ねぇ海のクズアマ〟じゃとぉ〜」
――そう、ハンコックが実に恐ろしげな声でそう口にした事から勘付くように彼女はその侮辱が心から許せられず、だからそれを言い放ったドッザに対して鉄槌を下そうとしたのだ。
「〜〜よりにもよって!汚らわしきそなたがよくも……よくも!このわらわに向かってそれをほざきやがったな!!」
ハンコックは自身の美貌に誇りを持っている。もちろんそれを貶されるのを何があろうともが許せないのだ。
ましてや、それらしい侮辱を出したのが外面と内面の両方も汚らわしき男ではかえってだ。
故に――〝海賊女帝〟の憤怒をドッザが生で受ける事になってしまった。
「身の程をわきまえずに侮辱する罪!!それを詫びながら堕ちるがいい!!」
〝海賊女帝〟が彼に対してその宣言を堂々と告げた途端にドッザは彼女のさらに力を入れた足によって――その身体ごと床の下へ圧し沈められた。
しかも、その凄まじい威力によって勢いが収まらない故に下の階の床さえをも通り貫かれ――そのまま奈落の底に落とされ続けていった――
そんな様を見届けたハンコックはあれだけ激しかった怒りもすっかり収まって機嫌良く笑みを浮かべた。
「フン、このわらわを侮辱した罰じゃ」
床に大きく開けられた穴に向かって彼女はビシッと指差し、胸を張ってそう言い放った。なお、おそらく落ち続けるであろうドッザを見下ろそうと首を引きすぎて見下ろしすぎのポーズをとっていた。
――それはあまりな短時間であるが、確かに激動であった展開に対して呆気に取られた者がいた。
「……いや?アイツはこの僕が叩き潰す筈だったんけど?」
――ついさっきまでドッザと戦っていたヤマトであった。
彼女は確かに彼との戦闘に価値を見出せなくなったものの、少なくともドッザに対しての不快感を彼ごと叩き潰す意欲は存在していた。
それを突如現れたハンコックによって横取りされたという形になったヤマトの感情が空回りしてしまうのも無理もなかった。
その為に錯乱している感情を上手く整理できず、呆然とせざるを得なくなった彼女であった。
「……横取りされちゃったよ……」
「「や、ヤマトさん」」
未だに呆気に取られているヤマトに対して恐る恐る声を掛けられる。その声の元に彼女が視線を向けてみるとそこには――サンダーソニアとマリーゴールドがきまりが悪そうに立っていた。
ハンコックを補佐する2人もまた彼女に続いて〝バシレウス〟にやってきたのだ。そして姉が主導する波乱の展開に巻き込まれてしまったヤマトの姿を目視していた。
姉の唯我独尊はいつも通りであるが……それによって彼女が割を食ってしまったという事実に2人共申し訳なく感じぜざるを得なかった。
「あ……来てたんだ。サンダーソニア、マリーゴールド」
「はい……すみません。ウチの姉が横取りしてしまって」
「すみません……ウチの姉にとってあの男は逃がす訳にはいかない獲物だったんで……その……」
「…」
2人からのお詫びと説明をヤマトが未だに呆然としながら聞いていた。
――雰囲気が締まらなくなった場だが、そこに
「――何でハンコック達がここにいるごわす!?」
「――一体何かが……!?」
「「!!」」
「!――うるティ!ページワンも」
ドッザ派と戦っている筈のうるティとページワンがやってきた。その姿にやっと我に返ったかのような反応になったヤマトもすぐ2人の後ろを覗いてみた。
「――そちらも片付けられたんだね」
そして状況を把握できた彼女がそう口にした事から勘付くようにそこには――死屍累々が広げられていた。
そう、2人はドッザ派を何の事はなく撃破してきたのだ。だからこそヤマトの元に寄ってきた。
これで請け負った役目を十分果たせた事になるんだが……肝心の2人はなぜかムスッとしていた。なぜならば――
「〜〜でも!つまらなかったごわす!」
「……奴らは別に強くはなかった。だから退屈しのぎにもなれなかったんだ」
……どうやらドッザ派は大した実力を持っていなかったらしく有益な戦いになれなかったようだ。楽しめる戦闘を期待して戦意を激しく燃やしていた2人だからこそ――その事実が何よりも不満だった。
そんな姿勢にヤマトは――苦笑を浮かべた。
「あはは……そちらも不完全燃焼だったようだね――実はこの僕もなんだ」
悪友達も自身と似たような思いを抱えているのを受けて彼女もようやく感情を整理できたらしく普段の元気な様子に戻っていた。
そして、つい恐縮してしまうサンダーソニアとマリーゴールドに向き直って
「――君達が気にする事はないよ!君達はもちろん、ハンコックも自らのやる事をやっただけだろ?」
「僕が不完全燃焼のもアイツをさっさと叩き潰さなかったからなんだし!」
活発な笑みを浮かべながらそう言い放ってやった。その言葉に目を見開く2人に言葉を続けられる。
「――でも、やっぱり強いね!ハンコックは……アイツを一撃だよ!」
「……ヤマトの方が強いごわす!」
「!姉貴……オレもそう思うぜ」
ヤマトがハンコックの事を率直に称賛した。なお、それを耳にしたうるティもページワンも遠回しな嫌口を一応出しておいた。
3人からのその言葉に2人もますます目を見開き――そして嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……えぇ!あれこそが――我らが姉様なんです!」
「ふふっ……確かに困ったところがありますが……自慢の姉です」
何だかんだでハンコックの事を自慢に思う2人の姿にヤマトもつい笑みを浮かべた。
「ふふっ!そうだね!」
「……フン!」
「……姉貴はよぉ〜」
――そこには和気藹々とする雰囲気が広げられていたが……
「――おっと!何にせよ、君達が今ここにいるんだ。ならば……情報を共有しなきゃ!」
「!――そうですね……!」
「確かにここでの状況を早く正確に把握すべきですね」
ふと気付いたヤマトが言い張ったその言葉にその場にいる人々も異議を唱えずに頷く。
「――お〜い!ハンコック〜!」
それでヤマトがハンコックにも声を掛けようとし――
――そして
「「「…!!」」」