今もカイリュー号、そしてラウフェイとメニヤを乗せている船も順調に海を進んでいった。
その船上で暴獣海賊団の海賊達は自身の思いのままに過ごしていて、和やかな空気が広がっていた。
そんな中で少し騒がしい空気も存在していた。
「ホワァァァ!」
「シャアアア!」
――ヤヒコと明日郎が手合わせをしていた。そして、それを海賊達が囲まって観戦していた。
――実はヤヒコの実力を知る為に手合わせをする事になっていた――もっとも、今はカイリュー号の上でやっているので船を壊さないように力をある程度抑える必要があるんだが。
とにかく、明日郎は愛刀を抜かずに拳でやってくるのに対してヤヒコは――
「――ホワァ!」
「む!」
突如何かの武術の構えをとったヤヒコは明日郎に向かって右拳を放つ――正拳突きを放った。
「――おおっ!」
その正拳突きを明日郎は腕で防ぎ――逆に片腕で殴りかかった。
「――フン!」
「!」
対するヤヒコは慌てずに明日郎の拳――手首辺りを掴み、そのまま明日郎の身体を背負ったヤヒコが彼を床に叩きつけようとする。
「――オラァ!」
今まさに叩きつけられかけている明日郎はヤヒコから無理矢理離れ、体勢をなんとか立て直した。そして笑みを浮かべた。
「――なかなかやるなぁ!」
そう声を上げた明日郎は正拳突きを受けた腕を確認する。そこには――少し腫れていた。
「――お前の空手と柔術はなかなかだなぁ!」
その腫れ、感じてきた痛みにより改めて感嘆する明日郎にヤヒコは胸を張る。
「――世界を生身でただ旅する訳にはいかないんで、護身用として空手と柔術を学んできたんで!」
「そりゃそうだ!」
その言葉に肯定した明日郎はヤヒコに再び立ち向かっていった。そうして手合わせが続けられていった。
「……お前はやらないのか?」
それを楽しげに観戦しているある男にペドロはそう声を掛けた。
その男は――ヤヒコと同じく暴獣海賊団への入団を希望しているタングドーサムだった。
そんな立場である彼も手合わせをするのが道理かもしれないが……
そのもっともな問いかけに顔を上げたタングは無邪気に晴れやかに笑いながら答える。
「あ!――別に戦ってもいいけど……僕は戦いを観察するのが好きなんだ!だから見てるッス!」
「……そうなのか」
その趣味にはペドロも頷く。ペドロにとっても分からない訳でもないからだ。
そんな彼をよそにタングは言葉を続ける。
「――2人の手合わせは最高ッスね!明日郎は何も考えないでメチャクチャでやっているようにみえて、実はよく考えながら動いているし!だからこそ隙がないんだよね!」
「ヤヒコはダメージを少なくする為に攻撃を少し逸らしながら受けきっていて、来るだろう隙を逃さずに素早く動いているし!」
「ただの手合わせだけど、もう十分な戦いだよ!!」
明日郎とヤヒコの手合わせを解説していて、そのうちに少しずつ興奮が高まってきていて、しまいには爆発したタングにペドロは少し引いた。
「た、タン「分かる〜〜!」グゥ―?」
一応タングに声を掛けてみようとするペドロの声を遮る声が現れた。その声の主は――
「ほんっとに血がたぎる戦いよね〜!私も戦いたい!」
ヴァニカだった。
戦闘狂である彼女は明日郎とヤヒコの手合わせに熱を当てられてしまったらしい。自身も戦いをやりたがっている彼女だが――
「……ここはカイリュー号の上だ。全力を出さない事が無理なお前じゃ許されない筈だよな?」
そう指摘してやるも一応警戒して構えているペドロにヴァニカは――俯いていた……
「……そうだよね〜…あ〜、早く着かないかなぁ!そうすれば戦いができるのに!」
「あは!そうなればいいよね!――あんたもなかなか強そうだし!」
「お!分かる?」
一瞬で意気投合してしまったのか、騒いでいる2人にペドロは息を吐く。
「……これはまた――随分な血の気が多い者が現れちゃったな……」
今はまだ試用中だが、暴獣海賊団の〝ほとんど〟の海賊達はヤヒコとタングドーサムを仲間として受け入れていた。
……ちなみに話は変わるが、2人は世界を旅している旅人であるらしい。故に――仮に正式に仲間として迎え入れられなくても困る事はない。ただ以前の旅生活に戻るだけであろうからだ――
●
「…」
オレはヤヒコとタングドーサムの様子を凝視していた。
――オレはその2人には何かがあると感じていたので、様子を注意しながら見続けてきたが……
「……今のところ怪しい動きは見られない……か」
事態の不変に目を細めるオレに近付く者がいた。
「スサノオさん」
「!――マリアか」
浮かない表情を浮かべていたマリアがオレが気付いた途端にに口を開く。
「――相変わらずです」
「そうか」
その報告に眉をひそめたオレは口を開いてしまう。
「……医者達をウチにちゃんと入れたは入れたが……心の病を専門とする奴はさすがにいねぇしな……」
暴獣海賊団の治療担当の人員を思い浮かばせているオレは〝心の病〟専門の医者の不在に頭を悩ませていた。
「……次の上陸島にはそういう奴がいればいいんだが……」
そう考えを巡らせているオレにマリアはある問いかけを投げてみる。
「……あなたが会うのは?」
「……船長として仲間をほっとく訳にはいかねぇから、前から会いに行ってみたが……」
その問いかけにオレがそこまで言った途端に顔をしかめる。
「……なかなか会ってもらわねぇんだ……かといって無理矢理する訳には……」
「……そうですか」
自身の無力感に顔をしかめているオレにマリアも頭を下げた。
「……一体どうしたんだ?」
――ソード王国との戦争から明らかに様子が変わった彼女の身を案じているオレはそう呟く。
「……小紫は?」
●
カイリュー号の船内での一室に彼女はいた。
「…」
その彼女――小紫は目を閉じて深く静かに思いを巡らす――瞑想していた。それは見事な姿勢で静かだったが……
「……はぁはぁ――」
突如小紫――私は苦しめ始めた。
やがて目を開けて、胸を抑えながら息切れしてしまった。
……私がなぜこういう事になっているかというと――
――いい様だな
「っつ!!」
突如響かれたその声に私は苦々しい――しかし、どこか怯えているような表情を浮かべた。
そして私の前に――〝私〟が現れた。
――浅ましく卑しいお前に似合いの様だ。
「黙れ!」
――ふふ……
――お前の一体どこが武家の娘なんだ?
「っつ!!」
その声に私は何も言い返せずに――口を閉じてしまう。
そんな私を〝私〟は嘲笑う。
――いやいや、気にする事はない。
――お前は仇敵に媚を売っておればいいさ。
――そう…虎の威を借る狐のようにな〜
――それこそがお前――光月日和の生き方なんだからなぁ〜
「っつ!!!」
その言葉に私は頭を上げるものの、〝私〟の姿はもう消えていた。
〝私〟を忌々しく思う私は歯を食いしばりながら俯いた。そして思案に耽る。
「(……私は――一体何していたんだ?)」
……私から全てを奪った黒炭オロチと百獣海賊団への復讐を誓い、その為の力を身に付けようとあえて仇敵の息子であるスサノオの元に身を寄せるまではいい……
――だが、それからの私は何をしていた?
――まだ、まだ十分な強さを身に付けていないから、時機を待ちながらさらに鍛えてきただけだ。
「(……否)」
――この私は憎らしい上に利用するだけに過ぎない筈の暴獣海賊団には……
……心地良さを感じてしまったのだ。
そう、私は心地良い暴獣海賊団の事をいつの間にか――新たな居場所とみているようになっていた――なってしまった。
……何より――仇の息子である憎むべきスサノオの事を私は……
……好ましく思っている。
「――クソッ!」
そこまで思い返してみて、その事を自覚してしまった私はその途端に自身に激しい嫌悪感を抱えるようになった。
当然だ――大好きな筈のおでん達に背を向ける、唾を吐くような感情をよりにもよって――自身が抱えているのだから……
「……わ、私は……私はぁ!」
――そして……私は胸中に湧き出てきた激情に声を上げた。その強い感情、それこそが――
「こ、このままでは……私は――私は救いようのないクズに堕ちてしまう……!」
――〝恐怖〟だった……
――修羅道を歩んでいる筈の少女の前についに矛盾する事実を突き付けられた時が来てしまった……
●
それからしばらくして
「おぉ、見えたな」
カイリュー号の進む先に島が見えてきたオレは感嘆の声を上げた。
「上陸するですか?」
「あぁ、必要な事があるからな(小紫の件もあるし……)」
そう考えたオレは島を凝視する。夕日の海に浮かんでいるその島にオレは予感を感じた。
「――今度も何かが起こりそうだな」
――その島で暴獣海賊団は更なる分岐点を迎える事になる。
●
「さて、着いたは着いたが……」
そう呟いたオレは前の景色を見渡してみる。その景色とは――街であった。一応何の特徴も今のところ、まだ見当たらなかった。
オレ達――暴獣海賊団は見えてきた島に上陸していた。
「ここは?」
オレが暴獣海賊団の中でも最も海図に強いフドウにそう問いかけてみて、彼も応えてくれる。
「海図によると――ここは〝エイレンホール〟だな」
「――それで?」
その名を聞いても心当たりがないオレは続いて詳細を求めた。
その意図を察したフドウも説明を始める。
〝エイレンホール〟――
そこは平織りの縞と格子の絹織物の生産地としても知らされている。
その由来で有名になっているところから発展されていって、数々の会社が設立されていった。
そんな中で設立されたある会社――〝エッジオブパシフィック〟というサービス業と警備業の両方を請け負っている会社が存在している。
それは世界に名を知らしめている有名な会社で、その設立地として〝エレインホール〟を有名にしている。
「――その会社によって建てられた複合型リゾート施設〝オーシャンヴァリー〟が最近開設されるそうだ……」
「――まぁ、そんなところだな」
「「「へぇ〜」」」
「そうか」
フドウの解説に皆が納得の声を上げていた。もちろんオレも頷いた。
「――〝オーシャンヴァリー〟かぁ……行ってみたいけど……」
「あぁ」
ヤマトが説明された〝オーシャンヴァリー〟に興味を持つものの、表情を曇らせる。その意図にオレも同感する。何せ――
「今はもう夜だ――だから、明日にしよう」
「うん」
オレの言葉にヤマトも異議の声を出さなかった。もちろん他からもそういう声が出なかった。
それを確認したオレは続いて案を出す。
「――泊まりに行くか!」
「「「オォ〜!」」」
オレの宣言に皆も賛同の声を上げた。
そうして――暴獣海賊団は〝エイレンホール〟での宿泊施設で一夜を過ごしていった……
●
〝エイレンホール〟でのある建物
――今が夜中であるのもあって、そこにも影が映っていた。
その中でのある部屋には――数人が留まっていた。
その姿は明かりが少ないからこそ影に覆わされていて明らかになっていない。
それも重ねて、その場に重々しい雰囲気が漂っていた。
「……私達の助勢に来た訳ではないなら――一体何の用でここに?」
その中でも威圧感を放つ――おそらくリーダー格がそう言い放つ。
その問いかけに対しての答えも上げられる。その声の主はリーダー格よりさらに威圧感を放っていた。
「……このオレは暴獣海賊団に対しての潜入任務を請け負っている」
「暴獣海賊団?」
その名を知らないらしく、答える影以外の数人は首を傾げる。そんな影達に影が言葉を続ける。
「……あの〝暴獣のスサノオ〟が率いる海賊団だ」
「「「!?」」」
その情報に影達も驚愕を隠せなかった。
「……あの「四皇」〝百獣のカイドウ〟の息子の?」
「……確か、〝聖地襲撃〟の実行犯の1人――だったか?」
「あぁ」
影達からの確認に影も肯定し言葉を続ける。
「奴らはあの〝ソード王国〟を落とした……だからこそ「世界政府」はオレを送るのを決定された」
「「「!!?」」」
暴獣海賊団に対しての潜入任務が決定された原因、その背景に影達もまたしても驚愕をみせた。
「……なるほど、そういう訳」
「……ついに腰を上げた――訳か」
「……しかし、あの〝ソード王国〟がなぁ……」
驚愕が収まらなくとも納得をみせる影達。
彼らもまた〝ソード王国〟を知っているからこそ、その国が倒されたのに対しても驚愕をみせていた。
「……あなたの任務は分かったけど――」
状況を把握したリーダー格は少し言葉を濁す。だが、その意図に勘付いた影は言い放つ。
「今回に関しての指示はお前が出せ。オレは補佐役に留まろう」
「……分かった」
影の案にリーダー格は頷き、今後の状況を口にしてみる。
「――我々はここでの任務を続けるが……あなたはもちろん、暴獣海賊団と遭遇する訳にはいかない」
「あぁ……こちらでもさっさとここを去るように誘導しておく」
その事にも同感する影も自身のとろうと思う動きを口にする。
――それからも請け負った任務達成の為の計画を修正し、対応方法に関しても議論をして決めていった。
「……もう他にはない?」
リーダー格がそう問いかけ、影達も声を出さずに黙る。その様子にリーダー格も頷く。
「――もういいでしょう……これでは解散とする」
その宣言を放たれた途端に影達が煙のように消えていった。
その部屋には静寂感が完全に支配していた――
――〝エイレンホール〟に影が手を伸ばしていた……
――そして、その手が暴獣海賊団にも伸ばしていた……