無限城の如何なる箇所がそれぞれの戦いが起こっている。
だが、その中で最も消極的かもしれない戦いがあった……
それこそが――
「はぁぁぁぁ!!」
「…」
ヤマトが金棒を勢いよく振り回すのをアガサは何の事もなくかわす。
そこに
「こんの――くたばれごんす!!」
空中で背を反らしていたうるティが頭をアガサに勢いよく振り下ろした。
しかし、その頭突きさえもアガサに手で止まられた。
「……いい加減にしろ。さっさと去れ。さもなければ――そろそろ、手を出すしかないかもしれんぞ」
険しい表情を浮かべ続けていたアガサが言い捨てた文句にヤマトとうるティはしかし怒りを爆発させる。
「!!――いい加減にしろというのはこっちのセリフだ!!」
「そうごんす!!私達に攻撃さえもしないなんて――ナメてんのごんすか!!」
ヤマト達からの文句にアガサも目をつぶり、深いため息をついてしまう。
――その会話の内容から分かるようにアガサはなぜか、ヤマトとうるティとの戦いに消極的だった。
そんなアガサの態度がヤマト達の目には自身達を侮辱しているように見受けられている為にヤマト達はアガサに腹立っているのだ。
――実はアガサは自身の過去に関する事情により女性に手を出す事を嫌うのだ。だからこそ戦おうと自身に立ち向かってくる女性にはアガサも参っているのだ。
「攻撃しないなら――私達にさっさと潰されろごんす!!」
そう怒鳴りつけたうるティは姿を変える――変身した。それは――
「!……確か、パキケファロサウルスだったか?」
その姿に驚愕するアガサの言葉通りにうるティはパキケファロサウルスに変身できるのだ。
もちろん、弟と同じくうるティも悪魔の実を食ったからこそである。
そんな彼女がアガサに駆け込む。
「〝ウル頭銃〟!!!」
やはり頭突きしてくるうるティに対してアガサは――
「……はぁぁぁぁ!」
「……!!」
頭突きをかわし――その上で首を掴み、床に彼女を背負うようにして投げた。
「……なんのぉ!!」
だが、すぐ姿勢を立ち直したうるティが今度も頭突きしてくる。ただし――
「〝ウル頭銃群〟!!!」
連続的頭突きをアガサに食らわそうとした。
そんな彼女にアガサも苦虫を噛み潰したような顔になる。
「くぅ!女が戦おうとしてくる上に――頭突きでやってくるとは……やりにくい相手だ!」
アガサは女性を傷付ける行為に嫌悪感を感じているからこそ、女性と戦われかけるこの状況を苦々しく思っているのに、「女の命」といわれるらしい顔と髪毛を傷付けてしまうおそれがある相手はやりにくいのだ。
だが、うるティの攻撃をうまい体さばき、両腕さばきで見事にかわしていく。
アガサにかわされている事で空振りしようとするうるティの勢いをそのまま利用して、床に叩き込む。
「はぁ〜……いいかげ――……!!」
再びため息をつこうとするアガサの目前には――金棒が迫ろうとした。
「〝雷鳴八卦〟!!!」
今まで動いていなかったヤマトがアガサに金棒を勢いよく振り下ろしてきたのだ。
――実はアガサの体さばきを目にしたヤマトはその確かな実力に勘付き、それで〝一撃必殺〟で彼を叩き潰そうと金棒に力を込み続けてきたのだ。
とにかく、ヤマトの攻撃を顔に受けたアガサは勢いよく吹っ飛ばされた。
その様を見たヤマト、そしてうるティはガッツした。
「「よし!!」」
「ざまぁ見ろごんす!!」
「ははっ!!だね!――!!」
アガサの様にしばらく興奮したヤマト達だが、ふとヤマトが視線を向けると――
「……フン」
ヤマトの攻撃を受けた筈のアガサは何の事はなく立ち上がってきた。それにヤマト達も驚愕する。
「な、なんで……」
「……お前の攻撃をオレの「武装色の覇気」が上回っただけだ」
ヤマトのこぼした疑問にそう答えるアガサは構えをとった。
「「!!」」
「……いいだろう。お前達がそのつもりなら――」
「手加減はもうしない」
そう宣言したアガサは素早くヤマト達に駆け込む。
それに対してヤマトが金棒を振り上げ、うるティが構えようとするも
「〝乱式〟!!!」
アガサは無数の拳打による連携・乱打を放った。
「!!くぅ!」
その乱打をヤマトがたまらず金棒でかわし続けるも
「……!!(重い!!)」
アガサの重い拳により、受けた金棒を響かれたヤマトは彼の拳の重さを実感した。
「〝ウル頭銃群〟!!!」
ヤマトを押さえているアガサにうるティが〝ウル頭銃群〟を食らわそうとするも
「――はぁ!!」
うるティの頭にアガサは裏拳で叩きつけた。
「……!!」
その重い拳にうるティも白目をむき、よろめいた。
「!!」
うるティのそんな様子に目を見開くヤマトは大口真神に変身し
「〝無侍氷牙〟!!!」
アガサに氷のプレスを放った。
「……イヤな奴を思い浮かばせる能力だな」
ヤマトからの氷のプレスに耐えているアガサは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「だが!だからこそ!氷関連はオレには聞かぬと知れ!!」
そう宣うアガサは凍られている身体を張り切らせ、氷を剥がした。
だが、アガサを凍らせた隙にうるティを連れながら撤退したヤマトは彼女に問いかけてみる。
「大丈夫?」
「な、なんとか……ごんす……」
うるティの言葉、様子に眉をひそめるヤマトはアガサに視線を向ける。
「……君の「武装色の覇気」は一体?――何かただの「武装色」とは違うような……」
ヤマトからのその問いかけにアガサも思わず感嘆の声を上げた。
「ほぅ……気付くとは……」
頷くアガサはしばらく思案に耽り――ヤマト達に説明してやる事にした。
「よかろう……説明してやる」
「「……!!」」
アガサの異常な「武装色の覇気」の正体が明かされようとするのに息を飲んでしまうヤマト達にアガサは説明する。
「見えない鎧を着るように纏う。それが「武装色の覇気」の定義――なのだが……」
「オレは「武装色の覇気」にはまだ先がある筈だと考え、色々な事を試みてきた」
「そうし続けてきて、オレが至った「武装色の覇気」の新たな定義――」
「それは身体を巡っている血管そのものに「武装色の覇気」を纏わせるという定義なのだ!!」
アガサ――
自身の血管そのものに「武装色の覇気」を纏わせる事で絶大的な攻撃力と防衛力を得られる技術を身に着けた。
だが、その域に至るにはどれだけの努力を要しているのだろうか……
「バカな!そんな事が……」
普通に考えて異常な技術に驚愕するヤマトに頷くアガサは言葉を続ける。
「あぁ……無数の血管に「武装色の覇気」を纏わせるのに苦労していたぞ……」
そう――人体を巡る血管は約130億本も存在しているといわれる。
しかも、血管の体積も細長い。
そんな細長いものに、それも約130億本のに「武装色の覇気」を纏わせるというのなら、それこそ異常的に精密なコントロール力を要する。
異常的に精密なコントロールさえもやり遂げられたアガサにヤマト達は戦慄してしまう。
そんなヤマト達にアガサは言葉を続ける――今度は険しい様子でだ。
「――さて、説明はここまでにして……」
「オレからも言いたい事がある」
「「!!」」
険しい表情を浮かべるアガサのその言葉にヤマト達も身を引き締める。
「あぁ!?また女が戦うなというごんすか!?それなら断りごんす!!」
うるティがそう怒鳴りつける。ヤマトも同感だった。
だが、アガサの言いたい事は違うらしい。
「違う――うるティはまだいいとして……」
「何より許さんのがお前だ!!ヤマト!!」
アガサの怒り、そして自身への指名にヤマトは目を見開く。
「僕!?――僕の何かが気に入らないんだ!?」
突然の事に肝を抜かれたヤマトにアガサは重々しく言う。
「――貴様は何かを悩んでいるな?」
「!!」
アガサのその指摘にヤマトは息を呑んでしまう。それに確認を強めたアガサは指摘を続ける。
「だからこそ――戦いに身が入っていない」
「!!そ、そんな事は――!」
「貴様はナメるなと言ったな……それはこっちのセリフだ!!」
続いての指摘につい言いかけるヤマトにアガサは怒鳴りつける。
「オレは!女と戦うというこの状況にイラついているのに……」
「その上で戦いに身が入らない時点で――もう怒りが湧き出てくるわ!!――冷やかしのつもりならさっさと去れ!!」
怒りのままに言い放つアガサのその言葉にヤマトもつい口を閉じてしまう。
ヤマトにはその言葉は正論だと感じたからだ。現にある悩みを抱えている故に戦いに身が入っていない――全力を発揮できていないのだ。
それ程にヤマトの抱えている悩み――それは自身の性別を「男」だと主張する事であった。
ヤマトはワノ国最強の侍を真正面から討ち破った父――カイドウの勇姿、釜茹での刑に耐え抜いて家臣達を守った「伝説の一時間」をやり遂げてきた光月おでんの勇姿に感嘆し、憧れた――あまりにも憧れすぎた故に自身が「男」になるんだと決意した。
ヤマトは自身のそんな決意、考えを父と兄にも認めてもらえた事で通し続けていけた――何の疑問も持たずに。
――だが、ある時をきっかけに自身に疑問を持つようになった。
そのきっかけこそが――小紫とハンコックの戦いだった。
小紫とハンコックの戦い、そして彼女達の「女」としての誇りを目にしたヤマトは「女」である筈の自身を「男」だと主張している自身に幼稚さを感じるようになってしまった。
そもそもヤマトが自身を「男」だと主張しているのは別に自身の精神が「男」だからではない。ただ憧れている男達のマネをしているだけだ。
これでは……自身を偽るだけではないか?
しまいにそういう考えもヤマトが抱えるようになった……
そんな悩み、そして自身の態度が戦いを侮辱していると見受けられている事で俯いたヤマトに鼻を鳴らすアガサだが
「……!!」
アガサにうるティが襲い掛かる。怒りのままに。
「〝ウル頭銃〟!!!」
「ムッ!!」
その威力は今までよりはある――が、それでもアガサには届いていない。ただ、うるティはそれでも頭突きを続ける。
「〝ウル頭銃群〟!!!」
「〝乱式〟!!!」
アガサも負けずに乱打を放ち返す。うるティの〝ウル頭銃群〟とアガサの〝乱式〟が激突し続け――しまいにはうるティの頭とアガサの拳が張り合うようになっていた。
「ぬぅぅぅ……!!」
「ぐぅぅぅ……!!」
2人はしばらく力比べしていた。そんな最中、うるティがアガサに言い放つ。
「お前よぉ!!ヤマトをナメたらシバキ殺すぞ!!」
「「!!」」
その言葉にアガサ、そして俯いたヤマトも頭を上げて目を見開く。
「……お前はなぜヤマトを庇う?」
「あぁ!?」
「アイツは――女の身にも関わらずに「男」だと主張していて、しかも戦いに身が入っていない不届き者だぞ?」
アガサのその言葉にうるティは
「――知らねぇよ!!」
「「は?」」
うるティのそれは――そりゃ見事にはっきりしていて、そしてあっさりする言葉に呆気に取られたヤマトとアガサ。そんなヤマト達の様子を知らずか、うるティは言葉を続ける。
「――「男」だと主張しようが何だろうが――ヤマトはヤマトだごんす!!」
「何の悩みを抱えているのか分からねぇが……きっと開き直ってくれるごんす!!」
「その時こそがお前の最後だごんすぅ!!」
うるティのメチャクチャでハイテンションさにヤマトもつい吹き出した。
「……ははっ」
今のヤマトの顔は――晴れやかだった。
――そうだ!僕にはうるティ――お兄さんとお父さんもいる!皆もいる!
――性別がどうした!僕は僕なんだ!
皆がいるからこその僕――ヤマトなんだ!
――自身を偽るのはもう止めだ!!これからは――純粋な「ヤマト」として強くなり生きてみせる!!
「僕は――「四皇」〝百獣のカイドウ〟の「娘」にして――〝暴獣のスサノオ〟の「妹」――ヤマトだぁぁぁあ!!!」
そう雄叫びを上げたヤマト――から強き〝圧〟が湧き出てきた。
「「!!?」」
それを身に受けたアガサとうるティは力比べを止め、下がった。
そしてアガサは「それ」の正体、そしてヤマトから「それ」を放っているという事実に驚愕する。
「バカな……!!(まさか……「覇王色」なのか……!?)」
突然の事態に混乱しているアガサにヤマトは宣う。
「これから――君に全力でいくよ!」
そう言うヤマトは金棒を回転させて――しかも、そこに冷気を纏わせた。
そんなヤマトの姿にアガサは冷静になり――目を鋭くする。
「……どうやら、先程の不届き者とは違うようだな」
「……「女」だからって――本当の意味で手加減をする訳にはいかないようだ」
そう呟くアガサは拳を構える。
「いいだろう……お前らを「戦士」だと見てやろう」
――2人は互いに相手に放とうとする技に全ての力を込めていく。
そして、ついに動かれた。
まず、ヤマトの方から駆けていった。それにアガサも待ち構えながら、正面からやり返そうとする。
「〝氷諸斬り〟!!!」
「〝滅式〟!!!」
ヤマトの金棒とアガサの拳が激突した。
「「オオォォォォォ!!!」」
しばらく激突しし続けている。
「オォ……」
「……!!」
微かだが、アガサの拳がヤマトの金棒を押され始めていた。
思わず焦りを感じたヤマト。
その途端に頭にある景色が浮かぶ。
『ヤマト。お前はどうにも――パンチと金棒を振るう時に腰が入っていないようだ』
兄――スサノオが過去のヤマトにそう言う。
『腰が入っていない?』
『あぁ』
スサノオのその言葉に疑問を持つヤマトにスサノオは頷く。
『いいか、パンチとか金棒を振るう時とかはな、ただ振るうだけじゃいけねぇ。それでは力を発揮できないからだ』
『身体そのものを使う事で力が高まる――その第一歩として、まずは腰が入る事からだな』
『……ん〜、よく分からないな』
スサノオが説明してくれるも、まだ疑問符を浮かべるヤマトの頭をスサノオが撫でてくれる。
『リュドドド!まぁ、いずれ分かる!大丈夫!お前なら気付くさ!』
そう言い放ち、笑う兄を思い浮かぶヤマトはそれを口にする。
「――腰が入る」
そう呟いたヤマトは自身の腰が入るように調整した。
「……!!(何だ!?奴の力が――高まった!!)」
「オンラァ!!」
アガサが感じた通りに力が高まったヤマトの金棒が今度はアガサの拳を押さえ始めた。
やがて
「――見事」
そう微笑んだアガサは拳を吹っ飛ばされ――そのまま金棒を身に受けた。
そしてアガサは勢いよく吹っ飛ばされ、床に叩きつけられた。
――アガサが立ち上がってくる気配はなかった。
「はぁはぁ……」
それを見届けたヤマトは息切れし――しかし晴れやかな笑みを浮かべた。
そんな彼女にうるティは駆けてきた。
「やったごんすね!!」
「うん!そうだね!」
うるティからの歓喜にヤマトも頷く。しかしうるティは首を傾げた。
「――カイドウ様の「娘」とかスサノオさんの「妹」とか言ったよなごんす?」
「……あ」
うるティの指摘にハッとしたヤマトは彼女に自身の決意を説明した。
ヤマトの決意にうるティは――面倒くさそうな顔をしていた。
「――「男」になると言ったと思ったら、今度は「女」として生きるとか……ややこしいごんす!!」
うるティが思わずこぼした文句にヤマトも
「はは……だよね……お兄さんにもお父さんにも皆にも謝らなきゃ……」
苦笑しながら、自身の気分で振り回される皆に申し訳なさを感じていた。
――ただ答え、何より本当の自身を見つけられた事にヤマトは晴れやかな気分になる。
『暴獣海賊団 ヤマト&うるティ
VS
ムザン海賊団 アガサ』
『無限城
「アガサの部屋の戦い」』
『勝者 ヤマト&うるティ』