ドレスローザ――
そこは〝
この国はかつてリク王家が治めた頃は決して裕福な国ではなかったが、善政を敷いたために平和だった
しかも、過去800年間一度も戦争をしていないなど国家として奇跡といえる状態を築き上げた事から〝平和の象徴〟とも呼ばれていた
しかし、民の事を第一に考え戦争に巻き込まれないように全力を尽くしてきた事から民から慕われた〝奇跡の王〟の異名で呼ばれた名君であった筈のリク・ドルド3世が突然狂乱した
なんと、王が金品を強奪して国民を襲いかかったのだ
王に裏切られ苦痛を強いられた民が絶望した時に「王下七武海」ドンキホーテ・ドフラミンゴが現れた
王を倒して混乱に見舞われた国を救ったドフラミンゴが〝救国の英雄〟として讃えられ、そのまま「ドレスローザ」の王位に就いた
そうして海賊が国王を務める異色の国と化した
そんな国にある集団が足を踏み入れた。
「……ここが「七武海」が治める国、「ドレスローザ」か」
その集団の筆頭に立つ男――スサノオが自ら上陸した「ドレスローザ」を眺める。
そう、その集団は「暴獣海賊団」であった。なぜその海賊団が「ドレスローザ」にやってきたかというと
「親父から頼まれた仕事だが、これなら飽きる事はなさそうだ……!」
スサノオの父カイドウから任された仕事を果たすためであった。
実はドフラミンゴは「四皇」〝百獣のカイドウ〟と契約を結んでいる。そのおかげで「百獣海賊団」が行っていた闇取引が今までより最適化し、更なる利益を得られるようになった。
ただ、ドフラミンゴは「七武海」になった直後に「ドレスローザ」を手にしたばかりなために彼が密かに作る闇取引の基盤、闇マーケットがまだ完成してはいなかった。
それに加えて先代王の暴走で甚大な被害を被った「ドレスローザ」の立て直しに力を注ぐ必要もあった。
その実情ゆえに最適化したといっても闇取引はまだ不十分な状態だといえた。
だが、それがようやく闇マーケットの状態が完全に整えられた。それによって闇取引などがいよいよ本格稼働できるようになった。
その事を受けてカイドウは改めて今後の詳細を詰め直すために息子に「ドレスローザ」での会談と視察を命じた。
そうしてスサノオ――オレ達「暴獣海賊団」が「ドレスローザ」を訪れた。ちなみに「七武海」が実は「四皇」との関わりを持っていたという事実が露見しないようにオレ達は変装している。
「「七武海」、それもあのドフラミンゴが治めるというのだから、どんな風になっているかと思えば……」
そんな中でオレはまず今の「ドレスローザ」の状態を把握するために目前の光景を注視してみる。
そして
「今のところ問題がみられない程に平和のようだな」
オレがそう呟いた通りに「ドレスローザ」の人々は悠々自適に暮らしていた。
先代王の暴走によって損害された街は完全に修復されていて、その中を歩く人々が笑みを浮かべていて和気藹々としていた。
「狂乱した王によって甚大な被害を受けたと聞いたが、すっかり立て直したようだな」
それだけで海賊ドフラミンゴの支配下の「ドレスローザ」が平和であるのが分かる。
……だが、それだけではない。そこにはさらに奇妙なものも紛れ込んでいた。それこそが――
「……おもちゃが動いている……」
オレのそばのヤマトが少し唖然としながらもそう呟いた通り、そこにはなぜか多くのおもちゃが普通の人間のように意思を持って人間と何の違和感もなく一緒に生活していた。
その光景にオレ達もさすがに少々面食らった。
それから案内役がやってきたためにその者の案内に従ってオレ達はドフラミンゴの元に向かって街を歩いていく。
「ここを治めて一年なのにこんな風に活気づいているんだから、大したもんだ」
「ええ、ドフラミンゴとやらは十分な統治能力を備えているようですね……!」
目にする「ドレスローザ」の盛況に対してオレは率直にその評価を下す。そばでお供している小紫もその内容に賛同する。
いくら狂乱した王から国を救ったという功績があるといっても、国の統治は別だ。世界中の国々はほぼ圧政を敷いているというのが実情なのにここの場合は海賊が治めるんだ。
しかも、耳にするドフラミンゴの評判から圧政を敷くかもしれないと考えてた。
なのに、「ドレスローザ」の民は何不自由なく暮らせている。その事実に驚きをみせるオレ達に案内係は笑みを浮かべる。
「ええ!これはドレスローザ国王ドフラミンゴ様の腕前があってこそです!!」
「民が富めて笑っていれば国がますます栄えるようになるのがドフラミンゴ様の考えなんです!だからこそ民が幸せに暮らすように統治しているんです!ヘヘッ」
ドフラミンゴが「ドレスローザ」を上手く統治している事に関して案内役が誇らしく語る。その内容にオレ達は一旦感心する――
「なるほどな……」
そう言うオレの視線は多くのおもちゃに向ける。人間とごく自然に和気藹々とするおもちゃの姿にオレは目を細める。
「……本当におもちゃがまるで生きているように動いて人間と何事もなく共存しているな」
「そうだね!本当に不思議……もしかして、あのおもちゃ達は〝悪魔の実〟の能力とかで生まれたの?」
オレが重々しくそう言うとヤマトが賛同しながら不思議がり、そこでふと案内役にそう問いかけてみた。
世に起こる不思議な事は決まって〝悪魔の実〟にほぼ関係するという。その道理もあってヤマトはおもちゃの事に対してそう考えたのだ。
だが――
「!!!」
ヤマトがそう言った瞬間だった。案内役が一瞬だがビクッとしたのは。
だが、素早く元の態度に戻った彼が何事もなかったように笑みを浮かべる。
「……さァ?それは極秘なので」
毅然とそう言い放った案内役はそれっきり口を閉じる。その振る舞いがかえってオレ達の気を引いた。
だが、オレ達が不審に思うその時だった。近くのあたりに騒ぎが起こったのは。
「「「!?」」」
オレ達が視線を向けるとそこはある女性と女の子が一個のおもちゃにすがりつかれるという状況だった。
「た、何なの!?」
「うわああああん!!」
しかも、ただならない事態のようだ。何せ――
「デイビス!!!モリー!!!オレだよ!!!アンディだ!!!」
カウボーイの人形が何か必死の様子でデイビスらしき女性とモリーらしき女の子にすかりついていた。そんなおもちゃの勢いに2人は恐怖を感じたらしく震えていた。
「あ、アンディって誰なのよ!!?知らないわよ!!!」
「うわあああああん!!!怖いよォ!!!」
「そ、そんな!!!オレはお前の夫でモリーの父親なんだ!!!思い出してくれ!!!」
「「「……!!?」」」
2人からの強き拒絶にカウボーイの人形は絶望したような反応を取り、そして不可解な事――まるで自分が人間であるような事を必死に訴える。
そんな事態、特にカウボーイの人形の訴えかけの内容にオレ達が訝しく思う一方でそのあたりの人々がざわめく。
「〝人間病〟だ……!」
「ああ、見たところ新品っぽさそうなのに」
「!〝人間病〟?」
騒ぎ立てるカウボーイの人形を見た人々がそう会話したが、その中から気がかりな言葉を耳にした小紫が訝しげにする。その反応に気付いた人々が親切にも説明してくれた。
「ああ、見て分かると思うが〝人間病〟ってのはおもちゃが壊れて自分が人間だと言い出す病なんだ」
「どう見ても人間じゃなくおもちゃだろ?なのに自分の事を人間だと本気で思い込んでいるんだ。もうどうしようもない」
「残念ながら治す術はないんだ。だから〝人間病〟にかかってしまったおもちゃの行く末は決まってる」
そう語られた途端にどこからやってきた2人の警官がカウボーイの人形を捕獲する。
「何だ!!?離せ!!!デイビス――!!!モリ――!!!」
「この!!おとなしくしろ!!」
「ぐ!これ程に重い〝人間病〟にかかるなんて……もうダメだな」
突然の捕獲を受けてカウボーイの人形が激しく暴れるが、それを2人の警官が取り押さえる。
カウボーイの人形が全力で抵抗するが、それでも所詮おもちゃだ。人間の力には敵わない。そうしてカウボーイの人形が無理矢理連れて行かれそうになる。
「た、助けてくれ!!!オレはおもちゃじゃなく人間なんだ!!!本当だ!!!」
そんな状況に身を置かれたカウボーイの人形は必死の思いで助けを求めるが、人々と他のおもちゃから哀れみの目つきで見られるものの手を差し伸べられる事はなかった。
そして人形がすがりついた女性と女の子はもうこれ以上巻き込まれないためか、その場を急いで離れていった。
「!!!で、デイビス……!!モリー……!!」
そんな2人にカウボーイの人形が必死に叫びながら手を伸ばすが、それが届く事はなくその姿が遠ざかっていく。カウボーイの人形の無機質な筈の顔に心なしか絶望の感情が浮かんだように感じられた。
「お、オレは……」
2人が自身を拒絶して去られていったのが堪えたらしくカウボーイの人形が必死に伸ばしていた手を力なく落として静かになる。
だが、それに構わずに2人の警官がカウボーイの人形を連行し、そしてある建物に辿り着いた。
「「――よいしょ」」
その建物の扉の中に2人の警官はカウボーイの人形を投げ捨てた。まるでゴミのように……
その中には底がなくて奈落になっていた。そこにカウボーイの人形が落とされた。
「……」
やはり顔が絶望感に覆われたカウボーイの人形が何の反応もみせずにそのまま落ちていった。
1個のおもちゃがそのような運命に陥ったのにも関わらずに建物の扉がバタンと閉じられ、その場の人々が何も起きなかったかのように平然と歩き始める。
「「「……」」」
そんな光景を前にするオレ達は眉をひそめた。すると案内役が話を切り替えるかのようにオレ達に話しかける。
「いやァ、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね!!」
「おもちゃに関しての事は極秘なんですが、こういう事はたまにあるんです!!」
「できれば、気にしないでいただけばありがたいんですが……」
オレ達を前に案内役は大げさにそう言い張ってみせた。おそらくオレ達の意識をさっきの出来事を含むおもちゃに関する事からそらすためだろう。
ドフラミンゴへの畏怖があっても妙に度胸がある案内役をオレ達はじっと凝視する。
「「「……」」」
「は、はは……」
オレ達の視線を一身に浴びた案内役は冷や汗を流すが――
「……まァいい」
重くなってきた空気を破るようにオレが言い出す。
「そもそも、オレ達はドフラミンゴと会談をしに来たんだ」
「その仕事を終わらせるまでは他の事に気を取られる訳にはいかねェ……!」
オレが「ドレスローザ」を訪れた目的を口にするとその場にいる人々はハッとし、そして自らの使命に集中するようにすぐ気を引き締める。その様子を目視したオレは案内役に話しかける。
「さっさと案内しろ」
「え、あ、はい!!」
オレに威圧的にそう促された案内役は慄き、慌てながら案内を再開する。それに従って歩き始めるオレ達だが。
「……どう思う?」
「「「……」」」
オレは密かに皆に対してその問いを投げかけてみた。突然その問いかけを受けた皆もしかし驚きもせずに真剣な表情を浮かべていた。そしてその中から小紫が言い出す。
「……そうですね。私は」
「この平和が汚き嘘で塗り固められたように感じるので不愉快ですね……!」
今の「ドレスローザ」のあり様に対して小紫は抱いた嫌悪感を率直に口にした。だが、その考えに皆も同感らしく異議を唱えなかった。しまいには
「だ〜…」
小紫が抱っこしているアマノムもご機嫌斜めになっていた。我が子のそんな姿によって険しい表情を浮かべていた小紫もすぐ優しい微笑みを向ける。
「あら、アマノム。あなたも嫌な気分なのね」
「だ」
母の言葉にアマノムは真面目な顔つきで手を上げる事で応えた。
ちなみにアマノムが機嫌を激しく損ねたら強き〝圧〟を放ってしまう傾向は両親達の万全を期した指導によって余程の事が起こらない限り〝圧〟を放さないようになっている。
とにかくそんなアマノムの可愛らしい反応に小紫、そしてオレも微笑みを浮かべる。だが、すぐ真剣な表情になったオレが重々しく言う。
「全くもって同感だ。ここはどうにも気に食わん」
同じ思いを抱いたオレがその事を率直に口にする。その事に皆が重々しく頷くとオレが続ける。
「だが、ドフラミンゴの奴は「百獣海賊団」と契約を結んでいる」
「それによって利益を確かに得られている」
「だから、その重要なつながりを潰すようなマネをする訳にはいかねェ」
「……それはそうですね」
オレが語るその事に小紫――否、皆も異議を唱えなかった。
そもそも、オレ達は海賊だ。聖者じゃねェ。
もしもドフラミンゴと契約を結んでいなかったら、首を突っ込んだかもしれない。
だが、つながりを持った今ではイタズラに動くつもりはない。
……たとえ、ドフラミンゴがオレにとっては気に入らないやり方でやっていたとしてもだ。
「……少し気がそれてしまったな。今は仕事を果たす事に集中しよう」
「「「はい!」」」
少々おかしくなった雰囲気を切り替える、そして自身の気を引き締めるためにもオレがそう言い放つと皆も応える。
そのままオレ達はドフラミンゴの元に向かって歩いていく。異様な街の中を……
「フッフッフ!!よく来てくれた!!歓迎するぜ……!!「暴獣海賊団」」
オレ達は「ドレスローザ」の中心となる高台の王宮に辿り着いたが、そんなオレ達をドフラミンゴが随分と仰々しい態度で歓迎して迎え入れた。
その姿にオレは目を細める。
「(こいつが――ドフラミンゴか)」
曲者揃いの「七武海」でも異色の海賊を前にするオレはその異質さが気になった故に目前の男を見極めるかのように凝視する。
そんなオレの視線に気付いたか気付かずかドフラミンゴは不敵な笑みを浮かべる。
「フッフッフ、長旅お疲れだったかな?」
「いや、別に海の旅を苦に思う事はなかったからな」
一応重要な客だからか、不遜ながら労いの言葉をかけるドフラミンゴに対してオレは平然とそう返す。
その淡白な態度を受けてドフラミンゴはしかし笑みを深める。
「フッフッフ、なるほど……!それで!?オレの国、「ドレスローザ」はどうだったかな!?楽しめたんだろうか!?」
ドフラミンゴが腕を広げ、意気揚々とその問いを投げかけた。彼にとっては自らの手で今のような「ドレスローザ」を作り上げたという事に誇らしさを感じているらしい。
だが――
「……ああ、楽しめたぞ」
その問いに対してオレは笑みを浮かべる。ただし、その笑みは皮肉なものになっていた。
「ここからお前と同じうさん臭さを感じさせられてな……ま、だからこそクセになったがな」
「「「!!」」」
オレが堂々と皮肉を言うとドフラミンゴは顔を強張らせ、彼の後ろに控える部下達も控えめながら憤慨する――が
「ア?」
「「「!!?」」」
それに対してオレは少し圧を放った。
オレは軽いものを放ったつもりだったが、どうやらドフラミンゴ達には刺激が強かったらしくドフラミンゴは何やらトラウマを思い出したかのように顔を青ざめさせ、部下達も慄いた。
いずれにせよ、その場はすっかり緊張感に包まれた。だがオレは構わずに続ける。
「――まァ、今は契約内容の改定だ。さっさと話を始めるぞ」
「「「!!?」」」
なんと、何事もなかったようにオレがあっけらかんとそう言い放った。その事を受けてドフラミンゴ達は呆気に取られた。
強き圧を放ったのにも関わらずに平然と会談を始めようとするオレの姿勢にドフラミンゴ達は様々な感情が入り混ざって、かえって頭が真っ白にならざるを得なかった。
しばらく固まったドフラミンゴ達だが
「ふ、フッフッフ!!そうだな、まずは会談を進めよう……!!」
辛うじて気を取り直したドフラミンゴがそう言う。それを受けて彼の部下達が我に帰り、その場を整えるために慌てながら動き出す。
そんな様子を目にするオレは言う。
「グダグダだな。お前ら」
「……!!ふ、フッフッフ!!悪かったよ……!!」
オレが思った事をそのまま口にしたが、その内容にドフラミンゴは額に青筋を走らせた――が、なんとか普段通りの振る舞いをしながら会談の席に座する。
そうして「百獣海賊団」とドフラミンゴの契約内容の改定に関しての会談が始まった。
「……(こいつ……!!オレを見下しやがって……!!)」
「……(何だ。思ったより大したものじゃなさそうだな)」
ただ、その内では様々なものが渦巻いていた……
☆波乱の対面!!