〝エレジア〟――
そこは〝偉大なる航路〟前半の海にある国の事を指す。
「音楽の都」として栄える国だけはあって、音楽の分野で発展していて華々しい文化と歴史を創ってきたのだ。
そんな国に向かって海を進んでいる船があった――暴獣海賊団の船、カイリュー号だ。
そう、暴獣海賊団は〝エレジア〟を訪れようとしていた。
――何の為だというと……
『スサノオさん!私は音楽家として――「音楽の都」と謳われるあの〝エレジア〟に行ってみたいと思います!』
『私もぜひ行きたいと思います!』
『『お願いします!!』』
『あい!』
音楽を愛しているギルド家のその希望を自身も興味を持った事もあって聞き届けたオレはカイリュー号の針路を〝エレジア〟に取らせたのだ。
そうして――見えてきた〝エレジア〟に笑みを浮かべるオレに声が掛けられた。
「――感謝します。私達の希望を聞いて頂いて……」
「構わねぇよ!オレも「音楽の都」とやらに興味が出てきたからな!」
「そうそう!歌はいいよね!――ラ〜ラ〜♪」
自身達の希望を叶えてくれた件でのテゾーロからの感謝にオレはそう返し、身近で浮ついているヤマトも軽く歌った。
とにかく〝エレジア〟が見えてきた事により、まだ見ぬ冒険にオレ達も気分が高ぶってきていた。
――だが、その時はオレ達にも気付かなかった。
――〝エレジア〟を訪れようとする海賊団は別に暴獣海賊団だけではない事に……
●
カイリュー号は〝エレジア〟の港に無事に着き、オレ達もそこに降りた――そこまではいい。問題は――
「「「…」」」
オレ達が降りたその港には一触即発な空間に包まれていた。
何せ、その港には――2つの海賊団が対峙していたからだ。
その1つはもちろん、オレ達暴獣海賊団だ。もう片方は――
「……オレはスサノオ!暴獣海賊団の船長だ!」
「そっちは?」
堂々と自己紹介したオレからの問いかけに船長らしき男が口を開く。
「……オレは――」
「シャンクス!んで……オレ達は赤髪海賊団だ!」
そう自己紹介し、晴れやかな笑みを浮かべた麦わら帽子を被っている赤い髪と左目に付けられた三本の傷が特徴的な青年――シャンクスが率いる赤髪海賊団だ。
こういう一触即発の事態に似合わないような晴れやかな笑みを浮かべ続けているシャンクスが今度はオレに問いかけてくる。
「――あんたらがここに来た目的は?」
「その内容次第じゃ――打って出るかもな」
その問いかけ、そして脅しにオレはハッキリと答える――宣した。
「……オレ達は――観光しに来ただけだ……この「音楽の都」と謳われた〝エレジア〟のな」
オレから言い放たれた答えにシャンクスの顔が安堵したかのように明るくなる。
「そうなんだ!――オレ達もさ!音楽が大好きだからな!」
晴れやかにそう言うシャンクスは言葉を続ける。
「だから――ここで戦闘を始めるのはやめようぜ!……せっかく訪れたここを血で汚したくない」
その言葉にオレも苦笑する。
「……同感だ。ただ音楽の文化を拝みに来ただけなのに、ここで戦闘を始めるのはさすがに頂けねぇからな」
そうして〝エレジア〟に滞在する時の互いの関わり方に関しての会話をする船長達。
そして――結論が出た。
「――少なくとも〝エレジア〟を出るまでは……休戦でどうだ?」
「異議は――ねぇな……」
暴獣海賊団と赤髪海賊団の間に休戦協定が今ここに成された……〝エレジア〟に滞在する間という期限付きだが。
1つの島に2つの海賊団が出会ってしまった不幸中の幸いとして、どちらも目的が同じ――音楽を愛しているという事であった……
「…(…赤髪海賊団――特にシャンクスとやらと戦ってみたかったが……)」
実はシャンクスと赤髪海賊団の強さを感じ取れたオレは彼らとの戦闘ができない状況を内心残念がっていたのもご愛機だ。
●
〝エレジア〟の民達、そして国王ゴードンは略奪ではなく、ただ観光しに来た暴獣海賊団と赤髪海賊団を歓迎し、オレ達の国内観光を許してくれた。
オレ達はその許可に甘えて〝エレジア〟を歩き回っていき、如何なる箇所でそれぞれ実演されている音楽に魅せられていた。
「「〜♪」」
そんな中で小紫――私とマリアはある舞台で三味線を弾いていた。観客席に座っている民達はその楽音をうっとりと聴き惚れていた。
私達は音楽を愛する者として、また三味線奏者の誇りに賭けて三味線を弾かずにはいられなかったんだが……私達の楽音を「音楽の都」の民達も気に入ってくれて――誠に光栄だ。
なお、暴獣海賊団が誇る音楽家テゾーロとステラは別の舞台で歌い踊っていて民達を魅せられていた。彼らの誇る音楽もまた「音楽の都」から評価されていた。
とにかく、やがて弾き終えた私達は民達からの拍手喝采を身に受けた。
「――すごいね!」
「「!」」
その声に舞台で頭を下げる私達は頭を上げながら視線を向けると――右側が鮮やかなポピーレッドで、左側は淡いピンクホワイトのツートンカラーという髪色をしている少女が舞台に上がってきた。
その少女は――
「あなたは?」
「あ!私は――ウタ!」
「赤髪海賊団の音楽家で――シャンクスの娘だよ!」
私からの問いかけにそう自己紹介した――ウタは可愛らしく笑った。その笑みに私達もつられて笑った。
「――私は小紫よ」
「私はブラックマリアよ♪」
私達も自己紹介したのにウタも頷いた直後に熱っぽく言い始める。
「小紫とブラックマリアの楽音はとても――とても良かったよ!感動しちゃった!」
「「ありがとう」」
ウタの心からの称賛に私達も素直に笑みを浮かべながら礼を言った。ニコニコしているウタは今度は問い掛けてみる。
「――でも、見た事のない楽器だね!――バイオリンじゃないし……どこの?」
ウタの純粋な疑問に私は動揺さを一欠片も見せずに冷静に答える。
「――〝新世界〟のある国のよ……まぁ、そりゃバイオリンとは違うけど――同じ弦楽器であるのは確かだけどね」
「へぇ〜」
ワノ国独特の楽器である私達の三味線を興味深そうに凝視するウタがふとハッとする。
「あ!――私の番だね!」
ウタはそう言い、舞台に堂々と立つ。私達も彼女の晴れ舞台を邪魔しないように舞台から降りていった。
そして私達が見守るウタは深呼吸し――歌い始めた。
「〜♪」
「……おぉ……」
ウタから放たれた歌声は――見事だった。そう……まるで天国から聴こえてきた天使の声そのものであるかのようだった……
その美しき美声に私達はもちろん「音楽の都」の民達もうっとりと聴き惚れていた。
ウタによってもたらされる素晴らしく夢のような時間が続き、私達の心を満たせていた。
その時間が終わってしまった途端に拍手喝采が起こった。
「……素晴らしいわ!ウタ!」
「えぇ、えぇ――感激よ!ウタ!」
たまらず、勢いよく舞台に上がった私達もウタを心から褒め称えた。その称賛にウタも恥ずかしそうに、しかし満面の笑みを浮かべた。
「えへへ……ありがとう!」
その笑みに頷く私をよそにマリアが熱心に言ってみた。
「私達!一回でも一緒に歌ってみる!?」
「いいね!それは!」
「だとしたら――どんな曲がいいのか……」
意外にあっさりにすぐ仲良くなれた私達とウタは心から楽しく会話していた。
●
「ウタ!」
「!――シャンクス!」
私達が会話しているところに突如声を掛けられた。
――シャンクスがウタを迎えに来ていた。
「――お!もう友達ができたのか!」
「うん!――こちらは小紫で、こちらはブラックマリアだよ!」
ウタが私達を紹介してくれたのにシャンクスも嬉しそうに笑う。そして私達に礼を言った。
「ウチの娘と仲良くしてくれてありがとな!」
「いえいえ」
「――でも!ウタは素晴らしいわ!感動したわ!」
「そうだろ!そうだろ!ウタの歌は世界一だからな!」
「シャンクスったら――」
シャンクスも加えた私達で楽しく会話をしていた。しばらくして、互いに予定がある為に一旦別れた私達だが。
「おーい!君!」
「!」
次の場所に歩もうとする私にシャンクスが声を掛けてきた。
「小紫……だったか?」
「えぇ――何ですか?」
その確認を肯定した私が用を聞くもシャンクスがなんか意味ありげな目つきで見つめてきた。
「あの「君は……」――?」
その視線に訝しげな私にシャンクスは突如言い始める。
「君は――海賊として生きていくつもりなのか?」
「……あ゛?」
シャンクスが穏やかに言うも、その言葉に私も青筋を立てた。
「……お前も「私」を否定するのか?」
態度を一変させ、重々しい空気を放った私にシャンクスも慌てた。
「い、いや……君には海賊以外の道もあるんじゃないかと思ってな……」
「ない」
シャンクスからの続いての言葉に私はそう言い捨てる。
「……誰だろうが何と言おうが――私は海賊の道を歩み続ける!!」
「ましてや――部外者であるお前にそう言われるいわれはどこにもない!!」
勢いよくそう宣した私にシャンクスも口を閉じる。
「……君には失礼してしまったようだ……忘れてくれ」
そう言い残し、背中を向けるシャンクスを私は睨みつける。
「……どいつもコイツも……」
以前の出来事をも思い出してしまった私の機嫌が収まらずに、むしろ悪くなっていった。
――実は〝金色神楽〟から時が過ぎ、暴獣海賊団の旅が再開されようとする――その直前に狂死郎が懲りずに私に勧誘してきたのだ。
私が彼の背中に関しての匂わせを言い放った事で彼を黙らせ、追い出したが……
「……シャンクスだろうが――」
「……狂死郎…傅ジローだろうが――」
「何を言われようが――」
「私は私だ!!」
「私は私の意思、歩く道を変えるつもりは一欠片さえも――ない!!」
私――小紫はそう決意を強まらせた。
●
それから時が過ぎ、暴獣海賊団と赤髪海賊団が〝エレジア〟を去る前夜
それ故に大きな祝会が開かれていた。
「ん〜…たくさん歌ったぁ〜」
「……皆、喜んでくれたかな……」
その祝会でウタは〝エレジア〟の民達を喜ばせようと一曲でも多く歌い、その歌声を国中に届けてきたのだ。
「……もう別れかぁ〜」
〝エレジア〟に残って歌手になる為の英才教育を受ける事を提案されるも赤髪海賊団の音楽家として海に出るのを選んだウタだが、「音楽の都」と謳われた〝エレジア〟を去るのにはやはり寂しさを感じていた。
口惜しそうに周囲を見渡るウタの目にはふといつの間にかそばに落ちていたあるものが写されていた。
「あれ?」
ウタはそのあるもの――古びた楽譜を拾った――拾ってしまった。
「何だろう?」
その楽譜を見てみると――見た事もないウタも首を傾げた。
だが、ウタの好奇心が高まり――
「歌ってみよっか!」
実はその楽譜に操られているのだと気付いていないウタは楽譜を見ながら歌おうと口を開き――
「あぁあああああああ!!」
「「「!?」」」
突如場に大声が響かれた。
その音源に周囲の視線が一気に向けると――
「あああ!」
「ちょっ!どうしたの!?ノヴァ!?」
「ノヴァ!?」
ステラが抱いていたノヴァが叫んでいたのだ。
ステラもテゾーロも叫んでいる我が子を慌てながらあやそうとするも止まらなかった。
「あー!あー!」
「「……ん?」」
ノヴァが叫びながら指を指しているのに気付いたテゾーロとステラはその先に視線を視線を向けてみると――ウタが立っていた……正確には彼女が手に持つ楽譜をノヴァが指差していた。
「……あ!これ?」
ウタもそれに気付き、楽譜をノヴァに掲げてみる。
「あー!」
ノヴァも肯定するかのように声を上げた。その様子に周囲の雰囲気も優しくなる。
「……ふふっ、この楽譜が欲しいのね!」
「ノヴァったら!……さすが、私達の子ね!ね〜あなた」
「あぁ!さすがだよ!ノヴァ!」
人々がノヴァを優しく見つめている中――ゴードンはふとその楽譜を目にした途端に顔を真っ青にする。
「ま、まさか……!?そ、それは……」
「……?」
「ゴードンさん?」
突如様子が変わったゴードンに人々が疑問符を浮かべるが、それに気付いていない彼は震える指で――
「「Tot Musica」の楽譜!!?」
ウタの手に持つ楽譜を指しながら叫んだ。
その途端に周囲が騒いだ。
「トットムジカ!?」
「あの!?」
「あの楽譜がそうなのか!?」
周囲の動揺、恐怖感にギルド家も訝しげな様子をみせ、ウタも不安になってしまう。
そして騒ぎを聞きつけ、来ていたオレとシャンクスが問いかけた。
「――一体、何事だ?」
「トットムジカとは?」
事情を知らない者達の総意をオレ達がそう口にするとゴードンの口が開く――
トットムジカ――
それは――「歌の魔王」と恐れられる存在の事を指す。
それが世界に姿を現すには――「Tot Musica」の楽譜、そして……〝ウタウタの実〟が必要だという。
〝ウタウタの実〟の能力者が禁忌の楽曲『TotMusica』を歌うと「ウタウタの世界」のみならず現実世界にも降臨でき、一度顕現すれば最後。「ウタウタの世界」と現実世界両方に姿を現し破壊のかぎりを尽くす――といわれる……
なお、楽譜は〝エレジア〟の地下に封印されている――筈だったが。
ゴードンの説明にシャンクスとウタ、赤髪海賊団の面々は顔を真っ青にする。
そんな彼らにゴードンは問いかけた。
「――し、シャンクスさん。お嬢さんは……も、もしかして……〝ウタウタの実〟を食ったのですか?」
「……あぁ、そうなんだ」
ゴードンからの問いかけにシャンクスは肯定した。
その肯定にゴードンは息を呑み、場の人々も顔を真っ青にする。
無理もない。今まさに――トットムジカが復活されようとしているところだったから……
「あ、危なかった……!」
「あぁ……ノヴァに感謝だな……」
だが、その復活がギリギリで止まられた事に人々は安堵し、シャンクス達もウタが『TotMusica』を歌おうとするのを阻止したノヴァに心から感謝した。
「――ゴードンさん」
「えぇ!この楽譜は私が責任を持ってもう一度封印してきます!」
ウタから楽譜を預かったゴードンは地下――封印の場に向かっていった。
「……危なかったな。ウタ」
「うん……」
気遣いげに言ってくれるシャンクスに頷いたウタは遠のいでいく楽譜に忌避感を持つ――しかし何か思うところもあるのか、見つめ続ける――
「いやぁ……危なかったですな」
「全くだな……ノヴァは将来有望だな!」
テゾーロのその言いこぼしを肯定するオレはノヴァを褒め称えるとステラもそれに乗っかかる。
「そうよ!ノヴァ!あなたは少なくとも、1人の女の子を救ったのよ!」
「あい!」
ステラがノヴァを掲げながら褒め称え、ノヴァも満面の笑みを浮かべた。
その和気藹々な空間にオレも微笑む――が。
――実はオレが「歌の魔王」とやらと戦ってみたいと思ったのは内緒だ。
そう思ったオレの頬に一筋の汗が流れていた……
●
騒がしい夜空に太陽が登り――
暴獣海賊団と赤髪海賊団が出港する時が来たのだ。
「あんたらとは色々あったな……特にウタとノヴァの件では本当に感謝している」
「礼はいい」
「いや、この恩はなかなか忘れにくい」
出港の時間が迫っているところにオレはシャンクスと会話していた。
ウタとトットムジカの件での感謝の意が収まりにくいシャンクスにオレはふと感じていた疑問を投げかけてみた。
「……あんたは」
「ん?」
「このオレに何かあるのか?……ずっとオレを見つめ続けていただろ?」
オレの指摘にシャンクスも口を一文字にする。やがて答える。
「あぁ……正確にはあんたの親父の方になんだ……〝暴獣のスサノオ〟」
「……へぇ…親父にか?」
「あぁ……〝百獣のカイドウ〟にはちょっとな……」
険しい表情で目をそらすシャンクスにオレも興味を惹かれた。
目前の海賊と親父の間には何があるのか――オレも気になった。故にぜひ知りたいところだが――
「……もう出港の時間だ――続きはまた会った時にしよう」
「おう……その時は全力で戦おうぜ!」
「……ハハッ」
オレの堂々とする宣いにシャンクスも吹き出す。そんなオレ達以外にも――
「またね!小紫!マリア!」
「えぇ」
「またね〜♪」
「ノヴァもありがとうね!」
「あい!」
「――ウタちゃんも気を付けてね!」
ウタと小紫達、ギルド家も会話していた。それは敵対する可能性があるにも関わらずに和気藹々していた。
無論その可能性があるのを知っている彼女達はそれでもこの瞬間ぐらいは仲良くしようとしていた……
――〝エレジア〟から何の異常もなく、暴獣海賊団と赤髪海賊団は無事に出港した……
「――という訳さ!」
――あるところでシャンクスから物語を聞いたある男の子がいた……
「……〝暴獣のスサノオ〟かぁ〜!」