その海中は青く澄み切っていて、天から海面を通して降り注ぐ太陽光に照らされてる上に小さな魚から大きな魚までが多く泳いでいた。
だがそれだけに留まらず、そこにはおそらく深い海底さえまでにも続く程に巨大な樹根が多く広がっていた。
絶景だといっても過言ではないその圧倒的で美しい海中――をある一隻の船が潜って進んでいた。
シャボンで覆われたその船は――〝カイリュー号〟だ。
「リュドドド!!いつも見ても飽きねェな!!この景色は!!」
「ええ、見ているこちらも心地よくなりますね」
その甲板でオレと小紫はシャボンを通して眺める海中の光景に感動を覚えていた。
冒険で様々なものを目にしてきたオレ達だが、それでも今目にする光景はいつも見ても飽きる事がない程に格別だった。故にオレ達は海中の光景の観賞を楽しんでいた。
ふとオレは小紫の方に視線を向け、朗らかに笑う。
「どうだ!!これこそが海の中ってやつだ!!――アマノム!!」
「だーだーだー!」
オレは小紫が抱っこする赤ん坊――アマノムに楽しげにそう話しかけた。
アマノムは初めて目にする絶景に感激したらしく目を輝かせ、その光景に何とかして触れようと手をいっぱいに伸ばす。その愛くるしい様子にオレも小紫もほっこりした。
「リュドドド!!感動して何よりだ!!」
「ふふっ!そりゃそうでしょう。この景色は五本の指に入れる程に素晴らしい絶景なんですからね……!」
「だー!」
光景を食い入るように見つめるアマノムの姿にオレ達は満たされる。
その感情を感じ取れたのかアマノムは夢中な光景からオレ達の方に視線を移し、晴れやかに笑った。それを受けてオレ達も笑みを深めた。
「――だが!!これだけじゃねェぞ!?これ程のものはな!!」
「世界は広い!!お前が驚くような事が他にもたくさんあるんだ!!」
「それを楽しみにするといい!!アマノム!!」
そしてオレはアマノムに向けてそう言い放った。そう、お前が生まれた世界は人智をあっさり超える程に広いのだ。その事をアマノムにぜひとも知ってもらいたいんだ。
父からのそんな想いを込めての伝授にアマノムはキョトンとする――が、熱意が伝わったのか明るく元気に万歳した。
「だー!」
「リュドドド!!」
「ふふっ」
そんな我が子の姿にオレも朗らかに笑い、小紫もまた楽しげに笑い合う父子の姿を優しく微笑みながら見守る。
――賑やかで和やかな家族の姿がそこにはあった
「――それで」
家族としての和やかな時間を過ごすオレ達だが、そんな中で少々真剣な表情を浮かべた小紫がオレに向けて口を開く。
「私達は「魚人島」に行って、そこでネプチューン王達と会談を行うんですね?」
「ああ」
今後の方針を確認してみる小紫に対してオレは肯定の意を示す。
そう、オレ達「暴獣海賊団」は今「魚人島」に向かっているのだ。ネプチューン達との会談のために。
「今「魚人島」はある問題を抱いていてな」
「だからネプチューンが親父に相談を持ちかけてきたんだ」
「その話を進めるために親父がオレ達を向かわせる事にしたのさ」
今の状況に至る経緯をオレが語ると小紫も頷く。
「……しかし、まさか
そしてある地の事を思い起こした小紫は考えられるその可能性に奇しき巡り合わせを感じずにはいられなかった。感慨深く思う彼女にオレが満面の笑みを浮かべる。
「だが、確かにあそこならちょうどいいんじゃねェかと思うぞ!!」
「……確かにそれはそうですね」
まだ確定しないが、あの地ならばネプチューン達にとっても都合が良いかもしれない。仮にそうなった場合の光景を思い浮かべてみたオレはつい笑みを浮かべ、小紫も同感ゆえか微笑んだ。
「まァ、それはネプチューン達との会談次第だがな」
「そうですね」
といえ、そうなるかどうかはネプチューン達との会談次第だ。その事からオレ達は会談に向けて気を引き締めようとする。
そんな両親の雰囲気にアマノムが不思議がるのに気付いたオレ達はアマノムに朗らかな笑みを向ける。
「リュドドド。これから「魚人島」、〝海底の楽園〟に行くんだぞ!!」
「魚人と人魚の王国なのですよ。アマノム」
これから自分達が行こうとするところに関してオレ達はアマノムに述べた。その意味をまだ理解していないであろうアマノムも楽しげな雰囲気を感じ取れたのか明るく元気に万歳する。
「だーだー!」
「リュドドド!そうかそうか、楽しみか!」
「ふふっ!」
そんな我が子の姿にオレ達は満たされ、そして家族揃って海中の光景を眺める。
「オレ達をご招待いただき、誠にありがとうございます」
「うむ」
「よく来てくれました。皆さん」
オレ達は目前の者達、ネプチューン王とオトヒメ王妃に対して会釈を返し、彼らもそれを快く受け入れる。
オレ達は今「リュウグウ王国」の中心「竜宮城」にいる。
そう、オレ達は「魚人島」に無事到着したのだ。そして城に案内してもらい、王達と相まみえた。
互いに挨拶を無事済ませたオレ達は「百獣海賊団」と「リュウグウ王国」それぞれの代表として席に着き、いざ会談を開始しようとするが……
「……話を始める前に聞きたい事があるんだ」
その前にオレは以前から気にしていた事を確認しようとする。突然オレがそう言い出したのに一瞬驚くネプチューン達だが、何を聞こうとするのかを察したネプチューンはすぐ回答した。
「
「……そうか」
ネプチューンが真剣で、しかし暗い表情で口にしたその事にオレも眉をひそめるもののこれ以上何も言わなかった。
そんなオレ達の姿勢に密かに感謝を覚えたネプチューン達はしかしそれを顔に表さずにさっそく話題を変える事にした。
「――さて!本題に入りますね」
少々しんみりとした空気を切り替えるためにオトヒメがあえて明るくそう言い出すの受けてその場にいる人々が改めて気を引き締める。そうして場を整えた途端にオトヒメが真剣な面持ちで続ける。
「あなた達もご存知かと存じますけど」
「私達「リュウグウ王国」の地上への移住の準備は順調に進んでいますが……」
――「魚人族」と「人魚族」は今までも世界中の人間達から迫害を長らく受けていた
今でこそ交流するようになったが、それでも長らく迫害してきた人間との溝がそう簡単に埋まる訳でもなく地上でも差別体質がまだ根強く残っている
そんな境遇を変えるためにオトヒメ王妃が人間との共存、そして多くの魚人と人魚が心惹かれる際限なく光の恩恵を受け取れる地上への移住を目指した
その決意を抱くオトヒメの啓蒙活動と街頭演説によって数々の問題が発生しても少しずつ民達の理解を広げていき、〝世界会議〟で提出するための署名を集めていった
根気よく取り組み続けた甲斐はあって多くの署名を集める事ができたのだが……
「――じゃが」
「肝心の移住先が……まだ決まっておらんのじゃもん……!」
「移住先がなければ話にならないので探しておりますが……」
移住の手続きが順調に進められる中で最後にして重大な問題をネプチューンとオトヒメが重々しく口にする。
そう、多くの民が移住に肯定的でその手続きに問題がなくても――移住先がなければ、根底から破綻せざるを得なくなる。その問題を受けてネプチューンとオトヒメ達はもちろん急いで移住先を検討したが……
「だが、これだといった地が見つからんのじゃもん」
「移住先に気をつけなければ移住と人間との共存も叶わなくなる恐れがあるので慎重にしているんですが……」
ただ、魚人と人魚への差別体質が根強く残っている地が残念な事に少なからず存在する。
そんな地に人間に対してまだ不安と恐怖を抱く民達を誤って連れていけば人間への不信感が再燃し、移住そのものが白紙になる事態に陥るのもあり得る。
だからこそ慎重に事を進めなければならないネプチューン達は信頼を置ける人間に頼ってみる事にした。そんな背景からネプチューンとオトヒメはまずカイドウ達に連絡を取り、そのまま今に至ったのだ。
「カイドウ殿に確認したが、お主達「百獣海賊団」のナワバリはどうなんじゃもん?」
ネプチューンが真剣に問いかけるのを受けてオレは笑みを浮かべる。
「ああ、オレ達のナワバリには今あんた達を受け入れられる余裕があるんだ」
「差別に関してはそういうのを禁止にしているから心配はいらねェよ!!」
「百獣海賊団」のナワバリに関してオレが堂々とそう言い放った。その実情にネプチューンとオトヒメも安堵を覚えた。
「そうなんですか!」
「そうじゃもんか」
重大な問題が解決できるかもしれないという事にオトヒメは明るい表情を浮かべ、ネプチューンが安堵の息をついた。そんな彼らに対してオレは続ける。
「――それと」
「「「?」」」
オレが続けて何かを言おうとするのを受けてネプチューンとオトヒメ達が首を傾げる。そんな彼らに向けてオレは言う。
「実はあるところなんだが」
オレは語った。
――オレ達の拠点「ワノ国」の海底にある街の事を。
そこは昔高い壁を島中に囲い鎖国体制を敷くようになった事で溜まった雨水によって海底に水没したかつての「ワノ国」である。
「リュウグウ王国」の移住の件を知ったオレはついその街の事を思い起こした。あそこならば、魚人と人魚にとって条件の良い住処になれるかもしれない。
それに多くの魚人と人魚がその街に住んでくれば、「百獣海賊団」と「リュウグウ王国」の交際をさらに強める事になる上に新たな戦力になって万歳な筈だ。
そう考えたオレはオトヒメ達に向けてその街に関して語った。
「その街のすぐ上には地上だからここより海中と地上を手軽に生き来できるんだろう」
「つまり、地上と海中の二層生活ができる筈だ」
「まぁ!」
「ほぅ!」
オレが述べたその考えによりオトヒメとネプチューン達もその街に興味を惹かれるようになる。そんな彼らにオレが続ける。
「まァ、海底に沈んだ街に人が住む訳がないから長らく放置されて錆びちまったがな」
「あんた達がその街に住むようになるには再建しなきゃならねェんだ」
「幸いというかその海中は淡水だから街の原形が保たれているが、ただ海中の建物の建築方法をオレ達は知らねェから再建はあんた達にやってもらう必要があるんだが……」
その街を取り巻く問題をオレが率直に語るとネプチューンとオトヒメはしかし笑みを浮かべていた。
「私達がその街に行って再建すればいいのね!それならば大丈夫よ!そうでしょ!あなた!」
「うむ、そのような物件を頂けるのならば自ら街を建て直すぐらい安いものじゃもん」
その問題に対して2人は何の事はないようにそう答え、ますます前向きな姿勢をみせた。その姿勢を受けてオレも朗らかな笑みを浮かべた。
「リュドドド!!それなら話は早いな!!」
――議論を重ねた結果としてまずネプチューンとオトヒメ達がその街を視察してみるという事で話がまとめられた。
「――スサノオ殿」
「!」
会談が終わり、場が和やかになっていく最中でネプチューンがオレに向けて大きな身を屈めて話しかける。その真剣な雰囲気を受けてオレが耳を傾げるのに対してネプチューンが重々しく言う。
「カイドウ殿にも話して理解してもらえたが……」
「実は移住の件に関してお主達以外にも相談していたのじゃもん」
その事をネプチューンがごまかさずに明かした。
そう、彼らが信頼を置ける人間は別にオレ達だけではない。
ネプチューンが友情の酒を酌み交したある者達がいて、その者達にも相談を持ちかけていた。
その事に別に問題はないが、ただその者達のうちの一人はオレ達とは敵対関係にある。それ故に微かでも関われば揉め事になる事もなくはないだろう。
その事をよく理解しているネプチューンはわざわざその者とオレ達とのそれぞれの会談を別々に行うなど慎重に段取りを組んでくれた。
しかもその事を隠さずに話してくれたネプチューンにオレは感謝を覚えた。
「リュドドド、それは別に構わねェ」
「むしろわざわざ都合を整理してくれてこちらこそ感謝する」
「……カイドウ殿にも言ったが、分かってくれて感謝するじゃもん」
事情をオレ達が理解しているという事実に改めて感謝を覚えたネプチューンにオレも朗らかに笑う。
そもそも、ネプチューンはある海賊――親父と同じ「四皇」である〝白ひげ〟との交流があってその縁で「リュウグウ王国」が「白ひげ海賊団」のナワバリになったという話はオレ達も知っている。
それ故にネプチューンが〝白ひげ〟にも移住に関する相談を持ちかけようとするのも予想に難くなかった。
それは別に構わない。ネプチューン達の実情を考えれば無理もないからだ。万が一にも「白ひげ海賊団」との戦争が勃発しても恐れはしない。ただ、
今戦争してもメリットよりデメリットの方が上回る。だから今は戦争をできるだけ避けるようにしている。それにネプチューンがオレ達の事情を考慮して都合を整理してくれたんだ。
こうなった以上揉め事をわざわざ起こす必要はない。
「白ひげ海賊団」に関してはそういう方針として話にケリをつけたオレ達は揃って視線を向けた。そこには――
「だーだー!」
「まぁ可愛らしい!」
「ふふっ、ありがとうございます」
小紫が抱っこするアマノムを覗き見たオトヒメがその可愛らしさに感動していた。しかもそれだけではない。
「わぁ……!」
「見てるかい、しらほし。赤ん坊だよ」
「そうだぞ!しらほし!今は少し大きくなったけど、前まではお前もこうだったんだぞ!」
「今もまだ幼いけどね!」
4人の幼い子供がオトヒメの後ろからアマノムの事を覗き見ていた。その4人はネプチューンとオトヒメの子供達だ。
オレ達が息子を連れてきた事にオトヒメはせっかくの機会だとして自分も子供達を連れて顔合わせしたのだ。
まず、三兄弟の長男であるフカザメの人魚――フカボシ
次男であるリュウグウノツカイの人魚――リュウボシ
三男であるアカマンボウの人魚――マンボシ
長女にして末っ子であるビッグキスの人魚――しらほし
その四兄妹が今アマノムと顔を合わせていた。
「だーだー!」
「あはは!」
「……ふふっ」
「「はは!」」
幼い魚人と人魚達が自身を覗き見てきたからかアマノムが明るく笑った。その可愛らしい姿につれてしらほしも明るい笑みを浮かべた。
2人が明るく笑い合う光景にフカボシはつい微笑みを浮かべ、リュウボシとマンボシも同じく笑う。
――子供達が種族が違うのに関係なく和気藹々としていた。
その心和む光景を見守っていた小紫もオトヒメも微笑みを浮かべた。
「ふふっ、可愛らしいですね。私達の息子もあなた達の子供達も……!」
「ええ!――これこそが私が求めるものです……!」
子供達が純粋に笑い合っている事に小紫は満たされ、オトヒメも自身が求めていた光景が今目の前で展開されている事に感激していた。
その光景、そして妻達の姿勢にオレもネプチューンも同じく笑みを浮かべた。
「……いいものじゃもん。子供は」
「リュドドド!!そうだな!!あの親父だってアマノムにメロメロだからなァ!!だからこの件を終わらせてさっさと帰って顔を見せろとうるせェんだ!!」
ネプチューンがじみじみとそう言うのにオレも同意を示し、しまいにはその事を明かした。
あの悪名高いカイドウも孫にはゾッコンだという事実にネプチューンは目を大きく見開いたもののつい噴き出した。
「わはははは!!あの〝百獣のカイドウ〟も孫の前では形なしか!!」
「リュドドド!!まァな!!」
その滑稽な事実にネプチューンが笑わずにはいられず、オレもつれて笑う。
――その場は種族を超えて笑顔に溢れていた
「……見てろよ、そのくだらねェ茶番を終わらせてやるよ……!」
☆種族を超えて深める未来に溢れた親交!!
だが、その裏では…!?