ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第56話〝心なき氷骨〟

 ソード王国城内でのある広間には――重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「海賊共が……」

 

 そう、ソード王国を支える幹部陣「漆黒の三極性」の1人――ゼノンから放たれている威圧感により場が重苦しくなっていたのだ。

 だが、そういう重苦しさに呑まれずにゼノンに果敢に立ち向かおうとする者達がいた。

 

「ハァァァ!!」

 

 まず、ペドロは駆けながら「エレクトロ」を流している剣をただ堂々と立っているゼノンに向かって振り下ろそうとするも――

 

「くぅ……硬いな!」

 

「…」

 

 ペドロは前もって情報を得てきたからこそ知ってはいるものの、それの硬さに目を見開かざるを得なかった。

 彼から放たれた斬撃を止めたのは――

 ――ゼノンの背中から伸びてきた数本の骨だった。

 

「…」

 

 ペドロの反応にさえ無頓着なゼノンの骨がさらに伸びて――彼に襲いかかろうとする。

 その骨の先は細鋭くなっていて、ペドロの身体を無残に貫くのも可能だろう。

 

「む!」

 

 それに勘付いたペドロは素早く後ろに下がっていった事で攻撃をかわらせていた。

 

「ペドロ!」

 

「平気だ!」

 

 思わず声を掛けてくるページワンにそう言葉をかけておいたペドロもゼノンに視線を向け、そこからそらさずにいる。

 

「……奴の骨は如何なる意味で厄介だな」

 

 ゼノンの身体から生えている骨の応用範囲――それに気付いているペドロはそう口にしてしまう。

 その言葉にゼノンも口を開く。

 

「……オレの骨は攻撃も――守備も兼ね備えているからな」

 

 ゼノンは誇らしげでもなく、ただ――無感情にそう呟いていた……

 

 

ゼノン――

 

彼は〝ホネホネの実〟を食った「骨人間」なのだ。

彼の身体から骨が生成されるのだ。

その骨は凄まじい強度を誇る上に生やした骨は削られたり折られたりしても瞬間的に再生する。

 

 自身に宿っている〝悪魔の実〟の能力をひけらかすかのようにゼノンは背中からさらに骨を生成し広げていた。

 来るであろう攻撃に警戒して構えるペドロ達にゼノンは攻撃を開始せずに――静かに口を開く。

 

「……お前らはオレの能力を知っているようだな」

 

 ゼノンからの無感情で冷たくながら――しかし、心なしか訝しげな響きも込められている言葉にペドロ達は眉をひそめる。

 だが、ゼノンは言葉を続ける。

 

「――思えば、お前らがオレがよく来るこの広間にやってきたのもひっかかる……」

 

「しかも――お前らの様子から戸惑いを感じられない……」

 

「これらが意味するもの――それは……」

 

 自身が感じていた違和感を口にしてみるうちにゼノンの目が鋭くなっていく。

 

「ソード王国の人間でありながら――お前らに情報を漏らした裏切り者が存在しているという事だ……!」

 

 そう言い放つゼノンからさらに重苦しい威圧感が放たれた。

 その威圧感にペドロ達が息を飲むも、ペドロが試しに問いかけてみた。

 

「……だとしたらどうするんだ?」

 

「知れた事」

 

 その問いかけにゼノンは迷いなく――それを即答した。

 

「少なくとも――このオレに関しての情報を漏らした非国民は――処分するのみ」

 

 ゼノンは冷たくそう言い捨てた。

 その時の彼は相変わらずな無表情――しかし、どこかイラつきを感じさせていた。

 そんな彼にペドロは説明してやろうとした。

 いくら敵といえ……誤解でやられそうとするところをただ黙ってみる等――そんな事はペドロにはできなかったのだ。

 

「責めるなよ……ウチの仲間には幻術の使い手がいてな――幻術をかけてきたんだ。それで催眠状態から情報を得ただけだ」

 

「どうしようもないんだ」

 

 ソード王国に関しての情報を漏らしたらしき人間を擁護するかのようにそう説明してきたペドロにゼノンはしかし、鼻を鳴らす。

 

「……だとしても情報を漏らした事実に変わりはない」

 

「ソード王国の不利益をもたらした者は――非国民だ」

 

「処分しなければならない」

 

「「……!!」」

 

 ゼノンのあまりにも冷たすぎる言い草にペドロとページワンは絶句してしまう。

 

 ――ゼノンは冷静沈着だが、非常に残忍で冷酷な気性の持ち主でもあり、ソード王国の発展や利益の為ならば手段を選ばない男なのだ。

 それは例えば、任務にて目標以外の人間が死亡しても構わないと考えている程だ。

 さらに自身の脅威になると判断すれば、何の躊躇もなく命を奪う事も厭わない。

 その非情さは直属の部下に対しても例外ではない。自身が望むような成果を挙げられなかった時は容赦なく酷評する冷徹さも持ち合わせている。

 それ程にゼノンは特に弱肉強食や実力主義の考えが一際強い。

 

 そんな彼の姿にペドロはふとある男――スサノオを思い出していた。

 彼はペドロにとっては確かに故郷〝モコモ公国〟を滅ぼした憎き元凶の1人――なんだが……

 あの時に襲来してきた百獣海賊団の中で彼だけは一応交渉をしようとしていたな……要求はミンク族からすれば飲めない内容だった為に結局、強引な手を取らざるを得なかったが……

 それから、自身が暴獣海賊団に入った事でスサノオとの付き合いを持つようになってしまったが……彼は意外に話の分かる奴だ。

 彼なら――こういう事態でも、そういう事情ならばと注意と罰を与えるとしても――処分だけは決してしないのだろう。

 スサノオは変なところでマジメで――仲間を大切にする、そういう奴だ。

 それに引き換えてみれば――ゼノンという男はなんと冷酷で――頭の固い野郎だ。

 そう考えているうちにゼノンにムカつくようになってきたペドロはふとページワンに視線を向けてみると――彼も同じ考えだったのか、怒りをみせていた。

 ふとページワンもペドロに視線を向け、互いに目を見合わせた。

 その瞬間、互いに相手の考えを理解できたペドロとページワンは頷き合い、ゼノンに視線を向ける。

 

「「――ゼノン!!」」

 

「!」

 

 突如大声を上げるペドロ達にゼノンも眉を少し上げる。

 

「貴様は――我らが倒す!!」

 

「暴獣海賊団の名にかけて――オレ達がやってやる!!」

 

 そう宣言したペドロ達に顔をしかめたゼノンは重々しくも呟く。

 

「……海賊ごときが」

 

「……ハァァァ!」

 

 雄叫びを上げるページワンの姿が変わっていく――スピノサウルスに変身したのだ。

 

「!……ほぉ、「動物系」〝古代種〟か……!」

 

 ページワンの変身した姿に無感情だったゼノンも目を見開き驚きをみせた。そして、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「……なら、その能力を〝回収するのも――ありだな〟」

 

 そう意味深な言葉を小声で呟いたゼノンは攻撃を開始する。

 

「〝無間骨牙〟」

 

 ゼノンの身体から鋭い骨を大量に生やし、ペドロ達に対し攻撃する。

 その攻撃速度と量は半端ではない。

 

「ページワン!受けるんじゃない!深い傷を負うぞ!!」

 

 その攻撃を目にしたペドロはページワンにそう警告した。

 ページワンの変身したスピノサウルスとしての身体は大きい――それ故に骨を貫かれやすいだろうからだ。

 その警告にページワンは従おうとするもゼノンの骨がページワンを容赦なく襲いかかった。

 

「……!!ページワン!?」

 

 発生した煙で見えにくくなっているといえ、ゼノンの骨がページワンを貫いてしまったのかとペドロは顔を真っ青にした。だが

 

「……ん!?」

 

「!?」

 

 ペドロもゼノンも気付く。

 耳障りな音がしているという事に――

 ましてやゼノンの方はページワンを貫いた筈の骨には手答えを感じられない、それどころか何か――

 やがて煙が晴れると――

 

「「!?」」

 

 ゼノンの骨を――身体を回転させているページワン――の背中の帆が粉砕していた。

 しかも、その帆をよく見れば――

 

「!!回転しているのか!?」

 

 なんと回転していたのだ――丸ノコのように。

 その事実にペドロも、そしてゼノンも目を大きく見開く。

 そんな彼らにページワンが誇らしげに言い放った。

 

「――スピノサウルスの背中の帆は回転するんだ!!」

 

 その時、ペドロとゼノンは奇しくも同じ事を思っていた……

 

「「(スピノサウルスの背中の帆って、そんな仕組みなのか!?)」」

 

 だが、彼らが全く同じ思いを抱えているという事実を知る由もないページワンは今度は自身の身体を前方に転がらせ――そのまま回転していった。

 

「〝ワン刃〟!!!」

 

「!!……!」

 

 自身に向かって転がり続けてくるページワンにゼノンは気を取り直して新たに生成した骨を向けた。

 ページワンの〝ワン刃〟とゼノンの〝無間骨牙〟が激突するも――

 

「オォオオオ!!」

 

「……!」

 

 一方的ではなく、互いに相手の技と張り合う状態になっていた。

 

「!!今だ!」

 

 そんな状況に好機だとみたペドロは剣に「エレクトロ」を流しながら駆けていった。

 

「!」

 

「悪く思うな!!」

 

 自身の身体から生えている骨を全てページワンの〝ワン刃〟に向けるのに力を注いでいるゼノンは迫ってくるペドロに眉をひそめ――

 

「――ぐがぁ!?」

 

「!?」

 

 突如、ゼノンに転がり続けて攻撃しているページワンの姿が吹っ飛ばされていった。

 それに思わず動揺してしまったペドロに向かってゼノンは骨を向ける。

 

「!!――オォォォォ!!」

 

 襲いかかってくる無数の骨にペドロが剣でさばく事でかわすが――

 

「……!!(これは……!!)」

 

 ゼノンの骨の先とは違う様子にペドロが気付く。

 

「――ぬぅ!!」

 

 だが、そんなペドロの肩とアバラ辺りを骨が容赦なく貫いてしまった。

 

「――オラァ!!」

 

 ペドロも負けじと自身の身体から「エレクトロ」を大きく流した。

 そんな「エレクトロ」に恐れ入ったのか、止まった骨を貫かれた箇所から剥がしたペドロは撤退していった。

 

「ぐぅ……」

 

 といえ、骨を貫かれた傷を抑えながら痛みに顔をしかめるペドロの姿をゼノンはただ冷めた目で見つめる。

 

「……オレの骨に隙間はない」

 

「ぐ……そうかもしれぬな」

 

 そうハッキリと宣したゼノンにペドロは一応そう返す。

 

「……少なくとも――お前の骨は手強いのが分かる……」

 

 ペドロの言葉にゼノンは無感情ながらも耳を傾げる。

 

「――お前の骨も回転させるとは……」

 

 ペドロのその指摘通り、ゼノンの骨はドリルのように回転できるのだ。

 つまり、ページワンの〝ワン刃〟と張り合っていた骨を回転させた事で攻撃力を上げらせ、打ち破っていったのだ。それこそが――

 

「〝無間捻骨〟」

 

 そんなゼノンにペドロは歯を食いしばる。

 ――彼に対してペドロが思い浮かんでいる打てる手が少ないのだ。

 

「ペドロ」

 

「ページワン」

 

 苦悶に固まっていたペドロに元の姿に戻っていたページワンが駆けてきた。

 彼も〝ワン刃〟を打ち破られ、床に叩きつけられた事でダメージを負ったが、それでもペドロより深くはないだろう。

 

「どうする?」

 

「…」

 

 ゼノンから視線をそらさないページワンが問いかけてくるも思案に耽っているペドロが答えない。

 そんなペドロにページワンも懸念を覚えてしまう中、彼の口が開いた。

 

「――お前はスピノサウルスにもう一度変身し、〝ワン刃〟だったか?……を準備しながら待て」

 

「!……あぁ」

 

 ペドロからのその指示にページワンは目を見開くも承知し、変身を再びした。

 何かをしようとするペドロ達にゼノンは一応声を掛けておく事にした。

 

「……何をしようが無駄「オレは」だ――?」

 

 ゼノンの言葉を遮るペドロは静かに言う。

 

「オレは――ミンク族、〝生まれながらの戦士の一族〟だ」

 

「しかも――ジャガーのミンクだ」

 

 ペドロが口にする言葉はまるで自身に聞かせているようだった。

 やがて頭を上げたペドロの顔には気力に溢れていた。

 

「なら!奴の骨等――打ち破ってみようぞ!!」

 

 そう雄叫びを上げたペドロはゼノンに向かって駆けていった。その速さ、勢いは今までとは比になっていなかった。

 

「!!――〝無間捻骨〟」

 

 ゼノンも大量の回転する骨を放つもペドロはジャガーのミンクとしての素早い体さばきでその無数の骨をかわしていく。

 

「……!!」

 

 自身の攻撃がかわされていくのにゼノンも目を見開く。

 すぐ冷静になり、更なる骨を生成しても

 

「ガァアアア!!」

 

 骨をギリギリながらも身体を貫かれてもペドロは駆け続けていった。

 

「……!!」

 

 迫ってくるペドロにゼノンもさすがに冷や汗を流す。やがて

 

「〝激疾走〟!!!」

 

 ペドロの振り下ろした「エレクトロ」を纏う剣をゼノンが受けた。

 

「!!今だ!」

 

 それを目にしたページワンも続いていこうとした。

 

「〝ワン刃〟!!!」

 

 転がったページワンの攻撃をもゼノンが受けた。

 

「よし!!」

 

 それを感じたページワンは笑みを浮かべた。

 

――勝負あり!!

 

 そう思ったページワンだが……

 

「……!?手答えがない……!?」

 

 自身の剣がゼノンを斬ったという実感さえもできなかったペドロが素早く振り返ると――

 

「――がっ!?」

 

 ページワンが勢いよく吹っ飛ばされた。なお、その身体には傷ができていた。

 

「ページワン!!」

 

 床に叩きつけられたページワンにそう声を上げたペドロも威圧感を感じ、その源――おそらくゼノンに視線を向けた。

 

「……!!」

 

 ペドロが目を見開く。

 ゼノンの身体は――無数の骨が覆われていた。

 

「〝骨纏鎧〟」

 

 ――ゼノンの身体を最高硬度の骨が覆った事で彼の守備力が高らかに上昇したのだ。

 その為にペドロの〝激疾走〟もページワンの〝ワン刃〟も彼には届かなかったのだ。

 もちろん、同じく高らかに上昇した攻撃力でページワンの身体を吹っ飛ばし、傷を負わせていたのだ。

 

 手強い敵が強化したという事態に歯を食いしばるペドロと倒れ込むページワンを見下ろすゼノンは静かに――冷たく――宣する。

 

「さて……処分の時間だ」

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