モコモ公国――
ワノ国と同じく〝偉大なる航路〟後半の海〝新世界〟にある国の事を指す。
1000年近い歴史を持つ古い国で、常識を疑ってしまう新世界の島々の中でも〝幻の島〟と名高く新世界の知られざる秘境として船乗りの間では〝空島〟と並ぶ伝説として語り継がれていた。
この国は〝動く〟以上、一般的に国の存在は認識されていないようで〝幻の島〟等とも呼ばれているようだが――そもそも〝動く〟というのはどういう意味だというと――
「パオーン……」
国の領地は驚くべき事に地というか雲をつく巨大象の背中の上だったのだ。
島の名を冠するその〝ゾウ〟こそ〝象主〟といい、1000年前からずっとこの新世界の海を進み続けてきている。
これでモコモ公国が〝幻の島〟だと呼ばれる所以は分かったのだろう。陸ではない為〝記録指針〟でも辿り着けないのだ。辿り着くには島に住む住民で作ったビブルカードが必要であり、招かれない者が見つける事は困難。
そして――
「ガルチュー!!」
「ガルチュー!!仕事の時間だ!」
「よしよし、今日も活気のいい魚が打ち上げられたな!」
「それでゆティアは――」
モコモ公国の民だが――
その姿は一見でも普通の人間ではなかった。
何せ全身が純毛によって覆われており、顔と体つきが動物に模していた――どう見ても獣人そのものであった。
それこそがゾウで1000年の歴史を持つ独自の文明を築き上げてきた〝生まれながらの戦士の一族〟ともいわれる獣人の一族――〝ミンク族〟だ。
外身が普通の人間とは違っても、彼らの生活はちっとも人間とは何の違いも存在していなかった。彼らは笑顔で平和な生活を過ごし続けてきた。
――だが、この日限りでモコモ公国の歴史が終わりを告げる事になる。
――その始まりは激しく鳴らされ続ける鐘の音だった。
「⁉鐘の音……!!」
「…!!……この鐘の鳴らし方――〝敵襲の鐘〟だ!!!」
「敵襲だぁ~!!敵襲!!」
「しかも――門番が倒されたぁ!!」
「!!?嘘だろ……!?」
モコモ公国の入口には堅牢な門が建てられており、それを守る門番が常駐している。
ゾウへの来訪者が現れる際、その者が友好的であれば〝歓迎の鐘〟を鳴らし招き入れられる。
だが逆に敵対的――略奪者の場合は〝生まれながらの戦士の一族〟とまでいわれたミンク族の恐ろしさを身を持って思い知らされる事になる。
この日で現れた者達もミンク族の洗礼を受ける――いつものようにそうなると思われた……だが――彼らに洗礼は通じなかった。
――彼ら……百獣海賊団には。
「フン……他愛ないな」
「ムハハハ!まぁ、予想より使える戦力だったがな〜♪」
「キングさん、クイーンさん。ミンク族を百獣海賊団に勧誘するから、できるだけ平和裏にしたいんだが……」
モコモ公国に現れたのが――
〝百獣のカイドウ〟の息子スサノオを筆頭にキングとクイーン率いる百獣海賊団だった。
「お坊ちゃま、それは甘い……オレ達百獣海賊団は強硬な態度で臨めばならない」
「変態に同感するのは腹立つが、言う通りだぜ〜♪甘くすれば舐められちゃう!!」
「……オレは敵には容赦しないが、仲間になる者には優しくしたいんだ」
キングさんもクイーンさんもオレのミンク族への態度を甘いと口を酸っぱくしているが、ミンク族を仲間にするんだろ?〝仲間〟とは楽しく盛り上げてぇんだ、オレは……
「本当は穏健的にやっていきたかったが……そうすればなんの遺恨もなくミンク族を戦力として迎え入れる筈なんだがな」
だが、そうはいかなくなるのが単に目に見えてしまう。
何せオレ達のある要求をミンク族が受け入れるとは思えないからな……そうするともはや強硬な手段を取る事になってしまう。
はぁ……面倒な事になるな……
「まぁ、村の統治を効率良くやっているお坊ちゃまの意見にできれば耳を傾げたいんだがな……」
「確かにお坊ちゃまのやり方だと効率が良いのが分かるけどな〜」
キングさんもクイーンさんも一応オレの意見を少しは理解はしてくれている。
だが、そうはいかないのが今の事態なんだろうな。
「それはそうとして具合は大丈夫なのか?」
「ここに着いた途端に妙に胸騷ぎがすると言ったんじゃんか!!」
「ん……大丈夫だ、少しは落ち着いてきた」
キングさんとクイーンさんはオレの具合を心配してくれている。そうなのだ、実はゾウを登りモコモ公国へ近付いて行くうちにオレが胸騷ぎがするようになったのだ。何だが巨大な何かにずっと見られてるような気がして仕方がないんだ……
だが親父の息子としてオレはしっかりとしなくちゃな……!……ん、着いたか。
「!!…現れたか……!!」
「っ…要求があるなら公爵様が来るまで待ってくれ!!それで交渉を……!!」
ミンク族がオレ達に警戒しながら交渉を求めてきた。それに対して――
「騒がして悪いな。オレ達はただ――」
「⁉子供……⁉」
オレが前へ出て説明しようとするとミンク族が襲撃集団の中に子供がいる事に驚いたのだろう、目を大きく見開いてきた。
ただそれだけなのだが、ミンク族の態度に百獣海賊団の中の血の高い男が怒鳴ってしまった。
「おい!頭高いぞ!こちらは百獣海賊団総督〝百獣のカイドウ〟様の息子、スサノオ様だぞ!!」
「「「!!?」」」
「百獣海賊団……!!?」
「カイドウの息子……!!?」
「……ハァ――」
大人しく話したかったが……まぁいいか。
「とりあえず!オレ達の要求は2つだ!!」
「1つは……ここにあるという〝ロード歴史の本文〟だ」
「「「!!?」」」
オレからの要求を聞いたミンク族は驚愕と絶句で固まる。
〝ロード歴史の本文〟。知るだけで禁忌となっている遺物の中でもさらに知られにくい遺物の名を出され、ある程度の事情を知る者ならそうなるのも無理はなかった。
「……!!〝ロード歴史の本文〟!!?知らんな!!何だそれは!!」
「とぼけても無駄だ。ここにある事は分かっている。何なら――」
ミンク族の否定にそう言うオレは鯨の形をした巨木、特に鯨の尻尾辺りを指差す。
「あそこの中にある事もちゃんと分かっている」
「「「!!!」」」
オレの指摘にミンク族は顔をしかめてしまう――バレてると。
「それからもう1つは――あんたらミンク族が全員」
「百獣海賊団に入ってもらう事だ」
「「「!!?」」」
「……ふっふざ「これらの要求を否定すると――」けるな……」
「地獄を見る事になる。オレからは要求に従うのを勧める」
オレがそう言い締めるとミンク族は――
黙って構え出す。そこから判明する答えは――どうやらオレ達に抵抗するという事だ。
オレ達の要求を受け入れられなかったようだ。
まぁ予想通りの反応だがな。
「……フン、お坊ちゃまのせっかくの善意を……」
「ムハハハ!こうなったら〜後悔させてやるよ……!」
ミンク族のそんな態度を受け、キングさんもクイーンさんも構え出す。
「――全く、あんたらがそうするつもりなら……」
オレは「王武」を手にしながら呟いた。
「加減できんからな?」
●
「モンさん!!」
「くそ!!」
「ギャハハ!やれやれ〜!!」
「忘れんなよ!!ミンク族は生け捕りにしろ!!新たな戦力にするからな!!」
「はっ!!」
ミンク族は町の中に侵入してくる百獣海賊団に苦戦を強いられていた。
いくら〝生まれながらの戦士の一族〟でも並レベルではない百獣海賊団を相手にしていては町民程度じゃ歯が立たない。
状況が悪化している事実にミンク族が焦っている中――
「うおぁ!!?」
「「「!!」」」
海賊の1人が剣を持つマントと帽子を纏ったミンク族に斬り伏せられた。
そして同じ様にマントと帽子を纏った、町民とは思われにくい集団――ミンク族の戦士の集団。
「おぉ!!〝銃士隊〟だ!!」
「〝銃士隊〟が来てくれたぞ!!」
「待たせたな!!」
「町民達は森へ下がるんだ!!」
「分かった!!」
「彼らに任せて町民は森へ!!」
「アァ⁉誰だアイツら!!」
「どうでもいいだろ!どの道全員生け捕りにするんだからな!!」
「……いや、アイツら――」
「油断すんな!!おそらくこの国の兵士だろうよ!!」
〝銃士隊〟と呼ばれるミンク族の兵士達の登場に対して町民達は安堵し、彼らの足手まといにならないように下がっていく。一方、海賊側では少しは骨がありそうな相手の姿に戦意を燃やし、好戦的な笑みを浮かべた。それこそミンク族より獣らしい笑みを。
「貴様らぁ……!!許さん!!」
「――皆!!一斉にかかれ!!」
「おぉ!!」
〝銃士隊〟が一斉に百獣海賊団にかかっていく。海賊達も迎え撃ち――激突が起こった。
「うお⁉」
「!ほぅ……なかなかやるじゃねぇか……さすがはミンク族の兵士共!」
「ぐぅ⁉」
「強い…!……今までの侵入者とは格が違うか」
先程の町民達との戦いと違って、どちらも優勢でも劣勢でもなくバランスが一応保てていた。
そんな中、ミンク族の兵士2人がキングとクイーンに立ち向かいに駆け込む。
「貴様らさえ倒せば!!」
「覚悟ぉ!!」
2人はミンク族特有の電流――「エレクトロ」を纏わせる剣でキングとクイーンに斬りかかろうとするも――
「――⁉き、効かないのか⁉」
「……フン」
攻撃を確かに受けたにも関わらずダメージが見受けられないキングが兵士に向かって右拳を構える――
「〝炎皇〟‼!」
「ギャアアア〜!!」
キングの炎を纏わせる右拳――〝炎皇〟を身に受けた兵士は身体を燃えされながら倒れていく。
「んなぁ⁉」
「ムハハハ!」
一方、クイーンは俊足な動きで攻撃をかわし――
「んおらぁ!!」
「おぼぁあ!!」
武装色と力を込める左拳を兵士に食わしてやった。その拳を受けた兵士は勢いで吹っ飛ばされていった。
「な、な、なんだ!!アイツらは!!」
「く、黒ずくめの奴は燃えている!」
「あのデブの癖になんてスピードだ!」
キングとクイーンの強さに肝をつぶされた銃士隊はあんな怪物を相手にするのかと士気が少し下がってしまう。それに気付いた海賊が襲いに駆け込む。
「今だ!このままつぶ――「「させぬ!!」」ごはぁ!?」
「「「⁉」」」
だが、勢いよく駆け込んだ海賊が突然、華麗に空に飛ばされた。
その海賊を吹っ飛ばしたのが――
「!!――イヌアラシとネコマムシだ!!2人が来てくれたぞ!!」
「「「おぉ!!」」」
「2人さえ来てくれば何とかなる!!」
イヌアラシとネコマムシ――
モコモ公国最強の戦士2人の登場に銃士隊は湧き立つ。だが――
「ぬぅ……!!」
「ゆガラは……!!」
イヌアラシとネコマムシはキングとクイーンの姿に冷や汗をかいてしまう。そして胸中に浮かんできてしまう――予想以上の最悪事態だ。
「!ほう……確かイヌアラシと…ネコマムシだったか……遺体がないから上手く逃げられたと思っていたが、当たりのようだな」
「ムハハハ!だが〜♪オレ達がここへ来る理由があったのが〜お前らの運の尽き〜♪」
「……〝ロード歴史の本文〟か……!」
「…!」
イヌアラシとネコマムシの姿を確認したキングとクイーンは不敵な笑みを浮かべる。
――〝ロード歴史の本文〟とミンク族を手にするだけの任務に更なるごちそうが用意されているとは……!
これで仕事が減る!
そんなキングとクイーンの姿にイヌアラシとネコマムシは歯を食いしばる。
「…イヌ」
「……分かってる!ゆガラに思うところがあるが、ここは忘れてやる!!」
ネコマムシがイヌアラシに真剣でしかしどこか弱々しい声を掛ける。その意図を察したイヌアラシは彼にそう声をかけ返す。
実は――2人は元々親友だったが、光月おでんの家臣「赤鞘九人男」の生き残りでもあった。それが絆を深くしていたが、1年前の主君であるおでんの最期により仲違いしてしまった。
おでんが釜茹でを耐えきったのに興奮したネコマムシがつい宿敵カイドウを煽ってしまった。その煽りをオロチが利用して〝銃殺の刑〟を言い渡してしまった。
それによっておでんが死んでしまった――イヌアラシはその流れからネコマムシがおでんを死に追いやったと怒り狂い、ネコマムシも自身の不用意な言葉が主君を死に追いやってしまったと心に深い傷を負ってしまった――
2人が顔を見合わせると主君の最期を思い出してしまうから距離を置いていたのだ。
だが、今回は主君の仇である百獣海賊団が〝ロード歴史の本文〟を求めて、またミンク族そのものを求めて襲撃して来た事を知り、こんな時でも仲違いする場合ではないと共闘を決意したのだ。
「行くぞ!ネコ!」
「……あぁ!!」
イヌアラシとネコマムシがキングとクイーンに斬りかかろうとし、キング達も迎え撃とうとする。
だが――4人の上から影が落ちてきた。4人がハッと見上げるとそこには――
「リュドドドド!!」
「⁉あの時の……⁉」
「カイドウのガキ⁉」
「お坊ちゃま⁉」
「えぇ〜⁉」
高笑いしたオレが「王武」をイヌアラシとネコマムシに振り下ろす。
「〝雷鳴八卦〟!!!」
「「!!」」
イヌアラシとネコマムシはスサノオの〝雷鳴八卦〟を受け止めるが――
「くっ……!」
「ぬぅ……!」
その衝撃を受け流せられず、背を大地に付けられてしまった。
後方に飛び下がったオレはキング達に言い放つ。
「リュドドド!キングぅ!クイーン!こいつらはオレに譲れ!!」
「……フッ、いいだろう」
「ムハハハ……犬、猫ぉ〜お坊ちゃまを失望させんなよ〜」
キングとクイーンの承認を受け取ったオレは立ち上がってくるイヌアラシとネコマムシにニャリとする。
「リュドドド……やろうぜ!!」
「……舐めるな!」
「子供やきって加減してくれる思うな!!」
2人はそう怒鳴りながらオレに斬りかかってきた。
2人の攻撃に備えて、オレは牛マル達を思い出しながら「王武」の剣を構えた。まるで刀を構えるかのように――
「ウォオオオオオ!!!」
「ニャガアアアア!!!」
2人の剣があと少しでオレに当たろうとする瞬間――オレは「王武」を横に構え直して振り掛ける。
「〝雷光八卦〟!!!」
「⁉ぐっ!!」
「⁉ぬぅ!!」
オレの〝雷光八卦〟を受け止めた2人は後ろに押され込まれる。
「――はぁ!!」
その隙を逃さないオレは「王武」での連続突撃を2人にかけた。
「むっ!!」
「がぁ!!」
2人も負けじとオレの連続突撃に剣で斬りかかり続ける事で対応してきた。
「――はぁ!!」
オレはすぐ膝を折りながら「王武」を構え直し――
「〝雷鳴八卦〟!!!」
2人に「王武」の金棒を下方から振り上げた。
だが同時に2人も「王武」を剣で受け止めた。そしてその瞬間に電撃を放つ。
「⁉」
電撃を受けて身を固めたオレだが――
「――ウォオオオオオ!!!」
負けじと「王武」を振り上げた。2人が吹っ飛ばされていくも空中で回転して降り立った。
「リュドドド……やるじゃねぇか、効いたぜ」
「……まるでゆガラの動きから侍のそれを感じたようだが――」
「……お前もか、わしも感じたぞ」
「リュドドドド……侍と戦ってきた時にその動きを覚えておいたからな」
「……そうか……だが侍の真の力はここからだ!!」
「侍をねぶりなさんな!!」
「侍を舐める覚えはねぇな!!」
そう言い合うオレ達は互いに相手に駆けていく――
●
オレ達が戦い始めて1日を過ごした。
「ハァ…ハァ…何という体力だ……」
「ハァ…ハァ…そろそろくたばりやがれ……!」
「リュドドド!寂しい事言うなよ、楽しもうぜ!……ハァ……」
1日戦い続けた為に疲労が見えやすくなっているイヌアラシとネコマムシがオレの体力について毒吐いた。2人にとってはうんざりだろう。
オレはできるだけ戦い続けたいんだがな。何せ光月おでんの家臣という強者の戦いという機会は早々ないだろうからな。
とにかくオレ達の戦いは1日経っても、互いにダメージを多く受けても中々決着が付かない。だが――
「いや、終わりだ」
突然キングさんがイヌアラシとネコマムシの背中を斬ってきた。その攻撃がもとで2人はとうとう気絶した。
「が……!!」
「ぐは……!!」
「なぁ⁉」
思わぬ形での決着に唖然としたオレはキングに怒鳴った。
「キングぅ!!どういうつもりだ!!」
「すまんな、だがカイドウさんの命だ」
「ムハハ……そうだぜ、カイドウさんはお前の帰還を首を長くして待っているからな〜♪早く帰らせろとだってよ」
キングとクイーンがオレの戦いをこんな形で終わらせた理由を説明した。その理由にオレは。
「……はぁ〜そういう事なら仕方がねぇな……」
渋々納得した。何せ父親であり、上司の命だからな……
ふとハッとするオレはキングさんとクイーンさんに現状を問いかける。
「〝ロード歴史の本文〟とミンク族の生け捕りは?」
「安心しろ、〝ロード歴史の本文〟は入手した。船に運び終えた」
「ミンク族に関してはこいつら以外は生け捕りにして船に連行したぜ〜♪」
「そうか……なら、ここに用はないな」
モコモ公国へ来た目的を果たしたオレ達はその国から撤退した。
――こうして百獣海賊団は第3の〝ロード歴史の本文〟を入手した事で2つの〝ロード歴史の本文〟を所有する事になった。
また〝生まれながらの戦士の一族〟ミンク族は百獣海賊団の元で飼い込まれる事になった――
そして……民がいなくなったモコモ公国は滅ぶ事になる――
背後を静寂が支配しているのを感じた象主は吠えた。
「パオオォ――ン!!!」