――〝ギビマ〟を出港した暴獣海賊団はそれからも海を旅し、様々な島々にも上陸し冒険してきた。
しばらくして1年。
暴獣海賊団は今――〝ワノ国〟に向かっていた。
そもそも、暴獣海賊団はどれだけ冒険しても――少なくとも年に一度に〝ワノ国〟に、それも年に一度の〝金色神楽〟が行われる前日に帰るようにしている。
「リュドドド!!キサメ!ハクジ!ミチカツ!これが――〝ワノ国〟だ!!――入国前だがな!!」
オレからの説明に見事に巨大な滝を見上げた3人も感嘆の声を上げた。
「これはこれは……」
「勢いがあるな……!」
「うむ……」
誰だろうが容易に手を出せない、まさに〝天然の要塞〟の如き巨大な滝の猛威に新顔3人は圧倒されていた。
「――しかし、まさか〝ワノ国〟こそが百獣海賊団の本拠地だったとは……」
「――百獣海賊団の本拠地に関しての情報が皆無だったしな……」
〝ワノ国〟が百獣海賊団の本拠地だったという事実にキサメとハクジが驚愕した中、同じく驚愕した筈のミチカツは妙に納得する様子をもみせていた。
「……実は……ムザン…様…が百獣海賊団の本拠地に関しての情報が皆無である事…そして〝ワノ国〟の詳細も謎である事から――睨んでいたが……まぁ、それはいいか」
そんな3人に誇らしげに頷くオレは指示を下す。
「よし!――「滝登り」で行くぞ!!」
「アイアイサー!!――鯉を捕まえなきゃ!」
新顔3人が〝ワノ国〟を訪れた記念として暴獣海賊団は「滝登り」の方法で入国していった。
「滝登り」にはもちろん肝を抜かれた3人も受けが良かった。
その後に鬼ヶ島を目にする際にも、その豪華さにやはり感嘆の声を上げた。
●
「ウォロロロロ!!よく帰ってくれたな!!スサノオォ!!ヤマトォ!!」
オレ達の帰還に親父は歓喜の声を上げた。
「おう!ただいま!」
「お父さん!ただいま!」
オレ達が元気に挨拶したのに気を良くした親父は言葉を続ける。
「電伝虫で報告を受け続けていたが――随分な冒険ができたらしいな!!」
「お前らがナワバリにしてくれた〝ギビマ〟を元にいくらかの島もなかなかだった!!」
そう親父は我が子達に満面の笑みを浮かべた。その笑みに対してオレ達も笑い返す。
「うんうん!すごかったよ!あの島とか!あの島とか!特に〝ギビマ〟とか!」
「なかなか予想を裏切ってくれているものばかりだったな」
冒険の日々を思い返すオレ達に頷いた親父は少し話題を変える事にした。
「冒険の詳細は後で聞かせてもらうとして――」
「旅で得られた利益――それに……」
「キサメ、ハクジ、ミチカツとかいったか……どういう奴らなんだ?」
少しマジメになった親父からの要求にオレも気を取り直して説明する。
「おう!3人ともよく働いているぞ!」
「キサメは――強い上に働きが速い!魚人な故に海中探索、海戦でも活躍していたぜ!!」
「ハクジは――強いのはもちろんだが、「武装色の覇気」の分野に関しても新たな考察ができたきっかけをもらえたぜ!!」
「――暴獣海賊団に入らずに剣術師範になるミチカツの剣もなかなかだし――兵達の戦力強化も見込めるぜ!!」
「そうかそうか!」
オレからのその説明に親父も満足気にする。少しの会話だが、和気藹々としていた。
そんな最中、オレから話題を変えた。
「――親父、ヤマトから話があるんだ」
「ん?何だ?」
首を傾げた親父にヤマトは申し訳なさそうに口にする。
「僕――性別を「男」だと偽るのはもうやめたんだ」
「……は!?」
その言葉に親父もさすがに呆気に取られた。
――ヤマトが「男」ではなく「女」として生きる決意を言われた親父もヤマトの気分のままに振り回す事に呆れた。
だが、「男」だと偽るのに幼稚さを感じた事には真剣に耳を傾けた親父も納得し、最終的には理解してくれた。
●
時は少し過ぎ
『YОYО!年に一度の〝金色神楽〟だぜ!』
『お前らも楽しめ〜!!』
「「「オオ〜〜ッ!!」」」
百獣海賊団主催の宴〝金色神楽〟が始まっていた。
その宴にオレ達、暴獣海賊団ももちろん参加していた。
「リュドドド!!楽しんでるかぁ!!お前らぁ!!」
「「「おう!!」」」
オレからの確認に暴獣海賊団の海賊達、皆もそう返してくれた。
その様子は冒険中で時々行われていた宴の時より楽しそうだった。その時点で〝金色神楽〟はやはり規模が違うのが分かる。
規格外な〝金色神楽〟に誇らしくなるオレもある者に視線を向ける。
「――明日郎!お前も大した腕だな!うめぇぞ!これ!」
「あ!――本当にね!」
「ぐ……悔しいが……やはり美味い……」
目前の料理に舌を巻いたオレ達はそれを料理した張本人――明日郎を褒め称えた。
その称賛に明日郎も胸を張った。
「満足してくれて何よりだぜ!!」
――明日郎は「食」への執着が強い。それは美味を求める程だ。
だが、更なる美味はさすがになかなか得られにくいのだ。そこで明日郎は美味を得ようと自ら料理するようになっていった。
その腕は試行錯誤により人々の舌を巻く――それこそ犬猿の仲であるシシリアンも称賛する程に成長できた。
とにかく、オレ達が明日郎の料理を頬張りながら宴を楽しんでいた。
そこに――
「もし」
突如声を掛けられた。
その声にオレ達が視線を向けてみるとそこには1人の侍が立っていた――
それはリーゼント風のポンパドールの青い髪と面長な顔つきで細いつり目が特徴な侍――
――黒炭オロチの家臣〝居眠り狂死郎〟だ。
狂死郎――
彼は黒炭家御用達両替屋にして、ワノ国の将軍黒炭オロチに仕える侍の1人で、ワノ国トップのヤクザ〝狂死郎一家〟の親分である。
彼はオロチ従属の侍の中でも屈指の力量を持つ実力者なのだ。
なお、酒が入ると会話の途中で眠り出すという癖を持っている故に〝居眠り狂死郎〟と呼ばれている。
「〝居眠り狂死郎〟……だったか」
「はっ、その通りでございます――あなた様とは初対面でございますな」
身分を言い当てたオレに恭しく頭を下げる狂死郎。
――そういえば〝居眠り狂死郎〟とは会ってみたいと思っていたが、なかなか会えていなかったな……
故にその言葉にはオレも相槌を打った。
「確かにな……なるほど、強いな」
「――カイドウ様の息子にそう評価してもらえるとは……光栄でございます」
狂死郎の強さを感じ取れたオレが素直にそう言い、彼も恭しく受け入れた。
そんな狂死郎とは少し会話してみたいが……
「一体何の用だ?」
とりあえず、今は狂死郎の用を聞こうとオレはそう問いかける。彼も答える。
「はっ。拙者は――」
「小紫という者を我が遊郭に誘いに参ったでござる!」
そう言い放たれた言葉にオレは眉を上げ、そして――話題に上げられた小紫も目を見開く。
●
時は少し遡る
〝金色神楽〟にはカイドウと同盟を組んでいるワノ国将軍――黒炭オロチとその取り巻きも参加していた。
無論、部下である狂死郎も同行していた。
そして、彼らもまた宴を楽しんでいた。
「ムハハハ!!今年でも華々しいな!!〝金色神楽〟は!」
「そうですな!」
「これもあなた様の権威の証明でございますからな!」
「――その通りじゃ!ムハハハ!」
取り巻きからの讃えにオロチも笑い上げた。
「ムッハッハッハ!!」
その高笑いしている様子から楽しんでいるようにみられる黒炭オロチだが、彼を身近で見続けた狂死郎は知っている。
――実はオロチは今のワノ国の有り様を面白く感じていないのだという事を……
彼は〝ワノ国〟とその民への復讐を糧とし生きてきた男だ。
だからこそ――一度は荒れまくった荒地と化された筈の〝ワノ国〟が息を吹き返し〝生命〟を取り戻せた上で発展されていく状況が気に食わないのだ……ただ「ワノ国の純粋な人間」は相も変わらずにほとんど苦しめられているらしいが……
もちろん、そういう状況を作った百獣海賊団にイラつかずにはいられないのだ。
といえ、大して強くはない身でカイドウに強く出れない――そんな状況にオロチのイラつきがますます強まった。
そんなオロチに狂死郎が労しく感じる様子をみせる――も
「(好機だ――カイドウとオロチが仲違いされかけるとは)」
君主である筈のオロチの苦しい立場を内心喜ばしく思っていた。
実はそもそも、狂死郎は黒炭オロチに対しては忠誠心を一欠片も持ち合わせていなかった。
何せ、彼は――
「(おでん様の敵を討てる順風にもなろう)」
――亡き光月おでんに今も忠誠を誓っているから……
――狂死郎。
その正体こそが――「九人赤鞘男」の1人、傅ジローである。
彼はあの「伝説の一時間」の後では追手から逃れ、生き永らえていた。
だが、彼は自身の無力さとカイドウ及びオロチへの恨み、怒りを募らせてきた事で今の狂死郎の容姿に変貌を遂げた。
そんな彼は新たな顔と名前を得た事を好機にあえてオロチからの信用を得る事で敵陣に潜り、光月家を再興する突破口を見出そうとした。
ヒョウ五郎一家の壊滅により空となったナワバリを掌握し、新たに両替商や遊郭等の事業展開を始めた事で〝将軍家御用達〟というワノ国中で名の通る有名人となった。
また、彼は義賊としても活動しており、夜な夜な黒炭将軍家配下の屋敷に忍び込んでは大金を盗み出し、貧困にあえぐ下々の民が生きられるように配って回るようになった。
正体不明の義賊はいつしか〝丑三つ小僧〟と呼ばれ、貧民達の希望の星となっていった。
傅ジロー――狂死郎はオロチから視線をそらし、騒いでいる海賊達を眺める――胸内に怒りの炎を燃やしながら。
「(……百獣海賊団……〝ワノ国〟を泥足で踏みまくる害獣共めが……!能天気に笑いながら――首を洗って待つがいい……その時が来るまではな――)」
激しき憎悪を仮面で隠している狂死郎が騒ぎを眺め続ける――が、突如手に持つ盃を落とす。
狂死郎の顔は――驚愕に溢れていた。
「(まさか――そんな事が……起こり得るのか……!!)」
……彼の視線先には――暴獣海賊団だった。
――狂死郎にとっては怨敵の息子が率いる海賊団に過ぎなかった。
だが、その中にいるある者の姿を目にした狂死郎は心から驚愕していた。
「(なぜ、あなたがここにいるのです……!!)」
狂死郎が凝視しているのは――青緑色の髪の少女だった。
だが、その少女がここにいるという事実に狂死郎も動揺せざるを得なかった。何せ――
「(――日和様……!!)」
彼女こそが狂死郎――傅ジローが仕えた光月おでんの娘、光月日和だったからだ。
君主の娘がよりにもよって――鬼ヶ島の中で楽しそうにしている事態に狂死郎は衝撃を受けた。
「……失礼!」
「あぁ!?何だ!?――何だ、狂死郎の旦那か」
動揺が収まらない狂死郎はたまらず、身近の海賊に声を掛ける。
突如、狂死郎から声を掛けられたのに驚愕した海賊に彼は言葉を続ける。
「暴獣海賊団にいるあの少女――青緑色の髪の少女だが、あれは?」
その問いかけに視線を向けてみた海賊はあっさりと答えた。
「あぁ、あのガキか……小紫といってな――若様に拾われたガキ共の1人だぜ」
「若様に拾われただけはあって、若手達の中でも有望株らしいぜ!」
丁寧に説明している海賊をよそに狂死郎は――心内の炎をさらに燃やした。
「(……スサノオッ!!)」
スサノオ。怨敵カイドウの息子に狂死郎の胸内には怒りと恨みが湧き出ずにはいられなかった。
「(お労しい……日和様……!!)」
そして海賊の道を歩ませられる日和の境遇に涙を流さずにはいられなかった。
故に思う。
「(なんとか、あの方を害獣共から救わなければ……!!)」
そう考えた狂死郎は暴獣海賊団に駆け足で向かう。
●
「拙者の目から見ても小紫は花魁として大成できる器!!」
「だからこそ――誘いたくて参ってきたでございます」
熱心にそう言ってくる狂死郎にオレは口を一文字にする。
そして彼からの要求に堂々と返す。
「……まず、小紫の意思を聞いてみねぇとな」
その言葉により周囲の目線が一気に小紫を見る。
その視線に一瞬怯んだ小紫はすぐ微笑み――応答する。
「断らせて頂きます」
「!!」
その答えに皆がつい笑った中、狂死郎が驚愕する。
「私は――暴獣海賊団の海賊としてやっていくつもりでございます」
その言葉に狂死郎もたまらずに口を開く。
「なぜ!?」
「なぜって――さっき言いましたが?」
意思を一欠片も変えない小紫に狂死郎は説得しようとした。
「考え直してくだされ!!――その美しき顔に傷を付けられるのは耐え難い!!」
「構いませんよ。そんな事ぐらい――海賊として生きると決めた時点でもう特に覚悟している」
その言葉に対しての小紫からの返しに狂死郎は顔をしかめてしまう。
「だ、だが……あなたには海賊より花魁の方が合っております」
「……あなたの意見等知りません」
狂死郎からの説得に小紫はキッパリと言い捨てる。
彼女の態度を見届けたオレは狂死郎に宣おうとする。
「……狂死郎。小紫がこう言う以上、船長としてお前の申し込みを断ら――「小紫殿!!!」――せ?」
しかし狂死郎は諦められずに小紫への説得を続ける――勢いが強まりながら。
「なんとか考え直してくだされ!!あなたの美貌は花魁としてやっていける筈!!」
「あなたは――あなたは海賊なんかとして生きるべきではない!!」
「……あ゛?」
狂死郎が必死にそう言う――まるで〝小紫〟を否定するかのような言葉にオレは怒りを覚えてきた。
――そして……小紫もまた怒りを覚えていた。
●
「…」
――コイツ……私の決意をバカにしやがって……
自身の決意を侮辱したかのように言い放つ狂死郎に小紫――私の胸内に怒り、殺意が湧き出た。
とにかく、狂死郎の必死な説得を小紫がうっとうしく感じてしまう。
「(……何で、コイツ……こんなに私を気にかけているんだ?……――!)」
疑問に思わざるを得ない程の狂死郎の態度により、ある可能性に至った私はそれを確かめようと口を開く。
「……いいですよ、狂死郎さん。あなたの遊郭に行っても」
「ま、誠でござるか!?(よし!これで日和様を保護できる!)」
「ただし……条件を一つ飲んで頂いても?」
「!…何でござるか?」
「……耳をご拝借しても?」
狂死郎は身をかがめ、私に耳を傾げてくる。それに私は小さな声で静かに言う。
「それは――ふふっ……服を脱いで頂いても?――この場で」
「!?」
その言葉に狂死郎は素早く私を凝視する。その顔は――真っ青だった。その様子に予測が的中したと確認できた私は言葉を続ける。
「……おや?できないのですか?」
私からの煽りのような言葉にしかし固まっている狂死郎。
無理もないのだ。狂死郎の背には――輪を描く鳥の紋……〝光月家〟の家紋を描かれているからだ。
そのような背を鬼ヶ島――百獣海賊団の本拠地の中でみせたら、どうなるのか……予想に難くない。
故に――狂死郎は脱がない……脱げないのだ。
そんな彼を私は冷めた目で嘲笑しながら言い放つ。
「できないのならば――話はこれで終わりです」
固まったっきり、動けない狂死郎に私は背中を向けた。
「騒がせました。皆」
せっかくの楽しみを邪魔された皆に頭を下げる私に
「いやいや……大丈夫?」
「心配ありがとうございます……もう気にする事はないでしょう」
「……本当にいいのか?」
そう心配してくれている皆に私ははっきりと宣する。
「この私は――暴獣海賊団の海賊ですから」
「「「…」」」
そんな私に皆が圧倒されていた。そんな中に今度はスサノオが宣する。
「気を取り直して――騒ごう!」
「「「オ――ッ!!」」」
「あ……」
私の姿が遠のいていくのに未練をみせる狂死郎にスサノオは声を掛ける。
「……小紫の意思がそうである以上――船長として、お前の要求は認められないな」
スサノオの宣言に俯いた狂死郎はそのまま踵を返した。
それを感じた私は思案に耽る。
「(やはり……まさかと思ったが……奴は――「九人赤鞘男」の者かもしれない)」
……まさか敵中に潜り込む者がいるとは――
「(まぁ、現に〝ここに私がいる〟時点で――そう考える者がいてもおかしくはないか)」
狂死郎の行為に私も理解できた。
「(――でも……〝居眠り狂死郎〟……奴は一体――〝誰〟なんだ?)」
狂死郎の顔に身覚えがない私は首を傾げた。
そして彼の処遇を考える。
「(奴の正体をバラすのは……)」
「(今はやめとこう。とりあえず、様子見だ)」
「(「九人赤鞘男」の1人なら――強さは確かな筈)」
「(……でも、私の邪魔をしようとするなら――)」
そこまで考えた私の目は――
「(ただにしてはおかぬ)」
冷たかった……どこまでも。
――今年の〝金色神楽〟は何の異常もなく終了する事ができた。
――微かながらのわだかまりを残しながら……