ONE PIECE 荒ぶる暴獣の猛威   作:ウェイブロック

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第59話〝独善〟

 突如海賊の襲撃を受けて、そこから戦争状態に陥ったソード王国。

 その戦禍はソード王国の中心として建てられている城の中での如何なる箇所にまでも広がり――しまいには王のいる場所、「王の間」にもとうとう及ばれてしまった。

 その広間にも戦いをする際に必ず出てくる緊張感がもちろん漂っているはいるが……

 

「「…」」

 

 その緊張感は少し異質的だった。

 それは2人の海賊が1人のある青年と対峙しているだけで戦いさえもまだ始まっていない状況である――なんだが……

 2人の海賊――ジャックとハクジは目前の玉座に腰掛けている青年を睨み付けているが、その彼には不気味さを感じずにはいられなくて、冷や汗をかいていた。

 何せ、その青年――ソード王国国王であるゾグラティス・ルシウスはソード王国の中心である城が襲撃を受けている上に自身が滞在している「王の間」にまでも襲撃者が侵入してきたというあまりにも余程の非常事態が起こっているのにも関わらず――穏やかに微笑んでいるから。

 

「やぁ、よく来てくれたね――ジャック君。ハクジ君」

 

 それどころか、目前にまで近付いてきた襲撃者にまるで親しい者に対するかのような調子でそう言い放った――なぜか、初対面である筈のジャックとハクジの名を口にしてもいた。

 

「……何だ、何なんだ?お前は?」

 

 ルシウスの態度にジャックもそう言わずにはいられなかった。隣で口を閉じているハクジもその意見には同感だった。

 そんな暴言を受けたルシウスもしかし浮かべている微笑みを消さないまま

 

「私はゾグラティス・ルシウス」

 

 素直に自己紹介した。

 

「この世界の救世主だ」

 

「「!?」」

 

 しかも、一聞子供染みている紹介をもしてきた。その紹介にジャックとハクジも肝を抜かれた。

 

「……は!?世界の救世主!?」

 

「……本気で言ってんのか?」

 

「そうだよ?」

 

 思わず復唱したハクジをよそに顔を激しくしかめているジャックが重々しく問いかけてみるのにルシウスがすぐハッキリとそう返す。

 おバカどころか、ただ純一無雑にも見受けられるルシウスの調子にハクジもたまらずに声を荒らす。

 

「――ふざけるな!!お前が世界を救おうと思う訳がなかろう!!」

 

「おや?どうして思うのかな?」

 

 ハクジからの怒鳴りつけにも涼しい表情を浮かべているルシウスが問いかける。

 

「――ここ、ソード王国が他国に戦争を仕掛けて侵略を繰り返しているんだろ!!」

 

「戦争を仕掛ける以上――例え、一人だけでも苦しめるのは確定だ!!」

 

「それに何より――」

 

「お前の言葉はオレの耳には何か空虚に響く!!」

 

「確かにオレの耳にも空虚に聞こえたな」

 

 そう言い放つハクジの意見にジャックも賛意を示していた。

 その意見にルシウスも一瞬眉をひそめるもすぐ微笑み――静かに口を開く。

 

「……私が世界を救おうと考えるのは――」

 

「この私がそうすべきだと思ってるからだよ」

 

「「!?」」

 

「――私は」

 

 ルシウスの迷いなき言葉に言葉をなくすジャックとハクジに彼は重々しく言葉を続ける。

 

「よく考えたよ……自分は何者なのか…何を成すべきなのか……」

 

「よく考え考え考えてきたよ……」

 

「やがて、答えを導き出したよ」

 

「それこそが――」

 

 説明しているルシウスがやがて声に力を入れ始める。

 

「――この私が荒れまくっているこの世界を平和にする……という事だよ……!」

 

「力を秘めている〝悪魔の実〟に関しての研究が行われているこのソード王国の王として生まれた私だからこそ――」

 

「できる事なのだよ……!」

 

 熱心にはっきりとそう口にしたルシウスにかかる影があった。

 そして「王の間」に大きな音が響かれた。

 

「大げさな説明はもういい!!」

 

「丁寧な説明しているところ悪ぃんだがな!!」

 

 ルシウスの主張を聞くのに耐えられなくなったジャックとハクジが激烈な勢いで彼に飛びかかり――彼を容赦なく叩き潰したのだ。

 ルシウスが2人によりあっけなく撃破されたのか――と思ったら

 

「慌ただしいのは良くない事だよ?ミスを誘発するのだし」

 

 ジャックとハクジの後ろから涼しげな声がして、2人が素早く振り返るとそこには――ルシウスが汚れさえもない無事な姿で堂々と立っていた。

 その姿にジャックとハクジも顔をしかめる。

 

「……情報を耳にしていたが――厄介だな」

 

「あぁ、まさか――そんな〝悪魔の実〟が存在するとはな……」

 

 2人がそう言うのに得意気に頷いたルシウスが口を開く。

 

「その通り――だが、やはり〝悪魔の実〟は奥が深い……!」

 

 そう言うルシウスの自身の身体を凝視する目が熱を浴びてくる。

 

「――この能力を秘めている実まで存在しているのだから……!」

 

 ルシウスは自身の〝悪魔の実〟の能力に感嘆の声を上げた。

 

「この――」

 

「時間を操る力は……!」

 

 ――ルシウスは〝悪魔の実〟には興味をそそられていて、海に嫌われるというリスクさえ気にせずに実を食って能力を得ても構わないと考えていた。

 ……だが、彼が食ってまで能力を得ようと思わせる〝悪魔の実〟がなかなか出てこないのだ。

 ソード王国が国を挙げて手に入れてきた如何なる〝悪魔の実〟がルシウスの御前に差し上げられても、彼の興味を寄せられる事はあっても食おうと思われる事はなかった。

 長い時が過ぎても、数々の〝悪魔の実〟がルシウスの前に出てきても彼の心を震わせる事はなく、もはや彼のお眼鏡にかなう〝悪魔の実〟が1個もおろか存在していないのではと考えられ始めた中、ある実が彼の前に姿を現した事で事態がついに動き出したのだ。

 

 その実こそが――〝トキトキの実〟であった。

 

 光月トキが食った〝トキトキの実〟は彼女の死後に世界のどこかに復活したのだ。

 そしてその実がソード王国に回収され、そのままルシウスの前に差し上げられた。

 その実が秘めている能力を理解したルシウスはその実を一瞬で気に入り、迷いなく食った事でその能力を自身に宿らせた。

 ぜいぜい能力者自身が定めた未来の時間に自身や他人を飛ばす事しかできなかった光月トキよりルシウスは〝トキトキの実〟の能力を上手く使いこなせて多彩な用途を導き出していた。現に今

 

「〝クロノスタシス・加速〟」

 

 そうルシウスは自身の動作時間――スピードを速める事でジャックとハクジの攻撃を通り抜いて2人の後ろへ移動したのだ。

 捕らえてきた「漆黒の使徒」からルシウスとその能力の情報を耳にしてきたジャックとハクジもその厄介さを改めて少しながら実感できた事で警戒を強めた。

 そんな2人を前にルシウスは自身の身体の動作を試みていた。

 

「……身体機能を鈍らせない為には――運動をする方がいいんだろうし……」

 

 確認し終えたルシウスはジャックとハクジに視線を向けて――ニコリとする。

 

「手伝ってくれるかい?」

 

「「…」」

 

 ルシウスの態度、浮かべた笑みにジャックとハクジもブチキレた。

 

「上等だぁ!!」

 

 青筋を立てて目を血走らせるジャックはマンモスに変身しながら上半身を振り上がらせた。

 

「〝天裁〟!!!」

 

 ジャックは自身の上半身を勢いよく振り下ろさせて両腕を床に叩きつける事で発生させた凄まじき衝撃により「王の間」を揺らした。

 その衝撃は受ける者を粉砕する程だが――

 

「すごいね」

 

 しかしルシウスは〝天裁〟とその衝撃が襲い掛かってくる直前にジャンプして空中に浮かんだ事でその攻撃をかわしたのだ。

 余裕的なルシウスはジャックの〝天裁〟にのんびり感心しているところに

 

「〝空式〟!!!」

 

 同じ様に空中に浮かんでいるハクジが拳撃を虚空へと打ち込む事で発生させた衝撃波が襲い掛かる。

 

「おっと」

 

 その衝撃波に対してルシウスは慌てずに自身も両パンチを連続的で放つ事で発生した衝撃波で激突し相殺させた。

 

「!?オレの拳圧が!?」

 

「君の拳もなかなか悪くはないね」

 

「――!そうか……スピードか」

 

 自身の拳圧が相殺されたのに衝撃を受けたハクジだが、すぐ腑に落ちた。

 そう、実は能力を発動させた影響でルシウスのスピードは異常的に速い。故にルシウスが発生させる衝撃波はハクジの拳圧にも対応できたのだ。

 自身の自慢の拳にも対応されるという事実にハクジも歯を食いしばるが

 

「ハクジ!」

 

 ジャックが声を掛けてきて、ハクジも気付く。

 

「……!――やるか!」

 

 ジャックの意図を察したハクジは彼に向かって飛びかかる。対するジャックも鼻を構えながら待つ。

 ハクジはその鼻に着地した途端に

 

「オォォ!!」

 

 ジャックの鼻が勢いよく振り上げられた。その勢いにつられてハクジの身体も凄まじい勢いで飛ばされていった。

 

「オォォォォ!」

 

 ハクジは勢いよく飛ばされながらもパンチを構えていた。そんな彼の飛び先は

 

「…」

 

 自身に向かってハクジが飛びかかってきているのにも関わらずに相変わらず微笑んでいるルシウスは両腕を構えながら待っていた。

 

「〝仮・滅式〟!!!」

 

 ジャックの力を借りたハクジのさらに強化された拳が迫ってくるのに対してルシウスは――すぐ両パンチを連続的で放ってきた。その連撃で発生させた衝撃波がハクジを迎え撃とうとしていた。

 

「オォォ!!」

 

 だが、その衝撃波をハクジの拳が何の事はなく打ち破り、ルシウスに近付く。

 放ってきた衝撃波が打ち破られたのにルシウスは――しかし動揺せずに待ち構えていた。

 

「オォォ!!」

 

「…」

 

 微笑んでいるルシウスをハクジの拳が殴り当たろうとする――その瞬間に彼はギリギリな体さばきをみせ出した。

 ルシウスはハクジの拳が当たるか当たらないかという程度に絶妙な距離でそれから身体をそらし――

 

「フン!」

 

 ハクジを横から殴りつけた。

 

「ぐぉ!?」

 

 ルシウスからのパンチを受けたハクジは勢いがまだ収まられていないのも重ねて壁に激しく叩きつけられた。

 床に颯爽と着地したルシウスは壁に叩きつけられているハクジに向かって口を開く。

 

「――私は〝悪魔の実〟の力に魅せられているが……別に過信している訳ではないよ?」

 

「私は肉体、〝覇気〟をもちゃんと鍛えてきたよ……」

 

「私は王として、世界の救世主として――「文武両道」を心掛けているんだよ」

 

 ルシウスは堂々とそう言い放った。

 ――彼は実はハクジとジャックの〝仮・滅式〟にはまともに受けたらただでは済まないと判断していたのだ。

 そんな彼はまず、連続的両パンチで発生させた衝撃波で〝仮・滅式〟の勢いを弱める事にした。

 現にルシウスからの衝撃波を受けたハクジの勢いは〝少し〟しか弱らされなかったが……しかし、ルシウスにとっては〝少し〟弱らせた事で十分だった。

 あとは〝仮・滅式〟から身体をそらしてから横からハクジを殴りつければいいだけだ。

 しかし、さすがジャックの助力を得たハクジの強化された絶技だけはあって、その拳圧にはルシウスも当たるか当たらないかという絶妙な距離で身体をそらざるを得なかった。

 といえ、それでも〝仮・滅式〟をかわせたルシウスによりハクジはまんまとやられたのだ。

 

「くっ!」

 

 歯を食いしばるハクジに得意気に微笑むルシウスにしかし更なる攻撃が迫っていた。

 

「〝地裁〟!!!」

 

 ジャックがマンモスの姿でルシウスに向かって突進していた。ルシウスの隙を逃さずに攻撃したのだ。

 

「…」

 

 その攻撃にはルシウスは気付いているのか慌てずに――姿を煙のように消した。

 大きな音が響かれた。

 

「……チッ、読まれたのか」

 

「まぁね」

 

 壁を一欠片さえも残さずに粉砕したジャックは少し遠い距離に立っているルシウスを苦々しく凝視する。

 身体を向け直すジャック、そしてその隣に立ったハクジが改めて構える中、ルシウスはのんびりと口を開く。

 

「身体は温まってきたし……運動はもういいかな」

 

 自身の身体を確認してみたルシウスはジャックとハクジに視線を向けて笑みを浮かべながら言い放った。

 

「十分だ――終わろう」

 

「「ざけんな!!」」

 

 ルシウスの相変わらず不遜な言い草にジャックとハクジはもちろん怒りをみせた。

 そしてハクジが構える隣でジャックは

 

「(奴にはこの姿でも叩き潰せねぇ……かといって元の姿でも叩き潰せねぇだろうな)」

 

 今、自身達の身を置かれている状況を冷静に見極めていた。

 

「(なら!あの姿にするか!!)オォ!!」

 

 そう結論付けたジャックは何かをしようとし――

 

「〝クロノスタシス・拘束〟」

 

 突如ジャックとハクジの周囲が球体状の光に包み込まれた。その光の中にいた2人は――

 

「「…」」

 

 固まっていた――ルシウスの〝トキトキの実〟の能力により2人の〝時〟を止められたのだ。

 

「さて、君達はここで大人しくなってもらう――おや?」

 

 そんな2人を見ながらそう言っておくルシウスだが、突如目を見開いた。

 

「…!」

 

 なんと、〝時〟を止められた筈のハクジが――動いていた。

 その動きはあまりにも鈍くて弱々しかったが……〝時〟を止められている中であるのにも関わらずに動いているのだから、驚くべき事態だった。

 さすがにルシウスも驚きをみせたが、すぐ冷静になる。彼の性質もそうだが、こういう事態の原因も分かってるのもあるからだろう。

 

「――〝悪魔の実〟の力でも、それを凌駕する過剰な〝覇気〟によって影響と効果を搔き消される……だったか」

 

 〝悪魔の実〟に関して長らく研究してきたソード王国だからこそ、その例も確かに報告されていた――ただ、その数は少なかったが……

 それ故にその知識には半信半疑程度だった。

 そして、ハクジの「武装色の覇気」は新たな分野に至っているのもあって尋常ではない強きものである。

 その強き〝覇気〟はルシウスの強大な〝時〟の力にさえも抵抗できただろう。

 ――もっとも、ぜいぜい鈍くて弱々しい動きぐらいしかできないが……

 

「いやはや、まさか〝時〟の力をこう真正面から破れる者がいるとはねぇ〜」

 

 〝時〟での拘束に真正面から抵抗できるハクジにルシウスも感心せざるを得なかった。そして不気味な笑みを浮かべる。

 

「――君を解剖して研究するのもいいが……」

 

 鈍いまま動かざるを得ないハクジにルシウスは近付きながら――

 

「……っと、君は大人しくしたまえ」

 

 ルシウスが突如何もない筈の方向に指を向ける。その途端にそれは姿を現した。

 

「――ハッテン君?」

 

「…」

 

 ハッテンだった――ただし、彼も球体状の光に包み込まれていた。

 そんなハッテンにルシウスも微笑む。

 

「……ここに潜り込みながら戦いに参加せず――私を倒す時機を待つ君の姿勢はなかなかだね……!」

 

「…」

 

 ――実はハッテンは暴獣海賊団の勝利の為に敵陣の大将を討ち取ろうと考えていた。

 だが、ルシウスに関しての情報を得ているハッテンはジャックとハクジを囮として、いずれ気が緩む筈のルシウスを倒すという策を取る事にした。

 ルナーリア族のスピードに長ける自身なら可能だと考えていたハッテンだが――

 

「だが、残念だったね。私には通じないよ」

 

「…」

 

 尋常ではないルシウスに通じないどころか逆に捕らえられてしまったのだ。

 〝時〟を止められている為に反応が不明なハッテンからルシウスはハクジに視線を向け直す。

 ハクジはなんとかルシウスに攻撃しようと拳を構えていた。だが、〝時〟の檻中での鈍い動きじゃ威力を発揮できないだろう。

 そんなハクジにルシウスは――手刀を掲げていた。どうやら彼はハクジを排除しようと判断したようだ。

 

「――やはり不備は……排除するに限る……!」

 

 そう断言するルシウスの手刀はハクジに向かって勢いよく振り下ろす――

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