――暴獣海賊団と〝バシレウス〟の間に勃発した戦争。
その戦況において重要だといえる数々の戦いが〝バシレウス〟の中枢の城の中の会議室でほとんど行われていた――そして、いよいよ最高潮に達しようとしていた。
――だが、そこに新たな参戦者が姿を現してきた。それこそが――
「カタクリぃ!!!」
「……もしやと思ったが――まさか、お前までここに来ていたとはな……スサノオ」
胸に驚愕と歓喜が満ちたオレが上げずにはいられなかった声に対してその男――カタクリは実に泰然自若としていて……しかし眉を微かに上げながらそう返した。
――どうやら彼は少なくともオレがここにいるのをもう既に勘付いたようだ。
なお、会議室内では彼の登場によって大混乱に陥る事になっていた。
「――えぇ〜〜っ!!?カタクリぃ!!?」
「カタクリだと……!?」
「カタクリ!?――確かに奴は……!!」
突如の事に呆然としていた者達もその男の身分が明らかにされていくうちに絶句するようになっていった。何せ――
「――あの「四皇」〝ビッグ・マム〟の懐刀ともいえる大海賊がなぜここに……!!?」
その中のある者が激しく動揺しながらもそう言い放った通り、彼こそが――オレの親父、「四皇」〝百獣のカイドウ〟と同じ「四皇」の1人、〝ビッグ・マム〟の懐刀としてその猛威を知らしめた大海賊であるのだから……!
その名は――シャーロット・カタクリという。
ビッグ・マム海賊団
スイート四将星
〝盤石のカタクリ〟
――世界には〝大海賊時代〟と呼ばれるだけはあって大勢の海賊が存在しているが……そんな者達を出し抜いてその頂点に海の皇帝のように君臨する大海賊が4人も存在していた。
その4人が人呼んで「四皇」である。
――そして、そのうちの1人こそが……〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンである。
……彼女はそれこそ天候に影響を与える程の天災じみた戦闘力を持つ怪物である。
その力の大きさ、それによってもたらされるものにより彼女に対しての畏敬の念を抱かせるのはもちろんだが……それより恐ろしいのが――その〝食欲〟である。
彼女は甘いお菓子が大好きな大の甘党であるが……あまりにも大好きすぎて――お菓子の為なら〝国〟さえをも攻め落とすという常軌を逸する食い意地を張るのだ。
それ程の怪物が率いるビッグ・マム海賊団は彼女の本物の家族――それも数十人の子供達を中心に構成されている。
その次男として所属するのはもちろんだが、兄弟達の陣頭に立って様々な敵と戦い抜いた事でその猛威を振るった大海賊こそが――カタクリなのだ。
それ程の大海賊が〝バシレウス〟、それも中枢の城内の会議室に姿を現したのだ。
その事実にその場にいる人々も衝撃を受けて動揺せずにはいられないのも無理もないだろう……その中には異なる反応をみせる者が数人もいるようだが。
その1人なのが――
「――リュドドド!!!久しぶりじゃねぇか!!あの時――海軍基地以来かぁ!?」
「……フッ、そうだな――あれから時が随分過ぎたが……立派な海賊として暴れ回っているようで何よりだ……!」
――オレがカタクリに対して活発に声を掛け、彼もつい頬を緩めさせながら自然に返した。
オレとカタクリが普通に話し合っているという光景にほとんどの人々が驚愕した。
「!!?アイツ……あのカタクリと顔知りなのか……!!?」
「!?――やっぱり、アイツはただの海賊じゃないのか……!?」
その光景に対しての驚きの声が出る一方で
「……あれがスサノオさんの言った――カタクリ……ですか……」
「……ほぅ、気に食わねぇが……確かに強いな」
その声もまた上げられていた。
とにかく、その場が違う意味で混乱が生じるようになってきた中でオレ達は気にせずに議論を続ける。
「――で?」
カタクリに対して活発に声を掛けていたオレも突如――獰猛な笑みを浮かべた。
そして、さり気なく今からでも戦闘できるように構え直した……
「――何の為にここにやってきたんだ?なぁ――」
「――ビッグ・マム海賊団スイート四将星〝盤石のカタクリ〟……!」
しっかり身構えたオレが油断なくそう問いかけた――当然だろう。
オレ達は例え、互いに好感を持ち合っていても――所詮敵同士である。〝これはこれ、それはそれ〟の話である。
そんなオレの姿勢を受けてカタクリは……それでも断固たる姿勢を変えない。
「……ふっ、やはり成長したじゃねぇか――暴獣海賊団船長〝暴獣のスサノオ〟……!」
彼は重々しくそう語る――が、その響きからどこか愉悦があるように感じられた。
――カタクリも最後に目にした時のとは違う今のオレの姿に成長を感じられてつい愉悦を感じずにはいられなかったようだ。オレに対しての見込みを感じていたのでかえってだ。
……といえ、彼も年季の入った大海賊だ。しかもやる事がある――故にすぐ仕切り直して――
「だが、お前らが別に構える必要はねぇ……オレ達がここにやってきた理由は別にお前らではなく――他にある」
「!」
カタクリが更なる威圧感を放ってきたのに本格的に身構えたオレだが、続いて言い放たれたその言葉に眉を上げた。
それに構わずに彼は言葉を続け――そして、ある方向に視線を向ける。
「――テメェがオレ達から奪ったものを取り返し」
「そして、その落とし前を付ける為にやってきた」
「――なぁ?……」
「……レグラヴァリマ……!!」
カタクリから重々しくもハッキリとそう宣言されたのを受けて、名指しされた本人であるレグラヴァリマもさすがに目を見開いた……
●
〝バシレウス〟の中枢の城内での各所には――戦いがそれぞれ発生していた……
――突如襲撃してきた暴獣海賊団の海賊達とそれを返り討ちにしようとする〝バシレウス〟の兵士達が激突しているのだ。
その戦況はもはや激しくなっていた――
――そんなところに思わぬ来訪者が現れた。
「「「…!!?」」」
城内での各所で戦っていた海賊達と兵士達もその者達の登場に驚愕して、あれだけ激しかった戦いも一旦停止せざるを得なくなった。
「な、何だ!?――海賊共の新たな応援か!?」
「!?テメェらの味方じゃねぇのか!?――ありゃ、オレ達の仲間じゃねぇぞ!?」
その素性が知れない集団の登場に両陣共互いに敵の応援だと考えたが、それを否定された事でかえって混乱した。
そんなところにその集団――の筆頭に立つ指揮者らしき者がその疑問に答えるかのように言い放った。
「――我々は」
「――ビッグ・マム海賊団でソワール!!」
「「「!!?」」」
その宣言にその場にいる人々も敵味方関係なく衝撃を受けた。何せ――
「び、ビッグ・マム海賊団だと!!?」
「あ、あの「四皇」〝ビッグ・マム〟の――海賊団なのか!!?」
「か、カイドウさんと同じ「四皇」の……!!」
「そんな奴らがなぜここに――!!?」
世界に名を轟かせる「四皇」が率いるだけはあって悪名高いビッグ・マム海賊団の登場に人々も立場関係なく激しく動揺せざるを得なかった。
……まぁ、暴獣海賊団の方は同じ「四皇」〝百獣のカイドウ〟の配下である故かそれ程の大きな衝撃を受けていなく、しかも気をすぐ引き締めていた。
むしろ――〝バシレウス〟側の方が激しく動揺しているといえる。
無理もない……〝バシレウス〟の本拠地に突如海賊が城に帆船を押し込んでまで襲来してきたという由々しき事態が発生しているのに――その上に新たな海賊団、それも「四皇」が襲来してきたのだ。
もはや――〝バシレウス〟は終わりなんだとすごく悲観的に考えずにいられないのも無理もないだろう。
今身を置かれている状況がかなり悪い事に兵士達が絶望に打ちひしがれていく中でそのうちの1人がたまらずに声を上げる。
「……一体、一体」
「――何の為にここにやってきたんだ!!?ビッグ・マム海賊団!!?」
その心からの叫び、おそらくその場にいる人々の総意であろう疑問に応えてビッグ・マム海賊団の筆頭に立つ男が前に出る。
――それは異様に長い脚を持っており、ピンクのタキシードを着て鍔広い帽子を被りサングラスをかけ頭の上にはティーカップを置いていて、腰回りに大きな卵の殻を着ている男であった。
彼は〝ビッグ・マム〟の息子ではないものの、ビッグ・マム海賊団の幹部である。その名は――タマゴ男爵という。
ビッグ・マム海賊団
戦闘員〝騎士〟
タマゴ男爵
そんな彼が身を引き締め――粛々と宣する。
「――我々がここ、〝バシレウス〟にやってきた理由は2つだボン!」
「――そちらが我々から奪ったあるものを取り戻す為!」
「――そして、その下手人であるレグラヴァリマかという者を含めて〝バシレウス〟にそのケジメを付ける為でソワール!」
「「「!!?」」」
その宣言に人々、特に兵士達が激しく狼狽えた。
それもその筈。自身達の上層部の1人がよりにもよってビッグ・マム海賊団とトラブルを起こしていて、そのせいで〝バシレウス〟が「四皇」に目を付けられてしまったのだ。
その事実に絶望、そして怒りを覚えずにはいられないのだろう――あわよくば原因が今まで相手してきた海賊達であるように微かな期待を寄せていた今ではかえってだ。
もはや〝八方塞がり〟な状況に兵士達がますます打ちひしがれる中でそのうちの1人が声を上げる。
「――レグラヴァリマ……様があんた達から何を奪ったんだ!!?」
それはもはやどうしようもない状況に身を置かれてしまったからこそ、その詳細を何としてでも知りたいと考えたその者の切望を受けてタマゴは答える。
「……あの女が犯した愚行、それは――」
「――我々がもらい受ける筈だった貴重な鳥――〝ネロコルヴィーノ〟を勝手に捕らえたという事だボン!!」
「「「…!!」」」
――そう、人が食べれば天に昇るように思わせられる程の美味を秘めていると謳われる鳥〝ネロコルヴィーノ〟。
その鳥を美食家であるレグラヴァリマが確かに捕らえてみせたのだが……
実はビッグ・マム海賊団もまた〝ネロコルヴィーノ〟を狙っていたのだ。
〝ビッグ・マム〟達にとってもその鳥が秘める極上の味には確かに興味を惹かれるが、それより関心があるのが――〝ネロコルヴィーノ〟が産む卵だ。
人でも敵わない程の力と極上の味を秘める鳥が産むだけはあって、その卵の効能も並ではないそうだ。そんな卵だからこそ、それを使って作られるお菓子の味もきっと素晴らしい出来になるのに違いない。
そう考えた〝ビッグ・マム〟は〝ネロコルヴィーノ〟の事を強く切望する事になった。そういう背景からカタクリ達はその鳥を手に入れようと行動を始めた。
しばらく探索していて――そして彼らがついに鳥を見つけた。それで捕獲しようとしたら……突如レグラヴァリマに横入りされたのだ。
カタクリ達も狙っていたのを知らなかった彼女だが、それでも先に鳥を捕らわれてしまったのだ。〝早いもの勝ち〟だといわればそこまでだが……その道理等、海賊であるカタクリ達には知らない。
〝ネロコルヴィーノ〟の卵で作られるお菓子の味を楽しみにしている〝ビッグ・マム〟の為に何としてでもその鳥を取り返さなければならない。
そういう成り行きからカタクリ達はレグラヴァリマを追って〝バシレウス〟にやってきた……
「「「…!!」」」
――場面は会議室に移される。
その場にいる人々は知らされたビッグ・マム海賊団が〝バシレウス〟にやってきた理由に衝撃を受け、その元凶ともいえるレグラヴァリマに視線を向ける。
彼女は――俯いていた……当然かもしれない。原因が自身の行いにあるという事実を知らされたんだ。呆然自失とせざるを得なくなったんだろう――
――かと思われたが……
「……ふふ…」
突如それが微かに響かれる。そしてレグラヴァリマの肩が震える。
「……ふふ……ふふ……!」
やがてその声が少しずつ大きくなり、それに伴い彼女の肩――否、身体が震えた。そして
「――フハハハハハハハ!!」
顔を勢いよく上げ、狂ったかのように大笑いを上げた。
歯を全て剥き出しにする程に口を大きく開けたその顔は――狂気に溢れていた。
「「「!!?」」」
気が触れたとしか思えない姿に人々がギョッとするところで彼女は言い放つ。
「フハハハハハ!!――面白い、面白いぞぉ!!」
「まさか、妾の行いがこれを招いたとはな……!!」
……自身の行動が〝バシレウス〟の危機を招いてしまったというのに――その事実がレグラヴァリマ自身には可笑しくてたまらなかった。
――そして
「これならば……心から満足できる戦いができそうだ……!!」
そう囁いた彼女は実に獰猛な笑みを浮かべながら――凄まじい覇気を放った。
その覇気、そして姿勢にカタクリは――
「……フン、ほざけ」
「テメェを始末して〝ネロコルヴィーノ〟を回収して――さっさと帰るだけだ」
毅然とそう宣し、拳を構えた――
互いに構え合った2人の間には重い雰囲気が漂われる――が
「……ちょっと待てよ」
「「!」」
――突如掛けられたその声にカタクリとレグラヴァリマはハッとして視線を向ける。
その先にいる――オレは笑みを浮かべた。
「――このオレを忘れんなよ……!?」