「親父、オレ思うんだが」
「ん?」
「オレはやっぱり〝侍〟って強ぇ奴と戦いんだ……オロチの部下なんかじゃなくて」
「あ!僕も!僕も〝侍〟と戦いたい!」
オレが〝侍〟との戦闘を親父に要求する。ヤマトもそれに乗りかかる。
その要求に親父は……
「んん……いいだろう」
「!いいのか?」
今までオレ達が危険な目に合うだろう頼みには消極的だった親父も今回は承知してくれた。
なぜかというと――
「あぁ、これからワノ国を完全な支配下に置く為には逆らう奴らの排除と弱体化をしなければならないし……そう考えると〝侍〟と戦える機会は今しかねぇからな……」
「……だけど言っておきながらなんだけど、本物の〝侍〟はいるのか?」
「ウォロロロ……安心しろ、いるぜ。光月おでんにも負けねぇ〝侍〟がな……」
オレの疑問に親父はニヤリとする――
●
光月おでんが処刑され、完全にワノ国の実権を握る事になった黒炭オロチがまず行ったのは各郷の残る大名に『黒炭に仕えるか戦うか』を問うという事だった。
その問いに対しての4人の大名の出す答えはオロチとカイドウへの仇討ちだった。
しかしカイドウとその軍はあまりに強く、仇討ちは敵わず大名は無念のまま捕えられ、鬼ヶ島内の「天の岩戸」と呼ばれる岩屋に絶食状態で幽閉されてしまった。
その4人の大名とは――
白舞大名の霜月康イエ。
希美大名の風月おむすび。
兎丼大名の雨月天ぷら。
そして鈴後大名の霜月牛マル。
敗北した彼らであったが、その強さは本物。その腕を買われカイドウからの勧誘を受けていたが、顔を縦に振るわなかった。
敗北の無念さと空腹に負けじと耐え続けながら時を過ごしたが、ある日突然「天の岩戸」から連れ込まれて半球状の黒い檻に囲まれた広い空間に出てきた。
「何だここは……?」
「むしろ、何の為に我らをここに……?」
「「…」」
おむすびと天ぷらがその空間に疑問が尽きず、康イエと牛マルが黙り込んでいた。
すると
「おう!よく来たな!」
「!……カイドウ……!」
カイドウを筆頭に数人が姿を現してきた。その姿に康イエが憎々し気に呟く。
「ウォロロロ……お前らをここに連れてきたのは他でもねぇ……」
「「「…」」」
「我が息子スサノオと戦ってもらう為だ!!」
「「「!!?」」」
カイドウからの頼みに康イエ達が驚愕した。その内容に驚愕したのはもちろんだが、何より〝我が息子〟?あの怪物に息子がいたのか⁉
驚愕した康イエ達に刀を持つある少年が近付く――
「!?お主は……」
「初めまして、侍達。オレがカイドウの息子――スサノオだ」
●
オレの自己紹介に侍達がますます驚きの表情を見せた。
……親父に子供がいるのが不思議なのか……?何だかな〜
まるで親父を侮辱されたような気がしてオレは不愉快な気分になった。
「この少年が……⁉」
「――だが、確かにこやつから只者じゃない雰囲気を感じる……!」
「だが、戦うとは……?」
侍達がオレの正体と状況に戸惑いを見せていた。そんな中、1人の黙り込んでいる侍が口を開く。
あの人は……霜月牛マル……といったか?
「仮に我らとこの少年が戦うとして……何の為だ?そして我らに何の利点があるのだ?」
「ウォロロロ……スサノオが本物の〝侍〟って奴と一度でもいいから戦いたいと言ってな、お前らの腕……誇りを見込んで連れさせただけだ」
「もちろんただでとは言わねぇ……スサノオを見事倒したら自由にしてやろうじゃねぇか」
親父がこういう状況になった理由を説明し、侍達にとっての利点も話した。
まぁ利点がなければ本気で戦ってくれないかもしれねぇからな……
とにかく親父の言葉に息を呑む侍達。
「何と……自由になるとな……」
「だが、この少年を倒したら?……我らを舐めているのか」
「――だが本物の〝侍〟と言ったぞ。一応舐めていないかもしれぬぞ」
「ぬぅ……」
ざわついて相談する侍達にニャリとする親父が断言する。
「言っとくが……スサノオはただのガキじゃねぇぞ?舐めてかかると痛い目に合うぞ?」
親父の断言に侍達が眉をひそめる。すると牛マルがまた口を開く。
「カイドウ……その言葉に嘘はなし……だな?」
「ウォロロロ……二言はねぇ!!」
「……よし、受けよう」
「!牛マル殿!それは……」
「ヤス……おめぇの言いたい事は分かる……だが、このまま岩戸で居続ける訳にはいかぬだろう?」
「それは……」
「確かに牛マルの言葉に一理はある」
「どうせ他に道はない。ならばこの戦いに賭けるのもまたあり!」
「……よし、やろう!」
どうやら牛マルの言葉を元に侍達は全員やる気になったようだ。
リュドドド……それでこそ親父に頼む甲斐はあったもんだぜ。
「よし、入ろう」
オレがそう言うと黒い檻の中に入った。侍達も一瞬身を固くするも続いて入ってくる。
そして檻の中の真ん中でオレと侍達は向かい合う。
康イエという侍が口を開く。
「さてスサノオ……といったか、我らの中のどの方から戦い始める?」
「リュドドド……全員でかかっても構わねぇ、いやあんた達を舐めてる訳じゃねぇが」
オレの言葉に今度は天ぷらという侍が口を開く。
「お主は本物の〝侍〟と戦いたいんだろう?〝侍〟は1人を、それも子供を全員で斬りかからない。1体1でやるものだ」
「リュドドド……さすが〝侍〟は違うな。幼い頃のオロチを苦しめたバカ共とは全然違うな」
「っ…」
オレのオロチに関しての言葉に侍達は顔をしかめてしまう。彼らも黒炭オロチの過去には思うところがあるのだ。だが、罪のない民までも苦しめるつもりならば話は別だ。
「……とりあえず拙者からでいいか?」
気まずい空気を変えるかのように風月おむすびという侍が名乗りを上げる。
どうやら侍達に異議はないようだ。オレももちろんない。
「よろしくな」
「……ではいざ!参る!」
●
鋼の音がする。
――侍の刀とオレの刀がぶつかり合っていた。
「……おむすびと対決する時は刀の握り方がなっていないのに、今は文句の付けようがない程になってるとは……末恐ろしいよな」
「リュドドド……オレには鍛錬あるのみだからな!そう言われると光栄……っていうかぁ⁉」
あれから時が進んでて、オレは今4人目――霜月牛マルと対決していた。
オレは先程まで風月おむすび、雨月天ぷら、霜月康イエとの対決をやり終えてきた。彼らとはそれぞれ1時間内に1対1で戦う事になってて、オレが一度でも倒されたら侍達が自由の身になるのを約束できる――が
生憎オレはたっぷり負けず嫌いでタフでな!いくら侍達が強くて〝勝利〟を手にできなくても〝敗北〟になる訳にはいかねぇんだよぉ!――まぁ、侍達の戦いは勝ち目がなくても楽しいな!しかも侍の戦い方がすごく面白くて参考になれたぜ!
オレはチラリと檻に背を任せている3人に視線を向ける。3人はボロボロでありながら、それでも真剣な目つきでオレ達の対決を見守っている。
風月おむすび――
彼は暴風のように荒々しい動きから鎌鼬のように切り刻む〝風月流〟と呼ばれる流派の剣術使いである。しかもその剣は攻撃範囲と攻撃速度により優れており、手数で押していくようになっている。
まだ剣の使い方が全くなっていないオレでは手を出しにくく、彼からの攻撃を身に受けるしかなかった。しかも攻撃を受け続けているうちに彼が疲労している隙を狙って攻撃できただけだ――だが攻撃速度に慣れて、彼の刀がどこからどのように来るかを把握できるようになってからオレの刀で受けきったぜ!
雨月天ぷら――
彼はどんな形にもなれる水のように変幻自在な歩法で如何なる敵にも対応できる柔軟な〝雨月流〟と呼ばれる流派の剣術使いである。
オレが攻撃してもまるで水を相手にしているかのような手応えを感じながらかわされてしまった。しかも彼からの攻撃は激水を相手にしているかのようだった……だが!オレは海賊!海を相手取る戦士!この程度の水を乗り越えなきゃおしまいだ!!彼の攻撃する時を狙ってこっちからも攻撃してみたら届けたぜ!また水の流れにも慣れて、彼の守備の抜け穴を通ったぜ!
霜月康イエ――
彼は敵を翻弄する高速移動を特徴とする〝霜月流〟と呼ばれる流派の剣術使いである。
おむすびの攻撃速度と同じ程度だが、攻撃範囲がすごく広い……だからほとんどの攻撃を刀で受けきっても、僅かの攻撃が届いてしまった……なら!もっと身体を動かせてやる!身体が痛ぇんだが、全ての攻撃を受けきって、僅かながらの攻撃も届けたぜ!!
そして、今オレと戦っている霜月牛マル――
彼は康イエと同じ〝霜月流〟の剣術使いである。ただ彼の剣は康イエと違って荒々しさが特徴の攻守に優れている豪剣といえる。
康イエの時より一撃一撃が重くて、気が飛びそうになったぜ……だが!こんなに強ぇ侍との戦いを終わらせる訳にはいかねぇんだよ!!
「んおら!!」
オレがそう雄叫び、飛びながら牛マルに上方から刀を振り下げた。牛マルもその振り下げを二刀で受けきるも少し膝を地に付かせられかけた。
「ぬぅ!」
牛マルがオレの刀を横に流し、後ろに飛び下がった。牛マルがニャリとオレを見つめる。
「フフ……いやはや戦い始めてから3時間30分……お主が弱るどころか心なしか少しずつ強くなってきているように感じる。さすがは光月おでんを討ち破った〝百獣のカイドウ〟の息子……」
「リュドドド……何せオレはそのカイドウさえを超えて「最強」になる男だからな」
オレの言葉を耳にした牛マルは真顔になり呟く。
何だ?不愉快なのか?
「……「最強」か……それは実に険しい道だな……」
牛マルが呟いた途端に突然吹き出す。
⁉何だ、何かがおかしいのか⁉
「……おかしいな、ワノ国の危機なのに……「最強」という頂点に立つお主の姿を見たくなってきた」
牛マルがそう言いニャリとする。
……それなら――
「それなら、あんた達。仲間に――」
「いや、百獣海賊団に入るのは御免こうむるでござる」
「……そうか、ダメかぁ」
おでんの事もあるから、やはりというか……なら、ここはオレが倒れずに戦いきるまで。
「さて仕切り直そう」
「うむ……スサノオ!」
牛マルがオレの名を叫びながら駆けてきた。そして二刀を振り回してきた。それに対してオレは刀を構え待つ。やがて――その刀で牛マルの振り回している刀を受けきり続けた。数多くの鋼の音がする中、牛マルがオレに声掛ける。
「お主は!ワノ国をどうするつもりだ!」
「……ワノ国を完全に百獣海賊団の国にする!」
「民はどうなるのだ!」
「オロチを苦しめて喜ぶ正義気取りのバカのような奴はいらん!!だが――おでんとあんた達のような骨のある人は受け入れたい!!」
「……ワノ国をどうかにして、その先は⁉」
「……まだ決めていないが……世界をバカが消え去ってあんた達のような猛者が讃えられるように変えてやる!!そんで、その先は!!―――!」
オレの言葉を聞いて牛マルは目を真ん丸にして、後ろに飛び下がる。そして――
「……フフ……フハハハハハ!!」
笑い出した。その事態に呆気に取られたオレもつれて笑い始めた。
「ハハハハハハ!!」
「リュドドドド!!」
やがて笑いを収めた牛マルは
「お主の目標は分かった……だが、拙者にも譲れぬものがあるのだ」
「悪いが、自由の身になってワノ国を救う為に――」
「お主を倒す」
そう言う牛マルは真剣にオレを見つめ、右手を上方に左手を右上方に構える。そして駆け込む。
「行くぞ!〝霜月流奥義〟――」
牛マルからの覚悟を感じ取れたオレも刀を構え持つ。オレは彼に敬意を払い、今までの対決で掴み取ったものを全て刀に込める。
牛マルは構えていた腕を振り下げる――その勢いで振り下げられた二刀から斬撃が飛んでくる。
「〝霜降月〟!!!」
対してオレは稲妻のように走る覇気を纏わせた刀を――振り抜く!!
その刀の振り下げはまるで雷光のように閃いた――
「〝雷光八卦〟!!!」
2つの技が激突し、圧し合う。
「「うぐぐぐぐ……」」
やがて――牛マルの身体が後ろに押し込まれていく。
「!!」
「おらぁ!!」
オレの筋肉が青筋を立て脈動する。そして――
「ウォオオオオオオ!!」
牛マルを吹き飛ばした。彼の構えが解かれなくても空中に飛ばされて――檻にぶつかった。
「ハァハァ……どうだ!!」
「ははは……参ったな、拙者の負けだ」
オレの雄叫びに頷く牛マルは自身の敗北を認めた。
そっか……オレは勝ったんだ!……でも侍も強かったな。
「牛マル」
オレの呼びかけに起き上がってくる牛マルが反応する。
「康イエ、おむすび、天ぷら」
オレの続いての呼びかけに牛マルに近付く3人も反応する。
「オレと戦ってくれてありがとう。おかげで……〝侍〟ってやつを感じ取れた」
「……そうかい」
オレからの感謝に牛マルがニャリとし、3人もつい微笑んでしまう。
おでんだけじゃなかった……ここにも確かに〝侍〟がいたんだ。そしてオレと戦ってくれたんだ。
「また戦ってくれるか?」
「……できればそうしたいが、残念ながらそうはいかない」
オレの問いに牛マルは顔をしかめて否定する。3人も顔をしかめてしまう。
ん……?どういう事だ……?
「ウォロロロ!よくやった!スサノオ!」
「!親父……」
「うぅ……ひっく、お兄さんがすごくすごかった!侍達もすごかった!」
「ヤマト……」
侍との対決を終えたオレの元へ親父とヤマトが歩んで来た。親父はオレの奮闘に満足気で、ヤマトはオレと侍達の勇姿に感動して涙を流していた。親父はオレを撫でてくれた。
「それでこそオレの息子だぞ!スサノオ!」
「あぁ!だけど、侍達も強かったよ!」
「うんうん!侍達もすごくすごくすごかった!」
「ウォロロロ!そうか!そうか!」
オレ達が和気藹々と話し合っている中、侍達は目を合わせる――
「すまんな、拙者とした事が。ワノ国を滅ぼそうとする少年に剣を教えてしまった」
「いえ、気にしないで下さい。牛マル殿の気持ちは理解できますので」
「左様……あの少年は気持ちが良い者だ……不思議な事にな」
「あぁ、絶望の中に希望を見つけられた気分だ」
「……あの少年との戦いが終わった時点で牛マルも皆も覚悟は決まっている筈……拙者もそうな故に」
康イエの言葉に牛マルは頷く。そこに親父が声掛ける。
「ウォロロロ……侍達」
「「「…」」」
「ご苦労だったな。今から休め……明日は我が「息子」ヤマトとやってもらい――「断る」……何だと?」
親父の説明を牛マルの静かな言葉が遮る。それも親父の要求を断るという!侍達からの答えに驚愕する親父、そしてオレ達。
「拙者達は今もう一度お前に挑みそう!!」
「……てめぇら」
「覚悟は決まっている」
そう呟く牛マルは上半身の和服を脱いで二刀を再び手にしている。3人も刀を抜く――親父もそれを受けて金棒を構える。
「……そのようだな……言い残す事は?」
親父からそう言われた牛マルは驚愕しているオレ達に視線を移し――言葉を残す。
「スサノオ。刃こぼれは剣士の恥……覚えとくといい」
牛マルからそう言われたオレは手にしている刀を見てみた。それは侍達との対決ですごく刃こぼれしていた。その瞬間にオレは牛マル達の想いを感じた。どういうつもりなのか分からないが、牛マル達はオレに何かを託して死ぬつもりだと――
「……オレは剣士じゃないが……覚えとくよ」
「ヤマト。お主の兄が剣術の基本を記憶している。剣を学びたければ兄から教えてもらうといい」
「……うん!うん!」
頷くオレ達にニャリとする牛マルは最后に締まる。
「さらばだ、未来の猛者達よ」
そう言い終えた牛マルは康イエ、おむすび、天ぷらと共に親父の元へ駆けていく――
その姿をオレ達は目に焼き付ける。
――この日、スサノオとヤマトの胸に〝侍〟を刻み込んだ数少ない侍達は――散った。そう花びらのように。