――ヤマト……〝暴獣のスサノオ〟の妹である女性だ。
――ブリュレ……〝盤石のカタクリ〟の妹である女性だ。
ある意味似たような立場に立っているその2人が激突していた。
敵同士としてぶつかり合ったからのもあるが、それよりなのが――
ヤマトが言い放ったある言葉により互いの心に火を付けられたのが最大の理由だろう。
それ程に刺激を与えた言葉、それは――
――〝この僕こそが最強の妹なんだと証明してやる〟
それはブリュレへの宣言であるが、ただ――ヤマトが敬い慕っている兄スサノオの妹である自身の有り様に関してその誓い、意気を込めての宣言でもあるのだ。
それが同じように兄カタクリの事を敬い慕っているブリュレの琴線に触れた。
そうして――譲れない意地に懸けて、または兄の為にヤマトとブリュレが激突したのだ。
「――チィ!うっとうしいな!!コイツらは!!」
だが、ヤマトは今劣勢を強いられていた――ブリュレの周りを守護する為に囲んでいる〝チェス戎兵〟によって。
――ブリュレは〝ミラミラの実〟を食った事で能力を得られた特殊な鏡を生み出す事ができる「鏡人間」である。
その能力は多彩に存在するが、その一つなのが自身を介して鏡の中の世界〝鏡世界〟に出入りする事ができるというものであった。
その能力によって用意しておいた大きな鏡を利用して大勢の〝チェス戎兵〟が城内のその場に手間を省けて移動してきたのだ。そしてその一部がブリュレを守護していて、またヤマトに攻勢を仕掛けていた。
次々に現れ続ける〝チェス戎兵〟の猛威に苦悶させられるヤマトの姿にブリュレもニンマリとする。
「ウィッウィッウィッ!!私達「ビッグ・マム海賊団」にたった1人の小娘如きが敵えると思うものか!!」
そう獰猛な笑みを浮かべるブリュレだが……やがてその笑みにどことなく不気味さが増してきた。
「……思ったけど、やはりきれいになったものだねぇ……!!あの小さかった小娘が……!」
そして不気味な笑みを浮かべるようになった彼女がまるで恨み言を言うかのようにそう言い捨てた。
……彼女の記憶では海軍基地での騒ぎの時はまだ幼い女の子だったヤマトだが、今目にしたその姿は活発ながらも実に美しく成長した女性のものだった。
その美しさにブリュレもイラつきを覚えずにはいられなかった。ましてや彼女の場合はその顔全体に大きな斜めの傷跡があって、それに対してコンプレックスを抱いている。
そんな彼女が可愛らしい、または美しい顔を見ると切り裂きたくなる衝動に駆られずにはいられなくなるのだ。
「――ウィッウィッウィッ!!だからこそ、お前を汁の材料にする際にたっぷ〜〜〜り切り刻んであげるわ……!!」
そう宣言し、思い浮かべてみたその妄想にますますニンマリとしたブリュレの目先にはヤマトに大勢の〝チェス戎兵〟が襲いかかろうとするところだった。
「クッ!!」
もはや〝多勢に無勢〟――今身を置かれている状況に焦る彼女を〝チェス戎兵〟が容赦なく覆った。その姿が見えにくくなった事にブリュレがほくそ笑んだその時だった。
――覆った大勢の〝チェス戎兵〟が勢いよく吹っ飛ばされたのは。
「「「!?」」」
突如のその事態にその場にいる者達が驚愕する。
「な、何が!?――寒っ!!」
もちろんブリュレも驚愕するが、続いて思わずそう零した。
そんな彼女達をよそにヤマトがいる筈のところに何かが姿を現した。それは――
「!!?白い狼!?――デカッ!!」
そう、白き狼がいた。もちろん、ヤマトが〝悪魔の実〟の能力で〝大口真神〟に変身したのだ。
そんな彼女はその猛々しい姿につい戦慄した〝チェス戎兵〟に向けて獰猛な笑みを浮かべる。
「――ハッ!どれだけ多くても、所詮ガラクタ!この僕が噛みついてやるよ!!」
堂々とそう宣言したヤマトが勢いよく駆ける。
「ガアァァァ!!」
「「「!?――うわあああああ!!」」」
しかも、彼女は放っている冷気を帯びている故にその勢いがさらに増されている。それ程に猛烈な勢いの疾走が大勢の〝チェス戎兵〟を呆気なく吹っ飛ばしていった。
「!?な、な!?」
さっきまでは優勢の筈だったところをひっくり返された事態にブリュレも呆気に取られるところにヤマトが勢いを落とさず――まっすぐ駆け向かう。
「ボーッとする場合かぁ!?ブリュレェ!!」
「!!――何の!!」
彼女が凄まじい勢いで迫ろうとするのを受けてようやく我に返ったブリュレは素早く手元に鏡を作ろうとする。ただ、今度は今までより大きなものを作り上げた。
――今のヤマトの身体のサイズ、勢いに伴って彼女は能力の練度を上昇させる事で対応してみせようとしたのだ。
「返り討ちにしてくれるわ!!この小娘が!!」
「それはどうかな!?――〝無侍氷牙〟!!!」
更なる〝ミラミラの実〟の能力で返り討ちにせんと待ち構えるブリュレをヤマトが容赦なく――氷のブレスを放った。
「へ?――うわぁぁぁ!?」
その強烈な冷気がブリュレを容赦なく飲み込んだ。そこからすっかり――氷漬けにされてしまった彼女に対してヤマトが勢いをさらに上昇させながら駆け向かう。
「〝疾風氷牙〟!!!」
吐いた冷気を前衛とする強烈な疾走がブリュレを木っ端微塵にした。しかも、その勢いが落ちておらず――そのままその奥の壁辺りにまで駆けていった。
――その場に衝撃波が走らされ、そして空気さえまでも凍り付かれた。
ヤマトが立つ辺りは実に銀一面になっていた。もはや、彼女の独壇場になっている――かと思われた。
「……かわされた」
だが、それにしては随分険しい表情を浮かべた彼女がそう呟く。
そんな彼女――に何かが迫ろうとする。
「―!」
「……悪いけど、気付いているの!!」
その何かにヤマトはしかし気付いているらしく、すぐ身を勢いよく振り回す。その猛烈な勢いの身体で叩き潰そうとする。
「!!――クッ!!」
その体当たりにその者は動揺しながらも――それでも奇抜な槍を振り下ろしてみせた。
その途端に激突する――が、やはりその者の方が力負けし後ろに吹っ飛ばされた。
体勢を整えたヤマトはそれに注視する。するとその目が見開かれた。
「――わっ!兎のミンク!?」
驚きにこぼしたその言葉通りにそこには貴族風の格好をする兎が両端に刃がある槍――双頭槍を手にしながら大きな鶴に乗っていた。
その見た目から兎のミンクだと考えても無理もないが……
「――いや、違う……ミンクじゃないね?君は」
「…」
「ワノ国」で「ミンク族」との付き合いがあるヤマトはその事に気付き、指摘する。
だが、それに兎のミンクらしき者は気にかけず、双頭槍を振り回しながら彼を乗せてる鶴が勢いよく飛びかかる。
その姿勢にヤマトもついニヤリとする。
「来るんだね……!――〝無侍氷牙〟!!!」
そして負けじと氷のブレスを放つ――が、それが当たる前にその者が素早く高く飛び上がり、鶴もすぐ下方に飛び下りた事でかわしてみせた。
「――はっ!!」
見事な体さばきをみせたその者がそれだけに留まらず、素早い動きでヤマトに向かいながら双頭槍を勢いよく振り下ろそうとする。
その猛烈な勢いに彼女は――
「――いい動きじゃないか!でもね!」
そう不敵な笑みを浮かべ、そして尻尾を思いっきり振る事で彼を叩き込んだ。
「!!」
それを直で受けたその者が苦悶の表情を浮かべながら吹っ飛ばされた。だが、そんな彼をしばらく空中を飛び回っていた鶴が救い上げた。
そこで体勢を整え直したその者はヤマトを睨みつけながら、しかし油断なく警戒態勢を取る。そんな彼にヤマトは微笑む。
「……いかにもミンクっぽいのに、違うとすると……もしかして「ホーミーズ」って奴かな?」
目にする兎のミンクらしき者に関してヤマトはそう考察する。そして空中に滞在する彼から下方に視線を移す。
「……本当にお前達――「ビッグ・マム海賊団」は面白いね!まぁ、僕達「暴獣海賊団」……「百獣海賊団」には敵わないんだろうけどね!」
「……〜〜!!何ですって〜〜!!」
その交戦により感じた事を率直に口にする彼女はしかし続いて自身達に関してきっちり胸を張った。
そんな彼女の態度に対して怒りの声が響かれた。そして彼女の目先には――
「優しくしたら――思い上がってぇ〜〜!!本当にいい度胸だよ!!お前は!!」
なんと、ヤマトに木っ端微塵にされた筈のブリュレが怒っているといえ、確かに無事な姿で立っていた。
……実は彼女の能力の中には自身の鏡に映ったものの姿を自身とさらに他のものに光を投影する事でその姿を鏡に映った姿にみせる事ができるものも存在する。
その能力でブリュレは1人の〝チェス戎兵〟の姿を自身のにみせ、一方で自身の姿を〝チェス戎兵〟にみせてヤマトを欺こうとした。
つまり、さっきヤマトが木っ端微塵にしたブリュレは――ただの〝チェス戎兵〟だったのだ。
そういう成り行きからヤマトの攻撃は空振りに終わった――筈なんだが……
「……へぇ」
だが、肝心の彼女は意外に悔しがる態度をみせるどころか何か思わせぶりな微笑みを浮かべる。それもその筈。彼女は――
「……たくさんのガラクタの中に隠れていた君の方を助けたのはそっちの……あ〜……見た目がなんか変な奴?」
自ら撃破したブリュレがニセモノであるのに最初から気付いていたのだ。そして、その奥にいる〝チェス戎兵〟の集まりの中にブリュレが隠れているのにも気付いていたヤマトはニセモノごとブリュレを叩き潰そうと勢いよく駆けたのだ。
……ただ、彼女がブリュレに突進するところで何者かに連れ出された事で空振りに終わったが……
それ故にヤマトはブリュレを助けた者に注視した。
――頭に煙突、身体の側面に車輪が付いている腕の関節が一つ多い男であった。
機関車を擬人化したような外見をするその男は自身を凝視するヤマトに冷や汗を一筋流しながら、それでも笑みを浮かべてみせる。
「――シュッポッポッポッ!!我が名はディーゼル!!ブリュレ様の部下で!一度走り始めたら誰も追い付けない速さを持つ男だ!!」
その男――ディーゼルが堂々と名乗る。それにつれて兎のミンクらしき者を乗せる鶴がブリュレ達の後ろに飛び移る。
「……我が名はランドルフ。我は〝鶴騎士〟だ」
その者――ランドルフはそう名乗り、ヤマトに対して威嚇する。
ランドルフとディーゼル――2人の部下を従うブリュレは不敵な笑みを浮かべる。
「ウィッウィッウィッ!!――ムカつくけど、確かにお前は強くなったじゃないか!!まさか、あの希少の〝幻獣種〟の能力を得られたとは……!!」
そして、目前のヤマトの成長に関して率直にそう言い放った。
――彼女はブリュレの母、「四皇」〝ビッグ・マム〟と肩を並べる「四皇」〝百獣のカイドウ〟の娘だ。その素性から彼女の素質が尋常ではないのも無理もないが……その程は予想以上だ。
それに彼女が能力者になっているのは別に驚く事ではないが……まさか、それが〝自然系〟よりさらに希少だといわれる〝幻獣種〟であるとは。
しかも、みたところその能力を上手く扱っている……
その成長、実力に舌を巻かずにはいられないブリュレは思い出す――自身が敬慕する兄カタクリの言葉を……
『……ヤマトの方はまだ分からないが……スサノオの方は強くなる……それもバカにできない程に……とオレはそう見てる……!』
『ハママ……!おれも同感だ……!……全く面白い子達が現れたものだ……!』
――彼は海軍基地で顔を合わせたカイドウの子供達に対してそう評価していた。特にスサノオに一目置いていた。それに母――〝ビッグ・マム〟も同感していた。
その姿勢がブリュレには理解できなかった。
……母が一目置くカイドウの子供達だ。そりゃ気になっちまうんだろうが――それでも母と兄が気にかける程ではない……当時ではそう考えていた。
……だが、成長したヤマトと対峙した今なら理解できる。
もはや直感になっちまうが……確かに可能性を感じられる。それも並外れるものを――!
「(――もう、ヤマトの事をただの小娘だとみない方がいいわね……!)」
目前のヤマトに対してブリュレはごまかさずにその評価を下した。そしてそうする以上、意識を切り替えなければならない――「ビッグ・マム海賊団」の海賊として……!
「――お前達、分かってると思うけど……手加減はなしだよ」
「!……分かりました……!」
「承知」
そんな彼女から重々しくその指示を受けたディーゼルとランドルフも少し驚きながらも承知する。
そしてブリュレは自身の武器――大鎌を手にしてヤマトに対して身構える。
「――次からそうはいかないわよ……!この小娘が……!」
「……はん、見た目が枝っぽい奴が何を言うのかな……!」
そうして対峙するヤマトとブリュレは〝覇気〟を放ちながら見栄を切る。
――妹同士の戦いは本格になっていく……