「――これでよしと」
――牢獄の間でその朗らかな声が響かれた。
――ブラックマリアが手をパンパンして一息ついていた。そして、その前には――身体を糸できつく巻き付けられたドッザが倒れていた。
彼はハンコックとマリア、しまいにはエマ達からの攻撃を受けた故にもはや完全に立てなくなったが……念の為に拘束されているのだ。
その光景に満足するマリアは続いてエマ達に視線を向ける。
「――あなた達、よくやったわね。この目から見ても中々の攻撃だったわよ」
ドッザに決定打を打った彼女達の攻勢をマリアが称賛する。
その称賛を受けてエマ達もつい恥じらいを覚えた。
「そ、そうなんですか――えへ、へへ……」
「――まぁ、コイツとは色々あったんで……そのケジメを付けて良かったです」
「――そうだね!それに、まだまだかもしれないけど……これで少しは前に進められたんだと思います」
やがて元凶であるドッザを自らの手で倒したという事実に彼女達も誇らしく思うようになっていく。
――まだ完全に解放された訳ではないかもしれない……
――だが、少なくともドッザからは確かに解放された。
その事実を実感できた故に喜び合うエマ達の姿にマリアもつい微笑みを浮かべられた。
「……マリアは」
「ん?」
そんな彼女にハクジとキサメが声を掛ける。
「――彼女達の気持ちが分かるように見えたが?」
「えぇ、現にあなたの手引きによって行動した彼女達の気分が晴れやかになったように感じます」
そう指摘する彼らの脳内にはドッザへのとどめはエマ達がやるべきだと言い張るマリアの姿が思い浮かんだ。
その主張、そして今の結末からマリアが彼女達にとっては何が良いのかを理解していて、だからこそ抱えていたものを解消させるように手引きしたように見受けられた。
そう考えざるを得ない2人にマリアは……
「……買いぶりよ。ただ――」
妖しく微笑みながら言葉をぼかした――そして
「――エマちゃん達がやりたいんだろうなと思ったからこそ、ああ言っただけよ」
エマ達を眺めながら――少し憂いがみられる笑みを浮かべたマリアにつれて2人も彼女達を眺める。
「……まぁ、確かに自らやれるのなら――それが最も良いな」
「えぇ、これで彼女達は少なくとも自らの足で進む事ができたんでしょう」
彼女の考えに共感する彼らの目は――どこか遠いところをみているかのようだった……
とにかく何か奇妙な雰囲気を漂わせる3人――に突如エマかわ声を掛ける。
「――あの!すみませんが……」
「!――どうしたの?」
声を掛けられたマリアは一瞬驚くもすぐ彼女の目線に合わせるかのように屈んで――用を聞く。それにエマは率直に問いかけてみた。
「――今の状況はどうなったんですか?なぜかここにドッザが落ちてきたし!」
彼女がそもそも来る筈がないドッザがこの場で倒れている姿を見ながらその疑問を投げ付けた。そのもっともな疑問にマリア、そしてハクジもキサメも目を見開いて――深く頷いた。
「――そうね、こっちで入手したのとあなた達からのを合わせた情報からコイツが会議室にいる事になっている筈」
「――なのに、それがなぜかここに落ちてきた……確かに疑問だわね……!」
ドッザを見てから天井に開けられた大きな穴をも目視したマリアがそう言い張る。同じ様にしてその穴をも目視するハクジも口を開く。
「……もしかしたら、会議室で誰かの攻撃でコイツがここまで落とされてきたかもしれんぞ」
「おそらく……あの穴からそれが最適でしょうね」
今展開されている状況から推論されるその考えにキサメも同感する。
その見込みが高い事からその場ではそういう結論になるが……
「――問題は会議室の状況が今どうなっているのかという事ね」
その事を口にするマリアはそれが分かるであろう者――ハッテンに視線を向けてみた。
肝心の彼は――「電伝虫」を手に持っていた。そして会話が全くない様子から情報をもう既に受け取っただろうと考えた彼女はそれをぜひ知ろうと早速確認してみる。
「ハッテン、情報は受け取ったの?それなら、今どうなってるの?」
マリアはハッテンに率直に問いかける。それにつれてハクジとキサメ、しまいにはエマ達も彼に視線を向けていた。彼らも今の状況を知りたいのだ。
――そして、マリアの呼びかけになぜか固まっているハッテンもようやく顔を向けてきた――表情は黒いマスクで隠しているから分からなくなっているが……ただし当惑の雰囲気を晒し出していた。
その雰囲気に戸惑うマリア達に対して彼は苦笑を浮かべた……
「……いやぁ〜それがなぁ……」
「……思ったより――混乱とした状況になったみたい……」
「「「…………へ?」」」
ハッテンから言い放たれたその言葉にその場にいる人々は理解できず――首を傾げた……
●
時は遡って――
――場面は会議室
――そこで発生した暴獣海賊団と〝バシレウス〟の戦争はいよいよ佳境に入ろうとしていた。
それを証明するのが――
「リュドドド!!」
「フハハ!!」
――〝暴獣のスサノオ〟とレグラヴァリマの戦いであった。
その2人はどちらの陣営でも最強だといえる者同士だけはあって、その激突は他で行われている数々の戦いと比べれば規模が凄まじかった。
それ程の規模からもはやその勝敗が戦争の行方を決定するといっても過言ではなかった。
「――んオラァ!!」
スサノオ――オレはレグラヴァリマに対して「神武」の特徴を発揮しながら攻撃しようとする。
――まず大剣を勢いよく振り、その後に金棒を猛烈な勢いで振るようにしていた。
だが、凄まじき威力を込められる攻撃が迫ってくるのにレグラヴァリマは――不敵な笑みを浮かべた。
「――ハッ!」
そしてその姿を一瞬で消した――目に留まらぬ速さで移動したのだ。
さらに「神武」での攻撃を俊敏な身動きでかわしてみせたのだ。
「――やっぱ、速ぇ上に厄介な動きをしてやがる!」
その動きの面倒さにオレも顔をしかめるものの、攻撃をかわされたところに更なる追撃を加えようとする――が、そこにレグラヴァリマの籠手の爪が鋭く襲いかかった。
「フハハ!」
「!」
その攻撃をオレは身動きもせず――ただ受け止めた。
「……効かねぇぞ?」
「――確かにのぉ!そなたの肉体、驚く程に硬いな!――だが!」
その爪でさえも通せないオレの鋼鉄の如き肉体にたまげる彼女だが、それでも攻撃を続ける。
「ホォォォォォ!!」
レグラヴァリマはそう雄叫びを上げながらオレに対して籠手を装飾する両手を猛烈な勢いで振り回し続ける。
俊敏な動きでやっているのを補って凄まじくなっているその勢いに眉を微かにひそめるオレはそれでも気にしない。そのような攻撃をしてきてもこの肉体には通じないと考えたからだ。
「――悪ぃが、こちらもいくぜ――……!?」
そして、そろそろ攻撃をしようと「神武」を掲げるオレだが……突如自身の肉体に違和感を覚えた。
「…!?(これは……?ついに傷を付けられた――訳じゃねぇが、何か異変を感じるな?)」
そう、別に傷付けられた訳では無いが……何か異変――妙な痒みを感じたオレは自身の身体、そしてレグラヴァリマの攻撃を注視してみた。
すると――
「……!?パズル!?」
目を見開いたオレがそう口にする通り、彼女はオレの肉体――の表面にジグソーパズルのような繋ぎ目が浮かび上がるように爪を大げさでしかし精密に振り回していた。
その意図があまりにも読みにくい作業につい呆気に取られたオレの隙を突くレグラヴァリマは獰猛な笑みを浮かべながら両手ごと身構える。
「フハハハ!――これから起こる事に驚くがいい!!」
そう宣言された途端に彼女の両手が猛烈な勢いでオレの肉体の表面に浮かび上がった繋ぎ目を突いた。
その瞬間――
オレの鋼鉄の如き肉体に辛うじて浮かび上がってきたジグソーパズルのような繋ぎ目から血が勢いよく湧き出た。
「オォ!?」
そのまさかの事実と感じてきた痛みにオレも肝を抜かれながら後ろに下がらざるを得なかった。
「フハハハ!!」
その様に得意顔をするレグラヴァリマは勢いをさらに強めながら攻撃を続けようとする――
「…!」
「オォォ!!」
だが、彼女は何かに気付き――突如後ろに飛び下がった――途端にそこをオレの足が勢いよく通っていた。
――オレはレグラヴァリマを蹴ろうとしたが、空振りに終わったようだ……といえ、攻撃の続きは一旦止められた。
何の事はなく着地した彼女と確かな傷を負わされながらも堂々と立つオレが再び対峙する。
「……リュドドド!!まさか、こういうやり方でこの肉体に傷を付けられるとはな――さすがは〝バシレウス〟最強といったものか?」
「ふふふ……そちらもやるではないか。この爪でもそう簡単に傷を付けられない肉体とは恐れ入ったぞ……」
オレ達は互いに相手の実力に対して率直にたまげた。そして
「それにそのスピード……やはりそれに宿った〝悪魔の実〟の力なのか?」
「……ふっ、まぁ間違いはないな」
その指摘にレグラヴァリマは不敵な笑みを浮かべる――
――そう、彼女が両手に装飾している籠手――「ダイモーン」ももちろん〝悪魔の実〟の能力を宿っている。その実とは――〝ソクソクの実〟である。
その能力は普段より機敏性が増幅し、驚異的なスピードを発揮する事ができるものだ。
その能力によってレグラヴァリマは迅速に動きながら戦ってきたのだ。
その速度はこのオレでもぜいぜい見捉えるぐらいで、いざ直で捕まえるとなると――手間かけられる事になる程だ。
……ただ、それ程のスピード――より気になる事があった。それは――
「(……あのスピードもそうだが、それより興味を惹かれるのが――)」
「(――奴の戦いのセンスだ)」
――そう、オレは驚異的なスピードより彼女の戦いのセンスに目を向けていた。何せ……
「(まさか――パズルのような繋ぎ目を細かく作るというとんでもねぇやり方でこの肉体に傷を付けられるとはな……!!)」
このオレも自信がある鋼鉄の如き肉体にその奇想天外な方法で傷を付けてみせたレグラヴァリマのセンスにオレもさすがに舌を巻かずにはいられなかった。
「……こういうやり方でこの肉体に傷を付けられるとはなぁ……世の中は広いもんだ」
今もまだ感動冷めやらないオレがついそう零したのを聞き取れた彼女も得意顔になる。
「ふふふ……すごく硬いものを破壊するには単純な力でやればいいものではない――精密に刻み込んでから、その一点を突けば良いのだ」
「そうすれば――どれだけ硬いものだろうが破壊できるものだ……そう――その肉体さえもな」
その説得力が実にある道理はもちろんだが、それを何の事はなく実行してみせた彼女の実力にオレも――獰猛な笑みを浮かべる。
「――リュドドド!!いずれにせよこの肉体に傷を付けられた者が出てくるとはなぁ!!――面白くなった!!」
「しかも……まだ〝何か〟を隠しているようだし!!」
今相手している敵の実力を改めて認識できた事で戦意をさらに激しく燃やせられたオレが言い放ったその言葉に彼女は――ビクッとし、あれだけ得意気だった笑みをフッと消した。
――聞き逃がせない言葉を口にされたからだ。
「…(こ奴――勘付いているのか?……私の〝力〟の存在に……!)」
その言葉のある部分からそう判断せざるを得なかったレグラヴァリマは――さっきとは一変してニィと獰猛な笑みを浮かべた。
「……ふふっ!!確かに――面白くなってきたな!!この戦いも!!」
「(せっかく、これ程の戦いができるんだ。この際、あの〝力〟を使うのもありじゃな!!)」
「(もう他の奴らにバレても――別に構わん!!)」
オレと戦う楽しさを認識できた彼女はその考えを密かに抱きながら――そう言い放った。それに伴い凄まじき〝覇気〟を放ってきたレグラヴァリマの姿勢にオレも負けじと〝覇気〟を放ってやる。
「――フハハハ!!今度こそ、その肉体を破壊してくれよう!!」
「――リュドドド!!そうはいかねぇぜ!?」
互いに腰を入れたオレ達はそのまま戦いを再開する為に目前の敵に対して駆けようとする――途端に
「「…!!?」」
オレ達は何かに気付き、足を止めた。
そして――揃ってある方向に視線を素早く向けた。そこは何の変哲もない壁しかない筈である……が
――その壁が突如粉砕された。
「「「!!?」」」
響かれた大きな音に伴うその事に会議室内で戦っていた人々も敵味方関係なく視線を向けた。
多くの視線を集めた壁に大きく開けられた穴――からその男が姿を現した。
その姿を目にしたオレは胸に驚愕――そして歓喜が凄まじく溢れ出た。
「……リュドドド、おいおい……まさか、ここでお前が来るなんてな――」
その姿に驚愕しながらも胸内に湧き出てきた歓喜を抑えられないオレはたまらずにその名を口にする――
「――カタクリぃ!!!」
――そう、その場に新たに登場してきたのは「四皇」〝ビッグ・マム〟の懐刀としてその猛威を知らしめた大海賊――
――シャーロット・カタクリであった……
――暴獣海賊団と〝バシレウス〟の最高潮に達する筈の戦争は
――驚くべき参戦者によって新たな局面を迎えようとする……