――〝バシレウス〟の中枢の城の最下部に設置されている牢獄の間。
そこは人を閉じ込める役割を持つだけはあって重苦しい雰囲気を漂わられているが……今のその場にはさらにものすごい緊張感も走らされていた。何せ――
「――何でここにドッザが!?」
「あ゛ぁ゛?」
――〝バシレウス〟評議会メンバーの1人であるドッザ。
――そして〝バシレウス〟からの逃走者達。
そのような者達がその場で対峙しているからだ。
特に逃走者達――エマ達はさらわれた仲間の救出を無事に果たした今、もはや逃走すれば良いだけだ――そう思われたところに突如天井から評議会メンバーの1人が落とされてきたのだ。
突如の事に動揺するのも無理もないが……ただ、彼女達にはそれだけではなかった――その男に対して激しき嫌悪感を示していた。
それもその筈。実はエマ達が生まれ育てられた地は他でもならぬドッザの支配地であった。
粗暴である彼によって統治される地で生きる彼女達は苦しい生活を過ごせざるを得なかった。その生い立ちからエマ達はその元凶ともいえるドッザに対して嫌悪感を感じずにはいられないのだ。
そういう背景から彼女達は彼に対して嫌悪感を示しながら――冷静に警戒を捨てずにみがまえておく。
「……一体何かがどうなったんだ!?今ここにアイツがやってくるなんて!」
「全くだ!――でも……」
仲間を救出するのに忙しいところに心から憎き男がやってきたというあまりにも波乱の展開にエマがつい感情を吐き出さずにはいられなかった。
その感情にノーマンも共感を示し――そして気付く。
「……アイツも何か――良い状態じゃないようだ……フラフラしている上に顔面に血が流れているね?」
「「「…!」」」
ノーマンの冷静な指摘に憎悪と焦燥感で冷静さを欠いていたエマ達も一旦頭を冷やしてドッザを改めて注視してみる。
……確かに目前に立っているドッザはふらついていて、そしてその顔面には少なくはない血を流していた。しまいには心なしか顔面が凹まされているように見えなくもなかった。
知る姿とは違うもはや瀕死になっている彼の姿に彼女達も訝しげにする。
――そう、ついさっきドッザがハンコックからの強烈な蹴りを直で受けて、そして会議室から牢獄の間にまで落とされていたのだ。
それ程の威力を秘める蹴りとその余波により彼も大ダメージを食らうのを避けられなかったのだ。
……ただ、普通なら完全に気を失ってもおかしくはない程のダメージであるが……
――ドッザは腐っても鍛錬を怠らない戦士である。
ヤマトから弱くはないが強くもないと評された彼だが、少なくともハンコックからの蹴りを受けても気絶しないぐらいのタフさを持ち合わせていたようだ。
だからこそ、その強烈な蹴りを受けて会議室から牢獄の間にまで落とされたドッザは瀕死ながらそれでも辛うじて立ち上がってみせたのだ。
「……何だぁ?テメェらは……?」
そしてエマ達の声を聞いた彼は苦悶、そして怒りの表情を浮かべながらその元に顔を向けた。
――そうしてエマ達とドッザが顔を合わせる事になった……
一見瀕死ながらも、しかし何やら殺気立った彼の姿にエマ達もつい――震え慄いてしまった。
彼女達にはどれだけ憎々しくても……一応自身達の統治者だった男だ。そんな彼に怒り、殺気を向けられたらつい恐怖を感じ凍りつかずにはいられないのだ。
――だが、それでもエマ達は何とか気を奮い立たせて彼を睨み付けた。自身達の誓いを果たす為に……
「――私達は!かつてあなたが統治する国で生きた者で――」
「――そして!!自由を求める逃走者だ!!」
「そうだ……!僕達はもう――お前の思い通りにならないぞ……!!」
「「「オォ!!」」」
――そして、その宣言を高らかに行った。
彼女達はその忌々しい過去と完全に決別する為にドッザに対して臆する事なく直接言い放ってみせたのだ。
慄きながら、それでも言いたい事を言い切り強い目をするようになったエマ達の姿勢に彼は――
「……クク」
笑い始めた。その笑みの不気味さについ鳥肌が立った彼女達をよそに笑い続けられる。やがて――
「――ギャハハハハハ!!そうかぁ!!テメェらがそうなのかぁ!!」
ドッザはあふれんばかりの笑顔を浮かべるようになった。
その笑みには狂気、怒り――様々な負の感情が込められている故に恐ろしいものになっていた。
そんな笑みを向けられてしまったエマ達もつい息を飲み、震えてしまった。
それに構わずに彼は言葉を続ける。
「――ちょうどいい!!こっちでムカつく事がたくさんありすぎてよぉ〜〜!!」
そう言い張るドッザの笑みから怒りがさらに濃くなってきた――彼は今身を置かれている状況、そしてハンコックから蹴り落とされて深手を負わされた事に激しき怒りを覚えていたのだ。
そもそも――今まで他人を長らく見下ろして生きてきたドッザがその他人から逆に見下され、それだけに留まらずに追い詰められたという事実に耐えがたき屈辱を感じずにはいられなかった。
そんな彼の目前に自身が支配する地から逃走を実行しやがった子供達が姿を現してきた。その登場、そしてその宣言を受けた事で屈辱感に拍車がかかったが……同時にちょうど良い機会だと考えてもいた。なぜならば――
「だからよぉ〜〜!!気晴らしに……テメェらを殺してやるよぉ!!」
卑劣にも自身の屈辱感を子供達に八つ当たりする事で晴らそうと考えたドッザは素早くエマ達の元に駆け向かっていった。
「「「!!」」」
その言葉と迫ろうとしてくる彼の姿に彼女達はビクッとし――しかし、すぐ身構えようとする。その姿勢をドッザは嘲笑った。
「ギャハハハハハ!!ムダだぁ!!」
彼はせせら笑いながら手に持つ大斧を構え――その力を発動しようとする。
「(クク……この能力はなぁ〜〜……)」
――そう加虐的な笑みを浮かべていたドッザが……突如吹っ飛ばされた。
「ガアァァァァァ!!?」
「「「!?」」」
――エマ達……とは違う所からの攻撃を受けた彼が勢いよく吹っ飛ばされ――壁に強く叩き付けられた。
「「「!」」」
その事態を目視したその場にいる人々は素早くドッザに攻撃を放ったであろう者に視線を向けてみた。そこには――
「!!――マリアさん!?」
「……は〜い♪」
驚愕するエマがそう口にした通りにマリアが立っていた――そう、彼女は薙刀でドッザに対して実に強烈な攻撃を放ってやったのだ。
吹っ飛ばされた彼の有様を無表情で眺めるマリアだが、エマの声に応えて素早く明るい笑みを浮かべ彼女達に手を振った。
さっきの冷たい様子とは違う陽気な態度によるギャップにエマ達も呆気に取られざるを得なかった。
「……〜〜っ!!クソがぁ!!」
「「「!」」」
ついのほほんとする雰囲気を破るかのようにその声が響かれた。
――ドッザがさっきよりさらに傷を負わされた状態だが、それでも辛うじて立ち上がろうとしてきた。
「……へぇ?私の攻撃を食らってなお立つのね」
「ハッ!!このクソアマが……!!当たり前だろぉが!!どんな攻撃だろぉが――このオレには通じ――……!?」
その姿に軽く驚きをみせるマリアの反応に彼はイラつきを覚えながらも胸を張って言い放とうとする――が、突如止められる。
――ドッザが立ち上がる為に支えにしている大斧から嫌な音が出て……そして、力なく崩壊していった。
「!!?な、な、なぁぁぁぁぁ!!?」
彼は大斧が完全に崩壊されて、あとは数々の残骸しか存在しない手を信じられない目で凝視した。
「ば、バカなぁぁぁ!!?こ、これは〝悪魔の実〟を食わせるんだからこそ――破壊できないようにできている筈だぞ!!?」
――そう、ドッザがそう口にする通りに実は〝バシレウス〟では〝悪魔の実〟を武器に食わせる際の武器にはそう容易く破壊されないように頑丈さを持つのを求められている。
さもなければ、武器を破壊された時にせっかく手にできた〝悪魔の実〟の能力を失う事になるからだ。
そういう背景から〝悪魔の実〟の能力を宿った武器の硬度は並ではない――もちろんドッザの所有する大斧も同じである。
そんな大斧が――たかが女からの攻撃によって破壊された。その事実に激しく動揺せずにはいられないドッザの姿にマリアは――妖しい笑みを浮かべていた。
「……ふふっ、当然よ。だって、私は――」
そう囁く彼女の目は手に持つ薙刀に移される。そこには――揺れ動いていた……
「――「振動」の力を扱えるんですもの……!!」
――ブラックマリアは小紫の事を親友として大切に思っている。
――なのに、その親友が自身の感情の矛盾によって苦悩していたのを完全に察してやれなかった。
幸い彼女はスサノオによって救われ、そして自身の新たな生き方を定めた。
そんな彼女の力に今度こそなりたいと考えた――助けになれなかった償いも込めて……
――だが、その為にはまずは強くなろうと考えたが……それにはどうすべきなのかマリアは考え悩んだ。
考えて考え抜いた彼女はやがて小紫の扱う力に目を付けた。その力を自身をもマスターすれば、さらに強くなり――親友の力になれるのではとマリアは考えたのだ。
そう決断した彼女は早速――小紫に迷わずに教えを乞った。
自身の為にそこまでするマリアの意志を小紫は嬉しく思い――その要望を受け入れた。そこから修行が行われた。
やがて4つの力のうち最も相性が良く適する「振動」の力をマリアがマスターできたのだ。
――そして、その力をマリアは薙刀に纏わせ、それをドッザに放ってやったのだ。
その威力はまやかしではなくて彼はもちろん生で受けた大斧も破壊されていった。
それを知る由もないドッザの動揺がまだ収められていないところで――ハクジが追撃しようと動く。
「――待って、ハクジ」
「!」
だが、そんな彼をマリアが制止する。それにハクジが目を見開き、その疑問を彼女に投げ付ける。対するマリアは微笑み――
「――とどめは……エマちゃん達に譲ってあげて」
――エマ達に視線を移してそう言い張る。その提案にその場にいる人々はもちろん彼女達も驚愕する。
「え!?わ、私達が!?」
「マリアさん?」
突如の事で訳が分からず動揺するエマ達にマリアは説明し始める。
「――あなた達は自由を求めてコイツの元から逃げたんでしょ?」
「――なら、コイツをあなた達が倒すこそ意味があるんじゃない?」
「……あなた達だって思う事がない訳じゃない筈」
「「「…!!」」」
真剣な表情を浮かべる彼女の説明を受けてエマ達もハッとする……
――そうだ。私達はドッザの支配から自由になりたくて――逃げたんだ。
――確かにドッザを倒せば……完全に解放される……!
――それにコイツには……色々されたんだ……なら
そう考え付いて――やがて決断を下した彼女達の表情は――引き締まっていた……
「――行くよ!皆!」
「「「オォ〜!!」」」
そしてエマがそう声を上げたのにつれて子供達が雄叫びを上げながらドッザの元に駆け向かった。その姿勢に動揺がまだ収まらない彼も一旦冷静になる。
「――何だぁ!?このオレを倒すってのか!?――ハッ!!上等だ!!テメェらごとき――」
邪悪な笑みを浮かべ、そう言いかけるドッザ――の目前に突如ユーマが姿を現した。
「…」
冷ややかな表情をする彼が両手に持つナイフを目にも留まらぬ速さで勢いよく振り回す。
「ゴボガァァァ!!?」
その攻撃を受けたドッザがまたしても吹っ飛ばされた――
「〜〜っ!!クソがぁぁぁ!!」
それでもしぶとく立ち上がった彼の前に今度はギルダが銃をバットのように構えていた。
「やぁぁぁ!!」
「ア゛ァ゛!!?ナメん――……!!?」
銃を振り下ろそうとする彼女をドッザは容赦なく襲いかかる――か、その両手が突如弾かれた。
「!!?」
その事に驚愕する彼の目には――イズホとジリアン、そしてチカが銃を構えている姿が写されていた。
――そう、彼女達の弾がドッザの両手を見事命中したのだ。
その事実に歯を食いしばる彼の顔をギルダの銃が容赦なく叩き込んだ。
「やぁぁ!!」
「!!」
顔面を叩き込まれたドッザはそれでも倒れず――しかし、ついにフラフラし始めた。そこに――
「「やぁぁぁ!!」」
――エマとノーマンが銃を同じように構えながら飛び込んだ。
その姿にドッザは顔を屈辱で歪ませる。
「ぐ……!!ごの゛オ゛レ゛ばドッザだぞ!!ぞれ゛をデメ゛ェら゛に――」
「「――オラァ!!」」
何かを言おうとする彼を2人はしかし聞いてやる筋はないというかのように容赦なく銃で叩き込んでやった。
「が……ば……」
――その攻撃が決定打となったのかドッザはようやく――倒れていった。
再び起き上がってこないその姿にエマ達は呆然とする――が、しばらくすると事態をようやく把握できたのか顔を少しずつ明るくしていった。そして……
「――皆!!やったよ!!」
「――うん!やったね!」
「や、やったよね!私達!」
「「「オォ〜〜!!」」」
彼女達は自身達の成し遂げた事を互いに喜び合った――
――自由を求めて逃走した子供達は
――その元凶を倒した事によって
――ついに解放された……
『逃走集団 エマ達
VS
バシレウス ドッザ』
『バシレウス
「牢獄の間の戦い」』
『勝者 エマ達』