戦いには戦いである以上、どのようなものであろうが――緊張感が必ず走るものだ。
無限城の如何なる箇所にそれぞれ起こっている戦いにも当然、緊張感が走っている。
――だが、その中でも緊張感が異様に高い戦いがある。
その戦いとは――
「「…」」
フドウとペストが対峙している――ただ、ただそれだけだが、その場には異様な緊張感が走っていた。
――フドウの背面から噴出している火がその空間を暑くさせているせいもあるかもしれないが……
「…(コイツ……やはり、できるな……)」
目前の相手を睨みつけるフドウはそう評価せざるを得なかった。
それ程に――ペストから放たれている雰囲気――圧は重かった。
「…(ほぅ……この私を前にしても……恐怖に屈せず……怯まずに……立ち向かおうとしてくるのか……)」
フドウが自身から放たれている圧を身に受けても果敢に構えている姿にペストも感嘆していた。
「…(しかし……こやつの姿……やはり悪魔の実の能力者にしては……異質な……)」
そしてフドウの身体にはペストも疑問を抱えずにはいられなかった。悪魔の実によるものではないのが余計に好奇心を掻き立てられる。
「(……カラスの如き黒い翼……後ろの火……まさかな……)」
フドウの身体にみられる特徴から、その正体にペストも心当たりがあるのか眉をひそめる。
だが、フドウの身体に関しての考察をとりあえず断ち切ったペストはフドウとしばらく睨みつけ合い続ける。そして
「〝火龍〟!!!」
突如フドウが炎で形成した龍を生み出して、ペストを焼き尽くそうとする。
襲いかかってくる〝火龍〟にペストは怯まずに冷静に――
「〝闇月・宵の宮〟」
ただ抜いた剣で横薙ぎに一閃する。
一見ただの居合斬りだが、異次元の抜刀速度と月輪の斬撃が合わさる一撃である為にその斬撃により〝火龍〟が呆気なくかき消された。
「……!!」
それにフドウも目を見開く。
無理もない――ペストの強さを確かめる小手調べといえ、なかなか軽くはない筈の技を呆気なくかき消された上にそれをやり遂げられたペストの剣の性質にフドウも戦慄せざるを得なかった。
動揺のあまりについ固まってしまったフドウに対してペストも自ら動く。
「〝珠華ノ弄月〟」
ペストは斬り上げるようにして正面に三連の斬撃を放ち、大きな月型の刃でフドウを取り囲んで斬り裂こうとする。
「!!――〝迦楼羅炎〟!!!」
その攻撃に対してフドウは背面の火を燃え盛らせ、その炎を自身の身体、周囲に覆わらせる。
その炎に斬撃が焼き尽くされた事で防がれた――かのようにみられるも
「……!!」
自身の身体にダメージが走ったのを感じたフドウは目を見開く。
――ルナーリア族であるフドウの身体にはその体質によりダメージが通れない筈であった。背面の火を燃え盛らせているのであれば、余計にだ。
「……なぜ、このオレの身体にダメージが……?」
自身の身体に起こっている異常事態に軽くだが、混乱しているフドウのこぼしたその言葉にペストも眉をひそめる。
「……本来なら、ダメージが通れない筈の身体だと?」
「!」
ペストから確認する為に言ってみた言葉にフドウもつい口を閉じる。
だが、その沈黙により肯定だと見なしたペストは説明する。
「……私の同僚にはダメージが通れにくい身体と化する技術を編み出した者がいてな……」
「そやつ……そして、同じような者にもダメージが通るように……そう、体内にダメージを通らせるようにする技を私は編み出したのだ」
ペストからのその解説にフドウも納得できた。
「(要は――「魚人空手」と同じだとみるべきか)」
そう判断したフドウは心構えを整え直し、これからの戦闘スタイルに関しての考察に入る。
「…(どうする?火と力にものをいわせてやるか?それとも――高速攻撃でいくか?)」
しばらく思案に耽るフドウをペストはただ凝視する。
「…(無茶かもしれんが……やってみるか)」
やがて、ある戦闘スタイルを思い付いたフドウは剣を構え――身体を覆っていた、何より背面の炎を消す。
「!」
フドウの身体から火が消えたのに眉を上げたペストの目前でフドウの姿が突如消えた。
「!」
フドウの姿が煙のように消えていた事態に目を見開くペストはふと何かに気付く。
「〝紫電一閃〟!!!」
途端にフドウがペストの後ろに突如姿を現した。しかも、ペストの服がいつの間にか少しコゲていた。
「……浅いか……!!」
驚異的な移動力で放った斬撃――〝紫電一閃〟に対してのペストのダメージの軽さに眉をひそめるフドウだが、自身の身体にダメージを感じて目を見開く。
「〝厭忌月・銷り〟」
そんなフドウにペストはそう口にする。
実はペストは横薙ぎの形の斬撃を月型の刃を纏わせて素早いフドウにも互い違いに2連続で放ったのだ。
「――しかし、凄まじい移動力をも持っているとはな」
ペストもフドウの移動力を褒め称える。現にペストもそんなフドウに攻撃を放てたのはたまたまに気付けたからだ。
眉をひそめるフドウにペストは言葉を続ける。
「――だが、何か制限があるようだな……攻撃する瞬間、移動力が下がったように感じられたぞ?」
ペストのその指摘にフドウも口を閉じるしかなかった。
――実はフドウがルナーリア族特有の移動力でやっていく事にしていた。ただし、攻撃の瞬間だけは背面の火を噴出させ、攻撃力を強化させていたのだ。
まぁ、だからこそかペストの攻撃によるダメージを低減させる事ができたが……
とにかく、ペストの強さに舌を巻かざるを得ないフドウは気を取り直して次の手を打つ。
「……はぁぁぁ!」
フドウは姿を変えていく――ステゴサウルスに変身した。
「!……さすがにそれは悪魔の実の能力……だな」
その姿に目を見開くペストに向かってフドウは宣する。
「行くぞ!」
その途端にフドウの背中の菱形の骨板が――回転してきた。まるで丸形ノコギリのように。
「……待て……その恐竜の身体はそんな仕組みだったか?」
恐竜に関しての知識・常識を疑ってしまう事態にペストもツッコまざるを得なかった。
だが、そのツッコミを無視したフドウは回転している骨板から斬撃を放ち続けた。
「〝鎌鼬群〟!!!」
放たれたその無数の斬撃にペストも技を放ち返す。
「〝月魄災渦〟」
ペストから出現させた竜巻の様な斬撃が無数の斬撃を呑み込んだ。
「!!」
その竜巻がそのままフドウさえも呑み込んでしまう。
「……!!」
一旦冷静に事態を見守ろうとするペストが突如目を見開く。
竜巻が突如破られ、そこから現れたフドウの身体がすごい勢いで回転していたからだ。
「〝回転隕石〟!!!」
フドウはそのまま回転している自身の身体でペストを叩き潰そうとする。
「〝月龍輪尾〟」
対するペストも強烈な力で素早く繰り出す抉り斬るような横薙ぎの一閃を放つ――が。
「!!」
その斬撃もフドウの身体の回転には届かず、ペストに向かうのを許してしまう。
「オオォォォォォ!!」
フドウの回転されている身体が床に叩きつけられた。骨板の回転がまだ続いているのもあって、しばらく床に伝えられている衝撃が続いていた。
「……!!」
フドウが突如吹っ飛ばされた。空中に浮かばれたフドウがなんとか床に足を付く。
そして凹まれた床からペストが立ち上がってきた――ただし、その姿は無事ではなかった。
彼の上半身は服が剥がれたので露わになっている上に傷と火傷も負わされていた。
「……!!」
あのペストが傷を負わされた事実に目を細めるフドウは素早くペストに駆け込む。
「……!!」
駆け込んでくるフドウに対してペストも剣を構える――が、フドウが突如空中に飛びかかる。
「!!」
「〝回転隕石〟!!!」
フドウは自身の身体をすごい勢いで回転させながら――今度は炎を纏いながら。
ペストに確実にダメージを与えられた攻撃をさらに強化させた状態で再び放つつもりだ。
そんなフドウにペストも負けずに更なる技を放つ。
「〝穿面斬・蘿月〟」
ペストが複数並べて放った回転鋸のような形状の巨大な二連の斬撃がフドウの〝回転隕石〟と激突した。
それは火花が飛び放たれる程に張り合っていた。
「ググ……」
しばらく耐えていたフドウだが、張り合いから突如衝撃波が放たれ彼が吹っ飛ばされた。
あまりの衝撃によりステゴサウルスに変身していたフドウの姿も人型に戻された。
「――あんな技まであるというのか!!」
〝穿面斬・蘿月〟に目を見開くフドウはペストの強さには戦慄せざるを得なかった。
「――ここまでか?」
ペストはフドウに近付きながら――静かにそう声を掛ける。
「ぬぅ……」
「……お前がこんな様では――船長とやらもたかが知れるな」
「!!」
焦燥しているフドウの様子にどこかガッカリしているようなペストがつい言いこぼした言葉にフドウも目を見開く。
「(……このオレがこんな様を晒すとかえって――スサノオさんの顔に泥を塗ってしまうのか……!?)」
「(……それで良いのか!?フドウ!!)」
「(――否!否!!否ぁぁぁぁあ!!!)」
「(我はスサノオさんの盾――そういう不甲斐ないマネは許されない!!認めてたまるか!!)」
「――オォォォォ!!」
慕っているスサノオに恥をかかせる訳にはいかぬと自身に気合いを入れたフドウは雄叫びを上げながら立ち上がってきた。その気迫にペストも剣を構える。微笑みを浮かべながら――
「――次はどう来る?」
期待しているようなペストにフドウも――ある技を実行する決断を下した。
「……やるか」
そう呟くフドウの背面の火を少しずつ小さくする。
「!消した――いや?これは……」
フドウの背面の火の今までとは違う変わり方にペストも目を細める。
「圧縮している……?」
「〝炎熱地獄〟!!!」
ペストがそう呟いた途端にフドウの背面の火が爆発的に広がった。その広がりが拡大し、場が炎に包まれた。
「こ、これは……!!……くっ!」
あまりにも異常事態に目を大きく見開くペストはとりあえず自身に襲いかかろうとする火炎に集中する。
「〝常世孤月・無間〟!!!」
ペストは一振りで縦方向に無数の斬撃波を乱れ撃ちして火炎を掻き消す。
――だが、新たに湧き出る火炎が再び襲いかかってくる。
「く……厄介な……しかも、酸素も……」
苦虫を噛み潰したような顔になっているペストは〝炎熱地獄〟の厄介さを身を持って思い知らされた。
〝炎熱地獄〟――
フドウが背面の火を圧縮し続け、そこから爆発的に広がらせた事で発動する結界である。
フドウの周囲の空間を炎上させる事で空間内の人間を敵味方関係なく焼き尽くそうとする。さもなければ凄まじい熱と酸素の減少に体力を奪われ、弱体化されていくだろう。
なお、技の発動者であるフドウは「自然界のあらゆる環境下で生存できる」と謳われるルナーリア族だけはあって影響を受けないのだ。
――ただし、一気に大火炎を湧き出させようとする為に体力を激しく下がられてしまうのだ。
さらに大火炎が広がり、仲間にも影響が及ばされてしまう危険性がある。
「無限城」の詳細を知らないフドウはこういうリスクがある為にうかつにこの技を発動したくなかったのだ。
――だが、ペストのあまりな強さによりフドウも発動せざるを得なかった。
とにかく〝炎熱地獄〟に苦心しているペストは状況を変えようと大技を放とうとする。
「〝兇変・天満繊月〟!!!」
ペストは周囲を埋め尽くす量の渦状の斬撃を折り重ねる波状攻撃を放った。
その攻撃に大火炎をほとんどかき消された。
――そして、剣を大きく振ったペストの目前には――激しく燃えている剣を大きく振り上げているフドウの姿があった。
「!!(しまっ――)」
「〝裁火一閃〟!!!」
自身の置かれている状況を自覚したペストだが、もう手遅れ。すぐに構え直せないペストはフドウの振り下ろした炎の剣によりただ斬り捨てられた。
「がは……」
深い傷と火傷を負わされたペストは血を吐き――倒れかけた。
しかし、なんとか踏ん張ったペストは――後ろに立つフドウに声を掛ける。
「――見事」
「……それはこっちのセリフだ」
その称賛にフドウもそう言い返す。その返しにペストも肝を抜かれた。そんなペストにフドウはそう思う理由を口にする。
「……あの〝炎熱地獄〟を――よりにもよって……力業で破るとは……恐るべし漢よ……」
破るのが困難だと思われた〝炎熱地獄〟を力業で破ったペストの異次元的な強さにフドウも畏怖を感じずにはいられないのだ。
「……そうか」
フドウのその言葉にペストの胸内は――不思議な事に晴れやかだった。
ペスト――
実は彼は〝ギビマ〟の剣士だった。
それも腕は確かで実力者であった。
そんな彼だが、自身より強いといえる実力者がいた……それこそが――彼の双子の弟だった。
彼の強さにはペストも嫉妬を覚え、彼を越えようと鍛えまくってきた。
だが、どれだけ鍛えまくっても――届けられない彼の強さに嫉妬が高まると同時に絶望を感じるようになっていた。
そんなところに弟が急逝してしまった。
目標を突如見失ったといってもいい状況に置かれたペストは自身でも抑えられない強い嫉妬と絶望に苦しめられた。
そんな彼につけ込んだムザンの勧誘に乗り、ムザン海賊団の一員になった。
そこで実力を発揮できたムザンの猛威が知れ渡るも、それでも彼の心は――渇いていたのだ。いつまでも――いつまでも……
永遠に乾き続けていくのだと思われたペストの心は――フドウとの戦い、何より彼の心からの称賛にようやく救われたのだ。
晴れやかな気分になれたペストはフドウに感謝の意を込めて言葉を送る。
「……御武運を」
ペストはそう言い残し――倒れた。
彼のその言葉に何かを感じ取れたのか、フドウはしばらく目をつむる。
やがて目を開けるフドウが重々しく宣言する。
「――我は〝裁火のフドウ〟なり」
「暴獣海賊団はおろか、スサノオさんの敵は我が火により――裁かれ、焼き尽くされるのみ」
そう宣言するフドウの姿は堂々としていた……
『暴獣海賊団 フドウ
VS
ムザン海賊団 ペスト』
『無限城
「ペストの部屋の戦い」』
『勝者 フドウ』