今も非常事態が起こっている〝オーシャンヴァリー〟――
だが、そんな施設以外の地域では――別に異変がみられていなかった……ただ、あちこちにそれぞれ立っている人々は視認できる〝オーシャンヴァリー〟から上がっている煙を不安そうに凝視していた。
そうなのだ。今のところ、爆発が起こってきてしまったのはその施設だけでそれ以外はまだ無事――なんだが、だからって安全だという訳ではない。
今いる場所に爆発が起こってくる危険性があり得る以上、人々も安心してはいられないのだ。やがて聞こえてきた噂――爆発を起こした〝黒の組織〟の目的が本当にそうだとすれば、かえってだ。
そのように不安でたまらない人々の中を通り抜いて〝オーシャンヴァリー〟に駆け向かっている集団が存在していた。
「――急いでスサノオさんの元に参らなければ!」
そう声を上げたのがその筆頭をしている男――フドウであった。
――そう、フドウグループもそこで対処しているスサノオとヤマト達の助力に向かおうとしているのだ。
「……っていうか、フドウさん」
「ん!?」
「……アンタが行っても大丈夫なのか……?――さっきの事がある以上にその――〝黒い〟見た目だし……また誤解されんじゃね?」
明日郎が冷や汗をかきながら、そう指摘した――してしまった。彼的にはそんな外見をしているフドウがいざ、〝オーシャンヴァリー〟に入る事があったら、かえってもう既にややこしい状況がさらに悪化していくのではと考えていた。
「……それは〜!」
そのもっともな指摘にさっきのを思い出してしまったフドウは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、言葉を濁らせていた。
彼にとっても、そういう事は心から不本意である。
「……ならば!このオレがヤマトの使いだと思わせればいい!!」
だが、考えを巡らせていたフドウはすぐその案を口にしてみた。
――フドウの黒い「不動明王」の如き姿ならば、〝大口真神〟に変身しているヤマトの使いだと主張しておけば――通せる筈だ。
フドウがそう主張した案に明日郎もさすがに少しズッコケかけてしまった。
「……あ、そうッスか」
まさか、あの冷静で真面目なフドウとあろう者が――本気でその主張しようとしているという事に明日郎も一筋の汗を流した。
――といえ、その案も確かに一理あるかもしれない。現にヤマトの試みた「人々に自身を神だと認識させる」という作戦も意外に上手くいっていると聞いているのでかえってだ。
「――だったら、ますます……〝大口真神〟様の元に急ごう!黒い「不動明王」様!」
「……おう!」
「――そんなのどうでもいいハマハゲ!?」
「……でも、神の使いね〜……うん……」
「ハハ……」
だからか、つい乗った明日郎が思わずそうジョークを言い放ってしまった。彼が意外にジョークを言ったのに肝を抜かれたフドウが一瞬固まるもすぐ何の事はないように振る舞っていた。
そんな2人にうるティはたまらずにツッコミを入れてしまう。一方で活発的な筈のタングは何やら深い意味があるような反応をみていた。
その様子を見ていたキサメはつい苦笑を浮かべていた。
今、非常事態中であるにも関わらずにそんな雰囲気を漂わせているフドウグループであるが――
「「「……!?」」」
急いでいる筈の彼らは突如足を止めざるを得なかった。
何せ――〝オーシャンヴァリー〟に駆け向かっている彼らの前には――人々が慌ただしく逆走してきていたからだ。
「な、何だ!?」
そんな人々に冷静なフドウも思わず狼狽えてしまった。一方で血の気が高いうるティとタングが逆に前に出ようとする。
「あぁ!?やんのかハマハゲ!」
「ナメんなッス!」
「……いや!?待て!?」
人々が自身達を襲いかかってくると思った2人がそう啖呵を切り身構えているが、それとは逆に明日郎は自身達に向かって駆けてきている人々の様子からある事に気付いた。
「――何から逃げようとしているのか……?」
そして、同じように気付いたらしいフドウがそう指摘した。
その指摘通りに人々はただ――逃げようとしていただけだ。その方向先にはフドウグループが立っていただけだ。
だが、何から逃げるつもりなんだと疑問符を浮かべているフドウ達に答えるかのようにその声が響かれてきた。
「逃げろ!――また爆破されるぞ!」
「「「!?」」」
その内容にフドウ達が目を見開く。
――〝また〟爆破された!?どういう事だ!?
スサノオとヤマト達から情報を得られていたフドウ達は今時点では少なくとも爆発が起こる可能性が低いだろうと判断してしまっている。
だからこそ、突然の事に動揺せざるを得なかったフドウ達に人々は構わず逃走を続けている。
「……チッ!」
そんな人々の姿勢に舌打ちしたフドウは素早く近くの明日郎の腰を包みながら自身の翼を羽ばたいて――空へ飛び上がっていった。
逃走している人々の姿勢から突破するのが難しいと判断したフドウは身近に立っている者を1人でも連れながら逃れていくべきだとも判断したのだ。
とりあえず、空へ飛び上がれたフドウと明日郎は難から逃れかれた――かと思われてたら
「……フドウさぁん!」
「あぁ!?」
「置いて行かないで〜!」
なんと、フドウの足を掴んでいる者が1人いた――タングだ。それに伴い、タングもまた空へ飛び上がっていた。
「お、お前……」
フドウが連れてくれた明日郎が彼の足を掴んでいる為に滑稽な格好をしているタングに呆れていた。
「しょうがないじゃないですか〜!」
明日郎のそんな態度にタングも泣き言を言った。その泣き言にますます呆れてしまう明日郎もハッとし――
「――皆は!?」
すぐ仲間達の安否を確認しようと視線を向けてみた。
「「「オオッ!?」」」
「ムッ!?」
「うげ〜〜!!」
フドウグループの残りのメンバー――キサメとうるティ達はただ逃走しているだけの人々に手を出せず――ただ、巻き込まれてしまった。その圧力にうるティ達は苦労かけられてしまう。
「……チッ!――キサメ!うるティ!お前達!」
その様子を目にしたフドウは気を取り直して、逃走している人々の中に巻き込まれたフドウグループに告げようとする。
「「「!」」」
「後で〝オーシャンヴァリー〟で合流だ!――気を付けろ!」
フドウはそう告げておいてから明日郎とタングを連れながら〝オーシャンヴァリー〟に飛び向かっていった。
●
「ぜ―ぜ―……キツかったハマハゲ……」
「……まぁ、圧力がすごい海底を生けられるこの私には他愛ないですがね」
逃走している人々の中に巻き込まれ、その圧力に苦労かけられてしまったうるティとキサメはその中からなんとか離れられて、人の気配がない道へ逃れていった。
「……行けますか?」
「!――ナメんなハマハゲ!行けるわ!ボケ!」
しばらく、自身の呼吸を直してみせるうるティにキサメは試しにそう問いかけてみる。
その言葉にプライドを刺激されたうるティはそう怒鳴りつけた。
――とにかく、2人はさっき耳にしていたフドウからの指示通りに自身達も遅くながらも〝オーシャンヴァリー〟に向かおうとし――
「「!!」」
何かに気付いた2人は素早くその場から離れた。
――突如その場に爆発が起こされていた。
――そう、キサメとヴァニカは攻撃を受けかけていたのだ。そして彼らもそれを察し、避けようと離れたのだ。
煙が上がっている爆発の現場を目にした2人は警戒感を覚えながら、ある方向を凝視する。
「……姿を現しなさい」
「出てこいハマハゲ!」
誰もいない筈の暗い場所に2人はしかし、ハッキリとそう告げていた――彼らには感じられているのだ……その気配を。
しばらくすると、キサメとうるティの前に〝それら〟が姿を現してきた――
「……何ですか?あなた方は?」
「あぁ!?何なんだハマハゲ!」
〝それら〟の姿にキサメとうるティも目を鋭くするものの、訝しげにもしていた。それ程に〝それら〟の姿は奇抜だったから――
――〝それら〟はまず黒コングフードを被っていて、その上に――黒マスクを被っていた……
――それはフドウとはまた違う意味での怪しげな風貌をしている者が――それも2人が存在していた。
そして、そんな2人組がキサメとうるティの前に立ち留まっていた。
「……何だ?テメェらはハマハゲ?」
その怪しげな風貌、そして自身達に向かって放ってきている殺気にキサメとうるティが身構えながら問いかけてみた。
その問いかけに対してその2人組は――
「……オレ達は〝黒の組織〟の者だ」
「……どうにも――お前達はオレ達の邪魔をしようとしているようだから――排除しに来たまでだ……」
「「!」」
意外にも素直に解答してきた。
だが、その穏やかではない内容にキサメとうるティは目を鋭くする。
「……うるティ」
「あぁ?」
そして、2人組から目をそらさないキサメはうるティに声を掛けてくる。
突然の事で訝しげにも反応をみせているうるティにキサメは言葉を続ける――気付いたある事を教えておく事にした。
「……あの2人の動きからして――」
「この私とハッテンのような小細工を弄する戦い方をしてくるかもしれませんよ」
「!」
その忠告にうるティは
――隠密行動、それに伴う戦い方に長けているキサメだからこそ、目前の2人がそういう動きをしているのに気付けたのだ。
猪突猛進であるからこそ相性が悪いうるティにその事を教えてやる事にした。
「気を付けなさい」
「――だから!ナメんなハマハゲ!」
キサメからそう忠告を受けたうるティはかえって自身の闘志を燃え盛らせ――
「――行くぞハマハゲェ!!」
「――全く!」
ずっと立ち留まっている2人組に向かってうるティは駆け始め、キサメもそれに続く。
――そうして、〝オーシャンヴァリー〟とは違う場所で戦いが起ころうとしていた……
●
――そして、そことはまた違う場所にいるある彼らの前にも〝それら〟は姿を現していた。
「何だ?テメェらは?」
その集団のまとめ役をしている男――ジャックは〝それら〟に向かって荒々しくもそう問いかけを投げかけてみた。
そもそも――彼がまとめている集団……ジャックグループもまた〝オーシャンヴァリー〟で対処しているスサノオとヤマト達の元に向かおうとしていたつもりだった。
――なのに、いざという時に〝それら〟が突如現れてきたのだ。心から敬愛しているスサノオの元に向かうのを邪魔されたといえるかもしれない状況にジャックが当然イラつきを覚え、その激情に伴い言い方が荒々しくなってしまうのも道理である。
――とにかく、ジャックが目を血走らせながら睨みつけている〝それら〟――ジャックグループの前に突如現れてきた2人組。
――それはやはり黒フードを被っていて、黒マスクを被っているという怪しげな風貌の2人組だった。
「……オレ達は〝黒の組織〟の者だ」
「……オレ達の邪魔をしようとしているお前達を排除する」
「「「!」」」
ジャック達の疑問に対して2人組が親切にそう解答してやった。
――やはり、その2人組もキサメとうるティの前に現れた別の2人組と同じ目的を持っていた――それはすなわち、〝黒の組織〟が暴獣海賊団の存在に勘付き、自身達の邪魔をしてくるであろう彼らを排除しようと動き出したのだ。
2人組から言い放ったその解答、それから感じられる思惑にジャック達も目を鋭くする。
「……上等だ――逆に返り討ちにしてやる」
「……あは♪――やっっっと戦いができる……♪」
「……オレ達を排除する?……笑止ぃぃぃぃぃい!!」
「……だが、別に弱くはないようだ」
「あぁ……上手く隠しているようだが……高い実力を有しているぞ」
だが、そういう姿勢にはジャック達にとっても望みであった。元々〝黒の組織〟を逃さずに叩き潰そうと考えていた彼らによれば、そちら側からやってきているのは歓迎だった。これで少なくとも――〝黒の組織〟に対して優勢に進められる事になるだろう。
そう考えているジャックはもちろん、ヴァニカもシシリアンもペドロもハクジも闘志を燃え盛らせながら身構えてきた。
――なお、その中でのある者達によれば、あの奇抜な2人組をさっさと叩き潰し、〝オーシャンヴァリー〟に急ごうとも考えている。
とにかく、ジャック達の姿勢に対して2人組は――
「「…」」
戦闘形態をとっていた。まず、1人は両拳を構えてくるのに対して、もう片方は三連鎌に鎖鎌を足したような武器を構えていた。
――こうして暴獣海賊団と〝黒の組織〟の戦争が勃発する事になった……