――撃破されたと思われたレグラヴァリマの補佐、イヴェルクとノウム。
だが、その2人が最後の力を振り絞って暴れようとしていた。そして、その魔手が小紫に迫った。
自身を襲いかかろうとする事態に彼女は何の事はなく対応しようとしたが……そこにかつて猛者との戦いで負わされた傷による痛みがタイミング悪く彼女の身体を襲いかかってしまった。
その痛みにより身動きできなくなった小紫をイヴェルクとノウムが容赦なく襲いかかる――
「「オォオオオ!!」」
「…!!」
襲撃が迫ってくるのに対して小紫は辛うじて上げる顔を激しくしかめる。
――まさか、このタイミングで痛みが生じてくるとは……!
確かにヴィザ戦で彼女に負わされたダメージが完全に癒されていない。だからこそ、その事実を小紫が認識しそれに伴って自身の動きを調整してきたつもりだ。
それがよりにもよって、今まさにこの瞬間にダメージが生じてその大きさにより身動きできなくなってしまった。
その事実に小紫は唇を噛み締めて自身が取った心構えの不備を悔やむ。
だが、悔やむのは後だ。それより今は――
「(この状況を何とかしなければ!!)」
小紫に襲いかかるイヴェルクとノウムへの対処だ。
その2人に対して彼女は何としてでも対応したくても……未だに身体に走っている痛みにより固まらざるを得ない今では十分動けられない。
これでは攻撃を受けざるを得なくなってしまうのだろう。
「(くっ!!――しょうがない!ここは耐えるしか……!!)」
そんな状況から攻撃を受けきる覚悟を決めた小紫が辛うじて身構えてみせる。そんな彼女についに攻撃が当たる――
――その瞬間だった。
「!?」
突如、その場に凄まじき覇気が響き渡ったのは。
その凄まじさに目を大きく見開いた小紫はハッとし、素早くその覇気の持ち主がいるであろう方向に視線を向ける。するとそこには――
「……!!スサノオさん!?」
――別のところで戦っている筈のスサノオが鬼気迫る様子で勢いよく飛びかけてきた。
●
時は少し遡って――
スサノオ――オレはカタクリと互いに武器を構え、戦いを始めようとするところだったが……
「…!!」
突如オレは気付く――離れているところで戦っている筈の小紫に異変が起こったという事に。
それでオレは素早く彼女のいるところに視線を向けてみると
「!!」
――小紫がまさに襲撃を受けようとするのがオレの目に映った。
……もう既に満身創痍になっている2人が彼女に襲いかかっているが、その程度では小紫が問題なく対応できる筈だ。
だが、普段の小紫を見てきたオレが今の彼女を目にする途端に察した――不調になっているという事に。あれでは小紫が対応できず攻撃を受けてしまう。
その結論に至った途端にオレは素早く小紫の元に飛び込んだ。
「――テメェら……」
……そして、イヴェルクとノウムに対してオレは「神武」を構える。なお、その際のオレは顔を詳しくし、目を鋭くし――青筋を激しく走らせた。
その表情は恐ろしくて実に鬼の如くだった。
それもその筈……アイツらは小紫――オレの女に手を出そうとしやがったんだ。生かしておけねぇ……!
オレにとっての大切な存在に手を出そうとしたという事実にオレは激しき怒りを覚えずにはいられなかった。
「――オレの女に……」
そんなオレの殺気に慄き動きを止めたイヴェルクとノウムに向けてオレは容赦なく――「神武」を猛烈な勢いで振った。
「手を出すんじゃねぇよ!!!」
「〝雷電八卦〟!!!」
オレが放った「神武」での鋭い斬撃と続く猛烈な打撃が2人を木っ端微塵にし――ただの肉塊に帰していった。
その壮絶な事態が目の前で展開された小紫が呆気に取られたところで彼女の前にオレが着く。
「――大丈夫か!!小紫ぃ!!」
「!す、スサノオさん!!」
すぐオレがその身を案じると彼女がハッとし反応を返した。
オレを呆然と見上げる小紫の姿、様子を目視するオレがそれを口にする。
「……どうやら、無事のようだな――今のところはだが」
「!……え、ええ。だ、大丈夫です」
その見解に彼女が動転しながらもそう返す。それを受けてオレが微笑んで頷くと、ようやく落ち着けたらしい小紫が頭を下げる。
「……申し訳ありません。あなたに手間をかけてしまいました」
「!――気にすんなよ!別に手間とは思っていねぇよ!!」
自身の不備がオレに手間をかけてしまったと考えて申し訳なさそうにする彼女にオレが素早く強く言う。
そうだ。この程度……いや、愛する女に関わっているのならばどんなものだろうが造作もねぇな!!
そう考えているオレがニカッと朗らかな笑みを浮かべるのを受けて小紫も頬を少し赤くする。
「……スサノオさん」
「――それはそうとして、今の調子はどうだ?」
といえ、やはり負い目が拭えず少々俯く彼女にオレはその空気を切り替える為にもそう問いかけてみる。その内容に小紫もハッとし、自身の身体を確認してみる。すると
「……痛みがほとんど治まっていますね。今は問題なく動けているようです」
その言葉通り、痛みで固まった彼女が今は動けている。
その身体に負わされたダメージが完全に癒されていない故に激痛が生じる事も確かにあるが、ずっと続くものではない。しばらくすると治まっていくようになっている。
少々顔色が良くなっている彼女の様子にオレも頷く。
「そうか。だが、無理すんなよ。さっきみたいな事は勘弁だからな」
「ええ、そうし――……!」
それでオレがそう要望すると小紫も反感せず承知しようとするところでその顔色が突如変わった。
その瞬間に彼女が素早くオレを高く飛び跳ねる。
「!?小紫!?」
突如の彼女の動きに戸惑うオレをよそに小紫はオレの後ろに刀を抜きがら飛び降りる。そして刀を振り回しながら踊る。
「―」
しまいに……
「――フン」
彼女が勢いよく刀を振り上げた。その瞬間
「ガッ!」
――オレ達がいるところから遠く離れているところで1人の男が突如崩れ倒れた。
「!?」
突如目の前で展開された事態に訳が分からず首を傾げるオレに小紫が苦笑しながら説明する。
「失礼――あなたを撃とうとする不届き者がいたので、成敗したんです」
「!」
その内容にオレが片眉を上げる。
――そう、実はさっき崩れ倒れた男は〝バシレウス〟の兵士で――そして、イヴェルクとノウムと同じくレグラヴァリマに仕えた者でもあるのだ。
そんな素性な故にその男はレグラヴァリマの死を受けた事で自暴自棄になった。それで道連れとしてオレを撃とうとした。
だが、その事に勘付いた小紫はオレを守る為に、そしてその男を成敗する為に彼が放った弾を刀でその軌道を変えてみせた事でそのまま本人に返してやったのだ。
さっき小紫がとった動きの背景を知ったオレは驚く――と同時に感心をも覚えた。
「そういう事か。気付かなかったぜ……しかし、よく気付いたな――というか、もしや〝それ〟がそうなのか?」
「ええ、これこそが――〝未来予知〟……というものでしょうね」
――そう、このオレも気付けなかったその男の事に小紫が気付けたのはさらに練度が高い〝見聞色の覇気〟――〝未来予知〟でその男がオレを撃つのを予知したからだ。
それ故に彼女がオレより素早く動き、対処してみせたのだ。小紫がみせた〝未来予知〟の力に感心せずにはいられないオレだが、やがて苦笑するようになる。
「……だが、わざわざお前が動く必要はなかったんじゃねぇか?あの男が撃った弾等、このオレの肉体に傷を付けられる事はねぇんだからな」
そもそも、オレの肉体は半端な攻撃じゃ傷を付けられにくい鋼鉄のようになっている。それ故に小紫の動きに関して必要性が実はない筈だとオレが指摘する。その内容に彼女も苦笑する。
「……確かに。徒労だったかもしれません……でも――」
だが小紫がオレをまっすぐ見つめ、そして口を開く。
「それでも、あなたが撃たれるのが私には我慢できなかったのでしょうね……実際、考えるより身体が動いたんですから」
ごまかさずにその事を口にする彼女は朗らかに微笑む。その内容、そして堂々とする態度にオレも片眉を上げる。
「……だが「あら」――!」
それでもオレが何かを言おうとするところで突如小紫が再び口を開く。
「あなたが言える事じゃないのでは?あなただって、さっき私が襲撃を受けかけたところですぐ動いてくれたんですから」
彼女がさっきの事態を挙げてきたのを受けてオレも口をつぐんだ。
……そりゃ、そうだ。このオレも小紫――愛する者が危機的状況に陥るのを知った途端に頭で考えるより身体がつい動いたのだ。
つまり自身でその道理を証明してしまったといえるオレはますます苦笑を深めた。
「……リュドドド、口が回る女だ」
「ふふっ……でも、こんな私も悪くはないのでしょう?」
それで口にするが、すぐ小紫が言い返してきた。その内容はもちろんだが、実に堂々とする姿勢と度胸にオレもとうとう笑みを抑えられなかった。
「――まぁな!リュドドド!!」
「ふふっ!」
そうしてオレ達は笑みを交わした――そして
「――お兄さん!小紫!」
「「!」」
そこにヤマトが駆けてきた。慌ただしい彼女がオレ達の元に着くと素早くある方向に向けて身構える。そのままオレ達に向けて声をかける。
「大丈夫!?――ごめんよ!!お兄さんと小紫への攻撃があった時にすぐ動かなくて……!!特に小紫!!」
さっきオレ達が攻撃を受けかけた時にその救助にすぐ向けなかった事を彼女が素直に詫びる。その姿にオレ達も苦笑せずにはいられなかった。
「――大丈夫よ。心配ありがとね、ヤマト」
「〜〜でも!!君がすごい痛みを感じたのに気付けなかったし!!」
小紫も微笑みながらそう言うと素早く振り返ったヤマトの顔がぐちゃぐちゃ歪んでいて――悲壮に叫ぶ。
彼女は小紫の事は兄が愛する女であるのはもちろんだが、それ以前に大切な仲間だとみている。その仲間が危機的状況に陥ったのに気付けなかった自身を責めずにはいれなかった。
そんな妹の姿にオレは苦笑を浮かべながら――真剣に言ってやる。
「……それ程に気にしてるんなら――後で鍛え直そうぜ!今どれだけ悩んでもどうにもならねぇんだろうし!」
「!!」
オレが言い放ったその言葉にヤマトがハッとする。それに続いて小紫も微笑む。
「そうですね。いつまでも悩むより糧にする方が効果的ですよ」
「!!……〜〜お兄さん!!小紫!!」
「おう!!リュドドド!!」
「ふふっ」
オレ達の言葉、態度にヤマトは感激し、構えをつい解いて――オレ達に飛び掛った。そんな彼女をオレ達が優しく受け入れた……
●
そんな状況を凝視する者達がいた。
「…」
「……本当に仲が良いな。アイツらは……」
それは――ついさっきまでスサノオと戦っていたカタクリとヤマトと対峙していたブリュレであった。
和気藹々とするスサノオ達の姿をカタクリが意味深そうに眺め、ブリュレも何ともいえない表情を浮かべて鼻を鳴らす。そしてブリュレがカタクリに声をかける。
「……アイツらに手を出さないの?お兄ちゃん」
今の彼らは隙だらけだ。攻撃できるチャンスなのに別に動かない兄にブリュレが疑問を抱く。それにカタクリが答える。
「……いや、ああ見えて――ちゃんと警戒してやがる。アイツらは」
彼が確信を持ってそう言い放った――そう、隙だらけにみえて実はスサノオと小紫がカタクリはもちろんだが、周囲に注意を向けている。
そんな彼らに対してカタクリもうかつに手を出す訳にはいかなかったのだ……他にも理由があるのだろうが、まぁ愛嬌だろう。
そういう成り行きな故に動かずに静観するだけに留まったカタクリふとブリュレに視線を向ける。
「お前こそ、大丈夫か?」
「!……大丈夫だよ。危なかったところをお兄ちゃんに助けてもらったから!」
彼が投げたその問いにブリュレは微笑んでそう答える。
――実はスサノオが小紫の元に飛び込んだ時にカタクリもブリュレの危機に気付き、同じように彼女の元に飛び込んでいった。それ故にヤマトとブリュレが対峙するところにカタクリが介入したのだ。
突然の事で驚愕したブリュレを背に庇うカタクリを前にヤマトももちろん動揺したが、そこで兄達に気付き――素早くその場を離れた。そうして――今の状況に至る。
すなわち、それぞれの戦いも愛情によって中継されたといえるのだろう……
とにかく、彼らはそれぞれ大切な存在と向かい合って歓談を始めるが――
「――それで?」
そんな中でその声がその場で響かれる――小紫とヤマトと和気藹々としていたオレは冷静になっていて、そしてカタクリとブリュレのいるところに顔を向けながらそう言い出してみた。
「……中断させちまった戦いを再開するのか?――カタクリ」
「……フン」
オレがそう不敵に笑う――それにブリュレと談笑していたカタクリもその声に反応し、目を細める……