――暴獣海賊団とムザン海賊団の戦争から3日後
〝ギビマ〟では今――国全域で祝祭が行われていた。
何せ、国を乗っ取ろうとしたムザン海賊団の魔手から救われたのだから、その祝いとして騒がずにはいられないのだ。
――そして、コンストラクション邸でも祝賀会が行われていたが、そこにはオレ達――暴獣海賊団も招待されていた。
確かにオレ達は海賊ではあるが、ムザン海賊団を撃破し〝ギビマ〟を救えた――結果に繋がる行為をしていたのもまた他でもならぬオレ達であった為にカガヤに招待されたのだ。
「――しかし、海賊のオレ達を招待して大丈夫なのか?世間の目とか」
「えぇ、大丈夫ですよ――民の方々もあなた達ならばと納得していたし」
祝賀会に参加している人々――暴獣海賊団の海賊達も甘えて楽しんでいる中、オレはある者と会話していた。
――コンストラクション・カガヤだ。
しかも――以前はギリギリ死んでもおかしくない程に痛々しい姿だった筈のカガヤは今、元気な姿をみせていた。
――キリヤが命がけで手に入れた治療薬によりカガヤの身体は無事に解毒できたのだ。
といえキリヤの身体が毒に抵抗していた分、体力を消費されていた為に今は安静している。
だが、会話するぐらいは大丈夫らしいのでオレ達は会話していた。
「……オレ達が百獣海賊団の傘下だとしてもか?」
「えぇ」
オレからの確かめるような言葉にもカガヤは穏やかに微笑む。
「我々は例え、身元がどうであろうが――その者の行いと態度を基準に判断しています」
「だから――あなた達の事を信頼する事に決めました」
穏やか――しかし凛々しいカガヤの態度にオレもつい、ニャッとした。
「……あんたのような奴には心配さえ余計のようだ」
オレが言い放つ言葉にカガヤも微笑む。そして空気が少しマジメになる。
「さて――気を取り直して……我々は少しマジメな話をしましょうか」
「おっ」
空気が変わったカガヤから放たれる言葉にオレも気を取り直す。
「確かに檻に入れてしまった件の補償はもう済ませましたね――他に希望は?」
「あぁ、容赦なく言ってもらうが――百獣海賊団の旗をもらう気はあるか?」
「おぉ、それはそうですね」
めでたい祝いの中でオレとカガヤはそんな会談していた――
●
「あ、あの!」
「はい?」
祝いを楽しむ中で突如声を掛けられた小紫――私は視線を向けると――キリヤが立っていた。ただ、何か頬を赤くして恥ずかしげな様子をみせていた。
「何でしょうか?」
といえ、とりあえず私はキリヤに用を問いかける――が、キリヤが何かを言いかけて口を閉じてしまう。
「……あの?」
彼の態度に訝しげな私に意を決したらしいキリヤが口を開く。
「あ、あなたの好きな食べ物は何でしょうか!?」
「え?」
つい呆気に取られた私を前にキリヤは唾を飲んで言葉を待つ。
そんなキリヤの態度に私はある可能性を思い浮かべた。
「(もしかして……私に好意を持っている……?)」
私がそう考えた――通りなのだ。
キリヤは自身を助けてくれた、しかもそれだけではなく、結果論といえ〝ギビマ〟の為に戦ってきた凛々しい小紫に惚れてしまったのだ。
年相応に恥ずかしげにするキリヤを私は――冷静に見極めていた。
「(……確かにキリヤは国主の息子だし。いい人材かもしれないけど……はっきり言うと……彼には魅力を感じられないな〜)」
キリヤにはそういう感情を持てない自身を自覚した私は少し思案に耽る。
「(私には魅力を感じられる男……なんだろうか……たくましく――カッコよく――そう、スサノオのような――)」
なぜか怨敵の筈のスサノオの顔を思い浮かべてしまった私の心内では首を激しく振るった。
「(な、何を考えてんの!!私!?あんな男を思い浮かぶなんて!!)」
激しく動揺した私はその事を一旦忘れる事にした。
「(こ、この題は置いといて――)」
気を取り直した私は再び思案に耽る。
「(といえ……国主であるカガヤ殿はスサノオと良い関係を築いているようだけど――どうせなら……後継ぎのキリヤとも良い関係を築いておくのも手ではないか?)」
そう目論むようになった私にキリヤもたまらず声を掛ける。
「あの〜?」
「(なら……彼と少し話すのも悪くはないな)」
胸内でニャリとした私は可愛らしい笑みを浮かべながらキリヤと会話し始めた。
――かつて幼く弱かった少女は確実に海賊としての道を歩んでいた……
●
「どうしたの?お兄さん?」
一見、呆けているようにみられるオレはカガヤとの会談を一旦終え、会場を少し歩いていたところである方向を凝視していたのだ。
そんなオレにヤマトが声を掛けた。そばにはフドウもいた。
「おぉ、ヤマトか。フドウも」
「はい」
ヤマト達に気付いたオレに頭を下げたフドウをよそにヤマトは問いかけてみる。
「どうし――」
「そういえば、ヤマト。お前は「男」をやめるんだってな」
「うっ……」
ふと思い出したオレからのその言葉にヤマトも口を閉じた。そして、すぐに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。気分で皆を振り回してて……」
「……まぁ、自覚がちゃんとある上に謝っているならオレからは何もねぇよ」
ヤマトからの謝罪にオレも眉を上げた。
……親父達に憧れているまでは別にいいが――性別を「男」だと偽るのは確かに幼稚かもしれん……
だが、このオレでも気付かなかった問題点にヤマトが自身で気付けた時点で上々だ。
妹の成長にオレもつい頬を崩した。
「……親父には――帰った時に自身の口から直接言えよ」
「うん……」
一応、ケジメも必要だろうと考えたオレがそう言い、ヤマト自身も同感らしく頷いた。
「――じゃなくて!何があったの?」
突如ヤマトがそう問いかけてきた。フドウも気になるらしくオレを凝視してくる。
「リュドドド……」
ヤマト達の視線に苦笑したオレはある方向に視線を戻す。ヤマト達もつられて視線を向けると――
「!小紫……」
「……小紫の奴、キリヤとかいう奴と会話しているな……」
オレが小紫を見ているのを理解したヤマト達にオレは彼女の意図に関しての推測を口にしてみる。
「……小紫の事だ。〝ギビマ〟との関係を強化する為に後継ぎのキリヤを懐柔しようとしているのだろうな」
オレのその推測にフドウも頷く。
「そのつもりだとすれば――オレ達にとっても別にマズい事は何もないな」
「……でも!小紫もすごいよね!キリヤ君との交渉もそうだし、戦争でもドーマなんとかを撃破していたし!」
フドウが無問題だと言い、ヤマトも小紫を褒め称える。だが、このオレは――複雑な表情を浮かべていた。
「……どうしたの?」
そんなオレに気付いたヤマトがそう問いかけてきた。フドウも気になったのか耳を傾げていた。
そんなヤマト達にオレは静かに言う。
「……いや、何か……変な気分だよな〜」
「「……え?」」
「……小紫がやろうとしている事は暴獣海賊団の利益にも繋がるから問題はねぇのに……」
「いざ、小紫が男の子と仲良くするのを見ていると……」
小紫がキリヤと楽しそうに会話しているのを凝視するオレの顔は――何かイラついているように見受けられた。
「……何だかな〜」
自身の感情が何なのか分からない為に疑問符を浮かべるオレだが、そんなオレの様子と言葉に目を丸くするヤマトとフドウは互いに見合わせる。
「……お兄さん!小紫の事、どう思う!?」
突如ヤマトが頬を赤くする――何か興奮しながら問いかけてきた。それにオレは即答した。
「あぁ……大した奴だと思うぜ。あの調子ならば――大海賊になれるだろうな」
「……もう!」
その答えにはヤマトもなぜか不満気だった。一方でフドウも複雑な表情を浮かべていた。
「…(小紫の身分、あんたとの関係を考えると……〝そういうもの〟は厄介事なんじゃ……)」
――実は彼は小紫の身分には何となく勘付いていた。だからこそ――厄介事を引き起こされそうな気がして仕方がなかった。
――いずれにせよ、今の時点では〝そういうもの〟はまだだろう……
●
あれからヤマトのしつこい問いかけから逃げるように会場を歩いていたオレはある男と顔を合わせた。
「おう!お前が――キサメか!」
「えぇ、流浪人の――キサメと申します」
――キサメだ。
彼も〝ギビマ〟を救おうとするのに手を貸した為に招待されていたのだ。
「そういうあなたこそが――スサノオさんですね」
「おう!――聞いたぜ。ウチのジャックと手合わせしたんだってな!」
「えぇ――彼は確かに強かったですよ」
ジャックと手合わせをしたキサメが素直に彼を褒め称えた。
弟分を褒められて良い気分になったオレが笑みを浮かべたのにキサメは目を細める。
「――あなたは本当に心からジャックを想っているんですね」
「ん?」
突如キサメがそう言ってくるのに眉を上げるオレをよそにキサメは静かに自身の事について話し始めた。
キサメ――
彼は魚人島出身だが、自身の種別間の長らく続けられているわだかまりにうんざりしていたのだ。
だから、彼は魚人島を何の未練もなく出て〝偉大なる航路〟を自身の気の向くままに旅してきた。
「――ですが、ジャックと出会い、それに伴いあなたと暴獣海賊団に興味を持てました」
キサメの説明にオレは真剣な表情になりながら耳を傾げ続けた。そんなオレにキサメはある疑問を投げかけてみた。
「――あなたは魚人と人魚、人間との間のわだかまりをどう思いますか?あと――ジャックの事をどうみているんです?」
真剣な表情を浮かべているキサメからの問いかけにオレは口を開く。
「……ジャックにも言ったが――」
「このオレは種族が違うだけでくだらねぇマネはしねぇよ」
「ジャックはジャックなんだ。だからこそ受け入れているんだ」
オレからハッキリと言い放たれた答えにキサメも目を丸くし肝を抜かれた。そして彼は思案に耽る。
「……なるほど……」
「……暴獣海賊団か……」
少し俯いているキサメからオレは目をそらさずに真剣に見続ける。やがて頭を上げたキサメは口を開く。
「スサノオさん」
「おう」
「――このキサメを暴獣海賊団に入らせて頂いても?」
キサメの希望にオレは笑みを浮かべる。
「おう!歓迎するぜ!キサメ!」
「――今後ともよろしくお願いいたします」
――こうして流浪人〝キサメ〟が暴獣海賊団に加入した。
●
祝賀会から数日後
〝ギビマ〟を十分に周遊してきた暴獣海賊団が出航する時が来たのだ。
「テゾーロ。資金繰りはどうだ?」
「無問題ですよ!むしろ利益が高いぐらいですよ!」
暴獣海賊団が出航準備されている中でオレはテゾーロにそう問いかけ、その答えに頷く。ふとテゾーロが口を開く。
「……しかし……キサメ君はとにかく――〝彼ら〟まで乗せるとは……」
目を少し丸くしているテゾーロにオレは笑みを浮かべる。
実は〝彼ら〟――ムザン海賊団に所属するペストとアガサの2人は他の者と同じく拘束される筈だが、その身柄は暴獣海賊団に預かられる事になったのだ。
その2人の人となり、何より彼らと対峙してきたフドウとヤマトからの希望を聞いたオレがそう決意したのだから――
「確か……ペストかという者は暴獣海賊団に入らずにワノ国で住む事に?」
「あぁ、そういう決まりになっている。あと……」
「――今はもう〝ペスト〟じゃねぇ……〝ミチカツ〟というんだ」
ペスト――改めミチカツ――
彼は心が満たれられた為に檻の中で一生を送る覚悟だった。
だが、彼を気にかけるフドウの働きかけで身柄は暴獣海賊団に預かられたのだ。
ただ、満足から真っ白に燃え尽きたといってもいい状態になっている彼はもう戦闘する事はないだろう。
そんな状態では暴獣海賊団に所属するのは難しいだろう。
それで暴獣海賊団の冒険に1年間同行し、ワノ国に帰る際にそこで住んでもらう事になっている。
フドウと会話したミチカツはワノ国で剣術範囲として生きる決意をしたという。
一方でアガサの方は――
●
「……そうか」
出航準備の数日前にオレとヤマトはアガサと面会していた。
そこで自身とペストの身柄が暴獣海賊団に預かられた事とペスト、改めミチカツの決意を聞かれたアガサはそうこぼした。
「……なぜ、オレを?お前はオレを嫌っていた筈だ」
ヤマトに視線を向けたアガサから投げかけられた疑問にヤマトは一文字にしている口を開く。
「……フン!嫌っているんじゃなく――ただ、「女」である僕を傷つけたくない姿勢が気に入らないだけだ!」
「それに……君の強さは惜しいと思っているから――お兄さんに頼んだだけだ!」
はっきりと言い放ったヤマトに少し圧倒されたアガサは俯きながらこぼす。
「……そうか」
「……だが、女性を傷つける行為にはどうしても――」
アガサが血を吐く思いで言い放たれる言葉にヤマト、そしてオレも眉をひそめる。
「……なぜなんだ?」
オレ、ヤマトも感じるその疑問にアガサは話し始める――
アガサ――
彼は〝アガサ〟と化する前は――気が強く喧嘩っ早い気質ではあったものの、本質的には家族をはじめ自身の愛する者を全力で守ろうとする他人思いの心優しい好漢だった。
――だが、愛するある女性と結婚を決意したところに彼女に恋がれていた男に嫉妬され、また力でも打ち勝てない為に逆恨みされ、住んでいた家の井戸に毒を仕込む暴挙に出られたのだ。
その毒により恋人とその父親も苦しみながら死んでいった悲劇にあわされた彼は怒りに我を忘れ、男とその取り巻きを殺戮してきた。
それでも怒りと悲しみが癒やされない彼の元にムザンが現れた。
ムザンからの勧誘に自暴自棄な彼が乗り、彼の部下になった。
そうして彼は――〝アガサ〟と化した。
アガサから淡々と話した物語にオレ達は絶句してしまう。
「……ひどいよ。ひどい!君が――君達が一体何をしたというんだ!」
アガサ達の為に悲しむヤマトはアガサの両肩に手をかける。
「――アガサ!僕達の船に乗って!そこで新たな人生を歩むんだ!」
ヤマトからの必死な説得にアガサは肝を抜かれるも、その提案に乗れずに俯いた。
「……オレは……」
「……あーもー!一体何を迷っているの!」
そんなアガサに焦れったくなったヤマトはそう叫ぶも
「……しかし……オレは…」
「……お兄さん!」
意外にネガティブなアガサに困り果てたヤマトがオレに顔を向ける。
それに対してオレはある言葉をアガサに送ろうとした。
「――アガサよ。お前は敗者だよな?」
「……まぁな」
オレのその言葉には少しはっきりな反応をみせたアガサに言葉を続ける。
「敗者は勝者に従うよな?」
「「!」」
オレのその言葉にアガサ、そしてヤマトもハッとする。
「なら……勝者の権利として――敗者のお前の身柄を預からせてもらう」
「そこでお前は一度死に――新たに生まれ変わったつもりで生きてみろ」
「しばらく生きてから、改めてどうするか決めろ」
「どうだ?」
オレからの勧誘にアガサは目を大きく見開く。
ふとムザンからの勧誘を思い出したアガサはしかし、それは自身の「力」が目当ての薄汚いものだと気付いた。
だが、今オレ――オレ達が「力」ではなく「自身」を見てる上で誘ってくれているのに気付いたアガサは――その懐深さについに涙を流す。
「……オレが……」
「ん?」
俯いたアガサが口を開いているのにオレ達は耳を傾げてみた。
「……オレが〝アガサ〟と名乗る前は――」
「――〝ハクジ〟でした」
「その名前で呼んでほしい……です」
そう言い、頭を上げたアガサ――〝ハクジ〟の顔は笑っていてスッキリしていた。
その晴れやかな笑みにオレ達も笑い返す。
「――それは乗るという返事でいいか?」
「はい」
オレの確認にハクジはそう即答した。
――こうしてムザン海賊団の〝アガサ〟は〝ハクジ〟として暴獣海賊団に加入した。
●
「――それじゃ!出航だぁ!!」
「「「オオ〜〜ッ!!」」」
暴獣海賊団は晴れて〝ギビマ〟を出航した。その出航を見送る者が数人。
「……いいんですか?彼らを見送るのにこの人数で?」
そう言ったのはキリヤだった。
彼を含むコンストラクション家が暴獣海賊団の出航を見送っていたのだ。
少人数で見送る状況に不満気なキリヤにカガヤは穏やかに言う。
「……ふふっ、そうだね――でもね。彼――スサノオ殿は言ったんだよ……」
『リュドドド!オレ達は海賊!国を挙げての見送りはオレ達には似合わねぇよ!』
「――だと」
カガヤがスサノオの言葉を言うとキリヤも吹き出す。
「……ハハ!そうですか!」
「――でも〝ギビマ〟の統治者として我々は見送るべきだと思ってね」
「そうですね!」
カガヤのその考えに共感するキリヤも遠いでいくカイリュー号を凝視する。
カガヤもカイリュー号を凝視し、そして呟く。
「――あなた達と出会えた幸運に感謝を……」
――暴獣海賊団は〝ギビマ〟を出航し、更なる島へ向かおうとした……