――貸しにしてもらう事だ
ジニーに対してオレは堂々とそう言い放った。その内容にジニーは驚愕した。
ジニーは娘ボニーと一緒にあるところへ行くのを認めてもらうためにオレとの対談を行っていたが、ただオレが海賊、それも「四皇」の中でも凶暴だと称された〝百獣のカイドウ〟の息子だという事実もあって一筋縄ではいかないんだろうと考えていた。
それこそ無茶苦茶な条件を突きつけられると身構えたところにそんな条件を出されたんだ。その事態にジニーが戸惑うのも無理もないだろう。
そんなジニーが辛うじて声を出す。
「そ、そんな条件でいいのか?」
ジニーは確認のためにそう言ってみる。それを受けてオレは朗らかな笑みを浮かべる。
「ああ、それだけで構わねェよ!」
オレが笑いながらもはっきりそう言い放った。その回答によりジニーはますます混乱する事になった。そんなジニーの姿にオレは片眉を上げる。
「何か問題あるのか?」
逆にオレがそう問いかけてみたが、それによってジニーは少々冷静になったらしく真剣な表情を浮かべて言い出す。
「……あんたは」
「ウチの素性が分かっているんだろ?」
「……」
ジニーがオレに対して重々しくそう指摘する。その内容、そして確信を持っているように見受ける表情にオレはニヤリとする。それに気付いたか気付かないかジニーが続ける。
「ウチが2年もここにいて、あんたらと関わったんだ。だからこそウチがどこに所属しているのかあんたらには見当が付いた筈」
「実際あんたらが何者なのか最初は分からなかったウチも察しが付いたんだから」
そこまで語ったジニーがさらに確信を強めた表情で言う。
「そうだろ?「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子、〝暴獣のスサノオ〟……!!」
「……リュドド」
ジニーはオレ達の素性を把握しているという事をオレに対して臆せず打ち明けた。そんなジニーの姿勢にオレの口元が緩み、そして
「リュドドド!!本当に大した度胸じゃねェか!!なァ?革命軍「東軍」軍隊長、ジニー……!!」
「!!」
オレが高笑いしながらそう言い放った。その内容にジニーは目を鋭くする。
「やはり」
自分の直感が的中したのを理解したジニーは警戒を強める。目前の相手が自身の素性を把握しているならば、さっきのような条件を出した意図がますます読めなくなったからだ。
そんなジニーにオレは笑みを深める。
「リュドドド、そんなに警戒する必要はねェぞ。なぜ貸しでいいのか、その訳を教えてやるからよ」
「!」
オレがそう促し、そしてそう言い放つ。その内容にジニーは目を見開くが、すぐ気を引き締めて慎重に耳を傾けようとする。そんなジニーに向けてオレは語り出す。
「確かにお前ら「革命軍」は話に聞く動向から考えて海賊であるオレ達とは敵対する可能性が高い」
オレがその事をあっさり口にする。その可能性を平然と認めるオレにジニーは眉をひそめる。だが、その途端にオレがニヤリとする。
「だが、お前らはいずれ「世界政府」を倒すつもりなんだろ?」
「ならば、「革命軍」の存在がオレ達にとっての利になるかもしれねェ」
「……!!?」
オレがそう指摘し、そして不敵に笑いながらそう言い放つ。その内容にジニーが驚き、訝しげにするところでオレは言う。
「オレ達も「世界政府」を潰すつもりなんだからな……!!」
「!!!」
オレはその事を堂々と口にする。そのあまりにも意表を突いた内容にジニーもさすがに目を大きく見開いて息を呑んだ。その反応を目視したオレは笑う。
そしてオレは続けてある事をも伝える。
「だからこそ、お前らとは可能な限り無用な摩擦を避けてェんだ」
「!!」
オレが口にしたその事にジニーは驚愕する。
……実はそれこそがジニーの素性に気付いた時にオレとカイドウ達が協議して決めた「百獣海賊団」の「革命軍」に対する対応方針なのだ。
――目障りな「世界政府」を潰すためならば、邪魔になるかもしれない「革命軍」さえをも利用してやる
そんなオレ達の想像を絶する考えに驚かざるを得なかったジニーに構わずにオレは続ける。
「だが、オレ達がそのつもりでも「革命軍」の方はそうじゃねェんだろ?お前らは民衆の敵には断固として対抗する主義のようだからな」
「そんなんじゃ、いざという時に邪魔されるかもしれねェ。それは面倒だ。だからよ」
「お前の件で貸しを作っておく事にした」
「!!」
オレが語ったさっきのような条件を出した背景にジニーは絶句した。何せ、ただのお人好しかもしれないと思ったら熟考された計略だったのだから。
その抜け目なさにジニーが戦慄したのにオレは獰猛な笑みを浮かべる。
「リュドドド、理解できたか?」
「……ああ、よ〜く分かった」
オレがそう言うとジニーが重々しくもそう言う。その顔は険しくなってて冷や汗を流していた。
「あんたらの事が油断できないのがな」
ジニーは率直にそう言い放った。「百獣海賊団」は思ったより遥かに手強い。その事を痛感させられたジニーからの評価にオレはニヤリとし
「リュドドド、それは光栄な事だ。それで?」
「呑むか?」
不敵に笑いながら改めてそう問いかける。その問いを受けてジニーは表情を引き締め
「……分かった」
「呑む」
ジニーが真剣な表情でそう言い放った。その回答にオレは笑いながらも片眉を上げる。
「お、あっさり呑むんだな」
「しょうがねェだろ。呑まなければそれはそれで面倒な事になりそうだ。例えば、この件で脅すとか」
「リュドドド!!さすがにそれはしねェよ!!」
「ま!オレは海賊だからな、遠くて近い事はやるかもしれねェがな!!」
「チッ、ならず者め」
オレが意外そうにするとジニーが苦虫を噛み潰したような表情でその可能性を指摘する。そんなジニーのオレを前にしても物怖じしない姿勢にオレは吹き出し、胸を張ってそう言い放った。
そんなオレの姿勢、そして否定とも肯定とも受け取れる言葉にジニーはますます何ともいえない表情になる。だが、その直後に表情を緩める。
「まァ、ウチも恩人達に不義理を働くような事をしたくないからな」
なんだかんだジニーはオレ達に対して恩を感じている。だから無用な摩擦を避けたいという考えには賛成だ。そんなジニーにオレは朗らかに笑う。
「リュドドド!!それじゃ、話はこれでいいよな?ジニー」
「ああ、感謝する」
こうしてオレとジニーの対談は無事にまとまった。
「……とんだ事になっちまったな」
スサノオとの対談を思い返したジニーはその顛末に顔をしかめる。何せ、思ったより厄介な者達に借りを作ってしまったといえるんだから。その事実に苦慮するジニーだが
「まァ、そのおかげで随分助けられたから贅沢は言えないけどな」
ジニーが複雑な表情でそう呟く。そう、誰にも治せない病にかかって死の危機に瀕するところを救ってもらったんだ。
そのおかげで娘を置いて逝ったりあの人達ともう二度と会えなくなったりせずに済めたのでこれ以上を望もうとするとかえってバチが当たってしまう。
そう考えたジニーは今後に向けて気を引き締め直してみせる。
「……(もしも、その〝借り〟のせいで「革命軍」が不利益を被る事になっちまったら)」
「(その時はウチがその損失を挽回すればいいだけだ!!)」
そしてその結論に至ったジニーは決意を固める。そんな風に落ち着くようになったジニーの様子にステラとテゾーロは満足したように微笑む。
大人達の雰囲気が和やかになったのに気付いたボニーが首を傾げる。
「?おかーさん、どうしたの?」
純粋に疑問を投げかける娘にジニーは気付いて顔を綻ばせる。
「ん!いや、別にただ身だしなみを確認していただけなんだ」
ジニーはボニーに向けて朗らかに笑いながらそう答え、そして少し真剣な顔つきになる。
「そろそろと思うから準備を始めよう。ボニー」
「!うん!」
その時が近付いてきたと考えたジニーがそう促し、それにボニーが顔を明るくして大きく頷いた時だった。
「――ジニー!!!」
「「「!!」」」
その声が大きく響いた。
その声にほとんどの者達が目を見開く。そしてジニーは静かに目を大きく見開く。
「……」
その声に聞き覚えがあるジニーの心臓が激しく波打つ。
「……」
口が渇いたジニーが恐る恐る声が響いてきた後ろへ振り返る。するとそこには――
飛び抜けた巨体を誇る大男が立っていた。その大柄な外見は普通ならば人を畏怖させるところだが、そうはならなかった。なぜならば、その男は涙を流していたからだ。
「ジニー……!!」
どうやら、その男はジニーの姿を目にした事で感極まったらしく大泣きしながらも歓喜していた。
そんな男の姿を目にしたジニーは言葉を失った。そしてその目が潤んでいく。
「……くまちー……!!」
ジニーが声を震わせながらもその名を呼ぶ。
それが合図になったのか、ジニーと男――くまちーが互いに相手の元に向けて歩き始める。
「「……!!」」
やがて走り出す。そんな2人の距離が少しずつ縮まり、そして
「「〜〜!!」」
ジニーとくまちーが抱きしめ合った。
「会いたかったよォ……!!くまちー……!!」
「うん!!オレもだよ……!!」
ジニーとくまちーが顔を歪める程に大泣きしながらも再会を心から喜び、声を漏らす。長らく会えなかった時間を埋めるように2人はさらに強く抱きしめ合う。
やがて――
「無事で良かったよ、ジニー」
「はは、無事とはいえないんだけど……まァ、見ての通りウチは元気さ!!」
落ち着くようになったジニーとくまちーは朗らかに笑い合って雑談する。ようやく再会できた事もあってその場に和やかな空気が流れるようになる。
そんなところに
「おかーさん……」
その消え入りそうな声がこだまする。それによって2人がすぐ視線を向けるとボニーが普段の活発さからは考えられない程の心細そうな様子で2人の事を恐る恐る仰ぎ見ていた。
ボニーは待ち望んだ時がついに来た事によりつい怖じ気付いてしまったようだ。そんな娘の姿にジニーは素早く目線を合わせるようにしゃがみ、その緊張を和らげるために優しい微笑みを向けてあげる。
「はは、ごめんな。お前の事を置いて勝手に盛り上がっちゃって」
ジニーが微笑みながらもボニーに対して詫びを入れる。ジニーは心から会いたかった者とようやく再会できた事で感情が高ぶり、娘をほとんどの事が頭から吹っ飛んでしまったのだ。
その事実に関して謝罪する母にボニーはさっきまでとは一変して朗らかな笑みを向ける。
「ううん!あたしはだいじょうぶだよ!」
ボニーが率直にそう言い、ニッコリする。彼女的には母が感極まってその者との再会を喜ぶ姿に自らも胸が熱くなっていたので別に問題はなかった。それより
「……おかーさん……」
突然ボニーが再びそわそわし出した。そんな娘の姿にジニーは顔を綻ばせる。
「そうだよ。この人がお父さんだよ」
「……!!」
ジニーはボニーに向けてくまちーの事を紹介する。それを受けてボニーは静かに目を大きく見開く。
彼女は前もって聞いたからその事は知っていたが、直でその男を目にしながら改めて言われた事でようやく実感が湧いたらしい。内に込み上げてくる娘の姿にジニーは微笑み、そしてくまちーに視線を移す。
くまちーは目を丸くしながらボニーを見つめていた。そんな2人の姿にジニーはついに笑みを抑えられなくなった。
「くまちー、この子がウチの娘ボニーだよ」
ジニーがくまちーにボニーの事を紹介した。どうやらくまちーに娘の事を紹介できたのが嬉しいらしくジニーは喜色満面になっていた。
そしてボニーとくまちーは互いに見つめ合う。
「「……」」
二人とも緊張感に満ちた様子で口を開けて閉めたりする。やがて
「あ、あの……!」
「!」
辛うじてボニーが何かを言おうとする。それを受けてくまちーはボニーと目線を合わせるためにしゃがもうとする。
……ただ、彼の体は大柄なためにできるだけ頭を下げようとした結果、ボニーの前にひれ伏す姿勢になってしまった。それでもくまちーは真剣に耳を傾けようとしていた。
「何かな?」
ボニーに向けてくまちーが優しく微笑む。その微笑みによってボニーの張り詰めた糸が切れたのか
「〜〜!!あいたかったよ〜〜!!おとーさん!!」
ボニーが涙を流しながらもくまちーに抱きついた。その事にくまちーは驚愕するが、それに感化されたのか同じように涙を流し始めた。
「〜〜!!うん!!オレも会いたかったよ!!ボニー!!」
くまちーは感極まった表情でボニーを抱きしめ返した。
こうして初めて顔を見合わせた父娘がその感触をもっと味わうために強く抱きしめ合う。そんな光景にジニーは感動を覚えたのか涙を流しながらも朗らかに笑う。
その場に流れる和やかな空気が一層深まるが
「…〜!ウチもまぜろ!!」
その空気を肌に感じた事で自らを抑えられなくなったジニーがそう叫びながら父娘に抱きつく。突然のジニーの抱擁にくまちーとボニーは驚くが、当然のように受け入れる。
長らく離れていた家族が今ようやく相集まり、固く抱擁を交わした。そんな家族の姿に近くで事態を見守っていたギルド家は優しい笑みを浮かべていた。
「……行きましょう。あなた、ノヴァ」
「……そうだね」
「うん」
しばらくするうちにステラがそう言い出し、その場から歩き出す。そんなステラについていくようにテゾーロとノヴァも歩いていく。
――やる事は終わった。あとは帰るだけだ
――それに家族の時間を邪魔する訳にはいかない
そう考えたギルド家はこのまま「ワノ国」へ帰ろうとしていく。
「ジニー、これからは幸せにね」
「元気でね。ボニー、ジニーさん」
「あ〜…お前らのぬくもり、最高!」
家族の抱擁の余韻に浸ったジニーはボニーとくまちーに向けて満面の笑みでそう言い放った。そんなジニーの姿勢につれてボニーとくまちーも朗らかな笑みを浮かべる。
「うん!」
「ははッ、そうだね」
そんな風に3人は朗らかに笑い合うが
「……本当に」
そんな中で笑っていたくまちーが顔を少しずつ歪める。やがて
「良かったよ……!!」
くまちーが涙をすごく流しながら心からそう言う。
ジニーがくまちーの事を想うように彼も同じく彼女の事を想っていた。だからこそ、かつてジニーがさらわれた時は絶望した。
それからはジニーの身を案じて心配が尽きなかった。そんな苦悩の日々を送る中でジニーからの連絡が入ってきた時に感激したものだ。
もっとも、その時のジニーの状態と彼女に娘がいるという事実を知った時は心臓が凍りついた。
病の件は心配だったが治療を受けているらしいのでうまくいくのを信じる事にして、娘の件に関してはつまり
その事実に怒りを覚えたくまちーだったが、ジニー達には配慮して怒りを抑えて接してきた。
ジニーの娘であるというボニーと語り合ってみるうちに彼女の事が愛しくなり、ジニーだけではなくボニーととも直で会いたいと思うようになった。
そんな時間が過ぎるうちにジニーの病がついに完治できたという。
これでようやく会える。その事により緊張するようになったくまちーだが、同時に不安をも抱いた。
ジニーと再びやっていけるのだろうか、ボニーが自身の事を果たして受け入れてくれるのだろうかと。
だが、今こうして顔を合わせるとそんな不安がすっかり気にならなくなった。
もう二度と会えないのではないかと思われたジニーと再会でき、ボニーと出会う事ができた。その事実にくまちーが感極まずにはいられなかった。
そんな激情に身を震わせるくまちーの姿にジニーは優しい微笑みを浮かべる。
「……心配かけてごめんな。くまちー」
そしてくまちーに抱きしめながらそう言う。そんなジニーからの言葉と抱擁を受けてくまちーは涙をさらに流しながらも辛うじて笑みを浮かべる。
「ゔ、ゔゔん゛……!!い゛い゛!!こゔしで会えだんだから……!!」
「……そっか」
くまちーが声を詰まらせながらもそう言い放ったのを受けてジニーが笑みを深める。そんな2人の姿にボニーは少し不安気な顔になる。
「おとーさん、おかーさん。だいじょうぶ?」
両親の様子が心配になったボニーがそう言ってみたが、それによってジニーとくまちーは我に返る。
そうだ。せっかく再会できたんだ。泣くのはもうやめよう。
「ごめんごめん!お父さんと会えたからつい泣いちゃったんだ」
「うんうん!」
「そうなんだ!」
心配をかけてしまったボニーを安心させるためにジニーとくまちーが素早く朗らかな笑みを浮かべ、そう言い張る。それによりボニーは安心するように顔を明るくする。
そうして再び和気藹々とするようになる。
――そして
「ジニー!」
突然くまちーが言い出す。それにジニーが視線を向けるとくまちーが微笑んでいた。
「――帰ろう!!あそこに!!」
くまちーがそう言いながらジニーに手を差し伸べた。その手、そしてその言葉にジニーはハッとし、目を潤ませる。
「……うん!!帰ろう!!」
ジニーは涙を流しながらも笑い、差し伸べられた手を握った。そしてボニーの手をも握る。突然の事にびっくりするボニーに向けてジニーは朗らかに笑う。
「ボニー、これからお父さんとお母さんの家に帰るんだ」
娘にジニーがそう言い、それに賛同するようにくまちーも微笑んで頷く。そんな両親の姿勢にボニーは顔を明るくする。
「わぁ……!うん!かえろう!」
ボニーが満面の笑みでそう言い放った。そんな娘の晴れやかな笑顔に感化されて母と父も笑みを深める。
そして、その家族は帰途に就いていった。
その家族を太陽の光が明るく照らす。
☆バラバラにさせられた家族が一つになり、新たな一歩を踏み出す…