「ワノ国」に拠点を構えた「百獣海賊団」の勢力拡大は極めて順調だった。
「部下も随分増えてきたな。「鬼ヶ島」の件も滞りなく進んでいるようだし」
「ええ、工場も支障なく稼働していて大量でしかも出来が良い武器を製造できています。今のところ問題はありません」
そんな「百獣海賊団」の現状に関してカイドウとキングは議論していた。
別に問題が見受けられず順風満帆だという事実にカイドウは満足する。そんな彼の姿にキングも微笑むが、ふと気付く。
「それはそうとして……お坊ちゃま達は今日も?」
「ん?ああ……」
突然その話題を取り上げられたのにカイドウは片眉を上げるが、つつがなく答える。
「あいつらに護衛を付けたから心配はいらねェが、今日も散歩していくんだとよ……!」
ワノ国「花の都」――
そこではある事が展開されていた。
「九里のバカ殿光月おでん♪」
「ヘビににまられ腰ぬかす♪」
「笑たら負けよ♪あっぷっぷ♪」
それは――光月おでんの裸踊りであった。
彼は民衆の前で褌一枚になりおどけていた――それこそ前の年からずっと。
その威厳、誇りの影も形もないみっともない振る舞いをする大男に人々が冷ややかな目を向け、子供が笑い――そして黒炭オロチの配下の侍達と「百獣海賊団」の海賊達もバカ笑いしていた。
とにかくそのようになっている「花の都」だが、そこへ足を運ぶ者達がいた。その姿を目にした人々がざわめく。
「!……今日もまた来たのか」
「「百獣海賊団」の子供達の集団――」
「――「ガキ集団」」
「その集団を纏める〝ガキ大将〟が――」
「――〝スサノオ〟」
それは人々のざわめきを気にせずに堂々と前を向き歩を進める集団だった。
一応、数人の大人も護衛係としてついているが……とにかく彼らこそが「百獣海賊団」の新世代を担うであろう子供達の集団。その名はストレートに「ガキ集団」。
その筆頭に集団を纏める〝ガキ大将〟というリーダー格の少年がいた。
その少年はまず和服を着崩して右腕をあらわにし、また虎皮を腰に巻いて、金棒を手にしながら肩にかける。何より特徴なのが身元を知らされないためか般若の面を被っているというところであった。
その少年こそが――
〝百獣のカイドウ〟の息子、6歳になったスサノオだ。
「……ただ歩くだけなんだがな」
人々から注目されるスサノオ――オレはその恐れる視線が気かがりでそう呟かずにはいられなかった。
まァ、だが「ワノ国」の民にとってオレ達は恐ろしい「百獣海賊団」のガキ達だ。そりゃ気にかからずにはいられねェんだろうよ。
そう思案するオレに声をかけられる。
「でも、お兄ちゃんがつよいからついみちゃうんだって……フドウが」
オレと同じく般若の面を被っていて、ただし和服をちゃんと着こなしている4歳になった妹ヤマトがそう言ってくれた。
その言葉を受けてオレはフドウに視線を移す。
「ホントだろう?なにかちがうのか?」
「そう!」
父キングと同じく黒ずくめの服装を纏うフドウが何の動揺をみせずにきっぱりとそう言った。
そして、その言葉に賛同するかのように手を挙げたのが同じく黒ずくめの服装を纏う少年だった。彼は――
「おう、おまえもそうおもうよな?ハッテン」
「うん!あにうえ!」
フドウの弟でキングの次男〝ハッテン〟だ。
とにかく、ヤマトとフドウとハッテンの3人がそう主張すると他の子供達も賛同して声を上げる。
その姿勢を受けてオレはため息をつく。
「……まだガキのお前らが簡単にそう言うなよ……」
ヤマト達に向けてオレがそう諭すが、苦笑してもいた。
全く……こいつらは本当にオレの事が好きなんだな……
「ガキのオレたちでもあんたがつよいのがわかるんだ……それに……」
だが、フドウにはどうやらオレが自身の強さを否定しているように聞こえたらしく異議を唱える。
ふと、そこで一度言葉を切る。
「それに……オレたちにひかりをあててくれたし……」
「……」
真摯にそう口にする彼にオレはつい口をつぐむ。
その瞬間にオレ達の頭に浮かんだのはつい以前の事だった。
『うわぁぁぁぁぁん!!!』
それは突然ハッテンが泣き叫んだ時だった。
なぜ彼がそうなったのかというと……実は自身の種族が人間とは違っていて、しかも滅びかけているという事実を理解した――してしまったからだ。
その途端にハッテンに何とも言えない感情が湧き出てて涙を流してしまったのだ。
そんな彼をそばにいたフドウがあやそうとしたが……
『うわぁぁぁぁん!!!』
『ハッテン!ハッテン!なにをないている!?』
『だって!だって!ぼくたち、ひととはちがうでしょ!?』
『ひととちがっていなくなってしまうよね!?』
『ッ…そ、それは』
ハッテンからそう言われたフドウはつい口をつぐんだ。
何せ、それは彼自身も感じている事でもあったから。
――オレたちはいなくなるべきなのか……?
つい考えてしまったその事をフドウが否定したい心情になっても……それを父に話してみるといつもならちゃんと話してくれていた父もその時は黙り込んだ。それがフドウの心を締め付けた。
「百獣海賊団」の幹部として威風堂々とした父の姿をずっと見てきたフドウは自身も彼の息子にふさわしく堂々とするために女々しい感情などを捨て去ろうとした。
しかし、頭では分かっていても心ではなかなか消えられないのだ……自身の種族の……「ルナーリア族」の宿命を――
しかも、まだ幼いながらもある程度に賢い自身はとにかくさらに幼い弟はその宿命を心で理解した瞬間からそれを嘆き続けていた。
心のどこかで同じく嘆いているフドウも弟を慰める事ができなかった……
糸口が見えず、何も進められない状況に陥ってしまったフドウ達。そんな彼らの元へ――
『よォフドウ、ハッテン』
『『!?』』
2人の子供が姿を現した。
まず少年の方はスサノオと同じビジュアルで、しかも般若の面を被っていなかった。「百獣海賊団」の本拠地で身元を隠す必要がなかったからだ。
そう――彼こそがスサノオだ。
毛先に向かうに従って銀→エメラルドグリーン→水色へとグラデーションしていく髪毛、父カイドウのようにこめかみ辺りから青黒い角が生えて、そして顔立ちは幼いながらもどこかカイドウを想起させる――それこそがオレの素顔だった。
次に少女の方はもちろんヤマトで彼女も同じく般若の面を被っていなかった。
兄と同じ髪毛、赤い角が生えていて、顔立ちは大変愛くるしい――それがヤマトの素顔だった。
突然現れたオレ達に驚愕するフドウ達に向けてオレは口を開く。
『なァ、ハッテン?』
『な、なに!?』
『お前は今すぐいなくなるのか?』
『――え?』
『スサノオさん……?』
オレが投げかけたその問いかけにフドウとハッテンが呆然とする。だが、オレはそれに構わずに続ける。
『今すぐいなくなるのかって言ってるんだけど?』
『あ…あ……』
『どうなんだ?』
『ち、ちがうよ!!ぼ、ぼくはいなくならないよ!!』
『(……!!スサノオさん、あんたはもしかして――)』
その問いかけを受けるハッテンがあたふたしながらもハッキリとそう答えた。その一方でフドウは何かに気付いたのかオレをまっすぐ見つめる。
とにかくハッテンの答えを耳にしたオレはニヤリとした。
『なら、「ルナーリア族」はいなくならないな』
『はァ!?な、なにいって』
『だって、今ここにお前らがいるじゃねェか。もちろんキングさんもいる』
『!!』
『スサノオさん……』
オレの断言にハッテンが憮然とするもその理由を言うと彼も黙り込み、フドウもますますオレを食い入るように見る。
そんな彼らに向けてオレが言ってやる。
『っていうか、「ルナーリア族」がいなくなるなんて誰が決めたんだ?』
『キングさん、フドウ、ハッテン。お前らがいる限り「ルナーリア族」がいなくならねェよ……!』
『なァに!このオレがお前らを守ってやる!〝百獣のカイドウ〟の息子、スサノオがなァ!!』
『だからよォ――さみしい事言うなよ!!オレがそばにいるからよ!!』
『『!!!』』
オレがキッパリとそう言い切った。その言葉を受けてハッテンもフドウもハッとする。
そんなところに黙り続けていたヤマトも口を開く。
『わ、わたしは!』
『むずかしいことはよくわからない!』
『でも!フドウもハッテンくんもいなくなるのはイヤだ!!』
『だって2人がすきだから!』
『だから――いなくならないでよ!!』
『『!!!』』
ヤマトも涙を流しながらも思いを全て吐き出した。その思い、そして彼女の姿にハッテンもフドウも目を見開く。
……正直、「ルナーリア族」とか「魚人族」とかそういう難しいものはよく分からん。
しかし、友達がこのように泣いているのを黙って見てられねェ。
だから――オレもヤマトも思っている事を口にしてみたが……どうやら、それは間違っていなかったようだ。
『……ひっく……すさのおさァん!やまとねえちゃん!』
『スサノオさん、ヤマト。あんたたちってやつは……』
何せ――先程まで泣いていたハッテンもフドウも今は晴れやかな笑顔になってオレ達を見つめているのだから……
「……もう早ェな」
「はは……」
「んー?どうしたのー?あにうえ?」
「ん?いや、こっちのはなしだ」
その時の事を思い出したオレが感慨深そうに頷き、フドウもそれを察して笑う。突然笑った兄にハッテンが首を傾げ、ヤマトも微笑みながらオレ達を見つめる。
とりあえずそんなふうに騒ぐオレ達。それが「ガキ集団」だ。
楽しく騒げば、それでいいのだ!
そんなオレ達――の前方から歩いてくる男が1人。それが――
「!……光月おでんか……」
「!……」
「あのひと、きょうもおどったんだ〜」
「……お父ちゃんとたたかわなかったよね?カッコわるいな……」
その男――光月おでんにオレが気付くにつれてフドウとハッテンとヤマトも気付き声を上げる。それだけに留まらず、他の子供達もおでんに関して思う事を口にし始め、言いたい放題になった。
そんな中でオレは黙って彼を見つめる。そんなオレについてきた護衛の1人が声をかける。
「お坊ちゃま!すぐにおでんの野郎をどかせて――」
「いや、このままでいい」
オレ達の道のりからおでんをどかせようとする護衛をオレが制止し、そのまま歩を止めずに進め続ける。
幸い、このまま歩き続けても彼とぶつかる事はねェ。オレ達とおでんの道のりが重ねる訳でもねェのだから。
「……」
「!……」
へらへらしていたおでんも前方を歩いてくるオレ達の姿を目にした途端に真面目な顔つきになる。そして居住まいを正し、まっすぐ歩を進める。
彼にとってオレ達は子供ながらも「百獣海賊団」の者だ。警戒するのも無理もねェだろう……
そんなおでんの姿からそう考えたオレは後ろで未だに言いたい放題のヤマト達を静かにさせてからまっすぐ歩を進める。
「……」
「……」
そうしてオレ達とおでんが互いに前を歩き合う。それによってその間の距離が少しずつ縮まっていく。
――一歩……一歩……
「……」
「……」
――そして
ついにオレ達とおでんがすれ違った。
その際に彼がチラリとオレ達の事を見るが、別に何もせず黙って歩き去っていった。
おでんがオレ達の元から遠くなっていくのを感じたオレはさっき身近で見た彼に関しての考察を始めた。彼から僅かながらも感じ取れた〝力〟を思い返しながら。
――あれがワノ国最強の侍――光月おでんか……
――なるほど、親父が戦ってみたいのも分かるな……
――だけど、犠牲を気にするあまりに戦いを選ばないのが残念だな……
「お兄ちゃん?」
思案するオレにヤマトが声をかける。
「ん?どうした?」
「これからどうするの?」
「――おう!お前らはどこに行ってみたい?」
今後の予定に関しての確認をするヤマト、そして耳を傾げるフドウ達に向けてオレは問い返す。その問いにヤマト達はワッと騒ぎ出しながら答える。
「わたしは!〜〜にいってみたい!」
「オレは〜〜だな」
「ぼくは〜〜!」
「〜〜」
「〜〜」
ヤマト達のそれぞれの答えを聞いてオレはニヤリとする。
そもそも、ここに来たのは「ワノ国」ってやつを楽しむためなんだからな!!
「よし!分かった!じゃあ、まずは〜〜に行くか!」
「「「は〜い!」」」
ヤマト達のそれぞれの希望を聞き取ったオレはまずその中の1つの場所に行く事にした。それにヤマト達もついて行った。
そうしてオレ達「ガキ集団」はしばらく「花の都」を歩き回って楽しんだ。
――そして
「皆、今日は楽しめたか?」
「「「楽しめた〜〜!!」」」
「よし!じゃ、帰るか!!」
時がだいぶ過ぎたためにオレ達は「白舞」の屋敷へ帰る事になった。「花の都」から去っていくオレ達を見ていた人々が呟く。
「……何か普通の子供だったな」
「うん……海賊の子供だから横暴かと思った」
「……でも、ああいう子供達でもいずれ横暴な大人になっていく筈だ」
「そうだ!ろくでもなしの子はろくでもなしだからな!」
「――ろくでもなしがこれ以上増えるなら潰すべきだったんじゃないか?」
「――でもそうしたら、報復を受けるぞ!」
「……だよな……チッ」
……薄暗くて不穏な会話がそこにはあった……
オレ達は乗用の大きな動物――狛犬数匹に乗って屋敷へ向かっていた。それまでにオレ達は「花の都」での事に関して談笑した。
「それでよ〜〜」
「あ、そうなのか。こっちは〜〜」
「〜〜」
「〜〜」
「フフ……ん?」
楽しく会話するヤマト達の姿を見て頬を緩ませているオレだが、突然オレ達が乗っている狛犬達が足を止めた。
「ん?どうした?」
「「「ガルル……」」」
その事態にオレ達が疑問符を浮かべるが、狛犬達が何やら近くの森を睨みつけて唸る。
するとその森から何かが出てきた。
「ガアアアアア!!」
それは大きな狛犬達よりさらに大きな獣だった。そんな獣がオレ達へ襲いかかってきた。
「「「うわあああ!?」」」
「くッ!?」
突然の思わぬ襲撃にほとんどの子供が悲鳴を上げ、フドウも慌てて戦闘態勢をとろうとする。
そんな中でオレが飛び出した――金棒を手にしながら獣の目前へ。
「帰りの邪魔をすん――」
「ガアアアアア!!」
「――じゃねェよ!!」
「〝雷鳴八卦〟!!!」
「ガッ!?」
帰りの邪魔をされたのに腹立ったオレは獣に親父の技――〝雷鳴八卦〟を食らわしてやった。
オレから親父の真似事で金棒を猛烈な勢いで振り抜かれた獣は勢いよく吹っ飛ばされ、そして無残に倒れた。
「「「おお〜〜ッ!!」」」
目前で展開されたオレの獣狩りに目をキラキラする子供達に向けてオレはハッキリ言い放つ。
「さて……帰るか、もちろんこれを持ってだ」
それから屋敷に無事帰れたオレ達だが……
「ウォロロロ!よくやったぞ!スサノオ!!」
「ははは!そりゃ、〝百獣のカイドウ〟の息子だからな!このオレは!」
オレの獣狩りの事を耳にした親父は上機嫌でオレを賞賛した。それをオレも嬉しく思った。
そう、オレは親父の息子だからな!獣なんかに負ける道理がねェ!!
そんなオレ達、そして「ガキ集団」は今オレが狩ってきた獣の肉を食べていた。そんな中で子供達がオレを賞賛し始める。
「そりゃスサノオさんですから!」
「そうそう!」
「スサノオさんカッコいい〜!!」
「お兄ちゃんがすごくすごい!!」
ははは……ヤマトを含む子供達に褒められるのは恥ずかしいが、悪くねェな……
子供達がオレの事を素直に賞賛してくるのをオレが恥ずかしくも嬉しく思う一方で親父はうんうんと頷き、そしてオレに向けて言い放つ。
「お前はオレの息子だから間違いねェが、やはり強くなるぞ……!」
「そりゃそうだろ!なんてったってオレだからな!!」
「そうかそうか!ウォロロロロ!!」
「あはははは!!」
そう語り合った親父とオレは朗らかに笑い合った……
☆人並み外れた強さをみせた少年!!
その名はスサノオ!!