パンゲア城内「権力の間」――
「――またこいつらか!!!」
「「「……!!!」」」
その部屋には殺伐とした雰囲気が漂っていた。
「五老星」がテーブル上に散らばる数枚の手配書を忌々しげに睨みつける。
「「暴獣海賊団」……!!!よりによって忙しい時に!!!」
「理性なき獣がおとなしくするのを期待するなんてそもそも無理な話だ」
「だが今暴れなくても!!!」
彼らは「暴獣海賊団」に対して激しき怒りを覚えていた。
その海賊団の暴れぶりにはいつも悩まれたが、今回の場合は間が悪すぎる。それ故に愚痴を言わずにはいられなかった。
「――今腹立ってもしょうがない!!迅速にこいつらへの対策を講じるべきだ!!」
「ああ、幸い潜入者と「バシレウス」の件の海兵の報告でこいつらの情報を把握できた。これで更なる手を打てるのだろう」
だが、辛うじて冷静になった「五老星」は「暴獣海賊団」に対しての方針を論じ合う。
そして情報を入手できたという事実からまだ優位性が存在していると判断した彼らは話を一旦まとめ、続いての議題に移る。
「あとは……
「ああ、あれだけ出さずに閉じ込めろと命じたのにヘマをしおって……!!!」
「どこで知ったのか分からんが、
「いずれにせよ、消さなければならんのは確かだ。奴は「世界政府」の機密をある程度握っているからな……!!」
「情報によれば奴は今海賊団を結成したようだ。名は――」
「「フーズ・フー海賊団」だそうだ……!!」
挙げられたその議題に関して「五老星」はさっきより顔を険しくする。
それもその筈。今「世界政府」から逃げているその者はある意味「暴獣海賊団」より厄介だ。何せ、かつて世界政府直属の諜報機関「CP9」のメンバーだった男だ。
ただある任務の失敗により放逐され投獄されてしまったが……
だが、そんな男が脱獄した。そうなった以上もはや「世界政府」にとっての危険な存在だと化しても過言ではなかった。
「――「海軍」と「CP9」だけではなく「CP-0」も動かすべきだな」
「ああ、そうしよう」
その危険性により「世界政府」が総力を挙げてその者を何としてでも排除するという結論に至った「五老星」は次の議題に移る。
「〝海峡のジンベエ〟が要請を受けるそうだ」
「おお……!受けてくれるのか」
「では、魚人と人魚の奴隷を全て解放するよう指令を出そう」
「ああ、そろそろ魚人族と人魚族とこれから良い関係を築かねばならんからな」
「うむ……そういえば、ジンベエの仲間1人が「インペルダウン」に幽閉されているが」
「!〝ノコギリのアーロン〟か……ジンベエの仲間であるならば恩赦で釈放するべきだろう」
「それじゃ、その手続きを……ふぅ、これで「タイヨウの海賊団」と「七海海」の問題は解決だな」
2つの重大な問題を揃って片付けられた事で肩の荷が下りた「五老星」だが……
「さて、次はこれだな」
「ああ、それは――」
「――」
「――」
「――」
だが、世界はそれでも止まらず進み続ける。それ故に議題の種が尽きない「五老星」は議論を続ける……
「――という訳なの」
あるところでは暗闇に包まれていた。だがそこには1人いて、その者は手に持つものに向けて話しかけていた。それとは――
『……そうなのか。そのような事が起こったとは……承知した』
〝電伝虫〟だった。しかもそれだけではない。盗聴妨害の念波を飛ばす〝白電伝虫〟と接続している。それを通じてその者は誰かと会話していたのだ。
『それから例の海兵の件だが、取り組んでくれてありがとう』
「ええ、少し骨が折れたけどね」
〝電伝虫〟の先にいる者から感謝を伝えられ、その者もそう応える。
〝例の海兵〟とはオサムの事である。その海兵が「海軍G-3支部」に戻るには情報を操作する必要が出てくるが、その作業をその者が取り組んだ。そのおかげでオサムが何事なく戻れたのだ。
普通なら困難な事だ。だが、その者ならば可能だった。そう――
「(まぁ、それでもこのコナンには他愛もないけどね)」
「CP9」に所属する腕利きの諜報部員であるコナンには造作ない事であった。そんな彼女は相手に向けて話しかける。
「でも、まさかたった1人の海兵の得になる事をするなんてね……どういうつもりなの?」
どう考えてもたった1人、それも彼女達にとっては敵といえる者を利するような事に対してコナンが疑問を率直に口にする。すると
『ああ、それはな……あの人が言うに例の海兵には見所があるからだそうだ』
「……それはつまり、敵が強くなるのも構わない――という訳ね。本当に戦闘狂わね」
相手がおそらく苦笑しながら述べたその理由にコナンも呆れざるを得なかった。わざわざ敵を利してやるなんて本当に酔狂なのだから……
その反応に相手からも共感的な空気を感じられたが……
『はは……だが、そんな人だからこそ今のオレ達もそういう事になれたんじゃないか?』
「……そうね」
続いて述べられるその意見にコナンは反論せず賛同する。
そうなのだ。〝あの人〟がそういう人物な故にかつて敵であったコナン達を何の事はなく受け入れた。だからこそコナンもついていこうと決意した。
改めて認識した今の自らのあり方に対してコナンが感慨深く思うようになったところで相手が話を続ける。
『引き続き頼む。今度君が来る時に良いワインを用意するよ』
「ええ、任せて。それが私の役目ですもの。それとたっぷり上質なものを頼むわ」
『ああ、もちろんだ』
その会話を締めとして〝電伝虫〟を切ったコナンはすぐどこかへ去っていった――「暴獣海賊団」のスパイという役目を果たすために……
「……よし」
あるところでその男は手に持つ〝電伝虫〟を置き、そこから外へ出る。そこは〝カイリュー号〟の船上で「暴獣海賊団」の海賊達が和気藹々としていた。
その盛り上がりを眺める男にそのうちの1人が声をかける。
「おう!今日もクールそうじゃねェか!ペイン!」
「フッ、それがこのオレだからな」
その呼びかけに男――ペインは微笑みを浮かべてそう返す。その直後に彼は人々の中を通り抜けてある男の元に近寄った。仲間と談笑しているその男に向けてペインが声をかける。
「スサノオさん」
「ん、おう!どうした?」
その呼びかけにその男、スサノオ――オレはペインに笑顔を向ける。反応が返ってきた事でペインは会釈してから用件を伝える。
「さっきコナンから報告を受けてきましたが、どうやらあちらで大きな事態が生じたようです」
「!」
その内容にオレもすぐ真剣な顔になる。
「……それは今聞くべき事か?」
「……いえ、後でも大丈夫でしょう」
そしてオレがそう確認するとペインがそう回答する。その内容からこれからの事を決めたオレはその途端に笑みを浮かべる。
「なら、後で聞こう。これから宴をやるんだからな!!」
「はい」
大きな事態だという「世界政府」に潜り込んでいるコナンからの情報も気になるが、今は宴をやらずにはいられねェんだろう。何せ――
「オレ達の新しい手配書が発行してきたんだからな!!」
そう、オサムが「海軍」に「バシレウス」でのオレ達の暴れぶりをある程度報告した事によってオレ達の懸賞金がさらに上がったからだ。
しかもそれだけに留まらず、前は手配書を発行されなかった者達の分もついに発行してきたのだ。
その事実から「暴獣海賊団」の名がさらに上がるという事にオレも笑みを抑えられなかった。
「リュドドド!!笑いが止まらねェぜ!!」
「そうだね!僕の懸賞金も上がって、何より皆にもようやく懸賞金を懸けられたしね!!」
「ふふっ、そうですね……!(この私も晴れて億超え、しかもあの蛇より上!!ふふっ!)」
「お前もようやく懸賞金か」
「そうですね。しかし、僕は影で動くのを信条としている故に果たして良かったのか……」
「……なるほど、そういう考えもあるのか」
「……チィ、まだあの焼き鳥より下か……!!あと一息暴れなきゃな……!!」
「見て見てごわす!!私達の手配書ごわす!!」
「分かった分かったってば!!――ついにオレにも懸賞金が……!!」
「ん〜…悪くはない写りかしら?うふふ……」
「ハッハッハッハ!!オレの方が格上だったなァ!!シシリアンゥ!!」
「ぐ!!お、お〜〜の〜〜れェ〜〜〜!!」
「やかましいぞ!!ゆガラ達!!……しかし、このオレが懸賞金か……
「すまないな、とうとう私が懸賞金になってしまったよ」
「ううん、私達がこの船に乗ると決めた時からこうなるぐらいは分かってたわよ。だから謝る必要はないわ……でも、すごい額わね!」
「……ハハッ!!この私の魅力をちゃんと理解してくれて何よりだよ……!」
「パパすごい!」
「おやおや……」
「よし、ちゃんと名前が変更されたな」
「ねえねえ!!見てよ!!この写真ばっちり良くない?金額も高いし♪」
「……(うぜェ……)」
「……お前達の懸賞金……高いな……」
「あ、いや…ほら、私達はかつて「白ひげ海賊団」と「ロジャー海賊団」の船に乗ったんだよな?その時に懸けられた元々の懸賞金にさらに上乗せされただけだ」
「そうや。むしろ、ゆガラもなかなかの懸賞金やいか!!」
「……そうだったな。しかし、これで拙者も正真正銘海賊か」
――こうして「暴獣海賊団」の中核的な海賊達の首に懸賞金を懸けられた
それによって「暴獣海賊団」の名がさらに上がっていった
手配書の更新と発行を受けて人々が大いに盛り上がってきたところでオレが口を開く。
「――さァて!!お前らに懸賞金を懸けられた記念として宴を行おうじゃねェか!!」
「「「!!オオ〜〜!!」」」
オレが言い放ったその事に人々も雄叫びを上げた。そうして宴が始まった。
「――おう!お前はどうだった?」
「あ〜残念ながら発行されなかった!チクショ〜」
「そうか!それはお気の毒様だ!」
「そういうお前は?」
「おう!見ろ!これがオレの手配書だ!!」
「ドチクショ――!!」
人々が酒を飲んでごちそうを食べながら手配書を見せて自慢するなど手配書に関しての会話が盛り上がった。
それもその筈。海賊にとっては勲章になる手配書が今回では「暴獣海賊団」の大勢の海賊の分も発行されてきたからこそ盛り上がらずにはいられなかったんだろう。
そんな光景を眺めるオレは満面の笑みを浮かべた。
「リュドドド!!盛り上がってるな!!」
「ええ、自らの名が世界に轟くんです。昂らずにはいられないんでしょう」
「また自らの強さを認識でき、そして他の者達にその強さを誇示できるのもあるんですから」
皆が楽しげにする状況に満足気にするオレの手に持つ盃に小紫は酒を注ぎながら微笑みを浮かべ、その状況の背景に関しての解釈をする。その内容にオレも同感だった。
「リュドドド!!そりゃな!!他の奴らより自分が強かったら誇らしく思うもんだ!!」
楽しげにそう言い放ったオレは自身の手配書を眺めて笑みを深めながら酒を飲む。その姿勢に小紫も微笑む。
「うふふ、それはそうですね……!この私も強くなったものです……!」
小紫も同じように自身の手配書を眺めて笑みを深める。その時に彼女は幼き頃を思い出す。
――あの頃の私は本当に弱かったな……
かつての自分のあり様を思い返した小紫は眉をひそめる。
――だからこそ、憂き目を見てしまった。
その弱さ故の体験をも思い出した小紫は苦い顔をする。
あんな体験をせざるを得ない程に弱かった事が悔しくて、それ故に何としてでも強くなろうと血のにじむような努力をしてみせた。その結果としてついに猛者と渡り合える程の強さを身につけられた。
「(ヴィザ殿といったか、あの方は強かった。あまりの強さであの時はさすがに死を覚悟したものだ)」
小紫にとって今も畏敬の念を抱き続ける猛者、ヴィザの事を思い出す。彼は実に並外れた程に強く恐ろしかった。だが、それ程の者さえにも小紫は見事勝った。
「(他でもならぬ私だけの力で)」
その事を思い返す小紫は続いて自身の手を眺める。剣だこなどの鍛錬の跡が刻み込まれた手を……
それを見つめた小紫はつい笑みを浮かべる。
「(本当にあの頃とは随分と遠くへやってきたものだ)」
自身が強くなったという事実を噛み締める小紫はやがてその目を鋭くする。
「(だが、このまま終わりではない)」
「(ここからもさらに強くなり、上り詰めてみせよう!!――〝世界一の剣士〟の座に!!)」
改めてその決意を固めた小紫は笑みを深める――そこでふとする。
「(そういえば、エマちゃん達は上手くやっているのかしら?)」
以前まで行動を共にした子供達に小紫は思いを馳せる。実は彼女はその子供達の事を気に入っている。何せ――
過酷な環境で生まれ育った子供達は身を置かれる境遇に甘えず、苦難に負けず自らの運命を掴もうとあがいたからだ。
その素晴らしき姿勢から亡き親友おハネとおカタちゃんの事を思い出したからのもあるかもしれない。そう遠い目をする小紫に向けてオレが声をかける。
「どうした?小紫――ああ、あの子供達を気にかけんのか?」
「!……ええ、あの子達は元気にしてるのだろうかと考えていました」
彼女の様子が気になったオレだが、すぐそう察した。その推測に彼女も肯定する。その回答を受けてオレも笑みを浮かべる。
「リュドドド!!本当にあいつらの事を気に入ったんだな!!まァ分かるが!!」
オレは笑いながらそう言い放つ。そう、オレも子供達の事を気に入っている。なんたって……
「あいつらは子供にしてはいい度胸を持っていたからな!!」
そもそも、オレは苦境に立たされても負けずあがく者に誰だろうが好感を抱かずにはいられない。だからこそそう当てはまる子供達の事を気に入ったんだ。
そんなオレは同じ考えを持つ小紫に笑顔を向ける。
「少なくとも、このオレとお前に気に入れられたんだ。それ程の者達なら何があってもやっていける筈だ!!」
「……!!」
その事実からそう確認しているオレは小紫に向けてそう言い張ってやる。その考えに小紫はハッとする。
「……そうですね。あの子達なら大丈夫ですね」
そして小紫が安心したかのように微笑みを浮かべたのを受けてオレも笑みを深める。
「そうだな!!――っていうか、そういうお前もなかなかじゃねェか!!ついに億超えだからな!!」
「ふふっ!!そう言って頂けると鍛錬する甲斐はありましたよ」
「そうか!!」
そしてオレは小紫の更新された懸賞金に対して率直に賞賛を送った。それを受けて彼女も満面の笑みを浮かべるのにつれてオレも大いに笑う。
「リュドドド!!このままさらに強くなってやろうぜ!!」
「もちろん……!」
オレがニヤリとしながらそう言い放つと小紫も獰猛な笑みを浮かべる。そんな彼女の姿勢に気を良くしたオレは話題を変える事にした。
「それはそうといて、今は宴を楽しもうぜ!!」
「うふふっ、そうでしたね」
その意見に乗る小紫は微笑んでオレに寄り添う。そうしてオレ達は宴を楽しもうとする。
「……(そういえば、議長殿がおっしゃった人と国のあり方……いえ、それは後にしましょう)」
スサノオと小紫が宴を滞りなく楽しむ中でそれを見つめる者がいた。
「……」
フドウだ。彼はその光景を眺めて、そして微笑みを浮かべていた。
フドウは敬愛するスサノオが楽しげにするのを喜ばしく思うからだ。しばらくスサノオの事を眺めるフドウだが、ふとする。
「……(そういや、ハンコックの奴は一体どうしたんだ?)」
ハンコックの事を思い出すブドウは今の彼女の事が気がかりになった。
なぜならば、それはつい以前スサノオがハンコックを宴に誘おうとした時の事だった。彼が〝電伝虫〟で連絡を取るところにブドウも立ち会っていたからその顛末を知っているが……
「(まさか、あのハンコックがスサノオさんの誘いを断るとは……)」
ハンコックは誰が見ても分かる程にスサノオにゾッコンだった。それ故に彼からの誘いを二つ返事で受けると思っていた。
だが、彼女の回答は想定外に――真逆だったのだ。
『誘って頂き感謝します……ですが、今の妾は身動きが取れない状態になっております。それ故に応じる事ができないのでしょう……誠に申し訳ございません……!』
〝電伝虫〟を通じてだが彼女が重々しくそう言い張ったためにスサノオも引っかかりながらも了解した。そのまま終わったと思ったら……
『あの人の今の様子はどうじゃ……ついでに、そなたはどうなんじゃ?』
しばらくするとハンコックがなぜかスサノオではなくブドウに連絡を取ってきたのだ。そんな彼女の意向が今も読めずブドウも困惑せざるを得なかった。
そんな事があったからこそフドウは――
「……今度奴と顔を合わせる時に意図を問いかけてみるか」
その結論を出す事になった。そうして方針を固めたフドウは宴に戻っていった……
――恋する蛇に異変が起き、そしてそれが停滞しているある事象に波紋を広げる事になる
☆勢いづく「暴獣海賊団」!!
だが、そんな中で生じる微かな異変…