その店は騒然としていた。
チンピラが目当ての宝飾品の金額に関して言いがかりをつける事態が生じたからだ。
しかも、そのチンピラが国を救った英雄ドフラミンゴの部下だったという事実が事態をややこしくしていた。
「ハハハ!!いいのかァ!?このオレに金額をでっち上げてよォ!!」
「ヒィィィ!!そ、それはァ!!」
チンピラが自らの立場を利用して店員を脅す事で本来なら高額な筈の宝飾品を安く買おうとするという卑劣な行為を行った。そんな事態を前に店員は顔を真っ青にせざるを得なかった。
店員にとってはただ商売をやってるだけなのに理不尽な言いがかりをつけられてしまったのだから。それだけでも面倒なのに、よりにもよって相手があの「ドフラミンゴファミリー」の者だ。
英雄の部下に文句を言おうとしたら「ドレスローザ」で生きていけなくなっちまうのだろう。
だからこそ悔しいが、ここは理不尽でも要求を飲むしかない。
「(ドフラミンゴ様は立派なお方なのに、こいつは……!!所詮海賊か……!!)」
胸の内では激しく悔しがる店員だが、チンピラの前でなんとか愛想の良い笑顔を作ってみせて
「わ、分かりました……あなたがおっしゃった金額で売りましょう……!」
「!へへ……」
理不尽な脅迫に屈してしまった店員の宣言にチンピラは下卑た笑みを浮かべ――
「――ちょっと待ちたまえ」
「「「!?」」」
その瞬間に凛々しい声がその場に響いた。それにその場にいる人々が目を見開くところにその男が現れた。
「その不条理な要求に従う必要はない……!」
その男――テゾーロが不敵な笑みを浮かべてて、しかし鋭い眼差しでそう言い放つ。
そんなテゾーロの登場とハッキリ言い放たれたその言葉によってその場はさらに騒がしくなった。
「(な、何をやってんだ!?あいつはァ!?)」
「(知らないのか!?あの男はクズといえ、「ドフラミンゴファミリー」の者だぞ!!逆らうとまずいんだぞ!?)」
その乱暴な振る舞いに抵抗感を抱いてもドフラミンゴの部下である故に逆らう事ができない筈のチンピラに対してテゾーロが堂々と文句を言おうとしているんだ。
「ドレスローザ」では考えられないような事態に民達は戦慄した。
そしてそれを証明するように
「……あァ?」
気に入った宝飾品を安く手にできかけたところを邪魔されたチンピラはもちろん立腹してテゾーロを睨みつける。
「何だァ?てめェは?邪魔すんじゃねェよ……!!」
殺気立ったチンピラが勢いのままにテゾーロに脅しをかける。だが、そんな脅迫を受けてテゾーロはしかし怯む事はなく平然と口を開く。
「いやいや、私は商人として目の前で不当な取引が行われようとするのを見過ごす訳にはいかないんでね」
「「「!?」」」
テゾーロが朗らかな笑みを浮かべながら堂々とそう言い放ったのに人々は唖然とする。だが、そんなテゾーロに人々は恐怖を覚えるより畏敬の念を抱くようになる。
それもその筈。誰もが歯向かえないチンピラに対してテゾーロが堂々と立ち向かってるんだ。感服せずにはいられなかったのだ。
だが、チンピラの方はさらに怒り狂った。
「あァ!?不当な取引だとォ!?どこがだ!!」
チンピラが怒りのままにそう怒鳴りつける。それに人々がビクッとするが、テゾーロは相も変わらずに平然とする。
「私は商人として今まで様々な物品を手がけてきた故にこの目は確かですよ」
「だから、その商品の表示される金額に間違いはないと私が保証しよう」
「それを脅しをかけて不相応な金額で買おうとするのならば」
「それはもはや不当だ」
「「「!!」」」
そして、さっきのように申し上げた意図を解説する。そんなテゾーロの姿勢、解説に人々はもちろんチンピラもつい気圧されてしまった。
「…〜うるせェ!!」
だが負けじと気を取り直してみせたチンピラがそう叫び、そして血走らせる目でテゾーロを睨みつける。
「てめェが誰か知らねェがな」
「オレはここ「ドレスローザ」を支配する「ドフラミンゴファミリー」の者だぞ!!」
「このオレがそうだと言うんならそう決まってんだよォ!!」
チンピラが意気がってそう言い放った。だが、その瞬間にテゾーロがそんなチンピラをビシッと指さす。
「そこだよ」
「!?」
突然真剣な表情のテゾーロに指さされて重々しくそう言い放たれたチンピラはビクッとするが、それに構わずにテゾーロが続ける。
「君は「ドフラミンゴファミリー」の者、すなわちドフラミンゴの部下だろう?」
「ならばドフラミンゴに不利益が及ぶのを君は部下として好ましく思わない筈だ」
「!!?」
テゾーロがそう言うのにチンピラは驚愕するが、すぐ顔を怒りに歪める。
「当たり前だろ!!このオレは若様に忠誠を誓ってんだ!!若様の不利益になる事は全て潰してやる!!」
怒り狂いながらドフラミンゴへの忠誠心を率直に口にするチンピラだが、そんな彼の姿勢にテゾーロは目を細める。
「……なら、今の状況はかなりまずいのではないかな?」
「!!?」
テゾーロがそう言いながら周りを見渡すのを受けてチンピラはハッと周りを勢いよく見渡す。
周りの人々がチンピラに白い目を向けていた。その視線にチンピラもさすがに後退りするところでテゾーロが言う。
「ドフラミンゴは「ドレスローザ」を救った英雄なんだろう?」
「なのに、その部下がこうも乱暴であればドフラミンゴの品格が疑われる事になる」
「すなわち、ドフラミンゴの顔に泥を塗る事になると思うがね……!」
「ッ……!!!」
テゾーロが口にするその指摘と人々からの視線により自身のしでかした事の意味を知らさせられたチンピラは顔を大きく歪める。
「〜〜黙れ黙れェ!!!」
だが、自身の負い目を認められないチンピラが喚き出す。そんな姿勢にテゾーロは冷めた目を向けるが、それに構わずにチンピラが勢いのままに続ける。
「てめェごときがオレに逆らうな!!!この――」
チンピラがテゾーロに対して罵声を浴びせようとするその瞬間だった。
「――やめろォォォ!!!バカ野郎!!!」
「「「!!」」」
その声がその場に大きく響いたのは。
それに驚愕した人々が素早く視線を向けるとそこにはチンピラと似たような服装をする男が息を弾ませながら立っていた。その男が顔を青ざめながらチンピラの元に勢いよく駆け寄る。
「何やってんだァ!!てめェはァ!!」
そしてチンピラの胸ぐらを掴み、そう怒鳴りつけた。
そんな風に切迫する男の姿勢にあれだけ怒り狂っていたチンピラも呆気に取られる。
「な、何ってオレをナメやがったこいつを「黙れ!!」――!?」
突然の事で戸惑うチンピラが辛うじてそう言いかけるが、それを男が強引に黙らせる。それによってますます混乱するチンピラの姿に男は怒りを覚え
「ったく!!耳を貸せ!!」
その耳元に口を寄せて何かを言う。そして混乱を極めたチンピラの顔が少しずつ青ざめていく。
「……へ?それマジ?」
「マジだ!!」
やがて顔が真っ青になったチンピラがかすれた声でそう言うと男が顔に青筋をたくさん走らせながらそう怒鳴りつけた。それを受けて固まったチンピラが恐る恐るテゾーロに視線を向ける。
テゾーロの方はそんな2人の様子から実情を察し、片眉を上げてみせた。そんなテゾーロの姿に2人は冷や汗を流して白目になり
「「――すみませんでしたァ!!!」」
テゾーロに向けて頭を勢いよく下げた。
「ドフラミンゴファミリー」の者達が商人らしき男に頭を深く下げたという事態に人々は目を剥いた。だが、それに構わずに2人は続ける。
「あなた様にご無礼を働き、まことに申し訳ございませんでしたァ!!」
「申し訳ありません!!見ての通り、こいつは大バカなので……!!」
「「「!?」」」
さっきまでは乱暴だったチンピラが態度を一変させて必死に詫びを入れるという事態に人々は混乱せずにいられなかった。そして今のような状況を作ったと思われるテゾーロに更なる畏敬の目指しを向ける。
2人の謝罪、人々からの視線を受けてテゾーロはしかし平然としていた。
「私への謝罪は別にいい。それよりあのお方、そして周りの方々にちゃんと謝罪したまえよ?」
「「!!」」
テゾーロがそう言うと2人はハッと周りを見渡す。人々は激変した事態に混乱してなお乱暴に振る舞ったチンピラに対する嫌悪感は消えなかった。
そんな人々の視線に2人は息を呑み
「〜〜申し訳ありません!!このバカは必ず罰を与えますので……!!」
「ッ!!〜〜も、申し訳ありません……!!」
店員と周りに向けてもしっかり頭を深く下げる。そんな2人の姿勢に人々が驚愕すると素早く2人がその場を離れていった。
「「お騒がせしましたァ!!!」」
その言葉を残して2人はどこかへ走り去っていった。
まるで嵐が過ぎ去った後のような状況に人々はしばらく呆気に取られてて、そしてテゾーロに視線を向ける。
乱暴を働く「ドフラミンゴファミリー」の者に勇敢に立ち向かい、見事その頭を下げさせたテゾーロに人々は畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
そんな人々に対してテゾーロは微笑みを浮かべる。
「お騒がせいたしましたね。皆さん」
人々に向けてテゾーロは深々と一礼する。
そんなテゾーロの姿に近くで事態を見守っていたノヴァは目を輝かせた。
「か、カッコいい……!!」
「ふふっ、そうでしょ。なんたって彼は「暴獣海賊団」の金庫番を務める男なんだからね……!」
父の勇姿に感動を覚えたノヴァにステラは優しく微笑みながらも誇らしげにそう言う。
そんな風に騒然としていたその場は今は和やかな雰囲気になっていく。
――するとそこに
「いやァ、見事な活躍でしたね……するる」
「!!」
テゾーロに声がかけられた。その声にテゾーロが素早く身構えながら向き直ると
「おや、驚かせてしまいましたか。これは失礼いたしました」
「ですが、あなたと敵対するつもりはございません」
胴体に比べて頭部が極端に大きいという珍妙な体型になっている男が不気味な笑みを浮かべながらテゾーロに恭しく頭を下げる。
その得体の知れない男にテゾーロが片目を見開くところでその男が笑みを深める。
「私はタナカと申します」
「あなたと話してみたいと思った故に声をかけたのです――〝錬金術師〟テゾーロ殿」
「……!!」
その男――タナカがそう言い、しまいにはその正体を言い当てる。その事に目を見開くテゾーロにタナカは不敵に笑う。
どこかのレストランの中――
大人びた佇まいのそのレストランで人々が食事を楽しんでいるが、そんな中でのあるテーブルではテゾーロとタナカが対峙していた。
「「……」」
ただ互いに見つめ合う2人だが、その間にはただならぬ雰囲気が漂っていた。
そんな2人の近くのテーブルにはステラとノヴァが座して事態を見守っていた。
「……お母さん、お父さん大丈夫よね?」
「ええ、大丈夫よ。あの人を信じなさい」
ノヴァは父が得体の知れない男と対峙するという状況に不安を抱いたらしくそう言うが、そんな我が子にステラは安心させるために微笑みを浮かべてそう言い放つ。そして毅然とした態度で夫を見守る。
そうして妻子に見守られるテゾーロは不敵な笑みを浮かべながら目前の男を鋭く凝視する。
「それで私に話とは一体何でしょうか?タナカさん」
テゾーロが礼儀正しくも堂々とそう問いかけるとタナカが怪しい笑みを浮かべる。
「するる、そうですね」
「まず、先程のあなたの振る舞いに私は感銘を受けました」
そう、さっきテゾーロがチンピラに立ち向かう事態をタナカも陰で目にしていた。そして彼はテゾーロの見事な対応に感服したのだ。
「いやはや、ここ「ドレスローザ」を支配する「ドフラミンゴファミリー」の者を相手にしても怯まずにあのように振る舞うとは、脱帽でございます」
「それはどうも」
タナカからの率直な賞賛にテゾーロが事もなげにそう言う。するとタナカが笑みを深める。
「しかし、そもそも
「にも関わらずにあのようなぬるい対応でよろしいんでしょうか?」
「……!!」
タナカが口にするその言葉にテゾーロは表情を変えないものの、つい眉をひそめざるを得なかった。
「(やはり、こいつは油断できない……!!)」
ニンマリとするタナカに対してテゾーロはその評価を下した。
そう、さっきまでテゾーロが相手したチンピラが今までの乱暴な態度を一変して低姿勢になったのはテゾーロがドフラミンゴにとっての重要な取引相手である百獣海賊団配下に所属するのを知らされたからだ。
だが、「ドレスローザ」で行動できるようにしっかり変装したテゾーロの正体を見破ったのもそうだが、「ドフラミンゴファミリー」の者達の態度からその関係性を察したタナカの観察眼もなかなか鋭かった。
それ程の男の意図が分からない以上、油断しない方が良いとテゾーロは考えた。気を引き締めるテゾーロはタナカに向けて言う。
「……君が言う立場とはどういう意味なのかは知らない」
「だが、あの事態では立場とやらに関係なくしかるべき対応を取ったまでなのだよ」
「!ほう……!」
テゾーロが平然とそう言い張るが、その内容に何を感じたのかタナカは仰天する。が、すぐ目を細める。
「それは商人としての誇りとやらに関わるからなんでしょうか?」
タナカが確認するようにそう言うとテゾーロは片目を見開く。
「いやそれもあるが、それだけではない」
テゾーロが一応肯定するもののそう言う。その内容にタナカが興味を惹かれるのをよそにテゾーロの表情は真剣なものになる。
「……商売というのはただものを買ったり売ったりすればいいだけの簡単な話ではない」
「売買するもの次第じゃ時に世界に大きな影響を与える事もある」
「それ程の影響力を持つ商売には妥協のない正当性が不可欠でなければならない」
「それが損ねられる事などあってはならないのだから……!」
テゾーロは商売に関してその考えを堂々と語る。その勢いにタナカは気圧される。が、すぐ笑みを浮かべてみせる。
「するる……なるほど、あなたの考えはよく分かりました」
そう言うタナカだが、いやらしく笑い出す。
「ですが、そのように難しく考える必要はあるのでしょうか?」
「!」
言い放たれたその言葉にテゾーロが眉をひそめる。それに対してタナカは怪しく笑う。
「この世は弱肉強食。どれだけ商売しようが、結局奪い奪われるだけなのです」
「欲しいものがあれば商売など面倒な事をせず奪えばいい」
「悪いのは力なき者の方なんですから」
「なのに、そこまで面倒な事をわざわざやる必要があるのでしょうか?」
「……」
世界の真理、それに伴う商売に関してタナカがそう言い張る。その内容に言い返せないのかテゾーロは黙り込んだ。そんな姿にタナカは笑みを深める。
だが
「……フッ」
「!」
テゾーロが何の事はないように鼻で笑った。その姿にタナカが驚愕するのに構わずにテゾーロが不敵な笑みを浮かべる。
「そのように考えているとは、どうやらあなたは三流のようだ……!」
「!?何だと!?」
テゾーロが不遜な態度でそう言い放った。侮辱としても受け取れる言葉にタナカは憤慨するが、その途端に素早くテゾーロが続ける。
「せっかくの機会だ。君に教えてあげよう」
静かにそう言うテゾーロの手には金貨が存在していた。手の中で転がされる金貨を見ながらテゾーロが重々しく語り出す。
「確かにどれだけ金を持っても力の前には屈せざるを得なくなるのでしょう……
「そもそも、この世界には買えないものもあります」
「例えば才能、血統、家柄、容姿、そして力」
「金で買えないものは不平等を生みます」
そこまで語るテゾーロの表情は憂いに満ちていた。だが、その直後にニヤリとする。
「だからこその金なのだよ!!」
「凡庸でも!!馬の骨でも!!下賤でも!!不細工でも!!」
「人並に金さえ稼げば人並に!!」
「何一つ持たざる身に生まれても!!」
「それ以上に稼げばそれ以上になれる!!」
「金こそがこの世で最も平等で公平!!」
「それこそが金の価値なのだよ!!」
「!!」
テゾーロが金貨を堂々と掲げながらその熱弁を振るう。その内容にハッと目を大きく見開くタナカにテゾーロは不敵に笑う。
「その力を見誤り、たかが金だとナメる者は必ず泣きを見るハメになるのだろう……!!」
「!!」
テゾーロが不遜な態度でそう言い切ったのにタナカはさらに驚愕で固まる。彼はテゾーロの信念に圧倒されたのだ。
――だが
「……するる」
やがてタナカは笑い出す。
「するるる!!面白い、やっぱり面白いですよ!!あなた達は!!」
感じた事をそのまま率直に口にするタナカにテゾーロは微笑む。
「それは光栄な事だ」
「するる……テゾーロさん」
そう言うテゾーロに対してタナカは笑い、そして言う。
「私を「暴獣海賊団」に入れても構わないのでしょうか?」
☆タナカ、「暴獣海賊団」への加入を希望する!!