ソード王国研究施設でも起こされていた戦いに決着が付こうとしていた――モリスの勝利という形で。
それもその筈。今まさに、テゾーロとブラックマリアと小紫はモリスが従わせている実験体によってやられそうとしているのだから……
「やれ」
モリスが容赦なくそう言い放ち、実験体もそれに従えて私達に手をかけそうとし――
「「「!!?」」」
その瞬間、場にいる者達は悪寒が走るのを感じた。
――そうさせられる程の禍々しい圧が突如その場を支配してきたのだから。
「な、何だ!?」
「が、ガアァ……」
「ぎ、ギェ……」
その圧にあてられたモリスも完全に冷静さを失い、狂ったかのように顔を激しく振りながら周囲を見渡す。実験体も恐怖に慄いていた。
――しかし、モリスがどれだけ見渡し続けても……何かが現れる様子はなかった……
……にも関わらずに場を支配している圧が消えずに――むしろ少しずつ重くなってきている。それがかえってモリス達を蝕んでいる恐怖感が深くなっていく。
「――クソッ!!――出てこい!!」
自身を制圧している圧の正体が見えにくい上にその姿が現してこないのにイラつき始めたモリスは悪態をつき始めた。
しかし、それでも事態が変わらない――かと思われたが
「……ん?」
モリスはふと気付く――自身を影が覆っているという事にだ。しかも
「が、ガアァ……」
「ぎ、ギェ……」
実験体がモリスの後ろ――それも上方を見上げながら……震えていた。その事からモリスは――恐る恐る、後ろを振り返ってみた。
「……!!」
そして目を大きく見開き、言葉をなくす。
――彼は直で目にしてしまった。
――自身達を見下ろしている大きな影をだ。
――その影、それから感じられる威圧感にモリスは恐れ入ってしまった。
――その影はモリス達を恐ろしい目つきで見下ろしていて――手を下そうとしていた。
「ガルルル……」
「……ま、待て」
その影にモリスはなんとか鎮めようと声を上げるが……
●
「……う、うぅ〜」
どうやら気を失ったらしい小紫――私は意識が戻ってきた。そのまま身体を起こして周囲を見渡してみる。
「……あれ?」
この私、テゾーロさん、マリアがその場に横だっている……ただ、それだけだが――モリスと実験体の姿は見受けられなかった。
その姿がない事で身を置かれている状況の異常さに私は首を傾げてしまう。
「(……私達に手をかけずに去った……?そんな事があり得るのだろうか?……私達を殺す絶好の機会なのに……?)」
――そうなのだ。私達はまんまとやられ、まさにトドメを受けざるを得ない状態なのに……
そんな私達を置いてどこかに去った?――なぜ??
今の状況の理解不能さに疑問符が尽きない私がふと床にあるものに気付く。
「……!?これは……!!」
――床に夥しい血が広げられていた。その夥しさに眉をひそめた私だが
「……!!」
自身の手にも血が付けられてあるのに気付いた。
「…」
その手に付けられている血、床に広げられている夥しい血、モリス達の姿が見えない事実……そして、何より――ついさっき〝悪魔の実〟を口にしたのを思い出した私は
「……モリスは意識が飛んだ私が始末したのだろうな……」
そう自身が行ったのだと推測した。そう考えればつじつまが合うからだ。
「……さっきは――意識があやふやだったからな……」
さっきの自身の状態を思い返してみた私は口にした〝悪魔の実〟の能力が何のか――何となく勘付いた。
「……さっきのような状態で能力を発動すると――暴走するのか……」
自身に宿った〝悪魔の実〟の能力、自身の状態、そして今の状況に関して考察した私は今後に能力を使う事には気を付けようと決意した。
そして周囲を再び見渡してみる。
――まず、新たな敵は……現れてこない。
次に――私達の戦いの余波により研究施設の数箇所は壊されているが、完全に崩壊される訳でもない。
それを確認した私は呟く。
「……とりあえず、ケリはついた……かな?」
――修羅道を歩んでいる少女は悪魔の力を今ここに身に宿らせた……
『暴獣海賊団 ギルド・テゾーロ&小紫&ブラックマリア
VS
ソード王国 モリス』
『ソード王国城
「研究施設の戦い」』
『勝者 ギルド・テゾーロ&小紫&ブラックマリア』
●
その広間でも戦いが起こされているはいるが……
「ぐぁ!!」
「ぐ……!」
――それはもはや戦いになっていなかった。
ペドロとページワンはただ吹っ飛ばされていたが……その姿は見るに耐えられない程にボロボロだった。そして
「…」
その様をゼノンは冷たく見下ろしていた。
――実はペドロとページワンは負けじと技を放とうとしていたが、その攻撃でも最高硬度の骨で身体を覆わせているゼノンには届かなかった。そしてまんまと返り討ちにされてしまったのだ。
力なく横だっている2人にゼノンは口を開く。
「――お前達の強さはなかなかだが……」
〝骨纏鎧〟を発動させる程の2人の強さを一応認めるゼノンだが
「それでもオレには届かない――なぜならば……」
そう言うゼノンは獰猛な笑みを浮かべる。
「オレが遥かに強いというだけだ」
そう宣したゼノンから禍々しい雰囲気と共に無数の骨が生成されてきた。
「消えろ」
冷たくそう呟いたゼノンから生えてきた骨が2人の身体を貫こうと襲い掛かる――
●
「フハハハ!!」
その広間でもやはり起こされている戦い。
そこで撃破されたと思わされたダンテが姿を再び現した。しかも――
「……マジか」
「……まさかと思ったが……」
明日郎もシシリアンも心から驚愕した。何せ――
――今のダンテの姿は牛が人の姿をしているようなものだからだ。
肌色は黒くなっていて、顔は牛の特徴がみられる上に下方へ向かった後に上方へ向かう湾曲した約1mの角が生えていた。角の基部は隆起し、頭頂部を覆っている。
その姿こそが――〝ウシウシの実〟の能力によるものだった。モデルは〝ケープクロスイギュウ〟という。
――だが、そんな事は別にどうでもいい。むしろ、問題は――
――〝ニクニクの実〟の能力者である筈のダンテが〝ウシウシの実〟の能力を発動しているという事であった。
そもそも――1人の人間が2つ以上の〝悪魔の実〟の能力を得るのは可能かどうかといわれると――「否」である。1人の人間が2つ以上の〝悪魔の実〟を食べる事はできないのだ。
〝悪魔の実〟の能力は1人につき1つしか得る事ができず、既に〝悪魔の実〟を食べた者が2つ目の実を口にすると――体内で実の力が反発し、身体が跡形もなく飛び散って死ぬという。
だからこそ――「人は〝悪魔の実〟の能力をたった1つしか持てない」――という常識になっていた。
――だが、その常識を嘲笑うかのようにダンテは〝悪魔の実〟の能力を2つもなぜか持っている。
なお、前もってその情報を耳にしている明日郎もシシリアンもその事実に驚愕せざるを得なかった。
なぜ、ダンテが2つの〝悪魔の実〟の能力を持てるのかというと――
「これも我がソード王国の研究成果の1つなのだよ……!!」
ダンテが誇らしげにそう言い放ってきた。
ソード王国は〝悪魔の実〟の能力を2つ持てるかどうか――それに関する研究もまた行われていた。
長らく研究されてきた甲斐があって、ついにダンテという実例が出てきたのだ。
……ただ、ダンテが2つの〝悪魔の実〟の能力を宿るまでの過程には多くの犠牲者が出ていたそうだ。
その上に今の時点で〝悪魔の実〟の能力を2つ宿る能力者はダンテただ1人だけだ。2人目がさらに出てくるには時間と犠牲を要するのだろう。
とにかく、明日郎とシシリアンの勝利かと思われたところにダンテが2つ目の〝悪魔の実〟の能力を発動した事で勝負がまた分からなくなった。
警戒しながら得物を構えている明日郎とシシリアンにダンテは恐ろしく歪んでいる笑みを浮かべた。
「フハハハハハ!!まさか……!!私に……こちらの能力を使わせるとは――……!!」
2つ目の能力を使わせる程に自身を追い込まれている状況にダンテは
「喜ばしい!!」
狂喜していた。無論、屈辱感もある――だが、だからこそダンテの感情がますます歪まれていた。
その狂気に明日郎もシシリアンも顔をしかめている中、ダンテは更なる変貌をしようとしていた。
「ここまで来ると――本気を出そう……!!」
そう宣言したダンテの身体が盛り上がってきた――もう既に〝ウシウシの実〟の人獣型に変身しているダンテはさらに〝ニクニクの実〟の能力をも発動した。すなわち――〝ケープクロスイギュウ〟の力を宿っている肉体の筋肉繊維を可能な限りの全力で強化・巨大化させてきたのだ。
そうして――2つの能力を両方発動したダンテの姿は――さらに恐ろしく禍々しかった。
「……筋肉強化と〝動物系〟のコンビか」
「それはまた厄介な……!」
その恐ろしく禍々しさに顔をしかめている明日郎とシシリアンは冷静にダンテの2つの相性良さに厄介さを感じていた。
〝悪魔の実〟の能力における三大系統の1つ、〝動物系〟は肉体に動物の力を宿らせる――すなわち、身体能力が上昇する効果がある。その効果から〝動物系〟は格闘向きだといえよう。
――そして、〝ニクニクの実〟は筋肉繊維を自在に操る――そう、身体能力が上昇する効果も存在している。つまり、その実もまた格闘向きだともいえる。
どちらも方向性が同じだけはあって相性が十分的に良い。
その事実にこれからはさっきのようにはいかないだろうと明日郎とシシリアンは考えた。だからこそか
「〝火産霊神〟!!!」
「〝獅子の咆哮〟!!!」
2人とも素早く最大技を発動して先手を打とうとした。
巨大な竜巻状の炎を纏う刀と凄まじき「エレクトロ」を流している剣が襲いかかってくるのに対してダンテは不敵な笑みを浮かべながら左拳を構え――
「〝大魔神の大拳〟!!!」
勢いよく放たれたパンチは〝ケープクロスイギュウ〟の力と強化された筋肉繊維を重ねているだけはあって、2人の最大技を受けても怯まなかった。
「ぐ、ぐぅ……!」
「オォォ……!」
そのパンチに2人も負けじと得物に力を込め続けているが……
「「!!」」
「フハハハ!!」
ダンテの右拳も勢いよく放たれ、2人の身体を殴りつけた。
「「ぐがぁぁぁ!!」」
そのパンチを受けてしまった明日郎とシシリアンは吹っ飛ばれるも
「何のぉ!!」
「ナメるなぁ!!」
体勢をなんとか立て直しながら着地する。そこに――
「「……!!」」
「フハハハ!!」
素早く追いつけてきたダンテが両パンチを次々に連続的に放ってきた。
その連続的パンチを身に受けた2人はまたしても吹っ飛ばされ――壁に叩きつけられた。
「が…は……」
「お、おぉ……」
床に落ちていった明日郎とシシリアンはシャレになれないダメージにより苦悶の表情を浮かべていて、立ち上がってこなかった。
そんな2人に近付いたダンテは不気味な笑みを浮かべる。
「フフ……ソード王国にケンカを売った愚かしさと身程を少しでも思い知ったかな?」
「クソ……」
「クッ……」
その挑発に対してしかし何も言い返せない2人の様に気を良くしたダンテは一応トドメをさそうとした。
「しかし――あと一回思い知らせてやろう」
そう呟いたダンテは拳を構えていた――
●
ソード王国の城内の「王の間」でも起こされている戦いにもケリが付けられようとしていた。
そこで君臨している王、ルシウス・ゾグラティスに立ち向かっていた海賊達のうちの2人は――
「「…」」
〝時〟の牢獄に監禁されていて何かを打つ手はおろか、動きを微かさえも許されていなかった。
――そして、もう1人は命が消えようとしていた……
「やはり不備は……排除するに限る……!」
そう断言するルシウスの手刀はハクジに向かって勢いよく振り下ろす――
彼も〝時〟の牢獄に監禁されている為に満足に動けなかった。それ故にルシウスの手刀を避けられずにただ――身に受けるしかなかった。
鋼の音がした。
「!」
ルシウスの目が見開く。
ハクジの命を奪う筈の手刀は――金棒に止められていた……いや、よくみれば――ただの金棒ではない。その下部には……大剣が付けられてあった。それこそが「神武」。
つまり――
「……あぁ、ここでなのかい――」
「――スサノオ……!」
「…」
事態を把握し、納得したルシウスがそう口にするのに対してスサノオ――オレは不敵な笑みを浮かべながら彼を凝視していた。
――暴獣海賊団とソード王国の戦争は最終段階に入ろうとする。