〝エレインホール〟の街中には数々の道がそれぞれ存在している。
その中にはさらに――もちろん、狭い小路も含まれているが……
……そこには――ある集団が立ち留まっていた。
「……全く」
その中での黒ずめの男――フドウがため息をついていた。彼はさっき起こった出来事に対してさすがに頭を痛めざるを得なかった。
彼がそれ程にしている出来事……それは――
「……オレのこの格好が怪しまれる原因になっている……まではいいが――」
「――まさか、オレの事を父上だと間違えてくるとは……」
――〝ウォーターフライマイルストーン〟で一見、物々しい格好をしているフドウの事を人々が最近〝エレインホール〟に次々に起こってきている物騒な状況と関係がある、下手をすれば張本人ではないかと疑ってきたのだ。
まさかの事で百獣海賊団の名に泥を塗りたくないフドウが必死に否定していたものの――仮にそうでなくとも、やはり物々しい格好をしているフドウをそのままにしておけずに拘束すべきだと人々はそう意見をまとめられてしまった。
もはや、自身にかかっている疑念を晴らすのは難しいと判断したフドウは人々に拘束されかけているところをルナーリア族特有の機動力をすぐ発揮して、フドウグループの海賊達を素早く〝ウォーターフライマイルストーン〟から連れながら逃げ去っていった。
――といえ、17人も連れていくのにはさすがに少々負担を負っているらしく、フドウは呼吸を少し深くしながら体操していた。
「……しかも――」
そして、フドウがギロリとある男を睨みつけた。
「――暴れやがって……」
「――すみませんッス!」
目を鋭くしているフドウが苦々しくもその事を口に非難するとある男――タングが彼に向かって頭をすぐ下げた。
――実はフドウが拘束されようとしている、その瞬間にタングが暴れてきてしまったのだ。彼的にはただ、フドウが拘束されるのを阻止しようとしただけだが――
「……でも!何とかしようと思って――!」
「……分かった。だが、あの状況では――悪手だとしか言いようがねぇな……」
頭を上げながらそう説明するタングにフドウは一応、その意図を理解しながらもそう指摘しておく。
そうなのだ、あの状況で暴れるとかえって疑念を悪化させる事になってしまう。
――では、余計な面倒事をもう増やさない為にどうすれば良いのかというと……別にただ――逃げれば良いだけだ。
そうフドウが指摘すると否定できにくいタングが頭を少し下げるところに明日郎が口を開いてくる。
「……さっきのアレがお前の能力か?」
明日郎はタングにそう問いかけてみた。
何せ、タングが暴れる際にその身体の一部が植物と化していたのだから――
「!そうッス!それが僕の〝悪魔の実〟の能力――〝ショクショクの実〟の力ッス!」
その問いかけに調子をすぐ取り戻したタングは自慢気に解説し始めた。
タングドーサム――
彼は〝ショクショクの実〟を食った「ハエトリグサ人間」なのだ。
自身の身体を植物の一部に変化させる事ができるのはもちろん、捕食器としての機能を有している牙の生えた大口のような形になっている葉が咲き、それを攻撃に使用されるのだ。
「――だから!植物だからってナメんなッス!」
自身の能力に関して解説したタングがドヤ顔をみせてきたのに今度は――うるティが口を開いてきた。
「……ハエトリグサって――キショなハマハゲ!」
「……えぇ〜〜!?そりゃ、ないッス!うるティ!」
「うるさいハマハゲ!」
ハエトリグサを気味悪がっているうるティにタングは異議を言い、そこから言い合いが始まった。
「…」
その言い合いを静かに眺めているフドウはふと視線を向けてみる――キサメに向かって。そして、彼もちょうどフドウに視線を向けてきていた。
互いに視線を向け合った事で2人とも同じ事を考えているのを勘付けた。
――タングが暴れたのはワザとではないか?
そう考えたフドウとキサメは続いてタングに視線を向けた。
「……ところで、フドウさん。今の事態はどうなっているんです?」
「!そうだな……」
そして、キサメからそう声を掛けられたフドウは今起こっている状況を把握する為に電伝虫を手に取り、ある者に連絡を取ろうとした。
『……兄上!』
「あぁ、ハッテンか――今どうなっているんだ?」
そう、スサノオグループにいるフドウの弟――ハッテンに彼は連絡を取っていた。
『あぁ!それは――……』
――そして、フドウグループも〝エレインホール〟に起こっている事態を知る事になる。
●
フドウグループが立ち留まっている小路とはまた違う小路に彼らもまたいた――ジャックグループだ。
彼らはハンコックと対峙していた〝カエルダック〟で人々の目をくらましておき、そこから撤退していったのだ。
「……ちょっとぉ〜!」
「「「…」」」
撤退できたジャックグループがフーッと深呼吸するところでヴァニカはさっきからずっと抱えていた不満をついに爆発させてしまった。
「何で戦わないの〜!?アンタらしくないじゃない!?ジャック!――天下の暴獣海賊団が戦わなくていい訳!?」
――彼女的には自身に戦わせてもらえないのはもちろんだが……ジャック達が戦わずに撤退を選んだのが気に食わないのだ。
だからこそ、そう不満を漏らし続けてきているヴァニカに対してジャックは――
「ヴァニカ」
「!」
「……確かにオレ達はどれだけ被害が出ようが――気にせずに暴れ回る事もある」
「……だがなぁ、時に面倒事をあえて避けていく事もまたある」
「――どれだけ暴れ回っても……解決するどころか、逆に致命的になってしまう厄介事も存在しているからだ……」
「――今回がそうだ」
――いかにも狂暴って風貌をしているジャックからの意外に思慮深く、もっともな説明につい目を見開いたヴァニカはしかし不満を抑えられず、頬を膨らませていた。
「……でも〜!「ヴァニカ」……!」
そして不満を再び漏らそうとするヴァニカに今度はハクジが声を掛ける。
「……さすがは〝七武海〟だ――このオレの目から見ても油断できない強さを彼女は持っていた」
「そのような者と戦うなんて――あの爆発で情勢が読みにくい状況でできはしないだろう」
ハンコックの強さを感じ取れていたハクジは分の悪い状態を避けようとするジャック達の判断は悪くはなかったとヴァニカに諭していた。
「……ん〜」
そして、同じようにその強さを感じ取れていたヴァニカはしかし、だからこそ戦いたいと考えていて――結局、不満を解消できずにいた。
そんなヴァニカを置いといてジャックはペドロにある問いかけをする。
「……スサノオさんからは?」
ジャックがそう確認してみるとペドロもそれに応えてさっきのスサノオとの会話を説明する。
――あの爆発を起こした者達とその目的。
――その現場にヤマトグループがいるという事。
――ヤマト達が人々を助けようと動き出しているという事。
――スサノオグループもその作戦に参加しているという事。
「――という事だ」
「……そうか」
ペドロからの説明によって事態を把握できたジャックは思った以上の複雑さに眉をひそめた。そんな彼にペドロは説明を続ける。
「――それで、これからについては……彼女達と相談して決めろだと」
「そうか」
スサノオ達からのその指示を受けたジャックはさっそく電伝虫を手に取り――ある彼女達に連絡を取ろうとする。
そんなジャックに事情を知らないヴァニカとハクジは首を傾げていた。
「……彼女達?」
「……それとは?」
その疑問にシシリアンはあえて忠告を送る事にした。
「……それはこれから分かるだろうから――黙って見てろ」
「「!」」
シシリアンからのその忠告にヴァニカとハクジは眉をひそめるところでもジャックは電伝虫の向こうから連絡が取れてくるのを待っていた。
『――〝象〟か!!』
「「……!?」」
「あぁ」
やがて電伝虫から聞こえてきた聞き覚えのあるその声にハクジとヴァニカは驚愕するのをよそにジャックは冷静に返事する。
「――まさか、お前がここに来ていたとはな……〝長蛇〟」
『フン!』
ジャックがそう言うと電伝虫の向こうにいる〝長蛇〟――ハンコックが鼻を鳴らす。
――なお、ハンコック達との連絡時では誰かに盗聴されてしまうという危険性がある為に名をそのまま名乗らずに暗号名を言い合う、または本人達しか分からないような内容と言葉を選んで会話するように心掛けているのだ。
そういう意味では重要な会話といえるが――ハンコックはそんなの知ったかというように突如叫んできた。
『――そんなのどうでもいい!――あの方は!?』
「……あの人は――」
本当に全くズレないその問いかけに対して呆れの表情を浮かべているジャックはしかし、それでも素直に答えてやった――そう、さっき得られた情報をそのままハンコックにも説明してやった。
そんなジャックを見守っているシシリアンとペドロにヴァニカとハクジが恐る恐るながら確認しようとしていた。
「ねぇねぇ……これって……そういう事?」
「あぁ」
ジャックの様子から事情を把握したヴァニカが一応言葉を濁らせながら投げかけてみた問いかけに対して、その意図を勘付いたペドロがハッキリとそう言い放った。
そのハッキリとしている肯定から予想が的中したのを理解したヴァニカとハクジは心から驚愕した。
「え、えぇ〜〜っ!?」
「……なんと」
――そう、あの〝王下七武海〟の1人がよりにもよって――海賊……それも「四皇」の息子達と交流を持っていたのだから……
その大事にすごく驚愕したものの2人はすぐ冷静になった。
「――プハハハ!それって……最っ高!!」
「……呆れたな」
ヴァニカは吹き笑い、ハクジは呆れていた――それぞれみせている反応が違っているが……2人の内心は同じだった――そう、「四皇」に対して用意した筈の〝王下七武海〟の1人として「四皇」傘下の海賊と交流を持っている海賊をよりにもよって採用してしまったというとんでもない悪手をとってしまった「世界政府」を嘲っていた。
そんなヴァニカとハクジ達をよそにジャックの会話は盛りを迎えようとしていた。
「――という事だ」
『……なるほどじゃな〜』
ジャックによって事態を知る事ができたハンコックは納得していた。
『……しかし』
「あん?」
……そして――
『……やはり、人を助けようとする優しいあの方も愛しい……///』
スサノオの事に対してやはりときめいているハンコックにジャックは反応をみせず冷静に言葉を続ける。
「……それで?」
『――知れた事!』
ジャックからの確かめるような問いかけにハンコックはハッキリと告げようとしていた。
『わらわはあの方を――助力するのじゃ!』
彼女はそう宣言した――
――〝エレインホール〟に起ころうとしている禍にハンコックも――また、九蛇海賊団も参戦するであろうという事を……
その宣言に対してジャックは予想していた為に驚愕せずに冷静に問いかけを続ける。
「――お前はどう動くつもりだ?」
『……本音をいえば、すぐにでもあの方の元に向かいたいじゃが――』
そう言うものの、身を置かれている立場から自由に動けようにもいかないハンコックにジャックは眉をひそめる。
ふと、電伝虫の向こうには新手も会話に参加してきた。
『失礼、〝長蛇〟――〝象〟?』
『――私達から考えがあるけど?』
「!――〝次蛇〟と〝三蛇〟か」
その新たな声の主達に見当が付いたジャックはそう言う。
〝次蛇〟――サンダーソニアと〝三蛇〟――マリーゴールドがそれを肯定しながら自身達の提案を口にしてみる。
『私達はあなた達とは別で〝黒の組織〟を追うのはどうかしら?』
『それなら、あなた達に間接的に協力できる筈よ。そして、私達がそう動くのは立場的にも別におかしくないでしょう?』
サンダーソニアとマリーゴールドからの提案の内容に関してジャックもハンコックも悪くはないと考えた。
「よし――そうしろ……〝長蛇〟も異議はねぇな?」
『わらわに指図するな……じゃが――無論じゃな』
その提案をさっそく採用したジャックはそう指示し、ハンコックもそれに従おうとする。
「……〝長蛇〟」
『!何じゃ?』
だが、ジャックはすぐ動き出そうとするハンコックに声を掛ける。彼女も一応反応するが――
「……暴走とか、ヘマをすんなよ?」
『!?――何を言っておる!?』
そう釘を差してきたジャックにハンコックは動揺しながらも激怒していた。
「……いや、お前なら――やりかねんと思ってな」
そう言うジャックの頭には――スサノオへの熱き想いで暴走するハンコックの姿が思い浮かんできていた……
そんなジャックの内心を察し、同じようにそれを思い浮かんでしまった者達も口を一文字にしていた。
その態度にハンコックはますます激怒してしまった。
『おのれぇ〜!――見ておれ!この手で〝黒の組織〟とやらを狩ってくれよう!!』
そう宣言したハンコックは素早くその場から去っていってしまった――そして、その場には嵐が去った後の静けさが広がっていた……
『『「「…」」』』
――と、とにかく……そうして暴獣海賊団と九蛇海賊団は手を取り合い、禍に立ち向かう事になった……