〝スサノオ〟が生まれてから1年――
そこには見渡す限りの青い海が広がっていた。天気に恵まれるのもあって穏やかであるようにみられた。
――だが、そんな海上が突然大きな轟音と共に荒くなった。
一体何が起こったのかというと……
「「百獣海賊団」を壊滅させろォ!!〝正義〟の名の下に!!」
「クソ「海軍」が!!返り討ちにしてやる!!」
海賊を滅ぼさんと攻め入る「海軍」とそれに対して迎え撃つ「百獣海賊団」の抗争が勃発していた。
「「「ウオオ〜〜〜!!!」」」
入り混じる多くの船の上で大勢の海賊達と海兵達が衝突し、激しく戦っていた……
「ッ!!うわああああ!!?」
「熱いィィ!!誰かこの火を消してくれェ〜~~!!!」
「ハァ…ハァ…い、息ができねェ……煙で……もう……」
ただ、「百獣海賊団」の方が優勢でしかもその光景はまさしく――「地獄」だった……
――「海軍」側の艦隊が燃え盛っていた。そこに乗っていた海兵達もその炎に包まれ、その猛烈な勢いと熱気により逃げる事さらできず汗ばみ、やがて焼かれていってしまった。
そんな炎熱地獄を「海軍」は指をくわえて見るしかできなかった。そしてその地獄を作り出したのが――
「ぐ……おのれ!!〝火災のキング〟!!」
「……フン!!政府の、しかも空気を読めねェ飼い犬共が……!!」
翼を広げて空に浮かぶ黒ずくめの男――「百獣海賊団」の幹部、〝火災のキング〟であった。
彼は自身の身体から噴出する炎で広大な火の海を作った事で「海軍」を蹂躙したのだ。
……ただ、優勢である筈の彼はなぜか苛立っていた。そして――
「!……フン、お出ましだ」
「!!あれは……!」
突然誰かが空を見上げ、驚愕した。それにつれてその戦場で戦っていた人々も敵味方関係なく次々に空を見上げる。
そこには暗雲が立ち込められていて、そしてそこから何かが現れた。それこそが――
「――てめェら……覚悟はできてるんだろうな……」
「百獣海賊団」の船長――〝百獣のカイドウ〟が〝悪魔の実〟の能力で変身した青龍であった。
目にする人が畏怖の念を抱かざるを得なくなる程に威圧感のある姿をするカイドウ――の前に怯まずに立ち向かおうとする者達が現れる。
――「海軍」を率いる数人の海軍将校だ。
「出たな!「百獣海賊団」船長〝百獣のカイドウ〟!!」
「だが!貴様らの悪の行進はここまでだ!!」
「なぜなら我々が―― 「〝
「「「うわあああああ!!!」」」
カイドウに対して彼らが勇んで立ち向かおうとするのも一瞬、龍に変身したカイドウの口から強大な炎を吹かれた海軍将校達が呆気なく焼き尽くされていった。
しかも炎の猛烈な勢いが落ちず、そのまま――「海軍」の艦隊をも焼き尽くした。
「「「うわああああ!!?」」」
「オオオオオオオ!!!」
今の「海軍」はもはや壊滅状態に追い詰められかけているのにも関わらずにカイドウの勢いが落ちるどころか、むしろ増し――すごく勢いづいた彼が「海軍」へ突き進んだ。
「オオオオオオオ!!!」
「「「ギャアアアア!!!」」」
「海軍」の陣中でカイドウが見境なく暴れ回り、その猛威に大勢の海兵達がなす術もなく見舞われた。
……実は彼は何やら、海兵達だけではなく自身の部下達にまでも戦慄される程に怒り狂っていた。
「――許さんぞ、許さんぞ。クソ「海軍」が……よくも――」
では、一体彼が何を怒っているのかというと――
「よくも!!!ウチの息子のせっかくの誕生会を邪魔しやがってェェェェェェェ!!!」
時は遡って――
「ウォロロロロ!!今日は新年会はもちろんだが!ウチの息子、スサノオの誕生会を行うぞォ!!」
「「「うおおおお!!!」」」
「お坊ちゃま〜!おめでとうございます〜!」
「百獣海賊団」の船内で人々が和気藹々としていた。
朗らかに笑ったカイドウの宣言通りに新しい年の始まりとスサノオの誕生日を祝う会を行っているからだ。
海賊達が見た事もない程にご機嫌なカイドウは自身の右腕に座っている者に視線を向ける。
「どうだ!気分がいいんだろ!スサノオ!」
「きゃはは」
彼が親しげに語りかける先にいるその者はもちろん彼の息子、スサノオだ。
1歳になったばかりのその子は父親から語りかけられたからか明るく元気な様子で万歳した。
その愛くるしい様子にほっこりしたカイドウはまだ姿の見えない自身の右腕に対して呼びかけを行う。
「ウォロロロロ!!キング!まだか!?」
「――待たせた。カイドウさん、お坊ちゃま」
それに応えるかのようにキングが姿を現した。真っ白い布で隠している彼自身より大きな何かを乗せているワゴンを押しながら――
「よぉし!スサノオ!見てるか!?」
「?」
そのワゴンの上の何かを目視したカイドウは息子にそれに注目するように言う。その言葉に従ってその何かに視線を向けたスサノオが首を傾げる。
「よし!見せろ!!」
「ああ」
その様子をも目視したカイドウが合図するとキングが布を引っ張る。するとそこには――
「……!」
その途端にスサノオが目をキラキラさせた。
何せ、それはすごく高くて豪華なケーキだった。青龍を立体的に描かれたものが巻かれているのがその豪華ぶりに磨きがかかっていた。
「だーだーだー!」
「ウォロロロロ!!そうかそうか!満足か!!」
「フッ……満足そうで何よりだ」
その豪華ぶりに興奮したスサノオの様子にカイドウもキングも笑みを浮かべた。その微笑ましい光景に海賊達もまたほっこりした。その場は実に平穏だった。
――だが……
「船長!大変です!」
そんな空気をぶっ壊すかのように扉が大きな音を出しながら開けられ、そこから見張り番の海賊が慌てながらカイドウの元に走り寄った。
しかしせっかくの良い雰囲気を壊されたカイドウはさっきのご機嫌な様子とは一変してすっかり不機嫌になってしまった。そんな彼が目を細めながらその海賊を凝視する。
「……何だ?」
「ヒィッ!……じ、実は」
カイドウからの凄まじき威圧に縮み上がった海賊だが、それでも務めを果たそうと勇気を奮い起こし、そして口を開け――
その瞬間、轟音と共に船内が大きく揺れた。
「あァ!?何だ!?」
「か、「海軍」です!!じ、10隻の戦艦に囲まれています!!」
「何だとォ!!」
どうやら今のは「海軍」からの攻撃によるものだったようだ。その影響で船が大きく揺れたのだ。
その事態と見張り番からの報告で状況を把握したカイドウは海賊達に戦闘準備を指示しようとし――
ハッとする。
――大ケーキが……
床に落ちていた。
さっきの船の揺れに巻き込まれて倒れてしまったのだ。もちろん大ケーキはもう……先程の豪華ぶりも目を当てられない程にぐちゃぐちゃになってしまっていた。
「……」
それを呆然と見つめたカイドウが恐る恐る息子に視線を向けてみる。
案の定、あれ程に興奮していたスサノオは……うなだれていた。それこそ身の周りの空気が青黒く見える程に。
そんな彼の頬に流れるキラッと光るものを見たカイドウはその途端に目の前が真っ赤になった。
――それは存在そのものが恐ろしいと人々は言う
それを怒らせてはならぬとも人々は言う
なぜならば……一度怒るとメチャクチャに暴れ狂い、全てを破壊するからだ
それは炎を噴き――
それは竜巻を起こし――
それは雷を落とし――
あるいはその巨体で直で潰し――
時には金棒を振り抜き――
敵ごと全てを破壊する……!!
それは敵に一切容赦せず
破壊をも一切躊躇しない
逆にそれを討ち取ろうとしても――
いかなる攻撃でも効かない
傷をかすかさえもつけられない
どのようにしても――死なない
それこそが
百獣の長――
〝百獣のカイドウ〟
陸海空……生きとし生ける全てのもの達の中で……
〝最強生物〟と呼ばれる……!!!
「くたばって詫びろォ!!!スサノオになァ!!!」
「「「うわあああああ!!!」」」
怒り狂うカイドウが「海軍」相手にその評判に恥じない程に暴れ回る。
「「こ、こえ〜」」
「そりゃそうだぜ?お坊ちゃまの誕生会を台無しにしてくれやがったからな……ん?」
その暴れぶりをよそに「百獣海賊団」の船にはスサノオと彼を預かる3人の海賊がいた。
彼らはカイドウの暴れぶりに味方であるにも関わらずに慄かずにはいられなかった。ただ、その中の1人だけは彼が怒り狂う理由を理解している故に冷や汗ながらもうんうんとする。
ふと彼から預かったスサノオに視線を向けると――
「だーだーだー!」
彼は大ケーキを目にした時よりすごく目をキラキラさせて興奮していた。さっきまで大ケーキがダメになってしまった事にショックを受けて落ち込んでいたなのにだ。
どうやら父親の無双ぶりに感動したようだ。
「よ、喜んでいる……」
「……そりゃな、親父さんがあれだけ暴れてたらな……」
「そうだな、そりゃ興奮するわ」
すごく興奮するスサノオの様子に海賊達もその気持ちを理解できる故に苦笑を浮かべた。すると――
「あいつらから赤ん坊を救うんだ〜〜ッ!!」
「「「うおおおお!!」」」
そんな彼らに対していつの間にか船に乗り込んできた海兵達が勢いよく駆け向かってきた。どうやら彼らはスサノオの事を「百獣海賊団」が誘拐した哀れな被害者だと認識していて、それ故にその子を救助するつもりのようだ。
熱意を込めて突進してくる海兵達の姿勢に海賊達もギョッとした。
「あ、やべ!!」
「う、うろたえんな!!返り討ちにしてやれ!!」
だが、彼らも「百獣海賊団」の海賊だ。その自負がある故にわずか数人だけでも返り討ちにしてやると海賊達も身構える。
「お坊ちゃま!中に入りましょう……ん?」
「きゃはは!」
だが、そんな中でもまだ興奮しているスサノオは自身を抱っこしてくれている海賊の腕を掴む。そして……
「だー!」
「え、う、うわあああああ!!?」
なんと、強く投げた!
それも赤ん坊が投げたとは考えられない程に海賊を高く飛ばしていった。
「「「え、え!?」」」
――しかも、その海賊が海兵達の元へ飛ばされていく。
そのまさかの事態に意気込んでいた彼らも呆気に取られざるを得なくなり、固まってしまった。そんな彼らに飛ばされた海賊が……
「「「うわあああああ!!」」」
その場ですごく痛そうな衝突が起こってしまい、海賊も海兵達もたまらずに倒されていった。
「「……」」
目の前の信じられない事態に海賊達も目を丸くし口を大きく開けた。だが……
「だーだーだー!」
スサノオはそんなのお構いなしに混乱する海兵達の元へ走り寄っていく――
「!お待ち下さい!お坊ちゃま!?」
「危ないです!戻ってー…えェェェェェ!!?」
そんな彼にハッと我に返った海賊達が慌てて、すぐ止めようとする。しかし……
「きゃはは!」
「「「うわあああああ!!」」」
なんと、スサノオが笑顔一杯で1人の海兵を振り回しながら走り回る。その振り回しに他の海兵達もなす術もなく、ただ吹っ飛ばされていくしかなかった。
そのあまりにも尋常でない光景に海賊達も目を丸くし、あごが外れる程に口を大きく開けた。
「……マジか」
「だーだーだー!」
「「「……」」」
海兵達の死屍累々の中心でスサノオが万歳した。その惨状に似合わしくない程に明るく元気な様子で。
そんな彼――を大きな影が覆う。
「あぅ?」
その影に気付いたスサノオが後ろを振り返るとカイドウが彼を見下ろしていた。
どうやら「百獣海賊団」と「海軍」の抗争は「百獣海賊団」の勝利で幕を下げたようだ。
それで一息ついたカイドウだが、すぐ息子の安否を確認しようとしたら――その状況に遭遇したのだ。
「……これはお前がやったのか?」
「だー!」
その状況にはさすがに驚きを隠せなかったカイドウが息子にそう尋ねてみるとそれに肯定するかのようにスサノオが手を上げた。
その答えにカイドウもさすがに固まった――が獰猛な笑みを浮かべ、そしてスサノオを高らかに抱き上げ賞賛した。
「……ウォロロロロ!!それでこそオレの息子だ!!スサノオォ!!!」
「だーだーだー!」
父親からの賞賛を受けてスサノオも満面の笑みを浮かべた。
「お前は強くなるぞ!!それこそ、このオレに匹敵する程になァ!!」
「だーだーだー!」
父親と息子が互いに相手に向けて朗らかに笑い合った――
そんな微笑ましい光景をキングがただ見つめた……彼らの周りに展開されている惨状を気にかけずに。
「……フッ、たまげた親子だぜ」
――こうして〝スサノオ〟が〝最強生物〟の子としての片鱗を初めてみせた日であった
☆〝最強生物〟の子、初お目見え!!