「!!」
目の前の男が口にした事の内容にテゾーロは目を見開いた。
何せ、その男――タナカは自分をテゾーロ達、「暴獣海賊団」に入れてほしいと頼み込んできたのだから。その事につい驚いたテゾーロだが、すぐ冷静になる。
「……本気のつもりで?」
「ええ」
試しにテゾーロがそう問いかけてみるとタナカが笑みを深めて即答する。そのあまりにも毅然とした返答にテゾーロが片眉を上げ、そして続けてみる。
「我々の素性を知ってなお、それでも?」
「もちろんでございます」
タナカが自身の正体をしっかり把握しているという事実からその可能性を察知したテゾーロがそれに伴う問いをも投げかけてみるが、それに対してもタナカが堂々と答える。
そのやはり毅然とした姿勢にテゾーロが口を少し開けるところでタナカが静かに言い出す。
「私はね」
「最初は「ドフラミンゴファミリー」に入ろうかと思っていたんですよ」
「!」
タナカがごまかさずに明かしたその事実にテゾーロは目を細める。
――タナカはどこかの組織に入り、そこで自分の力を振るいたいと考えた
そんなタナカは世界に存在する数々の組織の中でも新興勢力になるのにも関わらずに勢いがあって性に合うと考えられる組織、「王下七武海」ドフラミンゴ率いる「ドフラミンゴファミリー」に目を付けた
今タナカが「ドレスローザ」にいるのは「ドフラミンゴファミリー」に自分を売り込もうとするところだったのだ
だが、そこでタナカはテゾーロが「ドフラミンゴファミリー」の者と対峙する事態に遭遇し、その顛末を目にする事になった
「あの乱暴者を言葉だけで打ち負かしたあなたの勇姿!」
「金の価値に関するあなたの考え!」
「それを拝聴させていただいた事で私は決めたのです!」
「あなたのようなお方が所属する「暴獣海賊団」に入りたいと!!」
最初に入ろうと考えた「ドフラミンゴファミリー」ではなく「暴獣海賊団」に入るのを決めた経緯を語り、締めにその決断を堂々と示すタナカの姿勢にテゾーロは真剣な表情を浮かべる。
「……なるほど。君の言いたい事は分かった」
タナカの話を最後までしっかり耳にしたテゾーロは身を引き締めて彼と改めて向き合ってみせる。
「よしければ、「ドフラミンゴファミリー」に対する今の君の考えを聞かせてもらえるかな?」
実情を全て知りたいと考えたテゾーロがそう問いかけてみたが、その途端にタナカはバカにするような笑みを浮かべる。
「ああ、あやつらですか。もう興味ありませんよ」
そんなタナカがきっぱりとそう言い放ったのを受けてテゾーロは目を細める。それに気付くタナカがすぐ続ける。
「国を支配するには合理的に進めなければなりません。ましてや海賊が支配下に置くのであればかえってです」
「なのに肝心の「ドフラミンゴファミリー」の者が人前であのような振る舞いをみせたんです」
「もちろんたかが1人です。あれが「ドフラミンゴファミリー」の全てではないのは承知しております」
「ですが、あれを目にした以上「ドフラミンゴファミリー」にはもはや期待できなくなったのです」
「ドフラミンゴファミリー」に見切りをつけた理由を語るタナカはテゾーロを仰ぎ見る。
「それより「暴獣海賊団」――可能であればあなたに仕えたいと考えております」
「!!」
毅然とした姿勢でそう言い放つタナカの言葉、強き眼差しにテゾーロは目を大きく見開いた。
どうやらテゾーロの信条などといったものがタナカの琴線に触れたらしく、彼は本気でテゾーロの部下になりたがっている。
そんなタナカの姿勢にテゾーロ自身も予想外の事な故に戸惑わざるを得なかった。
「……うぅむ」
すぐ冷静になったテゾーロは目の前の男に関して考えを巡らしてみる。
「……(この男を完全に理解している訳ではないが、それでも一筋縄ではいかないのが分かる程だからな)」
自分でその評価を下した程だからこそタナカの希望を受け入れる事には少々消極的なテゾーロだったが
「(しかし、この男の観察力と聡明さはなかなかだった)」
「(これ程の男が他のところに行くとなると少し面倒な事になる)」
タナカが披露した技能を思い起こすテゾーロはそうなった場合の影響を考えつく。そしてタナカを見てみると彼は心なしか真剣な表情でテゾーロの言葉を待っているように見受けられた。
そんなタナカの姿にテゾーロが目を細める。
「……そうだな」
「――スサノオさんに意見を伺いたいと考えた故にその場は一旦保留にしました」
そうしてテゾーロはタナカの事をスサノオ――オレに報告した。その内容にオレは納得する。
「なるほどな」
オレはそう言いながら視線をタナカに移す。彼はオレに見られるのを受けて深々と一礼する。
「初めまして、暴獣海賊団船長〝暴獣のスサノオ〟様」
「テゾーロ様からもうお聞き及びかと存じますが、私はタナカと申します」
「「暴獣海賊団」に入れてもらいたくてご参上いたしました」
タナカがオレに向けて丁寧に挨拶し、そしてそう言い張った。そんな姿にオレも感心した。
「ほう……」
目にするタナカの立ち居振る舞いから打算的なものを感じ取れたからだ。
タナカは紳士的に振る舞いながらもこちら側の動きを注意深く観察して頭の中で密かに計算しているのだろう。そんな男にテゾーロが判断を先延ばしにするのも頷ける。
その事を理解したオレはテゾーロに話しかける。
「それで、お前はどうすべきだと思っている?」
まずテゾーロの考えを把握しようとオレはその問いを投げかける。するとそれが分かってたようにテゾーロがすぐ意見を口にする。
「ええ、私は」
「この者を迎え入れてもいいかと考えています」
「ほう」
テゾーロが真剣な表情でそう言い張るのにオレはニヤリとする。
「なぜ、そう思う?」
「ええ」
続いてオレがそう問いかけてみるとテゾーロが重々しく語り出す。
「この者は我々とドフラミンゴの関係を察知している」
「そんな男を野放しにする訳にはいきません」
「まァ、それはそうだろう」
テゾーロが語るその理由にオレも同感だった。「四皇」と「七武海」の間に実はつながりが存在するのを嗅ぎつける者を放置できないのはもっともだ。
その事にオレが納得するところでテゾーロが続ける。
「それにこの者の腕は悪くはないようです」
「役に立たない事はないと考えられる故に仲間にするのも手かと思います」
「リュドドド!そうみたいだな」
テゾーロが出すその意見にオレは同じように感じてる故に賛同するように笑う。
そうしてタナカの希望を受け入れてもいいというような雰囲気と化していく。その空気を感じ取ったタナカが笑みを浮かべるところでオレが彼に話しかける。
「タナカ、お前は何ができるんだ?」
オレはタナカにそう問いかけた。彼の聡明さは理解したが、技能の方はまだ知らない。それをも把握する必要があるからだ。
そう考えたオレからの問いにタナカはニヤリとする。
「するる……ええ、実は私」
怪しく笑うタナカが語る。
「〝悪魔の実〟を口にしております……!」
タナカがその事実を明かした途端にその身体が地面に沈んでいった。
「「「!?」」」
その事態にオレ達が驚愕すると
「いかがでしたか?」
オレ達の後ろからタナカの声が響く。オレ達が振り返るとそこにタナカが何の事はないように立っていた。仰天するオレ達に誇らしそうに笑うタナカが言う。
「驚きましたか?これこそが」
「私が食った実、〝ヌケヌケの実〟の能力でございます……!」
ヌケヌケの実――
その実に宿る能力は無機物なら何でもすり抜けられるようになるものだ
その能力で壁などのあらゆる障害物だろうが、すり抜けて滞りなく移動できる。また能力者が触れたものも影響を受ける
さらに移動している間は一切の敵の攻撃を受け付けず、神出鬼没に現れて相手を撹乱する芸当もできるのだ
ただし、能力者に触れている人間にも能力は適用されるが、能力者自身は人間といった有機物などはすり抜ける事ができない事になっている
その能力を語ったタナカが胸を張るとオレ達は感嘆した。
「よし!!採用だ!!」
その時にオレがタナカをビシッと指さしてそう宣言した。その即座で勢いよい宣言にその場にいる人々が驚愕した。
「え!?早ッ!?」
「す、スサノオさん!?よろしいのですか!?そんなにあっさりと!?」
そのあまりにも早い決断に皆が戸惑い、テゾーロも問い質してきた。そんな皆の反応にオレは苦笑を浮かべて
「悪い悪い!だが、面白ェだろ!!こいつは!!」
だがオレが朗らかに笑いながらそう言い張る。面白いから仲間にする、そのあっけらかんとした理由に人々が呆気に取られるとその場に笑い声が響く。
「ぎゃはは!」
「あらあら、あの男の能力が面白かったのね。アマノム」
小紫が抱っこしているアマノムが満面の笑みでパチパチと手を叩いていた。どうやらタナカが披露した〝ヌケヌケの実〟の能力がアマノムにはウケたようだ。
そんなアマノムに笑いながら見られるのに気付いたタナカは深々と一礼する。そんな光景に笑みを浮かべるオレは皆に向き直る。
「見ての通り、アマノムが面白がっている」
「だからこいつを入れない手はねェと思うぜ!!」
オレが堂々とそう言い張ると皆が唖然とする。
「「「あ、そういう理由!?」」」
「は、はは。さすがスサノオさん。いつも予想を超えてくれる」
だが、ある意味オレらしい理由に皆は苦笑を浮かべてなお納得してくれた。そうしてオレ達が和気藹々とするところでタナカが恐る恐る声をかける。
「あの〜…スサノオ様。これで私も晴れて「暴獣海賊団」の船員という事でよろしいんですか?」
想像を超える事態なために戸惑ったタナカだが、辛うじて実情を把握してその確認のためにそう言ってみた。そんなタナカに対してオレは朗らかな笑みを向ける。
「おう!!これからお前はウチの船員だ!!」
「よろしくな!!タナカ!!」
あっけらかんとそう言い放ったオレの姿勢に圧倒されたタナカだが
「す、するる……よろしくお願いいたしますね」
笑みを浮かべた。
「それから、私の事はよろしければ〝タナカさん〟と呼んでいただけますか」
――こうして怪しい雰囲気が漂う男、タナカさんが「暴獣海賊団」に加入した
それから――
場面は〝カイリュー号〟。
その船上で海賊達が和気藹々としていた。何せ、新たな仲間ができたのだから。
「「「こ、これが〝妖精〟……!!」」」
「はい!!我々がスサノオ船長の船に乗って海を渡る小人れす!!よろしくれす!!」
「「「よろしくれす!!」」」
まず、「ドレスローザ」に伝わる〝妖精〟もとい「トンタッタ族」。
生まれ初めて大きな船に足を踏み入れた小人達はその船上の広さにたまげ、そして感動した。これからこの大きな船で海を渡って世界を回るんだと実感した小人達はその事実に感無量になった。
そして仲間になる周りの海賊達に向けて小人達は礼儀正しく元気に挨拶を行った。
そんな小人達の姿に海賊達はたまげた。それはそうだろう。まさか〝妖精〟が仲間になったというんだ。その事実に海賊達もさすがに驚かざるを得なかったのだ。だが、その中には
「「「可愛い〜〜♡」」」
多くの女海賊が目をハートにしていた。〝妖精〟とされるだけはあって可愛らしい小人達にときめいたのだ。そんな女海賊達の態度に小人達が反応する。
「ちょっと待つれす!!我々は戦士れす!!」
「そうれす!!だから可愛いと言わないれす!!」
自分達の存在に誇りを持つ小人達が胸を張ってそう言い張る。そんな小人達の姿勢に海賊達は呆気に取られ、そして朗らかに笑う。
「ハハハ!!そうだな!!」
「ふふ、ごめんなさいね」
「分かってくればよろしいれす」
なんだかんだで小人達と海賊達がすっかり打ち解けて船上に和やかな雰囲気が漂うようになった。
だが、それだけではない。
「「「オオ〜〜!!」」」
別のところでは驚きの声が上げられる。そこではタナカが能力であちこちをすり抜けて移動していた。彼は「暴獣海賊団」に入った記念として海賊達に能力を披露したのだ。
「すげェな!!本当に床と壁をすり抜けてやがる!!」
「面白ェ能力だな!!」
ショーをみせたタナカに海賊達は拍手喝采を送った。それに応えてタナカが一礼する。
「するる、皆様が楽しんで何よりです」
タナカがそう笑みを浮かべると海賊達が歓声を上げる。
こうして新入り達が「暴獣海賊団」に無事に迎え入れられた。
そんな風に活気に満ちた光景に満面の笑みを浮かべる男がいた。
「リュドドド!!盛り上がってるな!!」
オレは新入りを含む皆が楽しく盛り上がるのを笑いながら眺める。そんなところにテゾーロが話しかけてくる。
「スサノオさん。滞りなく完了できました」
「!おう、そうか!」
テゾーロからのその報告にオレは笑みを深める。
「これで豪華な土産ができたな」
「ええ、カイドウさんも喜んでくれる筈」
オレがそう言うとテゾーロが微笑んで肯定する。
テゾーロが一体何をしたのか、それは――
「買い付けた闘魚は後日「ワノ国」に移送される予定になります」
「「トンタッタ族」の件についてもうまく収まったので問題になる事はありません」
そう、オレが気に入った「闘魚」の調達と「トンタッタ族」の百数人が「暴獣海賊団」に入った件に関してドフラミンゴと話をまとめてきたのだ。
その仕事を見事に済ませてきたテゾーロにオレは満足感を得る。
「しかし、ドフラミンゴの奴の反応は面白ェな!!」
そう言い放つオレの頭には顔に青筋を走らせながら辛うじて笑顔を作ったドフラミンゴの姿が浮かんだ。
ドフラミンゴにとれば「闘魚」の事は別にいい。だが、「トンタッタ族」の方はせっかく独り占めできたというのに横取りされたようで面白くなかったんだろう。
だが、文句を言いたくても相手は「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子で部下な故に下手に出られず歯がゆく感じただろう。
そんなドフラミンゴの姿に愉快な気分になったオレはテゾーロに視線を向ける。
「よく話を締めてくれたな!ご苦労だったな」
「いえいえ、これが私の仕事なんですからね」
オレが朗らかに笑いながらその事を褒め立てるとテゾーロが謙虚に一礼する。そう、彼には金庫番を任された身として仕事を果たしただけなのだ。
そんなテゾーロの姿に満面の笑みを浮かべて頷いたオレは皆の方に視線を移してみる。そこでは皆の勢いが衰えずに続いていた。その状況にオレは笑う。
「リュドドド!!今回はいい結果になったな!!」
「ええ、全くですね」
「ドレスローザ」での顛末に関してオレがそう言うと隣に立つ小紫も賛意を示す。
「いい買物ができた上に新しい仲間ができたんです。上出来でしょうね」
「そうだろ!」
改めて実情を口にしてみた小紫がその内容に微笑みを浮かべる。それにオレが同意すると小紫が抱っこするアマノムが笑い出す。
「だー!」
「ん!アマノム!お前もそう思うか?」
「だー!」
「あらあら、そのようですね」
そんな我が子の様子にオレが笑いながらそうちゃかすと肯定するようにアマノムが明るく元気に手を上げる。その可愛らしい姿に小紫もつれて笑う。
そんな妻子の姿にオレは熱いものが込み上げた。
「リュドドド!可愛い奴だ!」
「ふふっ」
そうしてオレ達は和気藹々と親子の団らんする。
そんな中でふと小紫は思い出す。さっき〝カイリュー号〟に向かって「ドレスローザ」の道を歩く最中で女の子と危うくぶつかりかけた事を……
結局その子とは何もなかったためにそのまま別れたが、なぜかその女の子の事が記憶にしっかり刻まれていた。
「……(なぜかあの子の事が気になるのよね)」
その事を不思議に思う小紫だが、どれだけ考えてみても何も分からなかった。だからその女の子の事は置いとく事にした小紫は夫と息子との団らんに意識を戻した。
「ドレスローザ」のある路地裏を女の子が歩いていた。
そのピンク色の髪の女の子は歩きながらさっきぶつかりかけた女性の事を考えていた。
「……さっきの人」
「きれいだったな」
実は小紫は変装していたが、それでも女の子は隠されたその美貌を見抜いたのだ。そしてその並外れた美貌に女の子は心を奪われてた。
小紫の事を思い返して放心する女の子だが
「レベッカ!」
「!兵隊さん!」
そこに片足の兵隊のおもちゃが現れる。その登場に顔を明るくする女の子――レベッカに向けて兵隊さんが言う。
「ここは危ないから急いで離れよう!」
「うん、分かった!」
兵隊さんが真剣にそう言い放つとレベッカは真剣な表情で頷き、兵隊さんが差し出したその手を握って一緒にその場を素早く離れていく。
――一瞬だが、顔を見合わせた小紫とレベッカ
この2人が再び相まみえる事になるが、それは別の話
☆その出会いが意味するものとは…