ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第28話〝火雷と火水〟

ワノ国 オプルリング

 

 その地に建てられている多数の四角形闘技場の1面に2集団が座していた。彼らは――

 

「お前ら!スサノオさんを討とうとするシシリアンの奴らをぶっ潰してやれ!!!」

 

「「「オオオ――!!!」」」

 

「お前達!ミンクの誇りを明日郎の奴らに見せてやるのだ!!!」

 

「「「オオオ――!!!」」」

 

 1集団では明日郎の言葉に賛同する人々が雄叫びを上げ、もう片方の1集団ではシシリアンの言葉に賛同するミンク達が雄叫びを上げていた。

 ――実はオプルリングが完成されて以来、今のように明日郎率いる集団とシシリアン率いるミンク集団が実戦訓練という形で激突し続けていたのだ。

 ……といっても今はとりあえず実戦訓練を一旦ストップさせて作戦立案・休憩時間のようだ。

 とにかく雄叫びを上げているシシリアン達を冷静に凝視する1人のミンクがいた。

 

 ――ジャガーのペドロだ。

 

 彼はスサノオに対して複雑な感情を抱いていた。

 まずスサノオはモコモ公国を滅ぼしたミンク族にとっての憎き仇敵だ。

 だが――フレバンス王国の民救済、天竜人からの奴隷解放を成し遂げてきたあの男の姿を見ているうちにペドロはある思いを抱えるようになった。

 もしや――アイツこそが世界を夜明けへと導く者なんじゃと――

 モコモ公国だけでなく〝光月家〟をも滅ぼしたアイツがそうなのだと確信をまだ持てないし認めたくない――だが、アイツの行いは確かに常識破りだ。そう、どこかあの海賊王を思い出させているような……だからこそ様子を見て見極めるつもりだ。

 ――それにワノ国の現状も問題だ。

 ミンク族にとっての古くからの兄弟分である「光月家」が百獣海賊団に滅ぼされ、ワノ国を荒れされているのにペドロも怒りを覚えていたが、後から知った光月おでんへのワノ国の人間の態度には眉をひそめたものだ。

 それだけではなくスサノオの影響によりワノ国が少しずつ自然を取り戻せている上に発展を遂げている――何より支配下の人間への扱い方も悪くなくなってきているのも知って、スサノオに対してストレートに嫌悪感を感じられなくなってしまった。むしろアイツを慕っている明日郎達の気持ちをつい理解してしまう。

 そういう意味ではスサノオへの抵抗感をズレさせないシシリアンの事が羨ましく感じている事もあった。

 ――そのように葛藤しているペドロだからか、外の状況に気付いていなかった。ペドロがハッとした時はもう既に実戦訓練が再開されていた。

 

「シシリアンぅぅぅ!!」

 

「明日郎ぅぅぅ!!」

 

 雄叫びを上げ合う明日郎とシシリアンの得物が激突するのをきっかけにそれぞれのところで数々の激突が起こっていた。

 

「フン!」

 

 シシリアンは電流を流す剣を明日郎に振り下ろすのに対して彼は――

 

「おらぁ!」

 

 火を纏わせる刀を振り返す。

 その二本の得物が激突する途端に互いに得物を振り続けた。その勢いにより火がシシリアンに、電流が明日郎に襲いかかり2人の身体に火傷ができていた。

 やがて2人とも後ろに下がった。

 

「……エレクトロを扱える我々が言うのもなんだが…火を纏う剣はなかなか厄介だな」

 

「……ニッ」

 

 シシリアンの言葉にニッとする明日郎の刀は――燃えていた。火を纏っているのだ。

 そう――明日郎は狐火流の使い手であった。

 

 狐火流――

 

 ワノ国に伝わる自身の剣から炎を放ち、なおかつ炎を斬る事ができる流派の剣術である。

 「赤鞘九人男」の1人、錦えもんもその使い手である。

 

 ワノ国に伝わる流派の剣術を扱う明日郎にシシリアンは目を細める。

 

「――何故だ?」

 

「!?」

 

「何故、ワノ国の人間である貴様がワノ国を破壊する奴らに従っているのだ?」

 

 シシリアンのおそらく純粋な疑問に明日郎は目を細め――

 

「――当たり前だ……」

 

「ここ――ワノ国はな、オレ達にはクソなところなんだよ!!それこそ「明日」が見えねぇ程にな!!」

 

「でもよ!カイドウさんとスサノオさんがここをぶっ壊してくれた上に――「明日」を見せてくれた!!」

 

「なら――スサノオさんの為に戦うのが筋ってヤツなんだろうが!!!」

 

 明日郎のその力説に近くにいるペドロも顔をしかめる一方でシシリアンは目を細める。

 

「……そうか、お前の意思は分かった」

 

「だが、故郷を滅ぼされた者として――」

 

「スサノオはもちろん奴に従うお前らと戦わない訳にはいかんのだ!」

 

 シシリアンの力説に明日郎も否定せず――頷く。

 

「そうだ……オレ達は戦う宿命なんだよ!」

 

「フン……それには同感だな!さぁ!戦いを再開するぞ!」

 

 その言葉を最後に2人は睨みつけ合う。

 

 ――スサノオに救われ、彼を慕っている明日郎。

 

 ――スサノオに故郷に滅ぼされ、彼への報復を誓っているシシリアン。

 

 それぞれの男が率いる2集団が馴れ馴れしく交わらずに激突するのが必然である……

 

 ――その筈だったが

 

「「(……言えねぇ)」」

 

 明日郎とシシリアンの脳内にその言葉が浮かんだ。2人の脳内に続いて浮かんだ言葉こそが――

 

「(……実は雷の剣を持つ獅子のミンクだなんて……すごくカッコええだなんて……口を裂いても言えねぇ!)」

 

「(……火の剣を扱える明日郎の勢い、威容には脱帽なんか……言えん!)」

 

 ……その言葉が脳内に浮かんだ2人の顔は……白目ながら冷や汗をかいていた。

 この2人は脳内に浮かぶ言葉を否定するかのように素早く顔を激しく振って――相手に向かって技を発動した。

 

「〝焔霊〟!!!」

 

「〝獅子の爪〟!!!」

 

 ……どうやら明日郎とシシリアンがぶつかり続けているうちに2人の間には奇妙な絆が築かれていたようだ。

 

 とにかく明日郎の火を纏わせる刀とシシリアンの電流を走らせる剣が激突しているところに――

 

「…」

 

 その激突を陰から凝視する青緑色の髪の少女がいた……

 

          ●

 

その一方――

 

 明日郎とシシリアン達のとは別の四角形闘技場

 

 そこである2人が対峙していた。

 

 ――フドウとジャックだ。

 

 ジャックがつい先程リュウグウ王国での修行を終え、そこから久しく帰ってきたのだ。

 リュウグウ王国に伝わる魚人が扱う武術――「魚人空手」をマスターできたジャックの強さを見極めようとフドウが彼に手合わせを申し込み、ジャックもそれを素直に受けて立った。

 ちなみにジャックが慕っているスサノオはジャック自身がワノ国に帰還してすぐに彼に自身の腕を披露してきた為にその強さを既に知っている。

 ――さらに魚人が扱う武術は「魚人空手」以外にもう一つ――「魚人柔術」が存在している。それは 「水」の形を変える事で攻撃・移動に活用する事ができる武術なのだが――扱うには「水を掴んで操る」必要があるのだ。もう既に悪魔の実を食って能力者になったジャックには扱えなかったのでマスターできなかったのだ。

 

 ――まぁ、それは置いといて……目を見合わせているフドウとジャックの目は鋭かった。

 

「……今の貴様の強さがどのくらいか見せてもらうぞ」

 

「フン……来い!」

 

 フドウのその言葉にジャックは両拳を構える――なのだが。

 

「…」

 

「……あ?何で来ねぇんだよ。てめぇ」

 

 動かないフドウにジャックは怪訝そうな顔を見せ――

 

「フン……貴様の強さは攻撃を身に受ければ分かる話だ……分かったらさっさとかかってくるがいい」

 

「……あ?」

 

 フドウの自身をナメてるような態度にジャックは額に青筋を走らせ――

 

「言ったな……なら言葉通りにしてやるよ!」

 

 そう雄叫びを上げたジャックは右拳を構え、そのまま――ジャックの右拳がフドウの腹に叩き込む。

 

「〝三千枚瓦正拳〟!!!」

 

「!!」

 

 ――フドウの種族、ルナーリア族は「あらゆる環境下で生存できる」と称えられるだけはあって、背中の炎が燃えている間はどのような攻撃を身に受けてもダメージを受けないという体質を持っている。すなわちジャックの拳等フドウには効かない――筈なのだが。

 

「…!」

 

 なんとフドウが体勢を崩しかけていた。なんとか体勢を持ち直したフドウはジャックに対して驚きながらも思わず感心していた。

 

「……効いたぜ。これが「魚人空手」……魚人の力か……」

 

 ――「魚人空手」の真髄は「周囲一帯の『水』の制圧」とされる。水中や水面などは勿論、大気中や物質内に存在するあらゆる「水」を利用する事で通常の空手を遥かに超える攻撃力を生み、幅の広い応用性を備えている――それこそ大気中から体内の水に振動や衝撃を伝えられる程だ。

 

 「魚人空手」のそういう特徴を発揮できたジャックの拳がルナーリア族の体質を通り抜いてフドウに届いたのだ。

 フドウのダメージを受けた姿を見て満足したジャックは言葉を放つ。

 

「フン、いい様だな。調子に乗っているからだ、焼き鳥が」

 

 ジャックの挑発に目を細めるフドウ。

 

「――調子に乗っているのは果たしてどちらかな」

 

 そう呟くフドウの右拳に火を纏わせていく。それを目にしたジャックも右拳を構える。

 そして2人は互いに相手に拳を叩き込み合う。

 

「〝炎皇〟!!!」

 

「〝三千枚瓦正拳〟!!!」

 

 2人の拳が激突し――爆発を起こした。

 その爆発が2人を後ろに下がらせた。しかしフドウが怯まずに右拳を構えながらジャックに駆け寄る。それに対してジャックも右拳を構える。

 2人の距離が小さくなった途端にフドウが再び〝炎皇〟を叩き込もうとする――が

 

「!!?」

 

 〝三千枚瓦正拳〟を再び叩き込むかと思われたジャックが突如フドウの右腕を掴み――

 

「フン!!」

 

「なぁ!!?」

 

 フドウの身体を背負ったジャックがそのまま彼を地に叩きつけた!

 

 ――確かに悪魔の実の能力者になった故に魚人特有の遊泳能力を失ったジャックだが、それでも水流の流れを読める魚人ならではのある視点は失われてはいない。

 その視点、そして一応覚えてきた「魚人柔術」の際の動きを応用する事でこういう事ができるのだ。

 

 とりあえず地に叩きつけられたフドウに鼻を鳴らすジャック。

 

「フン!やはりいい様だなぁ……翼をもがれた焼き鳥よ?」

 

「……上等だ」

 

 ジャックの挑発にフドウは恐ろしい程に静かにそう呟き――フッと姿を消した。

 

「!?消え――がぁ!?」

 

 フドウの姿が煙のように消えた事態に目を見開くジャックが突然ダメージを受けた!

 

「な、何が――がぁ!?ぐぁ!?」

 

 自身に起こった事態に疑問符を浮かべるジャックだが、ダメージを受け続けた。

 

「……!!まさか、これがルナーリア族の……」

 

 こういう事態の原因にジャックが見当が付いた。

 

 ――ルナーリア族の体質には背中の炎が消えると防御力は落ちるものの、その代わりに技や移動の速度が上がる特徴も存在している。

 

 それで驚異的な機動力でフドウがジャックにおそらく〝炎皇〟を叩き込み続けていたのだ。

 

「(――速ぇな!――なら……)」

 

 速すぎて姿が見えにくいフドウの攻撃に対してジャックはある策を考えついた。やがて――

 

「!!(今だ!!)」

 

 ジャックが新たなダメージを受けた瞬間に両拳を振り回った。ジャックにはダメージが通った瞬間――それはフドウが身近にいるのを意味する。なら、その瞬間にこうすればフドウを捉えられる筈だと――

 ジャックの策が効いたか、ジャックの両拳を食らったフドウの姿が吹っ飛ばされた形で見えるようになっていた。

 その姿を見捉えたジャックが彼の隙を逃さず、駆け寄り――連続パンチを食らわした。

 

「がっ!ぐぁ!」

 

 ジャックの連続パンチを食らったフドウが更なるダメージを受けた。

 

「ウォオオオオオ!!」

 

 それを目にしたジャックは休まずに連続パンチを続けた。だが

 

「……オラァ!!」

 

 フドウが負けじとジャックの顔に〝炎皇〟を叩き込んだ。思わぬ攻撃にジャックも体勢を崩されかけるが

 

「なんの!」

 

「来るか!」

 

 ジャックも〝三千枚瓦正拳〟を返し、それにフドウも〝炎皇〟を返す――互いに譲れられない2人は負けじと殴り合いを始めた。

 ――その殴り合いから火炎と衝撃波が飛び交って、それはそれは激しかったそうだ……

 

          ●

 

「「ハァハァ……」」

 

 あれから殴り合いを続けてて、流石に息切れした2人はそれでも互いに相手を鋭く見つめる。

 

「……そろそろくたばれ。貴様」

 

「……てめぇがな」

 

 そう言葉の掛け合いを終えた2人は相手に拳を叩き込もうとして――

 

「はい、そこまで」

 

 その声と共に2人の間に火が湧き出た。

 

「!?」

 

 それに驚愕するジャックだが、対してフドウの方は冷静だった。

 

「……ハッテンか」

 

 2人を制止する為に火を発火させたのがフドウの弟――ハッテンであった。

 どこからか突然現れた彼の姿にジャックは目を見開く。

 

「……お前、どこから……いや、いつの間に……?」

 

 ジャックのその疑問にフドウが答えた。

 

「ハッテンはお庭番衆に弟子入りし、「忍」の技術を身に着けたからな……」

 

「……ふふっ、僕は「忍」が好きでね……」

 

 ――実はスサノオとヤマトが「侍」に感嘆し憧れているようにハッテンも「忍」に感嘆し憧れていたのだ。だからお庭番衆に弟子入りして「忍」の技術を身に着けたのだ。もちろん、その技術はルナーリア族特有の能力でさらに強化されていったそうだ。

 しかも彼の影響により百獣海賊団配下の諜報・隠密分野は新たな革命を迎えているらしい……

 そういう事情を知らされたジャックは感心していた。

 

「――このオレは戦うしか能がねぇからな……お前のような奴がスサノオさんに必要だぜ」

 

「……ハハッ、ジャックさんがそうおっしゃってくれると頑張り甲斐があるものですね」

 

 ジャックの称賛にハッテンも微笑む。そして

 

「それで……兄上、ジャックさんの強さはどうなんですか?」

 

 ハッテンの問いかけにフドウとジャックは一瞬顔を合わせ、すぐ逸らした。

 

「……フン、少なくともスサノオさんの足手纏いにならないのが分かった」

 

「フン、当然だ。このオレこそがスサノオさんの右腕だからな」

 

「……あ?スサノオさんの右腕であるオレを前によくそんな戯言をほざいたものだな……格の差を知れ」

 

「あぁ?てめぇこそオレの格というものを知ったんだろ。てめぇがオレをありがたれ」

 

「……言ったなぁ、貴様ぁ……よかろう、貴様には本当の炎というものをみせてやる」

 

「上等だ。てめぇの火等、オレが鎮火してやるよ」

 

 2人の互いの言葉が相手の癇に障って、激突を再開してしまう。

 殴り合いを再開しようとする2人の姿を見るハッテンがため息をつく。

 

「はぁ〜また兄上達は……しかしフドウとジャック……火のルナーリア族と水の魚人族か……ププッ」

 

 ハッテンはまさに「火水の仲」という言葉を証明している2人の関係に呆れているも――おかしいような様子が見受けられた。

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