時は少しさかのぼって
私は情報収集に努めようと廊下を駆け込んでいた。
「――少しだけど、情報を手にできたかな」
そう、私は先程ある2人に狙いをつけてそれぞれ話を聞いてみたのだ。
その2人は――ある程度の地位に就いているらしい頑固そうな老人と掃除係のおばさんだった。
か弱い女子のふりをしている私にまんまと誘導された2人から情報を得られたが、それでも〝ギビマ〟に起こっている事態を全て把握している訳ではない。
だから次の相手を私は探そうと駆け込む。そこに
「次は誰かにしよ「そうはさせぬ!」うかなっ!?」
私の元にその声が届いてきた。
私は素早く陰に隠れながら、その声の源に視線を向けてみたら――1人の男の子が襲われようとしていた。
上品そうな服装を着用しているおかっぱ頭の男の子は襲われるにも関わらずに堂々としていた――少し身体が震えているが。
「ククク……あなたの意思等、無意味ですよ。あなたはここで消えてもらうので!」
そう下衆な笑みを浮かべている襲撃者を男の子は睨みつける。
「いいや、ここから生きてお前達の企みを明らかにしてやる!」
その言葉に私は目を見開く。
情報を求めていた私にとっては無視できなかった。
だから――彼に話を聞くのを決めた私をよそに襲撃者が動く。
「よろしい。くだらない理想を胸に――てめぇはここで死ねぇ!!」
嘲笑う襲撃者は彼に手をかけようとする――直前に襲撃者に近づく影が1つ。
「……フン!」
「は?」
私は手に持つ刀の縁頭を襲撃者のアバラ辺りに突っ込んでやった。
呆気に取られた襲撃者はすぐ倒れ込んだ。
男の子は目前の景色――倒れ込んだ襲撃者と可愛らしく凛々しい女の子の姿に目を見開く。
そして私に視線を向けられた男の子は我に返る。
「あ、あぁ……あ」
「ありがとうございます!」
頭を下げて礼を言った男の子に私は問いかけた。
「――それであなたは……何者なの?」
こうして私と男の子――キリヤは会話を始めた。
「キリヤ……〝ギビマ〟の統治者カガヤの息子ですか」
「えぇ、奴らは父上だけではなく、後継ぎの僕まで消して――〝ギビマ〟の支配を完全にしようとしているのです」
キリヤの重々しい言葉に私は目をキラリとする。
「……〝奴ら〟とは?この〝ギビマ〟に何かが起ころうとしているんです?」
私がそう問いかけるとキリヤは鈍い表情を浮かべてしまう。
「……いえ、あなたを巻き込む訳にはいきません……助けて頂いたのは感謝していますが」
私の身を懸念しているキリヤが口を閉じているが――
「――私達はもう既に巻き込まれています!」
「!」
「それだけではなく――仲間がハメられて檻の中に入られています!」
「それは本当ですか!?」
「えぇ――だからこそ教えて頂けませんか?」
私の事情、そして懇願にキリヤはしばらく思案に耽り――やがて
「……分かりました。話しましょう」
●
ある店の前
そこで引き起こされた惨劇に人々は言葉をなくし慄っていた。
「――で?何だって?」
堂々と立つフドウが〝それ〟に対して冷たく言い放つ。彼と並び立っているヤマト達も能面の如き無表情で〝それ〟を冷たく見下ろしていた。
彼らに冷たく見下されている〝それ〟とは――
「あ……が……す、すぴ……すぴませんでした……」
フドウグループの前で自身達を〝暴獣海賊団〟だと名乗った海賊達――の死屍累々だった。
よりにもよって本物の前でその名を騙ったんだ。この結果は必然であった。
なお、フドウグループの暴れぶりはそりゃ凄まじかった。
「――でも、君達も怒るなんて……意外だったね」
「……フン!こういう騙そうとする不届き者が気に食わんだけだぁぁぁ!!」
「……一応、暴獣海賊団に身を置いている以上――真面目に働くだけだからな」
ヤマトはシシリアンとペドロも怒りをみせていたのに驚愕すると彼らもそれぞれの答えを返してきた。
――なんやかんや言っても彼らも暴獣海賊団の一員といえよう。
とにかくフドウは海賊達が〝暴獣海賊団〟の名を騙る意図を知る為に彼らを尋問していた。
「何のつもりでオレ達――暴獣海賊団の名を騙ったんだ?あ?」
目を血走らせるフドウに恐怖した海賊達は必死に説明した。
「オ、オレ達はここで暴れ回って、し、しかもジョウウンに雇われたとか、クビにされたとかをお、大声で言えと言われてて……」
「さ、最初は別に〝暴獣海賊団〟の名を騙れとは言われなかったが……」
「さ、さっき……何やら暴獣海賊団の奴らが間違えられて連行されていったらしく……状況が紛らわしくなるのはマズイから――オレ達が暴れ回る時は〝暴獣海賊団〟だと名乗れと言われたんだ……」
「「「!?」」」
その情報にフドウグループは驚愕する。
「……誰を捕らえたと言った?」
フドウが重々しく問いかける。その声は冷静そうに聞こえても動揺を出さないように努めているのが分かる程だ。
「え、えーと……わ、分かりません……」
「答えろ」
「わ、分かりませ……あ」
「確か……〝スサノオ〟といったっけ……」
「「「っ!?」」」
あまりにも予想外の名前にフドウグループは息を呑んでしまう。
「お兄さん……!」
慕っている兄の危機にヤマトはジッとしていられずに――駆け込もうとするも
「待て!ヤマト!」
兄を救助しようとするヤマトをフドウは制止した。
「「「!?」」」
「落ち着くんだ。ヤマト……」
「でも!お兄さんが……!」
焦ってしまうヤマトにフドウは言葉を続ける。
「ヤマト。お前だって、あの人の強さを知っている筈だ」
フドウのその静かな言葉にヤマトはハッとする。
「あ…」
「そうだ、誰かが――おそらく〝ギビマ〟の兵隊だろうがあの人を拘束できる事等、不可能だ」
「なのに――あの人が今拘束されている……」
「おそらく――自ら檻の中に入っただろう」
「……でも!それなら!なぜ自ら檻の中に――!」
「今の〝ギビマ〟を思い返してみろ。この状況で暴れ回るのは賢明ではないとあの人が判断しただろう」
「っ!……でも、確かに……」
フドウのその推測にヤマトは納得した。
「……だが、スサノオさんを拘束した以上――大人しくする訳がなかろう……なぁ?お前達」
フドウのその言葉にヤマト達は頷く。
「そうだよ!理由は分からないけど……そういうマネをされて黙る僕じゃないよ!」
「あぁ!第一、これはオレ達への宣戦と見ていい筈!――売られたケンカは買うまでぇぇぇえ!!」
「やかましいぞ!シシリアン!――だが、その意見には同感だ」
ヤマト達の気合を入れる様子にフドウも満足気に頷く。
「よし。では「いたぞ!」これ――あ?」
フドウの声を遮る声が響いた。その声の源にフドウ達が視線を向けると――兵隊が駆け込んできた。
「あれが暴獣海賊団だ!捕らえろ!」
その言葉にヤマト達が戦闘形態をとろうとする。
「なんの!返り討ちにし「待て!」て――ペドロ!?」
「ここでアイツらを相手にするのはまずい……そうだな?フドウ!」
「あぁ、スサノオさんの意図に反する訳にはいかぬ――ここは撤退だ!」
シシリアン達を制止したペドロに共感したフドウは撤退を指示した。
その理由に渋々ながら納得するヤマト達は撤退しようとする。
「!逃がさ「〝火幕〟!!!」な――!?」
そしてフドウグループを追いかけようとする兵隊の前に突如火の壁が湧き出てきた。
その火にどっちの陣も目を見開く中でフドウが気付く。
「ハッテンか!」
「はい」
フドウの言葉に応えるかのように彼の前にハッテンが姿を現した。
「逃げ道はこちらです」
●
あるレストランの前
人々が目前の景色に目を輝かせていた。
何せ、その景色とは――
――黄金でできているドームなのだから。そう、「黄金」でだ。
「……分かっているは分かっているけど……やっぱり、目立つんじゃない?人々が集まってきているわよ」
「……う〜ん……いや、戦いの影響が人々にかかるよりマシだよ」
「……そうはそうだけど」
夫が戦いによる被害を出さないように打った手段にステラは違和感、不満を感じていた。
そりゃ戦いによる被害を出さないようにするのはいい。しかし……「黄金のドーム」だよ?目立つわコレ……
現に人々が戦いから離れるどころか逆に集まってきている。
どうにも良い状況とは思えない……
「っていうか…ガシ…オレ達も…ガシ…戦いの様子を…ガシ…見れねぇじゃん…ガシ…」
「どうせ…ムシャ…ジャックが…ムシャ…キサメとかを…ムシャ…倒しているに…ムシャ…決めてるごんす」
「あなた達、立ちながら食事するのはやめなさい。礼儀が悪いわよ。あと食い意地が悪いわ」
堂々と立ちながら食事している明日郎とうるティにステラは注意する。
「わぁ……!」
「……はいはい、ノヴァ。黄金のドームよ〜パパが作ったわよ〜」
今度は目を輝かせている我が子をステラはあやしていた。
そんな妻の世話を焼く様子にテゾーロも苦笑してしまう。
「ハハハ……さて、中はどうなっているかね?」
●
鋼の音がする。
――ジャックの刀とキサメの大剣が激突していた。
「……なかなかの腕じゃねぇか」
「そちらこそ――なかなかじゃないですか」
2人は互いに相手の予想外の腕を褒め立てた。
「あなたがこう強いと――あの人やらを拝みたくなりました」
「……フン!本気でそのつもりなら――まずはオレが見極めてやる」
ジャックの予想外の強さにより「あの人」に興味を持つようになったキサメにジャックがそう声掛ける。
「おや、それはそれは……頑張ってみましょうか」
その言葉にキサメも獰猛な笑みを浮かべながら大剣を勢いよく振るう。
その大剣を両刀で受け切るジャックにキサメが声掛ける。
「あぁ……念の為に言っておきましょう」
「!」
キサメの大剣を握る手に力を入れる。
「私の大剣「鮫肌」は斬るのではなく……」
大剣を包んでいる包帯が剥がれていく――
「削る!!」
包帯が剥がれてあらわになったのが――トゲだらけの大剣の姿だった。
「!?」
その大剣の姿にジャックが目を見開くと同時にキサメの「鮫肌」の勢いによりジャックの両刀を両腕ごと下に降ろされる。
その隙を逃さないキサメはジャックの顔を蹴ろうとする――
鈍い音がした。
「!!」
蹴った筈のキサメは目を見開く。
それもその筈。キサメの蹴りに対してジャックは頭突きで返したのだから――
思いがけないダメージを負ったキサメは後ろに下がる。
「……とんだ石頭ですね〜」
「……フン、どっかのブラコン程じゃねぇがな」
胸を張るジャックにキサメはますます獰猛な笑みを浮かべる。
「フフフ……楽しくなりましたね」
「……かもな」
ジャックもキサメの強さにニャリとする。
「――行きますよ!」
「来い!」
掛けてくるキサメをジャックは待ち構える。だが――
「「!?」」
突如ジャックとキサメの身体を黄金が覆って、動きを止めた。
といっても止めたのは数秒でジャック達は黄金を剥がした。
「――どういうつもりだ。テゾーロ」
ジャックがギロリと視線を向ける。そこにはテゾーロが立っていた。しかも黄金のドームが溶けるように消え去った。
「状況が変わったからな」
そう言ったテゾーロの視線先には――
「何だ!?これは!?」
「お、黄金が……身体を覆っている……」
身体が黄金に覆われて動きを封じられている兵隊がいた。
「……何だ?コイツらは?」
「さぁ?」
ジャックがそう問いかけるもテゾーロが肩をすくめる。代わりに答えたのは
「暴獣海賊団!大人しくしてろ!スサノオはもう捕らえた!」
「「「…あ゛?」」」
その答えにジャックグループは恐ろしげな表情を浮かべた。
「あ゛?……スサノオさんを捕らえたぁ?」
怒りに目を血走らせるジャックが兵隊に向かって足を進もうとするも――
「落ち着きたまえ!ジャック!」
テゾーロがそれを制止した。
「……何のつもりだぁ?テゾーロォ〜」
ジャックがますます怒りをみせるのにも怯まないテゾーロは静かにはっきりと言い放つ。
「君だって、あの人の強さを知っている筈だよ」
「……!」
その言葉にジャックはピクッとする。それを見たテゾーロは言葉を続ける。
「つまり……スサノオさんが自ら檻の中に入った可能性ありだよ」
「だとしたら――ここは撤退すべきだ」
テゾーロのその指摘、提案にジャックは唸るも――賛同した。
「仕方がねぇ!――お前ら!撤退だ!」
ジャックがそう宣うとテゾーロ達も頷く。その途端にその場に土煙が湧き出てきた。
――キサメが「鮫肌」で地を削った事で土煙を引き起こし、兵隊の目をくらまそうとしていた。
「キサメ!?」
「こちらに」
目を見開くジャックグループにキサメは逃げ道に案内しようとした。
●
どっかの空間
「準備は済ませました。あとは夜が来るのを待つだけです」
お辞儀をしている影からの報告に不遜そうに立っている影は頷いた。
「そうか」
そして影が歩き始める。
「……せっかくだ。どれ、アイツに挨拶でもするか」
影のその呟きを耳にしたお辞儀をしている影は驚愕する。
「!?……それは――あの男…カガヤに顔を見せるのですか?」
「そうだ」
その問いかけに影は答える。
その際に振り返った影の姿がついに明らかになる。
それは人が見れば、海賊とは思えない紳士だった。
その姿は黒髪をオールバックに纏めていて、色白の肌と紅梅色の瞳に猫の様に縦長な瞳孔が特徴な美青年だった。
ただ容姿端正でも――漂う雰囲気は傲慢不遜で邪悪だった。
彼はその雰囲気に似合う邪悪な笑みを浮かべる。
「わざわざ、あの男に挨拶はもちろん――」
「その醜悪な姿を見てやろうというんだ……」
「この――ムザンがな!」