〝エレインホール〟の発展に貢献してきた〝エッジオブパシフィック〟が新たに設立させた統合型リゾート施設――〝オーシャンヴァリー〟。
その施設は〝エレインホール〟をさらに発展させていく上に人々に楽しさを与えられるだろう――そう思われていた。
「――なんて事……!」
「……!」
その〝オーシャンヴァリー〟の今の状態を目にしたコナンがそう悲痛な声を上げ、社長も目を見開いてまで動揺していた。
何せ――その〝オーシャンヴァリー〟の中に突如爆発が起こされてしまったからだ。
〝エッジオブパシフィック〟にとっても自慢な筈の施設がしかも、よりによって開設されたばかりなのにも関わらずに爆発を起こされてしまった。
そのあんまりな非常事態に呆気に取られた2人に向かってその声が再び響かれた。
『――分かったか?オレ達の本気が』
「……あぁ……思い知らされたよ……そりゃもう――思い知らされたとも……!」
その爆発、それを起こした程の自身達の力を誇っているのか、誇らしくそう言い放つ声に怒りを抑えきれない社長が重々しくそう返す。
――社長にとっては、仲間達と部下達が努力して作り上げた〝オーシャンヴァリー〟が壊される事にはもちろん怒りが湧き出るが、それ以上に――
――〝オーシャンヴァリー〟で楽しんでいる筈の人々の身の安全が脅かされているという事実に社長の怒りがさらに燃え盛らずにはいられないのだ。
その怒りを込めているからこそか、少々ながら震えている声で出される返事に満足したらしい声が言葉を続けられていく。
『よろしい……ではもう一度言おう――』
『――「映像電伝鳥」を渡せ』
「…」
再びその要求をしてくる声に社長は眉をひそめる――しかし、すぐに言葉を返せなかった。
――〝オーシャンヴァリー〟で爆発を起こされたという事実からまだ何かをしてくる可能性が高いと考えた社長はしかし、それでも「映像電伝鳥」を渡す訳にはいかないとも考えているからこそすぐ返事できなかったのだ。
「社長……」
コナンもその意図を察せるからこそ社長を案じてしまう。
そして、社長の反応から彼が何かを考えているのかを勘付いたのか、声がその言葉を言い放つ。
『……まぁ、突然の事で混乱するのも分かるからな――時間をやろう』
『――1時間だ。今から1時間後に返事を聞かせてもらうか』
「!」
猶予を与えられたのに社長は目を鋭くする。
――それは一見慈悲かもしれないが……社長にはナメられていると感じ受けられるからだ。
イラつきをも覚えている社長に構わずに声は言葉を続けていく。
『――なお、断るならば……もう一度爆発を起こしてやる』
「「!」」
その警告に社長もコナンも顔をしかめてしまうのにも構わずに警告を続けられる。
『分かるか?――そう……〝オーシャンヴァリー〟の中にいる奴ら全員が人質だ』
「「っつ……」」
その警告に社長とコナンが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。
直接その表情を目にできなくても、その雰囲気を感じ取れたのか声の響きから満足気なものが出てきた。
『フフ……分かったか?――お前に選択肢はないのだ』
「「…」」
その事を突き当てられた社長とコナンが顔をしかめるものの、否定できなかった。
社長達にとっての今の状況では〝黒の組織〟の全てを把握していない――すなわち、未知だらけだといっていい。
未知だからこそ――爆発を起こした起爆装置がさっきの1回だけだという楽観視はできない。むしろもっとあってもおかしくはないだろう。
その事から今の状況の主導権を握っているのは〝黒の組織〟の方だ。
その事を社長達は分かっているからこそ何も言い返せなかった。せめての抵抗として――何も言わずに黙りこくる。
だが、その仔細な抵抗さえも気にしない声は言葉を続けられる。
『――まぁ……1時間待ってやる』
『――選択を間違えるなよ?』
声がそう言い残した途端に電伝虫が切れられた。
「「…」」
それっきり黙った電伝虫を社長とコナンは苦々しく見下ろしていた。
「……社長」
――といえ、だからっていつまでも指をくわえ続ける訳にはいかない。
そう考えたコナンは社長にそう問いかけてみると社長は瞼を閉じて思案に耽る。
「……コナンさん!」
「はい!」
やがて考えをまとめられたのか、目を見開いた社長はコナンを呼びかける。その呼びかけにコナンは身を引き締めながら応える。
「今から――アルベリヒ、ノーグル、ゼンシャー、ヴォイジ、サブリングワルを呼ぶんだ!できるだけ早く!」
「はい!」
社長からの指示に従ってコナンは名を挙げられたその5人を呼び連れる為にすぐ社長室を出ていった。
社長室に残された社長はフーッと吹き出し、呟く――自身の決意を確認する為に。
「……「映像電伝鳥」を渡す訳にはいかない」
「……かといって――〝オーシャンヴァリー〟の中にいる人々をそのままにしておく訳にはいかない」
「――なら!」
そこまで言いかけた社長の目には決意の火が燃え盛る――
「――〝黒の組織〟に「映像電伝鳥」を渡さずに人々を助けてみせる!」
社長がそう宣言する――
――〝エッジオブパシフィック〟は蝕んでくる闇に立ち向かうのを今ここに決意した……
●
爆発が起こされている現場――〝オーシャンヴァリー〟では……
「「「うわぁぁぁ!!!」」」
人々が慌ただしく動き回っていた。
――当然だ。〝オーシャンヴァリー〟で楽しむ為に訪れてきたのに……いざ楽しんでいる平穏なところに突如爆発が起こってきたのだ。パニックになるのも道理であろう。
――だが、とにかく突然の事で人々もパニックになりきってしまっている。これでは……それが冷静さを奪い、適当な判断を下せず間違った判断をするのに繋がってしまうのだ。
現に――如何なる箇所でも人混みを作られ、そこから人を押さえつける、人を踏む等という二次被害を生み出してケガ人を出してしまっている。
――それだけではない。爆発が起こった現場から湧き出てきた大火がさらに燃え盛り、その近くで逃げ惑っている人々に容赦なく襲いかかろうとしていた。
「「「っつ!?」」」
その事に気付き慄いている人々に構わずに大火が襲いかかろうとする――
「〝無侍氷牙〟!!!」
だが、まさに人々が焼き付けられかけているところにその大火に突如氷が激烈な勢いでかけられていた。
その凄まじき氷により大火がただ少しずつ消えていき――やがて完全に鎮火されていった。
「「「!?」」」
その事態に目を見開く人々の前にそれが姿を現した――
――幻想的な白き狼が駆けてきたのだ……
――〝大口真神〟に変身したヤマトが氷のプレスを放った事で大火を鎮火させ、そして人々を後ろに庇うように振る舞っていた。
その大きさ、幻想的な美しさ、そしてその振る舞い――まるで神話の中での神獣に守られるという出来事に巻き込まされたようで人々も身を置かれている状況を忘れられる程に見惚れられていた。
その呆然としている人々に向かってヤマトは凛としながら口を開く。
「――大丈夫!?君達!」
「「「!?」」」
その神々しさからまるで神の使いのようだとみられても不思議ではない幻想的な白き狼が喋ってきたという事実に人々も驚愕し固まった。
だが、すぐ我に返り――素早く答えた。
「――は、はい!大丈夫です!」
「え―えぇ!大丈夫よ!」
「あ、ありがとうございます!」
「……お、おぉ〜!か、神の使いじゃ〜!ありがたや〜!」
「良かった!」
その解答にヤマトもニコッとできた――なお、人から礼を言われるのはもちろんだが、自身をまるで神のように崇められた事に対してヤマトは羞恥を感じてしまったのはご愛嬌である。
その神々しい白き狼が優しく――しかし、無邪気で活発的な笑みを浮かべてきたという事実からそのギャップにより目を見開いた人々もプッと吹き笑えるようになってきた。
さっきまで怯えていた人々が今は笑みを浮かべられたという事にヤマトも安堵感を覚えられた。
爆発が起こっているのもあって非常事態中であるにも関わらず、その空間は和気藹々としていた。
そんなところに――ヤマトグループも追いつけてきた。実は爆発が発生した時にヤマトがすぐ駆けていった事でヤマトグループを置き去りにしてしまったのもご愛嬌である。
「――どうやら、なんとかなったそうですね!ヤマトさん!」
「うん!」
目にしたその状況からヤマトの活躍を悟ったテゾーロ達も微笑める。だが、テゾーロはすぐ真剣な表情になる。
「――しかし、一体何かが起こったんだ!?」
テゾーロがたまらずにそう声を上げたが――その意見は〝オーシャンヴァリー〟の中にいる人々――いや、それこそ〝エレインホール〟にいる人々の総意であろう。
――そして、その疑問に対しての答えがすぐ出された。
現に〝オーシャンヴァリー〟の中にその声が大きく響かれた。
『――聞こえるか?――〝オーシャンヴァリー〟の中にいる者達よ』
「「「!?」」」
その声にヤマトグループを含む人々が反応し、その源を見つけようと周囲を素早く見渡す。だが、その源らしきものが見つからない。
そんな人々の様子を知っているか知らないのか、その事さえをもハッキリせずに声が言葉を続けられる。
『――オレ達は〝黒の組織〟だ』
「〝黒の組織〟?」
明らかにされたその名にヤマトは心当たりがなく、首を傾げる。
――実は百獣海賊団総督を務めているカイドウの娘、暴獣海賊団船長を務めているスサノオの妹でもあるヤマトはその立場に恥じないように敵になり得る者の情報にも一応目を向けてきたのだ。
そんな彼女でも知らないという事は――新たに設立されたばかりの組織なのか、それとも――それ程に大きな組織でもないかもしれない。
とにかく正体が知れない組織の人間であろう声は容赦なく言葉を続けられる。
『今の爆発はオレ達が起こした』
「「「!!」」」
その宣言に人々が目つきを一気に変える。その目つきには――〝怒り〟…〝恐怖〟…そう、平穏を破りこの状況を作った〝黒の組織〟に対しての負の感情が込められていた。
そんな人々に構わずに声は淡々と言葉を続けられる。
『――実はな、オレ達はさっき〝エッジオブパシフィック〟にある事を求めていてな……』
『――だが、断られてしまったんだ』
『だから――その報復として奴らの自慢の施設を爆破したまでだ』
その説明に人々はやっと事態を飲み込めた。だが、同時に――その身勝手さに人々は怒りを感じてしまう。
だが、その怒りを消し飛ばす宣言が続いて出された。
『もちろん――爆発はさっきの1回だけではない』
「「「!?」」」
『――〝オーシャンヴァリー〟のあちこちに起爆装置を置いてある』
「「「……!!!」」」
その宣言に人々は冷や汗をかき絶句してしまう。そんな人々に声はその事態を突き当たる。
『そう――お前達は人質だ。〝エッジオブパシフィック〟に対してのな』
「「「……!!!」」」
改めて知ってしまった身を置かれている状況により人々は慄いてしまう。
そんな人々に声はやはり容赦なく言葉を続けられる。
『――奴らからの返事を1時間だけ待ってやっているが……』
『――もちろん、〝オーシャンヴァリー〟から1人でも逃げる――等の余計な事をしやがったら……容赦なく爆破してやる』
「「「……!!!」」」
続いての説明、しまいには――その恐ろしい脅迫をも出してきた声に人々は戦慄してしまう。
その戦慄を今度は感じ取れたのか、声が言い締める。
『分かったなら――大人しくしていろ』
その言葉を最後に声はそれっきりになった。もうこれ以上言葉を出される事はなかった。
その途端に人々が騒ぎ始めた。
「に、逃げようよ!」
「――で、でも――逃げたら爆破するだって……」
「ど、どうしよう!?」
人々がこれから取るべきであろう動きに慌ただしくも議論していた――しかし、〝オーシャンヴァリー〟から逃げようとする者は1人さえもいなかった――さっきの脅迫が効いたんだろう。
「ヤマトさん」
そんな中で余計な事をせずに様子見として一応大人しくしているヤマトグループだが――
「これからどうすべきだと考えているんです?」
テゾーロがそう問いかけてみて、ヤマトグループの視線がヤマトに向けられる。その視線を向けられながら、そう問いかけられたヤマトは瞼を閉じて思案に耽る。
考えを巡らせ――やがて、まとめられたのかヤマトは目いっぱい見開いた。
「――よぉし!」
笑みを浮かべながらそう吠えたヤマトの目には――固い決意が込められていた。