かつて地層から採取される鉛の影響で身体が白くなって全身の痛みとともに死ぬ重金属中毒〝珀鉛病〟が国中に蔓延した末にその事態を伝染病によるものだと思い込んだ周辺諸国からの一斉攻撃によって滅ぼされた悲劇の国「フレバンス王国」。
だが、何の因果かそんな災禍に襲われた「フレバンス王国」を訪れた「百獣海賊団」によって約千人がその国から救い出され、しかもそれだけに留まらず救出された生き残り達を未だに蝕む〝珀鉛病〟をも克服した。
どうあがいても逃れられないと思われた絶望的な運命から奇跡的に生き延びる事ができた生き残り達はその事実を心から喜び、深き感謝を覚えた。
だが、そんな人々の中である女の子は悲しみに沈んでいた。その子、ラミはせっかく生き長らえたのにも関わらずに家族を失ったからだ。
その事実によって一度生きる気力を失いかけたラミだが、そんな彼女の心身を案じる周囲から励まれてくれた事で家族の分まで生きようと決意を固めた。
それから時が経ってラミは家族への想いを胸に健やかに成長していった。そんな彼女の元に死んだと思われた兄の手配書が舞い込んだ……
「――決めたの!!」
ラミは今、自身の面倒を見てくれた人達と対峙していた。人々の視線を一気に浴びているラミは毅然とした姿勢でそう言い放った。そして言う。
「私はヤマト姉ちゃん達の船に乗る!!」
ラミがその事を堂々と宣する。その内容に人々は驚くものの、どこか分かってたように少し納得する。
「やっぱりラミちゃんはそう言うよね」
「ああ、ラミちゃんは肝が据わっているというか思い切った事をする子だからな」
幼い頃からラミの事を見守り続けてきた人々はその気質を知っている。それ故にラミがその事を言い出すのにはそれ程に驚かなかった。
「でも、ラミちゃんにはまだ早いと思うけど?」
「うん、そうだよな。それにスサノオさんの船に乗るんだろ?ならば危ない目に遭うのは間違いないだろうし」
といえ、それはそれこれはこれ。ただの女の子であるラミが海賊の船に乗るのはさすがに看過できない。
当然だ。海賊の船に乗れば確実に危険にさらされるだろう。高度な格闘術を身につけていないラミがその危機を切り抜けるとは思えない。だからこそ危険だ。
そう考えた人々にラミはしかし真剣な表情を浮かべる。
「……皆が私の身を案じてくれるのは分かっています。その事は感謝しています」
人々がそんな考えを抱く背景を理解するラミはその気遣いに対して率直に感謝を伝える。だが、そこでラミは表情をさらに引き締める。
「でも!!私はどうしてもスサノオさんの船に乗りたいんです!!」
ラミがはっきりそう言い放った。なぜ彼女がそこまで危険だと分かる海賊の航海に加わろうとするかというと
「それが私が生きている事をお兄様に手っ取り早く知らせる方法なんだから……!!」
ラミが実に強い決意をにじませる表情でそう言い張る。そう、世界のどこかにいる兄に自身の生存を知らせるためだった。
ラミは今まで家族が死んだと思っていた。「フレバンス王国」の悲劇を思い返せば、生存が絶望的だと考えても無理もないだろう。だからこそ兄の生存を知った時は天にも昇ったような心地になれた。
何としてでも兄と会いたい。だが、兄は今海賊をやっている。つまり神出鬼没に海を駆け巡っている筈だ。また「海軍」などの追跡を振り切るようにしていると考えればその足取りがそう簡単に掴められないだろう。
それに海賊としての身分を考えれば顔を合わせる環境が整えにくいかもしれない。
スサノオ達と「百獣海賊団」がローを見つけてラミの事を知らせるという手もあるが、何せ血の気が多い海賊だ。顔を合わせた途端に戦いを始める可能性が高い。ましてや「百獣海賊団」が野心的な海賊達がその座を狙う「四皇」として君臨しているのではかえってだ。
心から兄と会いたいラミはそんな問題を突きつけられて苦慮した。会うのは難しい、でもせっかく生きていると分かった以上何が何でも会いたい。
そうして考えを巡らせてみたラミはやがてある結論に至った。
――私も海賊になればいいんだ!!
私も海賊になって名を上げるの!!そしたら私の手配書が世界に出回るようになり、お兄様の目に必ず留まる筈。そうすればお兄様も気付く事になる。私が生きている事に。
そう考えついたラミはさっそく縁あるヤマトとスサノオの船に乗り込もうと強い意欲を燃やす。普通ならばただの女の子が怖じ気づく事をラミは進んで行おうとしていた。その心意気は凄まじいといえよう。
そんなラミに人々はしかし理解を示していた。死んだと思われた家族が生きていたのだ。そりゃ何が何でも会いたいだろう。色々なものを失った「フレバンス王国」の生き残り達はその気持ちを理解できてはいた。だが
「でも、やっぱり危ないよ?」
だとしても、ラミが危険な海賊の航海に加わるのはやはり受け入れられない。ラミの身を心から案じる人々は彼女を何とか考え直させようとする。
「それに、君はお父様とお母様の跡を継いで医者を目指しているんだろ?その目標を捨てて海賊になるのか?」
「!!」
そのうちの1人がラミに向けてそう言う。その指摘にラミは目を見開く。
そうだ。ラミは「フレバンス王国」で名を馳せる医師の家系であるトラファルガー家の娘として医者を目指して勉強に励んできた。なのに、その正反対である海賊になろうとする。それでいいのか?
その事を突きつけられたラミは固まった――が
「いいえ!!」
素早くラミは毅然とした表情でそう言い出す。そんな姿勢と言葉により人々はラミが海賊になるのをやめて改めて医者を目指すのかと期待するが、続いてラミが口にした事に呆気に取られる事になる。
「私は!!」
「医者と海賊のどちらにもなります!!」
「「「はッ!!?」」」
ラミが堂々とそう宣するのに人々は唖然とする。そんな人々にラミは活発な笑みを向ける。
――海賊といっても、戦いによるケガなどを治療する海賊が存在する。その海賊になればいい!!
――医者を目指してたあのお兄様も海賊をやっているんだ。ならば私だって海賊になってもおかしくはない筈!!
そんな考えを抱いたラミは活発ながらも不敵な笑みを浮かべる。そんなラミの姿勢に人々は息を呑む。彼女は本気なんだと理解させられたからだ。
それ故につい絶句した人々だが、それでもやっぱり心配が尽きなかった。
「だ、だが……」
それで人々が何かを言おうとするが、そこに新たな声が響く。
「私達がラミちゃんに付き添います!!」
「「「!!」」」
突然響き渡ったその言葉にその場にいる人々が驚愕し、素早く視線を向けるとそこにはエルダーとエスピラールが真剣な表情で立っていた。
「エルダーちゃん、エスピラール君」
驚愕する人々に向けてエルダーとエスピラールがそれぞれ口を開く。
「ラミちゃんは私と「暴獣海賊団」の医療班に入ります」
「そしてオレが2人の護衛として「暴獣海賊団」の船に乗る。それなら良いんだろう?」
「「「!!」」」
エルダーとエスピラールが揃ってラミに続いて海賊の船に乗ると堂々と言い張るのを受けて人々は唖然とする。
「君達まで!?」
「どうして!?」
動揺の色が濃くなった人々が2人に詰め寄るように疑問をぶつける。それに対してエルダーとエスピラールは毅然として続ける。
「だって、ラミちゃんの事をほっとけないじゃないですか」
「エルダー姉ちゃん」
エルダーが平然とそう言い放つ。明かされるその理由に目を見開くラミにエルダーは微笑みを向ける。そんなエルダーに賛同するようにエスピラールが言う。
「ああ、それに」
そこまで言うエスピラールがその途端に笑みを浮かべる。いたずらっ子のようなものを。
「オレ達も会いたいんだ。あいつに」
「そのためならば、ラミちゃんと同じ事だってやるんだろうよ」
エスピラールが堂々とそう言い放つ。その事に賛同するようにエルダーも笑みを深める。
実は2人共、ラミの兄ローが通う学校の友人なのだ。だからこそローが死んだと思われた時はラミと同じく悲しみ、彼が実は生きていたのを知った時は心から喜んだ。
そしてラミがローに自らの生存を知らせるために「暴獣海賊団」の船に乗る決意をした時に2人はその考えに同感し、同じく自身達の事をも知らせる理由でも彼女に付き添おうと決意した。
「悪いが、皆に受け入れてもらえなくてもオレ達は行くつもりです」
「ええ」
「……私も!!」
確固たる意志を表情に示すエルダーとエスピラール、2人の隣で同じような姿勢を揃えるラミに人々は気圧される。
そんな3人の固い意志に人々がもはや何も言えなくなった。するとそんな場に今度は凛々しい声が響く。
「分かりました」
「「「!!」」」
その声に人々がハッと視線を向けるとシスターが微笑みながらも堂々と立っていた。そんな姿に人々が驚くところでシスターが続ける。
「あなた達がそこまで言うのならば、行っておいで」
「「「!!」」」
シスターが微笑みを変えないものの真剣な目差しではっきりそう言い放った。
実はシスターは最初から事態を見守っていた。ラミが決意を口にする時も人々がそれぞれ自らの考えを言い張る時でも見定めていた。全ての人の意志と考えを。
その末として認めたのだ。エルダーとエスピラール、ラミの決意を。だからこそその意志を尊重する事にした。
そんなシスターの姿勢に人々が驚愕する。するとシスターが笑みを深めて言う。
「そして、伝えてあげてね」
「私達が生きている事をあの子に……!!」
そう言い放つシスターの顔は真剣だったが、その中には微かながらも喜びがにじんでいた。シスターもまたローと親交がある。そのために彼の生存を喜び、自身達の事を知らせたいと考えていた。
そんなシスターだからこそラミ達を信じて後押しする事にしたのだ。シスターの想いを察したラミ達はそれに応えて真剣な表情で頷く。
「「「はい!!」」」
「スサノオさんの船に乗るのをシスター達が認めてくれた以上、何が何でも会わなきゃ!!」
「暴獣海賊団」に入る事に関して人々が最終的に了承してくれたのを思い返したラミは決意を新たにする。そんなラミの意気込みに触発されてエルダーとエスピラールも賛同するように頷く。
そこでエルダーはふと表情を緩める。
「でも、まさかあのロー君が海賊をやっているなんてね」
エルダーはその事実に対して驚きをあらわにする。何せ、エルダーが知るローは真面目で優しい男の子だった。それこそ海賊になるとは考えられない程に。
……まァ、少々おかしなところはあったが。
ある事を思い出したエルダーが何ともいえない表情を浮かべるところでエスピラールが笑い出す。
「そうか?もしかしたら、おかしくはないかもしれんぞ?」
「何たってあの時、撮影のためにオレ達が集まる時にあいつはカエルを持ってきやがったからな!!」
「ちょっと!!」
エスピラールがその事を口にしておかしげに笑うとエルダーが憤慨した。
実はエルダーとエスピラール、ローが通う学校で集合写真を撮る事があったが、その時にローはなんとカエルを手に持っていたのだ。
おそらく解剖のために持ってきたのだろう。しかし、重要な行事にも関わらずにわざわざ持っていくとはそれ程に医学への熱意が強いといえるんだろう。
もちろん、そんなローに学友達は引いたり笑ったりしたものだ。その時を思い返すエスピラールは感慨深そうにする。
「いや〜〜あれは面白かったな」
「面白くないわよ!!」
エスピラールが笑いながら率直にそう言うとエルダーが憤怒の形相でツッコんだ。何せ、その時のエルダーはローの二つ隣にいたためにカエルを近くで目にするハメになってしまったのだ。
その時を思い出すエルダーは震え上がる。そして怒りがふつふつと湧く。
「ロー君ったら!!重要な集合写真なのにカエルを持ってくるなんて、デリカシーに欠けるわ!!」
「今だって〝死の外科医〟と呼ばれているし、医学に熱を入れすぎるのよ!!」
あまりにも医学に没頭するローに向けてエルダーは文句を言い張る。そんなエルダーにラミは決まりが悪そうな顔になる。
「ご、ごめんなさい。お兄様がとんでもない事を」
兄のしでかした事に関してラミが詫びを入れる。申し訳なさそうにするラミの姿にエルダーは目を見開き
「え、あ、いいえ!あなたが頭を下げる事なんてないの!」
「でも、カエルを持ってくるなんて」
エルダーが慌ててそう促すが、ラミは同じ女の子としてカエルを持ってくる所業に思うところがあるために頭を下げ続ける。そんな風に埒が明かない状況になるが。
「まァまァ二人とも」
「「!」」
そんな状況を打開するためにかエスピラールが声をかけてきた。その呼びかけにラミとエルダーがハッとし、揃って視線を向けるとエスピラールは朗らかな笑みを浮かべる。
「いずれにせよ、今はまずあいつに会わなきゃならないだろう?」
「「!!」」
エスピラールがその事をはっきり言う。その内容にラミとエルダーは本筋から少しそれていた事に気付き、すぐ気を引き締める。
「そうだね!」
「そうね」
重々しく頷く2人の姿にエスピラールは満足するように笑う。そうして3人が改めて決意を固めるところでスサノオ――オレが口を開く。
「リュドドド、改めて腹をくくったようだな」
オレが目の前で展開された談話に対して笑みを浮かべる。それに応えて3人とも真剣な表情で頷く。
「「「はい!!」」」
オレの言葉に応えるように声を張り上げる。その勢いよい返答にオレは満足感を得る。すると
「待ってよ!ラミ〜〜!」
「「「!」」」
そんな声がその場に響いた。それにオレ達が驚く中でその者がラミの元に駆け寄った。そしてラミの前でその者――白熊が張り切って喋った。
「オレも行くよ!!」
「ベポ」
白熊のミンク、ベポがそう宣するのを受けてラミが目を見開く。
実はラミとベポは親交を結んでいるのだ。だからラミが「暴獣海賊団」の船に乗る決意をしたのを知ったベポは自らも乗ろうと即決したのだ。友のために。
そんなベポの姿勢に驚くラミだが、表情をほころばせる。
「ありがとね、ベポ」
その宣言の背景を察したラミは自分のために決意してくれたベポに対して感謝を伝える。それを受けてベポは朗らかな笑みを返す。
「ラミがあの「暴獣海賊団」の船に乗るんだ。オレが乗らない訳にはいかないよ!!」
その事を当然のように言い張るベポは続ける。
「それにお兄ちゃんがいるんだし!!」
そう言うベポは満面の笑みを浮かべる。そう、実は「暴獣海賊団」にはベポの兄ゼポが所属しているのだ。同じ船で兄と一緒に行動できる事にベポは胸を膨らませる。
そんなベポの姿にラミは微笑む。ただ、その微笑みにはどこか含みがあるようだった。それに気付いたかエルダーが素早くラミに声をかける。
「そういえば、ラミ」
その呼びかけに顔を向けてくるラミにエルダーは言う。
「あなた、
エルダーが真剣な表情でその確認を取ってみる。その問いかけを受けてラミは頷く。
「うん。時々だけど、来て色々な話をしてくれているよ」
その事をあっけらかんと明かすラミにエルダーは眉をひそめる。
「大丈夫なの?あの男、怪しいと思うんだけど?」
実は近頃ラミにある男が近づく出来事があった。その者に対してラミは礼儀正しく対応してて、男の方も色々話すだけで変な事をしていないので別に何もなかったらしいが……
だが、その男の事がエルダーには怪しくて仕方がなかった。その事をエルダーが率直に口にするとラミが笑う。
「今のところ変な事をしていないから大丈夫だよ」
ラミは平然とそう言う。だが、その途端にその目が鋭くなる。
「……まァ、私も怪しいと思うけどね」
「「「!!」」」
さっきまでとは雰囲気を一変させたラミが静かにそう言う。実はラミは家族と故郷を失った凄惨な過去を持っているからこそ快活に振る舞っているものの、胸の底では警戒心がしっかり強い。
だからラミはたとえどんな者がいかに物腰柔らかく接してこようとも、その奥にある本質を冷徹に見極めるように心構えていた。
そんなラミが男の立ち振る舞いに対して違和感を抱いたためにその男には信用を置かない事にしていた。
楽天的に見えて実は用心深いラミにエルダー、エスピラールとベポは目を丸くする。するとさっきから事態を見守っていたオレが口を開く。
「おォい!!お前ら!!」
「「「!!」」」
オレが声を上げたのを受けてラミ達が顔を向けてくる。そんなラミ達に対してオレは笑う。
「どうやら準備が終わったらしい。そろそろ行くぞ」
そう、「暴獣海賊団」の出港準備が完了していつでも出れる状態になった。その事をオレが告げ、そう促した。それを受けてラミ達は目を静かに見開き、そして気を引き締める。
「「「はい!!」」」
ラミ達の返答と姿勢に満足するオレは歩き出す。そんなオレにラミ達も続ける。これから始まる「暴獣海賊団」の航海に加わるために。
「(待ってね……!!お兄様……!!)」
――こうして〝白い町〟の生き残り達と陽気な白熊が「暴獣海賊団」の船に乗った
☆彼との再会に向けていざ行かん!!