「「「う、うわぁぁぁ!!」」」
身近にナイフを握っている青年が立っているという事実に恐れ入った人々が巻き込まられないようにすぐその場を離れていった。
「――危ない!」
「皆は下がってて!」
そして、その事態に気付いたテゾーロ達も素早くその青年を囲んでいった――更なる被害を出させない為に。
だが、人々から離されていく上に囲まれているにも関わらずになぜか落ち着いている青年の姿にテゾーロは違和感を感じた。
「……君は一体――何者かな?――なぜナイフを持っているのかな?」
その違和感の正体を知る為にテゾーロから投げかけてみたその問いかけに対して青年は――口を開く。
「……僕が――僕が」
「――〝エレインホール〟を騒がせている連続殺人事件の犯人だ」
その青年は大人しくそう自己紹介していた。
「「「……!!」」」
その紹介により連続殺人事件の犯人が人前に姿を現してきたという事実に人々が目を見開く。
その反応を気にしないのか青年は構わずに続ける。
「……僕はアシスという」
「……なぜ、連続殺人を犯しているかというと――」
――アシスが起こした連続殺人事件。その動機は――彼の恋人ドーネに関わっているのだ。
――実は昨年にある建物で火災が起こっていたが……その火災にはドーネも巻き込まれていたのだ。
残念ながら彼女は死んでしまったが……問題は〝なぜ死んだ〟かというとだ。
――なんと、彼女は同じく建物内にいる他の7人にハブられていたのだ。その影響で彼女は逃げ遅れてしまった。その結果として、もちれん死んでしまったのだ。
――すなわち、ドーネはその7人に殺されたといっても過言ではないのだ。
アシスはその復讐としてその7人を次々に殺し回っていったのだ。
「――憎らしいあの7人を殺せた以上、もはや未練はない……このまま全てを――」
説明を終え、そこからそう呟いたアシスはナイフを――自身の首に向けていた。
「終わらせます」
その途端にアシスはナイフを首に向かって勢いよく刺そうとし――
「……!?」
だが、そのナイフが首を貫く事はなかった……その身体が黄金に覆われていて身動けなくなったからだ。
「――そうはいかないよ」
――そう、テゾーロが自身の能力で彼の自害を止めていた。
「な、何をするんですか?」
自害を邪魔されたアシスは止めた張本人であるテゾーロに対して文句を言うが――
「……君――」
「――人を殺した事がないんだろう?」
「「「!?」」」
テゾーロがそう指摘するとアシスも含む人々が驚愕する。
「な、何を――」
「……私はね」
その指摘に動揺しているアシス、そして人々に対してテゾーロはそう考える理由を説明しようとする。
「……私はこれでも資金に関しての仕事を任されていてね――だからこそ、如何なる人々と関わってきたのだよ」
「その甲斐もあって――観察力を持っているのだよ」
「だから、分かるんだ……君が犯人ではない事がね」
「だって――君はそんなに悲しい目をしているから……!」
「そういう目をしている者は人を殺さない――殺せないんだよ」
「「「……!」」」
テゾーロが説明するその理由に人々も唸らされてしまう。
無論、根拠のない――所詮人の感情に過ぎないなのだが、その説にはなぜか説得力を感じているのだ。
「――でも」
だが、その中の1人がそれを言う――
「でも、じゃあ!――誰が犯人なんだよ!?」
その意見に人々も頷く。
――そうなのだ、アシスが犯人ではないならば一体誰かが連続殺人事件を起こしたのだというのだ。
その考えが人々に広がっていくうちに雰囲気が重くなっていった。
――当然だ。人殺しが別に存在していて、それが今どこにいるのか分からない状況になっている。人々が恐怖感を覚えるのも当然であろう。
そのように狼狽されている場にその声が響かれていた。
「……その真犯人……見つけたかもしれません」
「「「!?」」」
その声に人々が一気に視線を向けてみると――そこには青緑色の髪の少女が立っていた――小紫だ。
「小紫!?」
突如その事を言い始めた小紫――私にマリアが驚愕する。だが、その反応を私は無視して続ける。
「……私がさっきからあの男が気になっていたんですね」
私がそう呟きながら人々の中にいる〝あの男〟を指指した。その指につられて人々が視線を移してみると――
「…」
確かに1人の男がそこに立っていた。
――そして、その顔は険しく――目つきが鋭かった。しかも、その男は――アシスを睨み付けていた。
そんな男からは――殺気が出てきていた。だが、人々が大分集まってきている事でその場が騒がしくなった故にテゾーロさん達もその殺気に気付けなかった。
――だが、テゾーロさん達が気付けなかったその殺気を私は――感じ取っていた。アシスが自害しようとしている事でますます騒がれている中でもその殺気を出しているその男に私は注目し続けていた。
そして私はある事を推測していた――
――あの男こそが真犯人ではないのか?
私が思い浮かんでいるその推測に対してはその男が殺気立っているのもあって人々も共感せざるを得なかった。
「お、お義兄さん……」
その男の姿を視認したアシスが声を震わせながらそう口にしていた。だが、彼がその言葉を出した途端にその男が目を血走らせながら言い捨てた。
「黙れ!!お前に義兄と呼ばれる筋合いはどこにもない!!」
「「「!?」」」
その叫びに人々が驚愕する。
「……〝お義兄さん〟――それはつまり……」
そして、その叫びで男の身元を察したテゾーロがそう呟くと苦々しい表情を浮かべた男が口を開く。
「あぁそうだ――オレはセリティー――あの7人、そしてコイツに殺されたドーネの兄だ!!」
そう名乗った男――セリティーの身元に人々は息を呑む。その紹介を受けてテゾーロは彼に向かって慎重的に問いかけを投げかけてみる。
「……あなたが連続殺人事件の犯人ですか?」
「あぁそうだ!!」
その問いかけをセリティーはごまかさずに肯定した。
「「「!!」」」
そのハッキリな肯定に人々が目を見開くのをよそにセリティーは告白する――自身が起こした連続殺人事件の全貌を。
――妹の死にセリティーは衝撃を受け、悲しんだ。悲しみ続けていくうちにやがて――その死の原因である7人、そしてドーネと駆け落ちしたアシスの事を憎むようになってきてしまった。
ドーネの死の責任はアシスにもあるというセリティーの主張にアシス自身も恋人を救えなかった自責の念に駆られてしまう。
そんな彼にセリティーは自身が7人を殺害する代わりに罪を被った上で自殺するように要求したのだ。
その要求にアシスも罪悪感、そして使命感により迷いなく従ってしまった。
そうしてセリティーは7人を次々に殺し回り――今ここでアシスが自身が犯人だと宣言し、自害する筈が――
「――それをよくも邪魔してくれたな!!お前ら!!」
アシスの自害を阻止したテゾーロ達に文句を言いつける。その文句、そしてセリティー姿勢に対してテゾーロさん達は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「……そりゃ、止めますよ――何か事情があっても人が死ぬのを止める訳にはいきませんよ」
「ましてや――こういう状況ではかえってですよ……」
「……っていうか、こんな状況にも関わらずに人を殺していたのか!?」
テゾーロさんが〝黒の組織〟によって安全を脅かされている状況でこれ以上面倒事を増やす訳にはいかないとツッコんでいくうちに新たな被害者の件を思い出し、そう驚愕せざるを得なかった。
――その反応も無理ではないだろう。こういう非常事態中であるにも関わらずにセリティーが本当に人を殺していたとすれば――彼の精神はもはや尋常ではない。
そう驚愕するテゾーロさんと同じく驚愕する人々にセリティーが喚き鳴らしていた。
「当然だ!!ドーネの為なら何でもやってやる!!――どんな状況でもだ!!」
「……っ!!」
セリティーのその怒鳴りつけに対して人々が戦慄している中で私の胸が――ざわついていた。
――その言葉は復讐を誓っておきながら暴獣海賊団に心地良さを感じてしまった半端者である私の心に刺さってしまった。
ついうろたえてしまった私をよそにセリティーは気が少しずつ昂りながら怒鳴り続けていた。
「――ドーネはな……」
「――あの火災でドーネは――あの7人を先に逃がそうとしていたからこそ――逃げ遅れてしまい、死んだんだぞ!!」
「あの7人はドーネに感謝して花を手向けているようだが――ふざけんな!!感謝するなら……お前らの方が死ねよ!!」
「「「……は?」」」
セリティーがそう言い放ったその事実に人々が呆気に取られた。
――そりゃそうだ……もしもそれが本当だとすれば――ドーネは人の為に犠牲になろうとしていただけに過ぎず、別に見殺しにされた訳でもない?
「お、お義兄さん?そ、それは本当ですか?」
「あぁ!?何がだよ!!」
同じように呆気に取られているアシスがそう問いかけ、セリティーは激昂しながらそう返した。
その激昂に対して、アシスはそれでも問いかけを続けてみる。
「……あなたはあの7人がドーネを見殺しにしたと言ったですよね……?」
「――でも、さっき言った話によればドーネは見殺しにされたではなく――人を助けようとして死んだんでは?」
「あぁ、そうだよ!!――あの7人とお前がドーネを殺したんだよ!!」
「「「…」」」
セリティーがそう言い放った途端にテゾーロさん達と人々の彼を凝視する視線は冷たくなった。
だが、それに気付かないセリティーは暴言を吐き続けていた。
「――だから!あの7人はオレが殺してやり――」
「――後はお前が死ねば……」
「――ドーネの無念は晴れる!!」
そう言い放ったセリティーの目には――狂気をはらんでいた……
「……!」
だが、セリティーのそんな主張に私は目を見開く――
――無念は晴れる。
その言葉が私の心を確かに響かせていた。
「…」
――おやおや〜思わぬ契機が転んできたな〜
固まり、それっきり動かなくなった私の元に〝それ〟がやはり姿を現してきた――
「…」
〝それ〟が現れてきたのが分かってるかのように私はただ〝それ〟――〝私〟を凝視する。
〝私〟は私に向かって不気味な笑みを浮かべていた――
――今こそ道を決める時だ。
――お前がクズではないというのなら……
――それを証明する道はもはや1つだ。
――分かっているな?
不気味にも微笑んでいる〝私〟がそう囁いてくる。
その囁きに対して私は――頷く。
「(そっか……あの男を――)」
「(――スサノオを殺せばいいんだ……)」
「(そうすれば――父上と母上の無念を晴らしてやれる……)」
「(その無念を晴らす私は――クズではない……!)」
「……あは」
そこまで考えていた私は――無邪気ながらも……深淵のように暗い笑みを浮かべていた。
●
「――だから!!アシス!!」
暴言を吐き終えたセリティーはアシスに向き変わり――
「お前はオレが殺してやる!!」
そう宣したセリティーの手にはナイフが握られていて、その矢先はアシスに向けられていた。
「!!――お義兄さん……!」
「黙れ!!だからそう呼ぶなぁぁぁぁぁ!!」
その矢先を向けられているアシスはそう悲痛な声を上げるが、それが癪に障ったセリティーがそう怒鳴りつけながら駆け始める――
「――フン!」
――だが、突如吹っ飛ばされた――テゾーロから殴られたからだ。
「……〜!何する!!」
そう怒鳴りつけながら立ち上がろうとするセリティーだが――その身体は黄金に覆われた。
「!?」
「当然だ……お前の下らない自己満足に付き合ってやる義理はないからな」
「何だと!?――自己満足だと!?」
身動きできないのに目を見開くセリティーを冷たく見下ろすテゾーロはそう言い捨てた。
その言葉にセリティーが激昂した。
「ふざけんな!オレはドーネの為に――「いいえ」――!?」
その言葉に異義する為にセリティーが口を開くのを遮るかのように今度はステラが口を開く。
「あなたのやる事はドーネさんの為になるどころか――彼女の覚悟に泥を塗った最低な行為です」
「何だと!?」
ステラが静かにそう言うとセリティーが激昂した――だが、彼女の意見に人々も共感しているのか、うんうんとしていた。
人々のそんな態度にキッとするセリティーにステラは続く。
「……そりゃそうでしょ?――ドーネさんが命を懸けて助けた人達がこれからも生き続ける事で彼女の死には意味が生まれます」
「――なのに、あなたがその人達を殺した事によって……ドーネさんの死は――無駄死になってしまった」
「……!!」
ステラのその冷たい説明にセリティーは顔を激しくしかめる――彼的にもその事に反論したくても――心のどこかで否定できない自身がいるからだ。
悔しがっているセリティーに向かってステラはついにそれを言う――
「改めて――どうですか?……ドーネさんの死を台無しにした気分は?」
ステラから言い放たれたその言葉にセリティーの心の何かが――折れた……
「ウオォォォォォ!!!」
たまらず絶叫したセリティーだが――そんな彼に向けられている視線は全て冷たくて――そして……呆れていたものばかりだった……
「……考えが浅いわね……」
そんなセリティーを見下ろしているマリアが呆れ果てながらそう呟いた。その呟きはもちろん――
「ねぇ――……小紫?」
――小紫に向けられていた……だが、その反応が来ないのに疑念を抱いたマリアは嫌な予感がし、素早く振り返ると――小紫の姿が見当たらなかった。
「……あ〜!もう!」
小紫の様子がおかしい為に注意を払っていたのについ目を外してしまった自身の失態にマリアは絶叫した――