第30話〝海へ〟
『うん、オレは――オレ達「ガキ集団」を海賊団として再編成しようと思っているんだ!!』
『オレ達が「百獣海賊団」に正式に入るまではただの一海賊団として海を渡りたいんだ!!!』
「……あれから7年か」
過去の自分の決意を思い起こしたオレは感慨深くなり、その口からそう漏れた。今オレは港に立っていて、そしてその港に繋留されている船を眺めていた。
かつて「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子〝暴獣のスサノオ〟率いる「百獣海賊団」の船員の子供達で結成された「ガキ集団」から「暴獣海賊団」へ再編成された時の事だった。
カイドウは「暴獣海賊団」が本格的に船出する期日はスサノオが17歳になる時、すなわち7年後に設けた。
それから7年――ついにスサノオ率いる「暴獣海賊団」が船出する時が来たのだ。
「リュドドド……いよいよだな」
しみじみとそう呟くオレの風貌は7年前とはすっかり見違えるようになっていた。
親父に及ぼさなくとも5m程近い体躯になった上に筋骨隆々にもなった。そしてオレの体が成長するに伴って感覚的に小さくなった〝王武〟の代わりにその3倍も大きい――〝神武〟を装備している。
そこには凶悪な外見をする親父にも負けない程の〝圧〟を放つ海賊がいた。まさに〝最強生物〟という異名をも持つ「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子にふさわしいといえよう。
そんなオレが「暴獣海賊団」の船出をまるで子供であるように待ち望んでいた。
無理もねェ。今からオレは自身が見込んだ仲間達と共に冒険の旅に出るのだから。その事によってオレは船を見つめながら期待に胸を躍らせていた。
その時だった。
「お兄さん!」
オレの元に女性が駆け寄ってきた――否、「
その者にオレは朗らかな笑顔を向ける。
「おう、ヤマト――やはり待ちきれなかったのか?」
「うん!これでようやく冒険ができると思うと……」
「すごく心踊るんだ!!」
同じくそう朗らかな笑みを浮かべたのはオレの「
「彼」の風貌については7年の時間を過ごすうちに身体が女らしく成長していた。もっとも、本人は揺るがず「男」のつもりなんだが。
そしてその豪快な精神と〝覇気〟がしっかり育んでいた。それこそ猛者にも負けないといえる程に。
光月おでんにも憧れているヤマトは彼のように自由に冒険してみたいと長らく考えてきた。それがついに叶えられようとする故にヤマトはうずうずしていた。
そう、オレと同じく……いや、もしかしたらオレ以上に興奮しているかもしれない。
とにかく迫る船出の時を前にするオレ達はしばらく談笑した。するとそんなオレ達に新たに声をかけられた。
「「スサノオさん」」
今度はオレ達の元へ歩を進めてくる影が3つ。
それは仲間達の中でも最もオレを支えてくれている懐刀といってもいい2人、フドウとジャックだ。そしてフドウの弟ハッテンだった。彼らもまた7年の時間を過ごすうちにたくましく成長していた。
フドウはまさに黒き〝不動明王〟の如く威風堂々としていて、ジャックはオレより筋骨隆々としていた。
ハッテンは黒き〝大天狗〟を彷彿とさせる特徴的な風貌をしているのにも関わらず、どことなくその存在感が少し希薄になっているような気がした。これも影に生きし者の技術だろうか……?
それはとにかく
「おッ、お前らもか。やはり待ち遠しいのか?」
「ええ、父上とは無関係にオレの実力を試みる絶好の機会ですからね」
「何でもいいです。このオレがスサノオさんの盾になればそれだけで」
「はは……ジャックさんも真面目だね〜」
オレの問いかけに3人それぞれ回答した。彼らもまた父親達とは無関係に自分だけの力で挑戦するんだと船出の時を待ち望んでいた。
一見冷静な3人でもその内には熱いものが込み上げているのを感じ取れたオレはニヤリとした。
そんな3人を交えてオレ達が会話していると新たに2人がやってきた。
「暴獣海賊団」に所属するミンク達を率いるミンク――ライオンのミンク、シシリアンとジャガーのミンク、ペドロだった。彼らは未だに燃えている敵愾心を胸にオレ達を睨みつける。
……ただ、気のせいか。その目がどこか複雑なように感じられる。
といえ、同じ海賊団の仲間だ。だからオレは2人に向けて笑みを浮かべる。
「リュドドド、せっかくのこの日にそういう表情はよす方がいいんじゃねェか?」
「……フン!!オレ達がどう考えようともお前には関係のない話だ!!」
「……(この航海で
オレにそう言われてもいつものように尻尾を向くシシリアンと何やら考え悩んでいる様子のペドロだが、オレには最初に出会った頃より距離感が縮まっているように感じられた……まァ、まだまだかもしれねェが。
とにかく次々と人が集まってきているオレ達の元へ新たな者がやってきた。今度は8人も。
かつて貧しい身だったのが今は腕の立つ剣客に成長した明日郎。
オレ達と兄弟のように育ったうるティとページワンの姉弟。
このオレに見初められた強大な素質を秘める小紫とその親友ブラックマリア。
そして今の「百獣海賊団」の経済形態を作り上げたエンターテイナーにして「暴獣海賊団」の経理係をも務めてくれているテゾーロとその妻ステラと息子ノヴァだった。
明日郎はシシリアンとペドロを凝視しながら口を開く。
「……妙なマネをさせないように見ておくからな。シシリアンとペドロォ」
「あァ!?」
「……」
明日郎の威嚇に反応するシシリアンとペドロに対してうるティが噛みつく。
「お前らよォ!!スサノオさんをナメんじゃねェごんす!!」
抑制がきかない程に暴れかけるうるティをページワンが何とか抑えようとする。
「姉貴!!そう噛みつくのをそろそろやめろ!!あとごんすって何だ!?」
姉を抑えるのに苦心するページワンの姿を眺める小紫がつい呟く。
「……ページワンも苦労してるのね」
うるティ達の騒ぎっぷりに何とも言えない小紫に向けてブラックマリアは微笑みを浮かべる。
「ふふっ、でも楽しいわよ?小紫」
ブラックマリアが口にしたその言葉に賛同するかのようにテゾーロもその騒ぎっぷりを眺めながら朗らかな笑みを浮かべる。
「ハハハ!船出記念だからこそ、騒がしいのがちょうどいいのさ!!」
テゾーロが楽しそうにするのを見てステラも微笑みを浮かべる。
「ふふっ、それもそうね。海賊らしく騒げばいいわよね!」
そんな2人の子供であるノヴァも両親と同じく騒ぎっぷりを楽しそうに見て元気に万歳した。
「わー!さわぐ!さわぐ!」
人々が集まっているのにつれて騒ぎが少しずつ大きくなってきた。その騒ぎっぷりはいつも通りにみられるが、船出の時が迫るせいかオレにはいつもより大きいように感じられた。
とにかく、これで「暴獣海賊団」の主要メンバー達がその場に揃った。その人だかりにオレは笑みを深めた。
ふとオレはギルド一家に視線を移し、つい声をかけた。
「テゾーロ……いいのか?妻子を連れ込んで……」
そう、「暴獣海賊団」の航海にメンバーであるテゾーロはもちろんだが、メンバーではない筈の妻子もついて行くのだ。
これにはちょっとした事があった。それは暴獣海賊団船出の時が近付く中でのある夜だった。テゾーロがオレと自身達の今後に関しての議論を行ってるところでステラが言い出したのだ。
『――私とノヴァも乗ればいいのよ』
勝気な笑みを浮かべたステラが堂々とそう言い放ったのにテゾーロが唖然とした。
『ええッ!?おいおい!スサノオさんの航海に私も同行すべきといえ、君達を置いて出るのに迷ったら……この私はスサノオさん達と違ってまだ未熟だぞ!君達を守れるかどうか……』
素早くテゾーロがうろたえながらも妻を説得するが
『ふふっ、過保護なのよ。あなた……大丈夫よ!その時のために鍛えてきたのよ!そこそこの人には負けないつもりよ!』
『ちょっ!?き、鍛えてきた!?き、君まで戦う必要なんて――』
明かされたその事にますますうろたえたテゾーロが続けようとするところをステラは毅然とする態度をとり、夫に向けて言い放つ。
『あなただけを戦わせて私だけ安全地帯にいるなんて、そんなのごめんだわ!!あなたの妻として隣にいたいの!!』
『!……ステラ……』
『あなた……』
そうしてテゾーロとステラは互いに熱っぽく見つめ合う。
そんな2人にオレは恐る恐る声をかける。
『……あー、つまりギルド一家もオレ達の航海に同行って事でいいか?』
「ハハハ!我々の決意は硬いのだよ!黄金のようにね!!」
「はい、ご心配ありがとうございます!しかし、もう夫を待つだけの生活もあれなんで――航海に同行します!」
「……おう、お前らがそのつもりならこれ以上は言わねぇよ」
テゾーロとステラのそんな風に固き意志をうけてオレもこれ以上言葉をかけるのをやめた。そんなオレにフドウが声をかけてくる。
「これがオレ達の船なんだな?スサノオさん」
フドウは港に繋留されている船――青き〝竜〟の上半身のような船手が印象的な大型の帆船を見ながら言う。それを受けてオレはその船についての解説を始める。
「ああ!こいつはクイーンさんがオレに恥をかかせねェようにわざわざ自らの手で作ってくれたんだ!!」
「!クイーンさんが……」
クイーンさんが自ら動いてくれたという事実にフドウ達は感嘆する。その反応からクイーンさんを褒められたように感じられたオレは良い気分になりながら続ける。
「世界にたった数本しかなく、砲弾の降り注ぐ戦争で島中の人間が死に街が死に廃墟と化そうがものともせず立ち続ける巨大な樹「宝樹アダム」が船に使われているそうだ」
「海戦用の大砲が並べられているのはもちろんだが、補助外輪も付けられている」
「鉄張りのトレーニング・ジム、図書室など航海中も楽しめるようなものも用意されているそうだ」
「それがオレ達「暴獣海賊団」の船!!――その名を」
「〝カイリュー号〟!!!」
「「「おお〜〜ッ」」」
オレが解説した〝カイリュー号〟の性能に人々は感嘆の声を上げた。無理もねェ、その程は並の船とは格別だといえるんだから。
そんな〝カイリュー号〟に対してオレ達が感服する中でヤマトが手を上げる。
「お兄さん」
「ん?何だ?」
「〝カイリュー〟の由来って……?」
ヤマトは〝カイリュー号〟の名の由来を率直に問いかけてきた。その疑問にオレは苦笑して頭をかいた。
「ああ、それはな」
「「「?」」」
オレが言葉を濁すのに人々が首を傾げる。そんな人々にオレは思い切って答えた。
「このオレの船だからか、見ての通り船手がドラゴンだろ?海を泳ぐドラゴン、海竜にならんで単に〝カイリュー〟と名付けた――ただそれだけなんだ」
そう、ただそれだけだ。その単なる事実を暴露したオレはその単純さに苦笑したが
「なるほど〜思ったよりシンプル……だけど、だからこそいいかも!」
「確かに……シンプルだが、しっかりくるな」
予想外な事にその理由での名付けを人々が逆に好ましく思った。その思わぬ反応につい片目を見開いたオレは試しに確認してみた。
「いいのか?我ながらシンプルだなと思ったが……」
オレがそう言うのに対して人々は言い出す。
「シンプルかもしれないけど、カッコいいからいいじゃん!」
「逆にしっかりくる名を他に思いつかないだろうし……良いでは?」
人々がそう言い張るのを受けてオレも納得できた。
「……フッ、お前らが良いなら別にいいさ」
そうして我らが船の名は〝カイリュー号〟で決まる事になった。
その事によってその場の空気が晴れやかになる中でフドウがある一点を見上げて呟く。
「……オレ達の旗も映えるな」
「!……リュドドド、そうだな」
その言葉にオレも見上げる。それにつれて人々も同じく見上げる。
オレ達が見上げているのは〝カイリュー号〟のマストであるが、そこにはオレ達「暴獣海賊団」の旗が風を受けてバタバタと揺れていた。それを見てオレはやはり感慨深くなった。
すると――
「ウォロロロロ!!いい船じゃねェか……!」
その場に声が大きく響いた。しばらくするとその声の主が姿を現してきた。それこそが――
「!やはり来たのか、親父達……!」
そう、親父――カイドウとその両腕だ。彼らはオレ達の船出を見送りにやって来たのだ。
親父は今まさに皇帝の如く威風堂々としているが、その雰囲気から普段とは少しだが穏やかさを感じられた。彼はオレ達の船出を率直に祝福してくれているのだ。
「ウォロロロ……」
そして親父の右腕として堂々とするキングさんもマスクの下で微笑んだ。背面の炎を大きく燃やしながら――
「フッ」
一方でクイーンさんもまた普段よりさらにハイテンションで笑っていた。
「ムハハハハ!!」
そんな親父達の登場に人々が驚愕する。
「お父さん!」
「父上……」
仰天した我が子達に向けて親父達はニヤリとしながら言い放つ。
「ウォロロロ、息子達の晴れ舞台を見ねェ訳にはいかねェんだろ!!」
「フッ、お前達の海賊活動がこれから本格的になるんだからな」
「ムハハハ!!お前らもいい面構えになったんじゃねェか〜♪」
そんな風に「暴獣海賊団」の船出を喜ばしく思う彼らにオレが声をかける。
「親父、キングさん、クイーンさん。オレ達に何か言葉はあるのか?」
その問いかけに親父達は一瞬目を見開くものの
「ん?……いや、別にねェな!あるとすれば――ただ「楽しめ」というぐらいだな!!」
「それはそうとして、〝金色神楽〟をやる前日に必ず帰って来いよ!!」
「フッ、だな」
「ムハハハ!!お前らなら、その辺のカスどもにも負けずにいけるんだろうしな!!」
「お父さん……!」
「父上……」
親父達がオレ達に向けて激励を送ってくれた。それに人々は感激し、オレは微笑みを浮かべた。だが、同時に時期を悟った。
「――おぉぉい!!皆!!」
「「「!!」」」
突然オレがそう呼びかけるのに人々が気付いて視線を向けてくる。そんな人々に向けてオレは堂々と言い放つ。
「そろそろ出航の時間だ!!皆、〝カイリュー号〟に私物と食糧などを運べ!!」
「「「!……はい!!」」」
その指示に従って人々も動き出した。
「わァ!!」
「これが〝カイリュー号〟の甲板か……」
〝カイリュー号〟に乗った人々はその時に目に入ったその甲板に感動を覚えた。そこは完成したばかりな故に清爽感があるが、力強さをも印象付けられたからだ。
感服する人々にオレもついニヤリとしちまった。
「リュドドド!感嘆するのはまだ早いぞ!〝カイリュー号〟の真骨頂は船中にこそあるからな!……とにかくものを中へ」
「「「はい!」」」
そしてそう言い張ったオレがしまいに出した指示に従って人々がものを〝カイリュー号〟の中に運搬していくが、そこで鉄張りのトレーニング・ジム、図書室などを目にする事になり、感嘆の声を上げた。
その完成度に人々は航海中でも退屈せずに楽しめられると満足した。
とにかく人々は航海に必要なものを船中に収納していく。
やがて――
「リストに書いてあるものは全て運び終えたな?」
「はい!完了しました!」
「それで私物も運び終えたな?」
「はい!完了したとの事です!」
「よ〜し、これで出航準備は完了だな!」
「「「はい!!」」」
「暴獣海賊団」の出航準備が無事に完了できた。
その事を確認したオレは甲板を見渡す。そこに立つ人々もオレを見上げて指示を待っていた。そんな人々にオレは頷いて――
「――錨を上げろォ!!」
出されたその指示に従って〝カイリュー号〟の錨が上げられる。そして
「錨を上げ終えました!」
「よぅし!――進めェ!!」
その事を受けてオレがそう言い放つ。その途端から〝カイリュー号〟が海を進み始める。
その進行にオレはいよいよ航海が始まるんだと実感した。ふと離れていく港に視線を移してみるとそこで堂々と立つ親父が見つめていた。そんな親父をオレも見つめ返す。
そうしてオレと親父は視線を交わした。
「……行ってくるぜ、親父」
「……おう、行って来い」
オレと親父がそう言葉を交わした直後にオレは前を向く。
挨拶は済んだ。もはやこれ以上は無用だ。
そう考えたオレは堂々と立つ。そんなオレを人々も見上げながら言葉を放たれるのを待つ。そんな人々に応えてオレはついにその宣言を口にする。
「――「暴獣海賊団」!!!」
「出航だァ!!!」
「「「ウオオオオ〜〜〜〜ッツ!!!」」」
オレが堂々と放った宣言につれて仲間、部下達も雄叫びを上げた。そんなオレ達の勢いのままに〝カイリュー号〟が「ワノ国」の海を進んで滝に向かう。
――普通の出航じゃつまらんねェんだろ!!
――どうせなら、派手な出航にしようぜ!!
オレ達のそんな意向に沿って〝カイリュー号〟は滝から……飛び降りていった!!
――「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子〝暴獣のスサノオ〟率いる「暴獣海賊団」が船出を今ここに正式に果たした
☆「暴獣海賊団」、ついに海に出る!!