時は遡って――
ある海にその島が存在していた。
一見何の変哲もない島だが、ただ自然に恵まれていた。それ故に訪れる人々がその自然を楽しめる、またはくつろげるようにもなっていた。
そして訪問者達のために様々な施設が多く建てられたが、そのうちの一つには――
「……」
ハンコックがくつろいでいた。
物憂げな様子をしている彼女だが、その様も美貌故に絵になっていた。といえそもそも、なぜ彼女がその島にいるかというと……
「……ソニアとマリーめ。いらぬお節介を焼いてくれる」
事はハンコック率いる「九蛇海賊団」の外遊の道中だった。
「九蛇海賊団」が滞りなく航海しているところに突然ハンコックの妹達、サンダーソニアとマリーゴールドがその島に寄ってそこで休息を取ろうと主張したのだ。
この頃スッキリしていなかったハンコックがその提案を聞き入れた事で今「九蛇海賊団」は島で休んでいた。
なお、なぜサンダーソニアとマリーゴールドがその提案を掲げたかというと――
「妾に気を遣っておって」
実は以前「バシレウス」から撤退して以来のハンコックの様子がおかしくなっていた。そんな姉に気付いた妹達はあまりにもらしくない様子からその身を案じ、状況を打破するために提案してみたのだ。
そんな妹達の意図に気付いているからこそハンコックは苦々しげにしながらもその口端を微かに上げていた。
だが、すぐ顔を歪める。
「……ぬゥゥ〜〜!」
逆に言えば、妹達を心配させる程のらしからぬ姿をさらしてしまった自身にハンコックは苛立ちを覚えた。
堂々と振る舞うように心がけてきたハンコックだからこそ今の自分のあり様に腹立たずにはいられなかった。しかも、そうなった理由も分かっているからかえってだ。
普段は堂々とするハンコックを狼狽させるもの。それは――
「……!!(妾の想いが揺らぐとは……!!)」
ハンコックが抱くある想いが揺らぎ始めたという事であった。その事にさすがのハンコックも動揺していた。
ハンコックの想いとは――スサノオへの愛である。
かつて自身を救い、真摯に接してくれたスサノオにハンコックが恋心を抱くのも当然の話だろう。といえ、強き情熱のあまりにスサノオに対して彼女はアタックを執拗にかけ続けているようだが。
しかしだからこそ、そんなハンコックの想いが揺らぐ事はないとスサノオにゾッコンな彼女の姿を知る誰もが、そしてハンコック自身もそう思っていた。
それ程の想いが今、揺らいでいた。一体何があったかというと……
「(妾はスサノオさんを愛してる筈)」
「(なのに、なぜ――)」
「(なぜ!!妾は今!!フドウに惹きつけられるのじゃ!!?)」
なんと、スサノオ以外の男を見向きもしない筈のハンコックが他の男――フドウの事を意識するようになったのだ。
そのまさかの事態にハンコック自身が激しく狼狽した。
「(そんな訳ないと思いたいんじゃが……!)」
その事実を認めたくないハンコックはスサノオの事を必死に思い浮かべようとするものの――
『少なくとも、スサノオさんの事を諦めないお前をオレは醜いとは思えんがな』
逆にフドウの事を思い浮かべてしまった。
……まず、かつてスサノオに恋い焦がれるようになったハンコックは小紫の他に同じように彼の事を敬愛し、そして信頼を置かれるフドウの事をも密かに敵視していた。
だが、そんなハンコックをフドウは何の事はなく気にかけた。彼にとっては敬愛するスサノオに恋い焦がれてて諦めずにアプローチを続けるハンコックの事を好ましく思ったからだ。
それ故にフドウはハンコックに真摯に接した。そんな姿勢だからこそ、彼に対してハンコックは素っ気ない態度で返すものの内ではつい気を許すようになっていった。
そんな2人の関係であったが、そこに勃発した「バシレウス」での抗争が変化をもたらした。
威風堂々とするフドウの姿――
猛々しくも美しき炎――
フドウの種族の秘密――
そして、露わになったフドウの凛とした素顔……
「バシレウス」で目にしたフドウの姿を思い起こしたハンコックの顔が真っ赤になり息を荒げた。
「ぐ……!!間違いない……!!今の妾は――」
だが、その反応からごまかしが利かない事実を突きつけられる事になってしまったハンコックは顔を激しく歪める。
「スサノオさんではなく、フドウに恋い焦がれている……!!!」
到底受け入れがたい事実を認識せざるを得なかったハンコックは打ちのめされた。なぜならば……
「他の男に心惹かれるなんて…そんなの、そんなの――」
「――スサノオさんへの浅ましき裏切りではないか!!!」
「まるで尻軽のようではないか!!!」
「そんなの許す訳にはいかん!!!」
誇り高きハンコックは自分が抱いてしまったその感情を卑劣だと断じ、激しく拒絶する。だが今ハンコックの心を苛むのはそれだけではない。
「しかも……!!あの人への想いも弱まっている……!!」
ハンコックの内にあれだけ燃えていたスサノオへの恋心もまた弱まっていた。
その事実をもしっかり認識しているハンコックは認めたくはなかったが、その要因も分かっているからこそどうしようもなく……歯がゆく思った。
そんな事態に至ってしまった要因こそが……
「……あの時、あの人はもう小紫しか見えていないんだと分かってしまったんだからな……!!!」
「バシレウス」での抗争にハンコックも参加していたが、その最中で目にしてしまったのだ。
――スサノオと小紫が互いに身を案じ、その救出に迷わず動き合ったのを。
互いの無事を喜んで笑顔を向け合う二人の姿からハンコックは強き絆を嫌でも感じ取らざるを得なくなり、そして……敵わないと思ってしまった。
「――だからって!!!スサノオさんから他の男にあっさり移り変えるなんて、そんなのあってはならん!!!」
といえ、その事実をハンコックが受け入れる訳にはなかった。
……スサノオを巡っての敗北は百歩譲っていいとして、卑劣な心変わりなど恥しかないのだから。
「う!!ぐゥ……!!む、胸が痛い……!!スサノオさんに恋い焦がれた時よりさらに……!!」
ハンコックは苦痛に顔を歪め、胸をかきむしった。
彼女は実はまだ残っているスサノオへの想い、フドウへの想い、そして誇りの間に挟まれてしまったのだ。そんな状態に陥ったハンコックもどうすれば良いか分からず悶え苦しんだ。
「ど、どうすれば「なるほど、そういう事でしたか」――!!?」
もはや行き詰まったハンコックの元に突然その声が響かれた。それに驚愕したハンコックが素早く視線を向けると――
「!!?小紫!!?」
ハンコックの苦悩の原因の一人にしてライバルである小紫がそこに立っていた。
まさかの彼女の登場に驚愕するハンコックをよそに小紫はただ彼女を凝視する。
「――まさか、あなたがフドウに心惹かれるとは……驚きです」
「!!!」
そして小紫がそう言う。それにハンコックは顔を激しく歪め、素早く彼女から顔をそらした。
ハンコックにとって誰にも知られたくない事をよりにもよって最も知られたくない者に知られてしまったのだ。そんな状況な故にハンコックも頭がぐちゃぐちゃになった。
「な、なぜ貴様がここにいる……」
辛うじてハンコックはその疑問を漏らす。
そう、ここにいる筈のない小紫が今目の前にいる。その事態にハンコックが疑問を抱くのも道理だろう。そのもっともな疑問に小紫はああと声を上げる。
「私がここにいるのはあなたの妹達、サンダーソニアとマリーゴールドからの頼み事に応えたからですよ」
「!!?」
小紫が明かした事実にハンコックは驚きのあまり目を大きく見開き口を大きく開けた。
……実は挙動不審になった姉の事が心配になったサンダーソニアとマリーゴールドは彼女の助けになりたいと考えていた。
だが、姉とは長い付き合いだからこそ分かる。ハンコックは弱みをみせずにいつも堂々とするのを心がけている。そんな彼女が例え妹達でも悩みを明かしてくれないんだろう。
それで最初こそハンコックが恋い焦がれてるスサノオに頼ろうと考えたが……
ただ、最近のハンコックの言動を見てきたサンダーソニアとマリーゴールドは予感がした。
――おそらく、スサノオさんにも悩みを明かさないかもしれない。
――それどころか、事態が悪化する気がして仕方がない。
そんな予感がした2人はスサノオに頼ろうとするのをやめて考えに考えた結果、ある者に託してみる事に決めた。その者とはもちろん、小紫である。
いつもハンコックといがみ合う者に託そうとするからどうかしてるといっていい考えだが、サンダーソニアとマリーゴールドは確信していた。
一見犬猿の仲であるハンコックと小紫だが、妹達は知っている。ハンコックが内では小紫の事を認めていて、そして彼女とのいがみ合いを不自覚に楽しんでいるのを……
何だかんだでハンコック自身が気を許している小紫ならもしやと考えたサンダーソニアとマリーゴールドは彼女に声をかけた。
突然で頼み事を受けた小紫は最初こそ驚愕したものの反発せず聞き入れた。
小紫もまたハンコックの事をライバルとして認めていた。だからこそ耳にした今の彼女の様に思うところがあった小紫は直で会おうと迷わずに決めた。
そうして話がついたサンダーソニアとマリーゴールドはまず「九蛇海賊団」を「暴獣海賊団」の航路の近くに存在する島に誘導し、小紫の方も同じく「暴獣海賊団」をその島に誘導した。
そこから島に着いた小紫はさっそくハンコックの元に向かった。
そして今、ハンコックと小紫が対峙したのだ。
「2人を責めないで。妹達を心配させる程にあなたが挙動不審すぎるのよ」
「ぐ……!!」
小紫からきっぱりそう言い放たれたハンコックは顔を歪めるが、しかし何も言い返せなかった。どこまでいらぬお節介を焼いてくる妹達に苛立ちを覚えたが、言い返せればそうさせる程の自分の様にもっと腹立った。
しかも、スサノオから他の男に心が移り変えてしまったという苦悩を大声で言い捨てたところにスサノオを競い合ってきたライバルが来てしまったんだ。
間違いなく卑劣な心変わりを知った小紫にきっと軽蔑されるのだと考え込んだハンコックは情緒不安定になり……暴発した。
「……ああ、そうじゃ」
「……」
うなだれたハンコックが重苦しい雰囲気を漂わせて口を開き始める。そんな彼女の姿勢に小紫は目を細める。
「妾は!!!あれだけスサノオさんに恋い焦がれたくせに!!!」
「あの人と貴様の絆にあっさり負けを認め!!!」
「恥じらいもなく他の男に移り変えてしまった!!!」
「……」
ハンコックはまるで犯した罪を告白する罪人のように今の自らのあり様を血を吐く思いで言い捨てる。それを小紫はただ、聞く。
そしてハンコックは顔を跳ね上げる。その顔は涙が溢れ出ててぐちゃぐちゃに歪められていた。その悲惨な形相は美貌も形なしになっていた。
そんな彼女を小紫は目をそらさずに見つめる。そんな態度が癪に障ったのかハンコックは喚く。
「笑うがいい!!!こんな浅ましき女をな!!!」
もはや、完全に自暴自棄になり果てたハンコックの叫びに対して小紫は……
「――はい?なぜ笑うんです?」
あっけらかんとそう答えた。しかも、きょとんとした顔で。
「………………は?」
そんな反応にハンコックも呆気に取られた。
「は?え?な、なにを……?」
辛うじて口を開くものの言葉がうまく出ないハンコックに向けて小紫は表情を変えずに続ける。
「ようやくスサノオさんと私の絆を認めたんでしょ?だからあなたが他の男に移り変えても別に浅ましくないと思うんけどな〜」
「!!?な、何を……!!?」
それはまたあっけらかんと言い放たれたその言葉にハンコックは憤慨する。
スサノオを巡っての事で勝ち誇るのもそうだが、自身があれだけ悩み苦しんだ卑劣な心変わりをあっさり否定するのはどういうつもりだ!!
殺気立つハンコックに小紫はしかし怯まず、妖しい笑みを浮かべる。
「ふふっ、だって――この私を見てみて。家族達を捨ててまで男を選んだろくでもない女をね」
「……!!」
楽しげに自嘲めいた事を口にする小紫だが、その内容にハンコックは目を大きく見開く。
その様子を目視した小紫は口元に指を当てて、そしていやらしく舌なめずりする。
「でも、それでいいのよ。私達は海賊。思いのままに振る舞えばいいの」
そう語り、獰猛な笑みを浮かべる小紫の姿は海賊の風格があった。その存在感にハンコックも息を飲む。その姿に小紫は勝ち誇ったように笑う。
「あらあら、〝海賊女帝〟とあろう者がそんな様なんてね。これではその座が私のものになる日も遠くないのかしらね?」
「!!!」
小紫はそう言い放ちニンマリする。ハッキリ言い放たれたその言葉とその態度にハンコックは目を剥き、震え――
「ほざくな!!!」
吠えた。
「妾は〝海賊女帝〟ハンコック!!!貴様ごときにこの座を渡すものか!!!」
さっきまでと違って気迫に溢れてるハンコックが毅然とそう宣言する。その姿は王者の風格が漂っていた。それに小紫の表情がほころんだ。
「――はッ、ついさっきまで無様に泣き喚いた女が一体何を言うのかしらね〜」
だがそれも一瞬。意地悪に笑う小紫がそうからかう。その態度にハンコックはムッとするものの
「……フン、誰かと見間違えたのではないか?そなたの目は節穴じゃからな〜」
「あ〜ら、負け惜しみ?」
「それはそっちじゃろうが」
「「あ゛ァ゛?」」
いつものようにいがみ合い始めたハンコックと小紫。だが、だからこそか彼女達はつい笑みを浮かべていた。それはすなわち、いつもに戻れたといえるんだから喜ばずにはいられなかった。
……ただ
「……」
大分回復できたように見受けられるハンコックだが、その顔は微かにしかめていた。小紫もその事に気付いてるからこそ真剣な表情を浮かべる。
「……まだ悩んでるのね?」
「……ああ、一応落ち着く事はできたが…まだ吹っ切れないんじゃ」
小紫の問いかけにハンコックは深く頷き、今の自身の心のあり様を口にしてみる。
「妾がフドウに恋い焦がれてるのは間違いないが、スサノオさんへの想いも完全に消えておらんのだ」
「だからどうすれば良いんだろうと思ってな」
そんな心のあり様に対してハンコックは面倒に思いながら、その対応に苦慮する。その姿に小紫は目を細め、そして言う。
「……それならば」
「スサノオさんに告白するのはいかがでしょうか?」
「!!?」
小紫が言い放ったその提案にハンコックは衝撃で固まる。
「な、は……!?」
仰天するハンコックに構わずに小紫は平然と続ける。
「あなたが彼に告白する時、そしてその返事を聞く時に抱く感情こそが答えになると思うわ」
「考えるだけじゃいつまでも答えが出ないんだから、やる価値はあると思いますよ」
「……!!」
小紫が述べる考えにハンコックもハッとする。
――確かにどれだけ悩んでもしょうがない。
――どんな結果になろうが…試す価値はある。
今身を置かれる状況からその考えに対して道理にかなってると考えたハンコックは腹をくくる事にした。自身の抱く想いにキリをつけるために。
気迫に溢れるようになるハンコックの姿に小紫は笑みを浮かべる。
「ふふっ、ようやく腹を決めたようですね。まったく世話が焼ける」
小紫はそう言い放つ。ただ、どことなく爽やかのようだった。
笑みを浮かべながら見つめる小紫にハンコックは視線を向ける。
「……まさか、そなたに助けられるとはのォ」
「……フン、腑抜けを叩きのめしてもつまらないんですからね」
「何じゃとォ〜」
ハンコックが重々しくそう言うのを受けて小紫は不敵に笑いながら言い放った。その言葉と態度にハンコックは額に青筋を走らせた。
怒りに震えるハンコックに小紫は笑いながら背を向ける。
「まァ、ケンカ相手がいなくなると困りますからね」
小紫がそう言い、その場から去ろうとする。その背に憤慨していたハンコックもふと笑みを浮かべる。
「……感謝するぞ。小紫」
「……
ハンコックの礼を背に受けた小紫も微笑み、そう呟く。
――自らの激情に苦しんだ蛇は華の導きにより糸口を見出した
――そして
「あなたの事を愛しております!!!」
「!!!」
ハンコックの全霊全力を捧げての告白にスサノオ――オレは固まる。
突然の事で動揺するオレだが、ハッとする。
――ハンコックの覚悟を決めた顔つきに。
それを感じ取れたオレは姿勢を正す。
ハンコックがそこまで懸けて告白してくれたんだ。ならば、こっちも真剣に応えねばな!!
「……そんな風に告白してまでこのオレを想ってくれたんだな」
「本当にありがとう」
「……」
オレはハンコックをまっすぐ見つめ、そう言う。オレの感謝にハンコックも姿勢をさらに正す。その姿にオレは心苦しくなったものの、意を決して言う。
「――だが」
「努めてみたが、やはりお前の事は仲間としかみえねェんだ……!!!すまねェ!!!」
「……」
このオレからハッキリそう言い放たれてしまったハンコックは静かに目を閉じる。その姿にオレはだからこそ、それを言い放った。
「ハンコック!!!」
「オレをぶっ飛ばしたければ、やるがいい!!!さァ!!!」
「!」
その想いに応えてやれない詫びとしてオレはハンコックの怒りを受け止めようと体を張る事にした。そんなオレの姿勢にハンコックも目を見開き
「……ププッ!!何を言っておる!!」
「!?」
おかしそうに笑い出す。予想とは正反対の反応をみせるハンコックにオレも呆気に取られざるを得なかった。するとハンコックが入り日に向けて両手を広げる。
「……うむ!清々しい気分じゃ」
「……」
やはり思わぬ反応に戸惑うオレにハンコックは朗らかな笑みを向ける。
「スサノオさんは気にする事はないのじゃ」
「妾は全ての思いを出し切ったのじゃ。後悔はない」
ハンコックがオレの目を見つめながら毅然とそう言い放つ。その偽りのない言葉にオレは真剣な面持ちになる。
「ハンコック……」
「――こんな妾に付き合ってくれて感謝じゃ」
しまいにハンコックはオレに頭を深く下げ、そして砂浜から急ぎ足で去っていった。
「……」
そこは海岸。その上に立つハンコックはただ海に沈む太陽を眺めていた。そんな彼女の元に――
「……フドウか」
「ああ」
フドウが現れた。彼はハンコックの隣に立ち、そして入り日を眺める。
「「……」」
立ち並んだハンコックとフドウはしばらく沈黙に包まれる。
「……妾は」
「スサノオさんに告白したが、フラれたぞ」
やがてハンコックが語り出し、それをフドウが黙って聞く。
恋が破れてしまったという事実を口にするハンコックの表情はなんと悲壮でもなくスッキリしていた。
「なのに悔しく思うどころか、清々しい気分じゃ」
「……」
今の自身の心情を口にするハンコックをフドウは目を細めながら凝視する。それをよそにハンコックは続ける。
「あれだけ恋い焦がれた男にフラれたのを気に留めないとは……」
「随分と軽薄な女じゃったんじゃな。この妾は」
自分の様に苦笑するハンコックに沈黙を守っていたフドウが口を開く。
「……そうか?別にお前が軽薄だとは思えんがな」
「!」
フドウがキッパリとそう言い放った。その言葉はもちろんだが、それを迷わずに言い切る彼の態度にハンコックが目を見開く。それに構わずにフドウは真剣な面持ちで続ける。
「お前のスサノオさんに対する想いと海賊としての誇りは本物だ。お前を見てきたからこそ間違いはない」
「何があったか知らんが、おそらくその想いが揺らぐ程の事態にお前が遭遇したんだろう」
「そしてお前は考えて悩み、苦しんだ筈だ」
「その果てとして恋にケリをつけられた」
「少なくともお前は全てを出し切ったんだろう?ならば恥と思う事はない」
フドウはハンコックに向けてそう語った。なお、彼は別に慰めでもなくただ事実を口にしただけのつもりである。そんな彼にハンコックも呆れずにはいられなかった。
「……貴様という奴は……」
「……」
「……まァ、
だが、ハンコックは朗らかな笑みを浮かべる。そんな彼女にフドウは微笑みを浮かべ、そして入り日へ視線を移す。それにつれてハンコックも視線を移す。
その2人はただ入り日を眺めていった……
「……ハンコック」
姿が見えなくなったハンコックにオレは思いを馳せる。そんなところに――
「スサノオさん」
「……小紫」
小紫がやってきた。彼女はオレの隣までに歩を進め、そしてそこに立って入り日を眺める。
「「……」」
しばらく沈黙に包まれたオレ達だが
「……これで良かったのだろうか?」
ついオレはそうこぼした。やはりハンコックの事が心に引っかかっていた。そんなオレに小紫は顔を向けて口を開く。
「ええ、これで良かったのです」
「物事をさっさとハッキリさせないといつまでも前に進められないんですから」
「……それもそうなんだが」
小紫が言い放ったその事にオレも少し納得する。それでもまだ悩ましく思うオレに小紫は微笑みを浮かべる。
「ハンコックの事なら大丈夫ですよ」
「!」
言い放たれたその言葉にオレは目を見開き、素早く小紫を見ると彼女は笑っていた。その笑みは何かを確信していた。
それを目にしたオレはその意味を理解できずとも、ようやく気分が落ち着けていった。
なぜなのか分からんが、小紫がそう言うならそういう事だろう。
「……そうか」
「ええ」
オレが納得するのに小紫は笑みを深めて頷く。それからオレ達は再び沈黙に包まれる。やがて
「――よし!!決めたぞ!!」
「!?」
突然オレがそう声を上げる。突然の事に小紫も驚く。
「な、何をです?」
困惑する小紫が問いかけるのに応えてかオレは重々しく言い出す。
「……ちゃんと段取りをつけてからにしようと考えていたが……」
「だがこうなってくるならば、いつまでも中途半端なままではいられねェな!!」
「……?」
オレはそう言い放ち、しまいには覚悟を決めた顔をしていた。そんなオレの意図を掴みかねる小紫は再び問いかけようとする。
「スサ――ぎゃ!?」
だが、小紫は驚く事になる――このオレに抱き寄せられたからだ。
仰天する小紫をオレは真剣な目で見つめる。その目により混乱していた彼女も落ち着きながらオレを見つめる。
そうしてオレ達は視線を交わす。
「す、スサノオさん……?」
「……小紫」
突然の事に戸惑う小紫に向けてオレは躊躇なく言う。
「オレはお前の事を愛している」
「!?」
突然オレがそう言い出したのに小紫は固まる。それに構わずにオレは続ける。
「今のオレ達は悪くはない関係なんだが……」
「――そろそろお前にオレの隣にいて欲しくなった」
「だからよ……」
オレは目前の女性に対してそう伝え続ける。驚き呆れる小紫に向けてオレは顔を真っ赤にしながらも、ついに言う。
「オレと――」
「結婚してくれ……!!!」
「!!!」
オレの告白に小紫は呆気に取られた――が、すぐ笑みを浮かべる。その頬は染められていた。
「……ふふっ!本当にまったく――」
小紫は笑みを深めながらも言う。
「待っていましたよ。その言葉を……!!」
小紫が言い放ったその言葉にオレも笑みを浮かべる。
「リュドドド、それは〝はい〟でいいか?」
「もちろん」
オレが試しに出す問いかけに小紫はごまかさずに肯定する。
そうして互いに満面の笑みを浮かべ合うオレ達はやがて――
「「……」」
互いに少しずつ顔を近づけていき、そして
入り日に伸びる2つの影が重なった……
☆決着がつくそれぞれの恋…