――光月おでんが死を迎えた事で百獣海賊団と黒炭家によるワノ国の支配の総仕上げが開始された。
光月おでんが命懸けで逃がした家臣達――後の「赤鞘九人男」と呼ばれる侍達は主君の遺された家族を守りに九里のおでん城に向かっていった――その内の4人が追手を食い止める為に残ってしまったという不慮の出来事が起こっても、死を賭してでも足を止めなかった。
――だが、肝心の城は燃え盛っていた。百獣海賊団によって火を放たれたのだ。
そんな中、カイドウが「赤鞘九人男」に先んじて城へ乗り込んだ。そこで侍達の抵抗さえも気にかけず、光月おでんの家族を追い詰めようとした。
カイドウがおでんの息子――光月モモの助の首を締めて持ち上げ、確かめてみた。
「名は?」
「……ハァ……!!おぇ……!!ハァ……ハァ……!!」
「お前の父は……バカ殿だ」
「光月はお前が死んで終わりだな」
「ちがう……!!ひっく……!!」
何の事はない、あのおでんの血を受け継ぐ者にただ興味があっただけだ。だが……
「父上は……!!いだいな武士で……せ、せっしゃは……ひっく……いつかこの国を!!しょって立つをとくぉでぃぐじゃる!!」
「…」
怯え、泣き腫らす――ただ、ただそれだけのモモの助の姿を目にするカイドウの頭に自身の息子――スサノオの事が思い浮かんだ。
『オレは――親父を海賊王にしてみせる!!そんで、それで――』
『オレが海賊王になった親父を倒して「最強」になる!!』
我が息子――スサノオは自らの言葉で自らの夢を勢いよく口にし、しまいには自身に立ち向かってきたのだ。その姿、何という果敢さ!父として誇らしい!
それに引き返して――目前のガキは……
「言わされた夢……ここまで幼いとは……」
「う……うわああああん!!父上ぇ〜〜〜〜!!!」
自らの夢は愚か――自らの言葉さえも持たない、しまいには無様に泣き喚くだけの子供……
同じ息子でもこうも違うのか。そもそも本当に光月おでんの血を受け継いでいるのか?
いずれにせよ内に何も感じられないただの子供なんかに興味を持ち続けてられない。
直接殺す気がなくなったモモの助を倒れているトキ達の元へ投げ捨てて、燃え盛る城から去ろうとする。
ふと足が止まって数秒何かを考えるカイドウ。
やがて振り返ってモモの助そして日和に言い放つ。
「憶えとけ、お前らがそんな目にあうのは単に弱いからだ」
「この世は弱肉強食、どうかにするには力を身に付けなきゃならねぇ……」
そんな言葉を言い残し、今度こそ去るカイドウ。
「あれがおでんの息子とは……つまらねぇ。城と共に燃えて死ね……」
「あれじゃ、スサノオの敵は愚か糧にもなれねぇ……いや、スサノオとあれを比べるのもスサノオへの侮辱だな……やめよう」
「おでんは不幸だな。あんなのを息子に持ってよぉ……対してオレは本当に息子に恵まれたな……本当に全くだ……」
カイドウはそう独り言を言いながら、スサノオとヤマトが待つであろう鬼ヶ島へと帰っていった。
――その直後に城に辿り着いた「赤鞘九人男」の侍達、そして起き上がった光月はある女性の手により数奇な運命の道のりを歩む事になる。
「この不思議なトキトキの能力で……あなた達を未来へ飛ばします」
800年前に生まれた光月トキの食べた、人を未来へ飛ばせる力を秘めた悪魔の実――〝トキトキの実〟。
その力で光月モモの助、錦えもん、カン十郎、雷ぞう、菊の丞は未来へ飛ばされ、光月日和、河松は燃え盛る城から川へ逃げ、トキは――
城からそう遠くはない地に堂々と立ち、詩を残した。
――〝月は夜明けを知らぬ君。叶わばその一念は〟
――〝二十年を編む月夜に九つの影を落とし〟
――〝まばゆき夜明けを知る君と成る〟
――言い終えたトキは夫の元へ逝った……
おでんの死後にようやく立ち上がった各大名と任侠一家の連合軍は百獣海賊団と黒炭家に戦いを挑み――討ち破られた……
――こうして百獣海賊団と黒炭家のワノ国支配は完了した。
●
「……無残だな」
オレは今、おでん城跡に立っていた。オレ、そしてヤマトが光月おでんの生きた証を少しでも感じたくて、彼の領地だった九里を訪れたのだが――
「これでは……〝栄枯盛衰〟ってやつかね……」
そう呟いたオレはかつて自由で笑いの絶えない活気ある「郷」だとは思えない、希望が感じられない荒地と化した九里を見渡っている。
「いくらあの光月おでんの領地でも敗けたらこうなってしまうのも〝弱肉強食〟の理だな……」
オレは人々が〝明日〟に希望を持って笑いながら住んでいた頃の九里を想見して、目前の景色との差に感慨と儚さを感じた。
「ただ強くければいいものではない……どう動き、そして正しい判断を下すってのも必要になるのだろうな」
「5年前、おでんがよく考えずに約束に従った時点で敗北が決まってしまったかもしれんな……」
光月おでんの敗因を考えていたオレは強さだけが全てじゃないと考えるようになった。
何せおでんのような猛者が手のひらの上で踊り――しまいには罵声の中で最期を迎えたという事実を前に考えざるを得なかった。
そしてオレが考えるには――おでんが律儀に約束に従って5年間も何もしないでいるのが勝敗に響いてしまったのではないか。
即ち、おでんが約束に従うフリをしながら裏で何とかすれば……例えば親交のある白ひげ海賊団に助けを求めれば結末が変わっていたかもしれぬ。
その点では力がない筈の黒炭家が上手くやっていた。彼らの違いといえば――知恵だろう。
自身の持てるものを上手く使い熟す事で〝力〟に関しては上の光月おでんを追い込めたのだ。
〝力〟に関しては弱者だとみられる筈の者が強者だとみられる筈の者に勝利したのだ。
「ならば……〝力〟だけではない……知恵、策、運さえもものにしてみせよう……」
圧倒的な武力だけではなく、それを上手く使い熟す知恵を身に着ければ、それこそが――
「それこそが「最強」への道のりになる!」
そう決意したオレは空を見上げて拳を掲げる。すると……
「お兄さーん!」
おでん城跡を回ってきたヤマトが手を振りながら玄関だっただろう所に立っているオレの元へ駆けてきた。
「おう、ヤマト。何かを見つけたのか?」
「うん!これ」
そう言いながらヤマトは何らかの書物を見せた。
燃え盛っていた城の中にあったには妙に無事な書物をだ。
「んん?それ、城跡にあったのか?妙に綺麗のようだが……」
「うん!城跡で見つけたよ!それよりこの「おでん何とか」って書いてあるからおでんの本だよね⁉ねっ⁉」
「⁉……「おでん漫遊記」……おい!これ、もしかしておでんの日誌だぞ!こりゃ!」
何とヤマトが見つけた書物は「おでん漫遊記」――光月おでんの日誌だった。
めちゃめちゃ価値ある書物の発見によりオレもヤマトも興奮した。
「読んでみて!私には分からない字が多くて読めないの!」
「おう!……いや、待て」
ヤマトに急がされて「おでん漫遊記」を早速読んでみたオレだが――
「……ダメだ、オレでも知らない字もあるぞ……」
ワノ国の文字を学んでいる最中だったオレでも知らない文字も書き込まれていた。それに――
「破れているページもあるぞ……」
「おでん漫遊記」の最後辺りの数ページが破れていた。
「えぇ〜!!どうするの?」
「とりあえず、持って帰ろう。恐らくオロチの部下1人でも呼んで読んでくれるだろう」
光月おでんの生涯を聞けるかもしれないと興奮していたヤマトがすごくガッカリして俯くのに対してオレは帰宅しようと説き付ける。
光月おでんの日誌なんだ、親父もすごく興味を引かれるだろうし、それに親父が海賊王になる為の必要な情報が書き込まれているかもしれない。
納得したヤマトを連れてオレは鬼ヶ島に帰った――
●
「おぉ……これが……」
「あぁ、光月おでんの日誌――「おでん漫遊記」だ」
オレから「おでん漫遊記」の事を知らされて、本日誌を受け取った親父は感嘆してそれを見つめる。やはり親父も自身に傷を負わせられた宿敵の情報を少しでも知るかもしれないとすると興奮を隠しきれないようだ。
「……キング」
「分かってる。オロチに要求してくる」
親父からの呼びかけに彼の望みを察したキングさんは電伝虫を取りに出ていった。
キングさんが出たのを確認した親父は満足気な顔でオレ達を褒めてくれた。
「ウォロロロロ!!よくやったな!スサノオ!ヤマト!」
「あぁ!だがオレではない、ヤマト1人の手柄だ」
「ウォロロロ……そうかそうか、じゃあヤマトは何かが欲しいんだ?」
〝宿敵の日誌の発見〟という手柄を持つ娘に褒美を出そうと親父は問いかける。それに対してヤマトは――
「んー!お父さん!今私が欲しいのはね〜おでんの人生を知りたいね!」
「親父、ヤマトはお手柄と褒美を同時に手にしたようなもの。気にする事はねぇ」
「おう!そうか!お前もおでんの奴に当てられたか!」
「うん!カッコいいだもの!……あ!もちろん、お父さんもカッコいいよ!」
「そうか!そうか!」
オレ達は笑い合って、和気藹々と時間を過ごした。
●
「え〜、では読み上げます」
「おう」
翌日、オロチから紹介された1人の文官が親父、オレ、ヤマト、キングさん、クイーンさんに「おでん漫遊記」を読み上げてくれる事になっていた。
「楽しみだね!お兄さん!」
「あぁ、ワノ国最強の侍――光月おでんの生涯……どんな感じかな!」
いよいよ光月おでんの生涯を聞けられるとオレ達はワクワクと楽しみにしていた。
「そう――それは光月おでんが生まれた時……」
文官が「おでん漫遊記」を読み上げ、その内容を口にして言い出す。
光月おでんのメチャクチャな経歴――
花の都を追放されてからの放浪生活――
「九里」開拓――
白ひげとの出会いとワノ国出国――
白ひげ海賊団での冒険――
ロジャーとの出会いとロジャー海賊団での冒険――
ロジャー海賊団との別れ――
「――とここまでになっております。あとは皆さんの知っての通り破れております」
「……そうか」
「おでん漫遊記」を聞き終えた親父は感慨深そうに見上げて黙り込む。
オレも目を閉じておでん、そしてロジャー海賊団の勇姿を想見してしまう。
ヤマトも感涙を受けて涙を流し続けていた。
キングさんもクイーンさんもオレ達を黙って見つめている。
やがて――
「ねぇねぇ、お父さん!」
「おう」
ヤマトは親父に日誌に書かれているある事に関して問いかける。
「〝海賊王〟ロジャーの夢……どう思う⁉」
「……あぁ」
親父はニャリとしてしまう――
「あいつらしかったな……」
「うん……うん!」
親父のそういう答えにヤマトは頷く。
「私はお父さんとお兄さんとおでんのような武人になるのが夢だけど」
「ロジャーの夢も――目指してみようかな!」
「……ウォロロロ!そうか、なら目指す以上――思いっきり行け!!」
「うん!」
親父とヤマトはそう熱く語り合った。そして――
「……よし!決めた!」
「⁉ヤマト?」
「?」
突然立ち上がって大声を上げたヤマトにオレ達は首を傾げる。するとヤマトはとんでもない事を言い放つ!
「私――僕は男になる!」
「「「……ハイ!!?」」」
「ヤマト⁉何言いやがる⁉」
とんでもない事を言い放つヤマトに心から驚愕してしまうオレ達。正気を疑ってしまう事もあった。冷や汗をかく親父の問いかけにヤマトは――
「だって!光月おでんは男でしょ!」
「ええええええ〜っ⁉そんな理由で⁉」
「お嬢……」
ヤマトのその即答に目を真ん丸にして驚いてしまうクイーンさんと思わず呆れてしまうキングさん。
「それに……お父さんとお兄さんは男でしょ?フドウもジャックも……」
「⁉……まぁ、そうだな」
「……ヤマト、お前」
ヤマトの続いての言葉に親父とオレは何かを察してしまう。
――ヤマト……お前、まさか……
「カッコいい人は全て男でしょ?なら――僕も男になりたい!……いや、なるんだ!」
「……うぅむ」
一応、一応納得できる理由を聞いて親父は顎に手を当てて唸ってしまう。
だが、オレは――
「まぁ、親父。「息子」の望みだぜ。聞いてあげたら」
「⁉……スサノオ、お前……」
まるで妹の事を男であるかのように扱うオレに親父は目を見開く。
「お兄さん……!」
「ふふっ……改めてよろしくな……「弟」よ」
「お兄さん!」
自身の意志を尊重したオレにヤマトは感激して抱き付ける。
「えぇ~い、いいのかな……?」
「……まぁ別にオレ達に問題はないようだし、いいんじゃねぇか?」
「…」
親父が手を顔に押さえてしばらく固まっていた――が、やがて
「……まぁ、好きにしろ」
渋々ながら娘――いや、「息子」の意志を尊重する事にしたようだ。
一応自身に憧れて男になろうとしたのも効いたかもしれない。
「ふっ」
「お父さん!」
親父が折れて認めるのにオレは微笑み、ヤマトが感激して親父の足に抱き付ける。
「ウォロロロ……」
感激して自身の足に抱き付ける「息子」に親父は苦笑する――
苦笑していた親父は一瞬で表情を引き締まり、キングさんとクイーンさんと話し合う――会議を開始した。
「とりあえず、おでんの日誌から重大な情報を得る事ができたな」
「そのようだ。ただ〝ひとつなぎの大秘宝〟に関しての情報はおでんの奴が破っていたんだがな……」
「……ったく〜!最後の最後に余計な真似をしてくれるよな〜!」
肝心の〝ひとつなぎの大秘宝〟に関しての情報がない事を残念がるキングさんとクイーンさんだが――
「ウォロロロロ!!まぁ!そりゃ残念だが……残り2つの――〝ロード歴史の本文〟の所在が分かっただけでも儲けものだぜ!!」
〝ロード歴史の本文〟――
この世界には歴史・情報、その在処を記した石――〝歴史の本文〟が多く存在しているが、その中に海賊王になるには目指す必要がある〝偉大なる航路〟の最果て〝ラフテル〟の場所を示す為に必要な4つの〝歴史の本文〟が存在している――それこそが〝ロード歴史の本文〟であった。
1つ目は「四皇」〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンが所有し、2つ目はかつてワノ国のもので今は「四皇」〝百獣のカイドウ〟が所有し、あとの2つは所在が判明していないが――
「ウォロロロ……片方の〝ロード歴史の本文〟は魚人島にあって、もう片方の所在が〝動く〟とはな……」
「――だが、片方の所在があそこだとすれば、見つけるのに時間がかかってしまうな」
「それに!〝ロード歴史の本文〟を解読する人間が必要だという問題はどうすんだよ!おでんの奴は死んじまったし!」
重要な情報を得られたが、それによって判明した新たな問題に悩んでしまうキングさんとクイーンさんに親父が解決策を示した。
「ウォロロロロ!!〝ロード歴史の本文〟の所在が〝動く〟以上見つけるのに時間が確かにかかるが、〝新世界〟の中にあるのは間違いない!!それに所在を知った事によりババア達より一歩先なのは確かだ!!」
「それに!〝ロード歴史の本文〟を解読する人間に関してだが――オロチが幽閉している〝アイツ〟がまだいる!!」
「っ!そうか……おでんばかりに目を向けすぎて、すっかり忘れていた」
「あぁ!!……オレもまだまだっすね……でも確かに!!」
親父の指摘にハッとするキングさんとクイーンさん。
そうなのだ、〝ロード歴史の本文〟の所在が分かっただけでも良しとしよう。
そして解読手段が完全に消えたわけではない。
だが――
魚人島にある筈の〝ロード歴史の本文〟はなぜか無くなっていた。その行方の手かがりさえも影も形もなかった。
さらにオロチが幽閉している〝アイツ〟に関してはもう脱出してて姿を消した後だった。
それを知ったカイドウ達は怒り狂い急遽捜索を開始したが、それは別の話……