ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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☆混沌とした事態に新たな展開が…


第179話〝面目など丸潰れ〟

「ひ、火をつけたら上の森であいつと待ち合わせて残りの金をもらう事になっているからおそらくあそこだ!!」

 

 スサノオ――オレに顔を掴まれている男が必死にそう言い張り、ある方向を指差した。

 その男は海賊をやってる〝人間〟なんだが、〝人間との共存〟を目指すオトヒメ王妃の事を快く思わない魚人によって彼女を暗殺するための捨て駒として利用されていた。

 その事実を知らない男は指示通りに署名を燃やして演説会をメチャクチャにしようとしたが、その暴挙はオトヒメ達と外交を結んだ百獣海賊団配下の〝暴獣のスサノオ〟により阻止された。

 そのままスサノオに捕らえられた男だが、そこにオトヒメに問い詰められた。

 自身の理想を踏みにじろうとする魚人とそれでも対話を望むオトヒメの気概に気圧された男がその魚人の居場所と思わしき場の事をつい漏らしたのだ。

 男がその場をなんとか指し示してみせたのにつれてオトヒメとオレ、人々もその方向に視線を向ける。するとそこに――

 

「「「……!?」」」

 

 2人の魚人が姿を現した。その登場に人々が驚く中でそのうちの1人の姿を目にしたオレは片眉を上げた。

 

「!キサメか」

 

 そう、その魚人は「暴獣海賊団」に所属する魚人キサメであった。

 そしてそんな彼がもう一人を連れていたが、その者は縄で縛り上げられていた。しかも

 

「!?兵士が縛られている!!」

 

 そう、「リュウグウ王国」の兵士である。そんな者を拘束し連れてきたキサメに人々が一斉に鋭い視線を向ける。

 

「という事はあいつが署名を燃やせと指示した奴か!?」

 

「ああ!!兵士を縛っているから絶対にそうだ!!」

 

「なんて事をしてくれてやがる!!」

 

 その光景からキサメこそがオトヒメの理想を砕こうとした魚人なんだと考え、怒りを燃やす人々だが

 

「いやいや!!縛られてる方の魚人がオレに署名を燃やせと依頼をした奴なんだってば!!」

 

「「「!!?」」」

 

 その考えを否定するように男がそう言い放った。その指摘により人々が驚愕せざるを得なくなった。

 

「ええ!!?そっちィ!!?」

 

「え?え……で、でも兵士だよね!!?」

 

 オトヒメの理想を砕こうと企んだのがまさかの「リュウグウ王国」の兵士だったという事実に人々は衝撃を受けた。もちろん兵士達も動揺した。

 

「まさか!?我が軍の者が!?」

 

「そんな事が!?」

 

 「リュウグウ王国」の軍の指揮者達、右大臣と左大臣もその事実に激しく狼狽した。だが、そんな人々の疑念に応えるようにキサメが言い出す。

 

「――いえ!!事実なんです!!」

 

「この者は幼き頃から「魚人街」で人間から差別と迫害を受けてきた歴史を、〝恨みと怒り〟を教え込まれながら生きてきたんです!!」

 

「そんな生い立ち故に〝人間への復讐〟こそが魚人と人魚の正しいあり方なんだと信じてしまったんだ!!人間から直接危害を加えられた事がないのにも関わらずに!!」

 

「だからこそ、〝人間との共存〟という全く正反対の理想を目指すオトヒメ王妃を消そうと企んだのです!!」

 

「「「!!?」」」

 

 キサメが暴露したその兵士――ホーディの正体に人々は今までよりさらに激しき衝撃を受けた。

 

「な!!?そ、そうなのか!!?」

 

「人間から何も受けていないのにそんな事を考えたというのか……」

 

「た、確かにあの者は魚人街出身だが、有能でよく働いてくれたから別に気にしなかったが……そのような恐ろしい本性を隠し持っていたとは……!!」

 

 特にホーディを知る者達はその事実に戦慄した。そして

 

「……!!」

 

 オトヒメは口に手を当てて涙を流した。

 ……彼女は「魚人島」の民が、それも兵士が〝人間との共存〟を快く思わないだけに留まらず今回のような暴挙に出ようとしたという事実にショックを受けたのに間違いはない。

 だが、それよりもっと胸を締め付けられるのが――

 

「……!!(あの方の心がそこまで蝕まれていたなんて……!!)」

 

 そう、オトヒメは感じ取ってしまったのだ。〝恨みと怒り〟に囚われたホーディの心のあり様を。

 

「(魚人と人魚の中に巣くう恨みと怒りを払い除けられなかったせいで……!!)」

 

 そもそも、オトヒメは先人達の残す恨みと怒りによって人々に悪しき影響を及ぼすのを恐れていた。

 だからこそ彼女は〝地上への移住〟と〝人間との共存〟という理想を掲げて恨みと怒りに溢れた歴史から離脱する事で魚人と人魚達の未来を守ろうとしてみせたのだ。

 だが、その努力が追いつかず犠牲者が出てしまったという事実を前にオトヒメは打ちのめされた。

 

「(ごめんなさい……!!)」

 

 オトヒメは事もあろうに自分の理想を砕こうとしたホーディのために涙を流して謝意を抱いた。何せ、彼女にとってはホーディもまた「魚人島」の暗い歴史の犠牲者なのだから。

 ホーディに対する申し訳ない気持ちでオトヒメは俯く。だが、しばらくするとオトヒメは顔を上げて引き締める。

 

「(――でも!!だからこそ、もうこれ以上拡大するのを阻止しなければならない……!!)」

 

 今生じてしまった事態をさらに悪化させてはならないと改めて決意したオトヒメはすぐ居住まいを正し、周りに向けて声を張り上げようとする。

 

 ――だが、そんなオトヒメの元に近付く者達がいた。

 

「――まだだ……!!」

 

「あの女を殺せば……!!」

 

「〝人間との共存〟の理想が砕かれ!!」

 

「〝人間への復讐〟こそがオレ達の正しい道だと証明してやる!!」

 

 その者達はホーディの同志達、魚人至上主義集団である。彼らはホーディによって演説会をメチャクチャにされてオトヒメが暗殺されるのを見届けるために聴衆の中に紛れ込んでいたのだ。

 だが、署名を燃やされるのもオトヒメが暗殺されるのを阻止され、しかもそれだけに留まらずにホーディが捕獲されてしまった。

 計画が失敗した上に同志にしてリーダーが囚われて全ての企みが露呈してしまったんだ。そんな事態を受けて彼らはもちろん狼狽した。

 

 動揺のあまりに辛うじて残された冷静さが失われ……ついに暴走してしまった。

 

 彼らは今オトヒメを殺せばまだ巻き返しがつけると思い込み、即座に決行しようとした。

 ……普通に考えれば、〝魚人〟である彼らが「リュウグウ王国」の王妃を殺害すれば〝人間への復讐〟が正しいと証明されるどころか、それ以前の話になるのだが……

 だが、そのぐらいの事さえをも考えつけない程に彼らは暴走を極まったのだ。そんな者達がオトヒメの元に近寄りながらその魔手を伸ばそうとしていた。

 

 ――その時だった。

 突然オトヒメの前に何者が現れ、その魔手を弾いたのは。

 

「「「!?」」」

 

 オトヒメに危害を加えようとしていた魚人至上主義集団もその事に驚愕しながら弾かれた勢いで吹っ飛ばされていった。

 

「!?な、何!?」

 

「「「!?」」」

 

 オトヒメとその場にいる人々は突然の事に動揺した。

 

「あァ!?何だ!?」

 

 地に倒された魚人至上主義集団はそれでもくじける事はなく自分達の襲撃を邪魔した者を睨みつけると

 

「「「!?」」」

 

 驚愕する。何せ、その者は大男だった。それもあのスサノオ以上に大柄だ。そんな巨体を前に彼らも目を大きく見開いて口を開けざるを得なかった。

 彼らだけではない。その場にいる人々もその男の存在に驚愕した。ただそんな中でオトヒメはその大男に目を見開き、そしてその騒ぎを聞きつけて視線を向けたオレは片眉を上げる。

 

「ジャック……」

 

「ジャック君!?」

 

 その大男――ジャックが魚人至上主義集団を威圧しながら見下ろす。

 

「……てめェらが何者なのか知らねェが……」

 

「オトヒメ王妃に手を出すならば、叩き潰すのみだ……!!」

 

 ジャックは魚人至上主義集団――否、周りに向けてはっきりとそう宣言した。

 ……「四皇」〝百獣のカイドウ〟率いる「百獣海賊団」は悪名高い。それ故に様々な国もその海賊団とは関わりを持とうと決して考えなかった。

 そのような状況下で「リュウグウ王国」は恩があるといえ、「百獣海賊団」と外交を平然と結んでくれた。そのおかげで少なくはない利益を得られた。

 だからこそ重要であるそのつながりを守るためにスサノオは今回の事が起こる際にジャックにオトヒメの警護を任せた。

 そうして敬愛する男から受けた指令を果たさんがためにジャックはオトヒメの危機を救おうとその場に駆けつけたのだ。そんなジャックの〝覇気〟溢れる姿に魚人至上主義集団は圧倒されるが。

 

「…〜!!ざけんな!!」

 

「そうだ!!オレ達は選ばれし者!!人間どもへの復讐を果たす者なんだ!!」

 

「それをたかがデカブツに邪魔されてたまるか!!」

 

「てめェにオレ達の恐ろしさを教えてやる!!」

 

「……!!」

 

 同時に抱いた屈辱感により増した暴走の勢いのままに彼らが立ち上がり、ジャックに対しておぞましい殺気を放った。

 いよいよもって狂気に支配されたその姿にオトヒメは驚愕し、そして悲痛な表情を浮かべる。一方でジャックは――冷めた目を向けていた。

 

「……フン、知るか」

 

「!!」

 

「「「あァ!?」」」

 

 そんなジャックの態度にオトヒメが面食らい、魚人至上主義集団は自分達の信念をくだらないと言い放たれたように感じた故に殺意が募った。だが、それをジャックは全く気にせずに口を開く。

 

「オレはスサノオさんの命令でオトヒメ王妃を守るだけだ」

 

「!!……ジャック君」

 

 ジャックはそう宣しながら両ショーテルを手にし、彼らに向けて身構える。その宣言、姿勢を受けてオトヒメは複雑な表情を浮かべる。

 

「……上等だ……!!」

 

 だが、彼らの方も負けじとそれぞれ武器を手にして体勢を整える。その場に重苦しい雰囲気が漂う。だが、その最中に

 

「――少し待ってもらおうか……!!」

 

「「「!!」」」

 

 その声がその場に響いた。驚く人々の前にその者が姿を現す。

 

「その喧騒、わしも混ぜてもらうか……!」

 

「!お前は確か……」

 

 その者――ジンベエザメの魚人が堂々とそう宣言するが、その姿にジャックは目を微かに見開いた。何せ、その男は大物だからだ。

 

「「七武海」〝海峡のジンベエ〟か……!!」

 

「いかにも」

 

「ジンベエ!!」

 

 ジャックがそう言うのをその魚人――ジンベエが肯定する。彼の登場にオトヒメは驚愕する。

 

〝海峡のジンベエ〟――

 

「王下七武海」の一人である大海賊だ

そして、かつてフィッシャー・タイガーが率いた「タイヨウの海賊団」の2代目船長を務めている

彼は海賊であるといえ、「魚人島」と今もつながりを持っている。だから「魚人島」、魚人と人魚に危害を加える者には容赦しない

 

 そんなジンベエが今オトヒメを背に守るようにジャックの隣に並び、魚人至上主義集団と対峙する。

 

「オトヒメ王妃、ご無事ですか?」

 

「え、ええ。ジャック君が助けてくれたから」

 

 ジンベエが目前の者達に鋭い視線を向けて身構えながら後ろのオトヒメに対して気遣いの言葉をかける。それに応えてオトヒメがそう回答する。

 その答えを受けて微かに安堵感を覚えるジンベエの姿を凝視するジャックが口を開く。

 

「……わざわざお前が来なくても」

 

 そう言いながらジャックは魚人至上主義集団に視線を移す。

 

「このザコどもなど、オレだけで十分だ」

 

「だから引っ込んでろ」

 

「!」

 

 なんと、ジャックは事もあろうに「七武海」であるジンベエに対してはっきりとそう言い放った。そのあまりにも不遜で、しかし毅然とした態度にジンベエも微かに片眉を上げた。

 だが、ジャックには当然の事だった。何せ、彼にとってはたとえジンベエが「七武海」に数えられる程の猛者だとしても所詮「世界政府」の飼い犬だ。

 「四皇」の息子にしていずれ最強の「海賊王」になる男の懐刀であるジャックが「七武海」ごときを恐れる筋合いはどこにもないのだ。

 そんな意思を込めてのジャックの姿勢にジンベエは鋭い視線を向ける――が、やがて苦笑を浮かべる。

 

「……ここまで生意気な若造がいるとはな」

 

 不遜で毅然とした態度を取るジャックに対してジンベエはそう言うしかなかった。

 別にジンベエはそのような態度を取る海賊と対峙する機会が少なくはなかった。ましてや「七武海」になって名をさらに上げた今ではかえってだ。

 だか、この男は今までの自身の強さを過信する者達と違ってジンベエの実力をしっかり読み取れている。その上で強硬な言動をしてきた。こういう者はバカというよりむしろ、やっかいであろう。

 それ故にジンベエは苦笑を浮かべながらジャック……否、「暴獣海賊団」に対しての警戒心を強めた。

 

「――じゃが」

 

 といえ、今はそんな場合ではない。すぐ気を引き締めるジンベエは目前の魚人至上主義集団に集中する。

 

「このわしも「魚人島」の者」

 

「だからこそこのような事態はわし達が対処せねばならなかった筈だった……!!」

 

「なのに、その対処はおろかわし達が守られなかったオトヒメ王妃達をそなた達が守ってくれた」

 

「もはやわし達の面目など丸潰れじゃ……!!」

 

 そう、今生じてしまった事態に「暴獣海賊団」が対応してくれたが、そもそも本来は自身達「魚人島」の者が対処すべきところだったんだ。

 助け舟を出してもらった今の状況からジンベエは「暴獣海賊団」に一応感謝を覚えながら自分の不甲斐なさに腹が立たずにはいられなかった。だが、だからこそ

 

「せめてこやつらを止めるぐらいはやらせてもらう!!」

 

「ジンベエ……!!」

 

 その決意を固く固めたジンベエがそう宣し、毅然と身構える。その強き意思を込める姿勢にオトヒメは複雑な表情を浮かべ、そしてジャックはしばらく凝視するが

 

「……勝手にしろ」

 

「おお、そうさせてもらうわい」

 

 やがて魚人至上主義集団に視線を移しながらジャックがそう言い捨てる。その態度を受けてジンベエは笑みを浮かべる。そうしてジャックとジンベエは魚人至上主義集団と対峙する。

 

「ジャック……」

 

「ジンベエ!!」

 

 そんな2人の姿にオレとオトヒメがつい声をかけるが、その声を受けてジャックとジンベエが揃って応える。

 

「スサノオさん、この場はオレにお任せを……!!」

 

「オトヒメ王妃、お下がりを!!」

 

 ジャックはオレに向けてそう言い張り、ジンベエはオトヒメの安全のために彼女にそう促した。

 だが、そんな2人の態度が癪に障ったかさっきから少しずつイラ立ちが募っていた魚人至上主義集団がついに怒りを爆殺させた。

 

「――ナメるなァ!!?」

 

「てめェらごときにオレ達を止められると思うなァ!!」

 

 怒りのままにそう怒鳴りつけた彼らが目の前に堂々と立つジャックとジンベエを完膚なきまでに叩きのめすために素早く駆け寄っていく。

 そして鬼気迫る勢いでそれぞれの武器で攻撃を放とうとする。

 

「「「オオオオ!!!」」」

 

 だが、猛烈な勢いで攻撃が迫ってくるのに対してジャックとジンベエはしかし怯まず、何の事はなく技を放った。

 

「〝象猛牙〟!!!」

 

「〝唐草瓦正拳〟!!!」

 

「「「!!?」」」

 

 ジャックの両ショーテルでの猛烈な振り回しとジンベエの強烈な正拳突きが攻撃ごと魚人至上主義集団を打ち破った。

 

「ば、バカなァァァ……!!」

 

「お、オレ達の復讐がこんなところでェェェ……!!」

 

「「「うわああああ!!!」」」

 

 魚人至上主義集団は今身に起こった事態を受け入れられず、それでもあっけなく倒された。そんな彼らをジャックとジンベエが毅然と見下ろす。

 

「オレ達を敵に回した時点でてめェらの企みが打ち砕かれる事は決まってんだよ……!!」

 

「……貴様らの企みを現実にさせる訳にはいかんからな」

 

 ジャックが堂々とそう言い放ち、ジンベエは真剣な面持ちでそう言う。




☆阻止された暴走!!
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