――暴獣海賊団が船出してからしばらく。
「リュドドドド!!幸先が良い出航だったな!!」
「あははは!!そうだね!!……ずーっとやってみたかった滝からの飛び降りだからこそ――最高だったなぁ!!…あー…今も心臓が強く打っているよ!!」
「フッ……あんたが率いる暴獣海賊団だからこそではある派手な出航だったな」
「いずれ「最強」になるあんたには普通の出航等……似合わねぇからな……!」
暴獣海賊団の威勢良すぎる出航に機嫌を良くしたオレはそう言わずにいられないのだ。
ヤマトも長らく試したいと思っていた滝からの飛び降りには頬を赤くする程に興奮していた――あまりの興奮によって「彼」の心臓が今も打ち続けているようだが。
対してフドウの方は興奮もせずに冷静に喋っている――ように見受けられるが、彼とは長くの付き合いがあるオレには彼が実は内心ではウキウキしているのが分かる――彼も滝からの飛び降りには興奮しているのだ。
ジャックの方は――冷静――でいようと努力しているようだが……やはり彼も滝からの飛び降りには興奮しているのだ。ただフドウと比べれてみれば、ウキウキしている様子を隠しきれていないのだ。
ちなみに――オレが実行させたカイリュー号の滝からの飛び降りにはなかなか度胸があるともいわれる暴獣海賊団の海賊達も昂ぶっているのはもちろんだが――実はさすがに微かな恐怖を感じていたのもご愛嬌だ。
「とにかく――進路はこの方向で良いんだな?」
「おう!構わねぇぞ!」
フドウからの確認にオレも相槌を打った。
――これから暴獣海賊団は〝赤い土の大陸〟に近しい方向にカイリュー号を進ませていくのだ。
ふとオレはそばで自身達の会話に静かに耳を傾げていたハッテンに視線を向けて、彼と目合わせた。そして彼が呟いた。
「……〝エルバフ〟には行かないんだね」
ハッテンのその呟きにオレもついニャリとしてしまった。
「――〝エルバフ〟か!あそこに行くのもいいよな!」
エルバフ――
ワノ国と同じく〝偉大なる航路〟後半の海〝新世界〟にある国の事を指す。
あそこはワノ国の東に存在している。
「ウォーランド」とも呼ばれ、あの伝説の「巨兵海賊団」等の有望な巨人族の戦士を数多く輩出してきた世間では「世界一の強国」、「巨人族の総本山」とも称されている巨人族の王国なのだ。
「世界一の強国」と讃えられていて、巨人族の猛者が多く滞在している国だからこそ〝最強〟を目指している、または少なくとも猛者と顔を合わせてみたいと考えているオレにはぜひ行ってみたいと思っている。だが――
「オレ1人だけなら……行ったかもな!」
はっきりとそう言い切るオレがいったん言葉を切り――言葉を続ける。
「だが、今のオレはお前らを率いているんだ」
「別にオレはお前らをバカにするつもりはねぇが……」
「はっきり言うと――今のお前らじゃ、〝エルバフ〟は厳しい。だから今は行かねぇ」
オレのその重々しい言葉にハッテンは眉をひそめ、唸ってしまう。しかしハッテンに顔を向けるオレは――晴れやかに笑っていた。
「だからさ――〝エルバフ〟に行くのはオレ達がもっと強くなってからだ」
そう言うオレはニッと晴れやかな笑みを浮かべた。
――お前らは必ず強くなる!それは確かだ!なら――それを待てばいいだけだ。
オレの笑みからそれを察したのか、ハッテンもつい苦笑してしまう。
彼に微笑んだオレはカイリュー号の前方向に顔を向ける。
そんなオレを凝視するハッテンは小声――オレにも聞こえない程に小さく呟いた。
「……やっぱ、スサノオさんは天性の人たらしだな」
●
カイリュー号の船上で私――小紫は素振りしていた。
「ハッ…ハッ……」
――自身の体積の半分ぐらいはありそうな鉄で包まれている棒を私は振り続けていた。
普通の女子なら持てない筈のそれを何の事もなく振り続けられる程の筋力を私は3年に渡る修行で身に着けられたのだ。
といえ、筋力を着けすぎると柔軟性、平衡性、瞬発力、リズム感等の運動能力を殺してしまう恐れがあるので慎重に気を付けねばならないが……
鍛練の量に気を付けながら――素振りを続けている私は思案に耽っていた。
「ハッ…ハッ……」
今、カイリュー号に乗ってワノ国から海外に出ている私だが――実はワノ国から海外に出てるのはこれが初めてではない。
――過去にフレバンス王国に向かった百獣海賊団に同行した時こそが私の外海への初めての門出だった。
――見渡す限りで広い青い海を初めて目にした瞬間、私は胸中には何かが湧き出てくるのを感じられた――そう、魂を響かれたのだ。
――世界は広い……広かった。
そう思った私の脳にある声が蘇えた。
『オレは小さい!!お前達も小さい!!――オレもお前達も世界のほんの一部なんだ!!』
父おでんが兄モモの助と私にそう言ったのを思い出した私はつい頬を崩した。
――そうだね、世界からみれば私なんて小さかったね……
感傷に浸った私は続いて、先程耳を傾げてきたスサノオ達の会話の内容に関して思案に耽り続けた。
「……〝エルバフ〟……か……」
「世界一の強国」と名高い巨人族の王国……強さを求める私からすれば、行ってみたいが……スサノオの言う通り、今の私は――弱い。このままで行っても肉塊にされるだけだ。
だから――〝エルバフ〟に行くのはある程度の力を身に着けてからだ。
そう結論を出した私はふとマリアに視線を向ける。
彼女も自身の体積の半分ぐらいはありそうな鉄で包まれている長棒の素振りを行いながら――思案に耽っていたのか、彼女の様子は憂わし気だった。
「――マリアも〝エルバフ〟が気になるの?」
そんなマリアが気になった為に私は彼女に問いかけてみた。
「!――えぇ、何せ……」
私からの問いかけにマリアは苦笑しながら――口を開く。
「私には巨人族の血を受け継いでいて……それも〝エルバフ〟の偉大な戦士を先祖に持っているとお母様から教えられてね……だからこそ、行ってみたいと思っているの……巨人族の王国に――」
「…!へぇ……」
マリアの明るされた血筋に私も目を見開いて感嘆の声を上げた。
「それは……ぜひ〝エルバフ〟に行ってみたいわね」
そしてマリアの想いを察した私がそう言うとマリアも微笑んだ。
「えぇ、だから――もっと強くなりましょう」
「そうね」
互いに微笑み合った私達は素振りに意識を戻し、集中した。
●
「てめぇを――負かしてやるよ……!」
「――上等だ……!」
カイリュー号の船上で明日郎とシシリアンと数人が座していた。
そして……彼らの目の間にはバチバチと電流が走っていた。
彼らはいつものように戦いを始めるのか――と思ったら
「「罰ババ抜きで勝ってやら!!」」
なんとババ抜きで勝敗を付けようとしていた。
陸で激突してきた彼らだが、さすがに船上までも激突する訳にはいかぬのだ。
といえ、頭に血が登っている彼らは戦いをやらぬ訳にはいかないのだ。そこで平和的に勝敗を付ける事にしたのだ。それが――ババ抜きだったのだ。
しかもババ抜きではない。
――罰ババ抜きといって、特定のカードにはそれぞれ様々な罰が書かれてある。その罰に従わないと敗北する事になる。
今回はその罰ババ抜きで明日郎とシシリアンは勝負しようとした。
「オラァ!!」
明日郎がシシリアンの手札から果敢に勢いよく引いた!
明日郎が素早くカードを確認する。そのカードには――
――7◇引いたら死
「……ハァァァァァ!!?」
明日郎が絶叫した瞬間に彼の身体に電流が走った。
――罰ババ抜き専用のカードにはそういう罰、または罰に従わない者には電流が走るように作られているのだ……そう、クイーンの手によってだ。
とにかく早速敗北した明日郎をシシリアンは嘲笑った。
「フハハハハハ!!早速「引いたら死」カードを引くとは……運がないとみえる!!」
シシリアンの嘲笑に明日郎は青筋を走らせ、目が血走り、歯を食いしばった。だが、それでも大人しくするしかなかった。
負けは負けなのだ。
身をまきまえている明日郎はそのままシシリアンの勝利を歯を食いしばりながら見守るしかないのか――
だが、シシリアンの番になると。
「うむ……揃わないな」
ペアを揃わないシシリアンが自身の手札から引かれる事になるのだが――
「ぬぉ!!」
引かれたシシリアンが突如絶叫し――彼の身体に電流が走った。何せシシリアンの引かれたカードには――
――4♠引かれたら死
「――くはっ!!ざまぁだな!!」
「ぐぬぬ……!!」
今度は嘲笑し返す明日郎にシシリアンも歯を食いしばった。
「ぐぐ……おのれぇ〜!」
「あぁん!?やんのか!」
やはり電流が走る程に睨み合う明日郎とシシリアン。
そして2人の気迫に罰ババ抜きの参加者も息を呑む。
――命を賭けた戦いの雰囲気が漂うババ抜きがそこにはあった。
●
カイリュー号の船上でページワンは釣りしていた。
「〜♪」
趣味の釣りには格好の天気であるのに機嫌が良いページワンは鼻歌を歌う。だが――
「ペーたん!ペーたん!」
「…」
突如の騒がしい声に機嫌が良かった筈のページワンは口を一文字にする。
しばらくするとうるティが騒がしく近づいてきた。
「ほらほら!見て見て!これがペーたんのアクセサリーごんす!」
うるティがそう言いながら青いアクセサリーをページワンに見せた。
彼女は趣味のアクセ作りでページワン専用のを作ったのだ。
暴獣海賊団船出記念として青い海をイメージして作っただけはあって見事に爽快な青色のアクセサリーになっていた。
その完成さにニンマリしているうるティだが、さっきから動いていないページワンにムッとし――
「……褒・め・ろぉ〜!ごんす!ペーたん!」
怒鳴りつけてしまった。
そのように鬱陶しい姉にページワンも項垂れてしまう。
「……頼むから今ぐらいは静かに釣りさせてくれ……」
●
「見ろ!ノヴァ!――イルカの群れだ!!」
「あら!本当ね!」
「いるか!いるか!」
カイリュー号の船上に立っているギルド家は海を眺めていた。
その時、カイリュー号の横の海上を数頭のイルカが楽しそうに泳ぎ跳ねっていた。
太陽光を浴びて華麗に光っているイルカの姿にギルド家は感嘆の声を上げていた。
「ハハハ!素晴らしい晴天!美しき青海!見事なイルカの群れ!――ノヴァの初航海にちょうど良いじゃないか!!」
「えぇ!そうね!」
すごく幸先が良いとも思わさせられる航海状況にニンマリしているテゾーロとステラ。ふと我が子に視線を向けてみると――ノヴァは興奮していた。
生まれ故郷であるワノ国からの外海への門出が初めてだったノヴァは初めて目にし続けた景色に感動し続けている為に興奮状態だった。
その様子にテゾーロとステラは顔を合わせて微笑み合った。
――暴獣海賊団の船員達は仕事をしていて、または――意のままに行動していた。
――暴獣海賊団の航海はとりあえず順風満帆だった。
●
――暴獣海賊団が船出してから少し経った後。
海上を進めているカイリュー号の前の海上から突如海王類が顔を出してきた。
「――海王類だぁ!!」
海王類の登場にカイリュー号の船上に立っている海賊達が戦闘形態を構えた。そんな中、声が響いていた。
「リュドドド!!オレが対応しておくぜ!!」
高笑いしているオレが海王類を討とうと「神武」を手にしながら足を進めていった。だが――
「――スサノオさんが出る必要はない」
「!?」
出ようとしたオレをフドウが止めた。目を見開くオレにフドウが口を開く。
「今のあんたは船長なんだ――部下のオレ達が船長に任せっきりにするのはどうかと思うぞ?」
フドウのその尤もな言葉に唸るスサノオが口を再び開く。
「……だが「それに」」
「たまにはオレ達にもカッコつかせろよ?」
フドウのニャリとしながらの言葉にオレはため息をつき――
「――じゃあ、行け!!」
ニッと笑みを浮かべたオレの命にフドウ達も応える。
「「「おう!!」」」
フドウ達は得物を抜き――海王類に立ち向かった。
――時には暴獣海賊団の経路に海王類が顔を見せるも――所属する海賊達の健闘により被害を受ける事はなかった。
●
ある日
「スサノオさん。兄上」
船長室に入室して、そこで軽く会話していたオレとフドウに声を掛ける者がいた。ハッテンだ。
「ん?」
「とうした?ハッテン」
ハッテンの登場に目を少し見開くオレとフドウ。フドウがハッテンに入室理由を問うと――
「どうも――天気が荒れるかもよ」
ハッテンが天候の悪化を警告した。それもはっきりとだ。
そのはっきりとした警告にオレ達は眉をひそめ、窓に視線を向けてみた。窓の外は――荒れそうに見えない晴天だった。
「――なぜ分かる?」
オレからの問いかけにハッテンは理由を説明した。
「――実は以前から天気が変わろうとするのを感覚的に感じるんだ……正確には」
そう言ったハッテンが背中の黒い翼を広げた。
「空気が変化する時にこの翼が疼いてくるんだ。そして……今翼が疼いているんだ」
ハッテンの説明に一応説得力を感じるオレが確かめる。
「――荒れるならば……いつからだ?」
オレの問いかけにハッテンは自身の翼を見て――
「ん〜…そろそろかな」
「「……!!」」
ハッテンがそう言った途端にオレ達がハッとして窓に再び視線を向けると――なんと晴天だった筈の天候が突如荒れてきたのだ。
それを目にしたオレは素早くハッテンとフドウを従えて船長室から出る。
「――ハッテン、これはどのくらい続くんだ?そして経路方向をどうすべきだ?」
オレはハッテンにそう問いかけてみた。
――オレはハッテンの感覚を信じる事にしたのだ。
「――しばらく続きますね。それで……あの方向へ舵を切りましょう」
ハッテンの言葉を聞いたオレは命令を下した。
それによってカイリュー号は荒れ回る天候の下を抜いてきた。
荒天下を無事に抜いたカイリュー号は明るい雰囲気に包まれていた。
「――しかし、大した能力だな!ハッテン!」
オレがその能力に関して褒め立てるとハッテンが胸を張る。
「はい!――天候なら僕にお任せを!」
「おう!任せるぞ!――しかし翼が天候が変わるのを勘付くとはな……」
オレがハッテンの能力に関して感心すると近付いてきたフドウが呟く。
「――もしかしたら、それがオレ達――ルナーリア族の持つ能力の1つ――かもしれぬな」
フドウのその推測にオレとハッテンは唸らせた。
「――だとすれば、ルナーリア族は深いなぁ」
オレのその言葉にフドウとハッテンは自身の種族について思い寄せた。
「――いずれにせよ、天候に戸惑われる事がねぇのは確かだな」
オレのその言葉にハッテンは微笑む。
――時には暴獣海賊団は荒れ回る天候に巻き込まれようとしてもハッテンの健闘により被害を受ける事なく航海を続けられた。
●
――暴獣海賊団が船出してから数日。
「見えてきたな!」
オレはそう感嘆の声を上げた。
カイリュー号の前方向には――島が見えてきたのだ。
暴獣海賊団が船出して以来の初の島だ。
「暴獣海賊団初の島だ!」
「――どんな島かな!」
暴獣海賊団の初上陸にオレ達は騒ついた。
しばらく島を眺めていたオレが近くのフドウに声を掛けた。
「あの島の名は?」
オレの問いかけに地図を覗き込んでいるフドウは答えた。
「――〝ギビマ〟というそうだ」
――その島は暴獣海賊団の初めての戦いの場になる。