時は少し遡って――
「何だと!!?」
――ある場所にオレとヤヒコが立ち留まっていた。そんな中でオレはそう叫んでいた……
――実はさっき、オレ達は〝黒の組織〟の奴らを叩き潰してきていたのだ。その事で少し達成感に少し浸っていたんだが……
そこに届いてきたその連絡がその達成感を綺麗さっぱりかき消されてしまった。それこそが――
「――小紫がいねぇだと……!?」
――そう、小紫がいないという連絡であった。
その情報を受けたオレの胸は……妙にざわついているように感じられていた。
それもそうかもしれない――この状況で彼女の行方が突如分からなくなったという事は……彼女の身に何かがあったんだといえるかもしれない。
仲間を大事にするオレにはその可能性は無視できなかったものだ……ただ、彼女に関しては実は理由がそれだけではないが……その事にオレが気付く事はなかった。
「スサノオさん……」
動揺しているオレの姿にヤヒコは少し驚愕しながらも労しそうに声を掛けていた。
そう声を掛けてくれた事で少し我に返らせられたオレはすぐ見聞色の覇気を発動させ、小紫を探そうとする。
「(小紫!!今どこに――……!!)」
――そして、オレは知る。小紫は今……
「!」
それを理解したオレは素早く後ろを振り返ると――
――そこに小紫がいた……
「…」
しかも、彼女は何やら俯いて――ぶつぶつ呟いていた。それでいて、オレの方に向かってふらふらと歩いていた……
「……小紫?」
そのただではない様子、何より――彼女から放ってきている暗く禍々しい覇気にオレも息を呑んでしまう。
だからこそオレが気遣わしげに声を掛けてみると……それに反応するかのように顔を上げる小紫の目は……暗くて――そして、狂気の笑みを浮かべていた……
「……スサノオォ」
そうドスの効いた声を上げる小紫は右手に持つ刀をオレに向けて――
「……今からお前をぉ――」
「殺す」
「!!?」
その宣言に肝を抜かれたオレをよそに小紫の姿が一瞬で消え――
鋼の音がする。
――小紫の二刀がオレに向かって斬りかかってきたところを「神武」でなんとか防いでみせた。
「オォォォォ!!」
「くっ!!?」
凄まじく鬼気迫っている小紫の姿にオレも戸惑わざるを得なかった。故に問いかけずにはいられなかった。
「どうした!!?何があったんだ!!?小紫ぃ!!?」
だが、一方でそう問いかけられた小紫は――顔を激しくしかめていた。
「――別にいいだろう!!これで私を処分できるだろうよ!!」
「!!?――何を言ってんだぁ!!!」
そして、不自然ながらも可笑しそうに笑みを浮かべる小紫がそう言ってくるのに対してオレも困惑を極めていた。
だからこそ――声を上げらずにはいられなかった。
「なぜオレがお前を――仲間を殺すんだ!!?」
「――白々しい!!」
オレが感情のままにそう叫ぶと小紫は再び顔を激しくしかめ――歯を食いしばった。
「――お前は私の正体に気付いているんだろう!!」
「!!」
「この私が――」
そこまで言う小紫の目は血走らせながら――オレを睨みつける。
「この私がお前達の宿敵、光月おでんの娘であるという事に!!!」
「……!!」
その告白にオレはつい口を閉じてしまう。そんなオレから小紫は一旦後ろに下がる。
「……何のつもりで見逃しているのか分からぬが――」
「……お前にとっても――暴獣海賊団にとっても――百獣海賊団にとっても危険分子は――排除するに限る……そうでしょ?」
「…」
どこか空元気で饒舌にそう言い放っている小紫の姿にオレは――憂い表情を浮かべていた……
――そうか、ついにこの時が……
小紫の態度からオレは最初に彼女を迎え入れた時に覚悟していたその時がついにやって来てしまったのだと悟った……
そう――小紫……光月日和がオレ達に牙を剥こうとしてくる時が……
「(そういう事が起こらないように注意を払ってきたつもりだったんだがな……)」
「スサノオさん!」
小紫がオレを襲いかかっているという出来事に動揺しているヤヒコはなんとか気を静めながらオレに助力しようと動きかけるが……
「待て!!来んな!!」
「!?」
「お前は手を出すな……!」
「いいな?」
「ッツ……は、はい」
だが、他でもならぬオレ自身からそう制止されたヤヒコは驚愕しながらも――固まらざるを得なかった。
そんなヤヒコをよそにオレは……小紫を真剣に見つめていた。
――確かに小紫の言っている事は別に間違いはねぇ……だが
「……小紫」
「!」
「オレは確かにお前の身元に気付いていた……それでも構わねぇと思っている」
「……そして、今お前にこうされていても――やはり、仲間だと思っている」
「……そりゃあ、どの口が言ってんのかと思うのも分かってる」
「このオレだってお前を迎え入れたのはその強さが目当てなのは確かだが……今はもうお前の事が好きだぜ」
「だからこそ――今、お前と腹を割ってやってら」
「!!!」
自身をハッキリと凝視してきているオレの真剣な目に小紫は顔を激しくしかめ――
「〜〜だったら!!そんな口が利かないようにしてやる!!」
そう怒鳴りつけた小紫は二刀を構えてくる。それに対してオレも「神武」を構える。
「…(小紫は「火」、「雷」、「風」を扱える……んだったな)」
小紫の繰り出す技を知っているオレはそれにさえも備えようとする。
――だが、小紫が放とうとする技は予想を裏切られた。
「〝振波〟!!!」
「!?」
小紫の勢いよく振るった刀から――「振動」が放たれてきたのだ。
予想を裏切られて動揺したオレだが、それでもその「振動」を受け切れたが……
「オォォ!!?……効くなぁ!これは」
本命を受け切っても「振動」の余波がオレに及んでいた。しかも――その余波はさすがにオレでも少し効いていた。ほとんど何の事はないが……
「――「振動」まで扱えるとはな」
だが、そんな事より新たな技をも扱えるようになっていた小紫にその素質を理解しているオレも改めて感心した。
そんなオレに小紫もつい――無意識に得意気な笑みを浮かべた。
「えぇ――私は「火」、「雷」、「風」――そして「振動」をもマスターしている……!」
その宣言通り、これで小紫は「火」、「雷」、「風」、そして――「振動」をマスターする事になる。
小紫は誇らしげに掲げる刀を見つめながら呟く。
「……私の剣術に名をそろそろ付けようかしら……」
――小紫は今まで数々の剣技を見続けて、学んできた。そして、数々の戦いの中で新たな剣技を生み出した事もあった。
そんな小紫によって編み出されてきた我流剣術――その名こそが……
「……〝天魔王流〟……とでも名付けようかしら」
小紫は自身の剣術にそう名付けた――
――彼女的には4つの元素を扱う剣だからこそのそういう名にするのを判断したのだ。
「……〝天魔王流〟…か」
「……何か?」
ついその名を復唱するオレに揶揄されたと思ったのか眉をひそめた小紫がそう問いかけてみる。
その意図に勘付いたオレは――苦笑を浮かべていた。
「いんやぁ……ワノ国最強の侍の血を受け継ぐお前なら――あのおでんさえを越える剣士にもなれる筈だ」
「今までのお前の鍛錬、戦いぶりを見てきたからこそ――夢ではねぇと思っている」
「そう考えると――実に適う名だなと思っただけだ」
素直に自身の考えを口にして、しまいには笑みを浮かべたオレに小紫は頬を赤らめ――
「……そんな口が利かないようにしてやる!!」
だが、すぐ気に障っているように振る舞う小紫はオレに攻撃を放とうとする。
「〝天魔王流〟」
「〝火之巻〟」
「〝噴炎〟!!!」
小紫がまず刀を地に突き刺し――そこから振り上げた。その瞬間にその地から激しき炎が噴き出てきた。
「…!」
その炎が勢いに乗ってオレに襲いかかろうとするものの――
「フン!」
オレが「神武」を振り回す事で炎を何の事はなく払い除けてやった。
――だが、オレはそれが本命だとは思っていなかった。
「(今のはあくまで目くらましだろうな……なると)」
――その考えが正解であるかのようにオレの死角には小紫が潜り込んでいた。
「―」
それに気付いていないようにみられるオレの姿に隙だとみた小紫が二刀を振ろうとする――
「――フン!」
「!?」
だが、実は「見聞色」を発動させているオレはそれを感じ取り、「神武」を振り返す事で二刀を払いのけて――もう片手で小紫を押さえようとする。
「…!」
「〝天魔王流〟」
「〝風之巻〟」
「〝千変万化〟!!!」
だが、オレの手から逃けるように小紫は一瞬で姿を消した――しかもオレの周囲に姿を現し、消す――そう繰り出されていた。なお、風をも感じていた――おそらく、「風」を応用して移動速度を上昇されただろう。
その不規則的な瞬間移動にオレがつい戸惑われているところに小紫が素早く攻撃を仕掛けてきた。
「〝天魔王流〟」
「〝嚆矢・雷振〟!!!」
小紫が「雷」を纏う刀と「振動」を纏う刀のそれぞれの切っ先を重ねる突撃がオレの首を襲いかかる。
鋼の音がする。
――小紫の突撃がオレの首には……届いていなかった。
当然だろう、カイドウ譲りであるオレの肉体にはどのような攻撃であろうが届けない――そう思われた。
「……!」
オレが〝それ〟に気付き、目を見開く。
――小紫の剣がオレの首を微かだが――傷を付けたのだ!
といえ傷を付けられたものの、これ以上は難しいだろうと判断した小紫は一旦後ろに下がった。
そしてオレの首の傷を目にした小紫は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる――ただし、その笑みにはどこか苦しげにもみられていた。
「……は、ハハ……傷を付けられましたね…自慢の肉体が泣きますね〜」
小紫はなんとかオレをそう嘲笑うように取り組んでいた。それに対してオレは――冷静に反応を返す。
「あぁ……オレに傷を付けるとはさすがの執念だな……」
「だが、それだけだ」
だが、何かを確信したオレからのその指摘に小紫は顔を激しくしかめるものの彼女本人にとっても否定できず、言い返せなかった。
「――なら!!もう一度受けてみるといい!!」
それを認めない小紫は攻撃を再開させる為に駆け始めた。
「〝天魔王流〟」
「〝風之巻〟」
「〝千変万化〟!!!」
再び不規則的な瞬間移動してくる小紫にオレは身構える。
ふと、オレは過去のある光景を思い出した――
――それは……小紫が歌舞くという景色であった……
舞踊の動きを応用すれば戦闘技術力を上昇させられると考えた小紫はその考えに理解を示したオレが紹介した芸者に教えを乞って、舞踊の技術を身に着けてきたのだ。
そんな彼女が腕を鈍らせないように練習もしているが……その様子をオレは隠れて見ていた。
その時のオレは――彼女の舞踊に見惚れていた……そう、あれこそが――
「(まさに天女のようだったな……)」
そう思わせる程の美しき舞踊にオレも感動を禁じ得ないものだった……だが、だからこそ――
「(……今の彼女の動きには確かに威力と美しさがあるが…やはり何かが違う)」
――本来の小紫の舞踊を知るからこそ、オレはそう考えている。
……今の小紫は感情が昂っている――にも関わらずに意外に冷静で鋭い剣さばきをみせている。
その為に手強い――かのようにみえていて、実際では……
……小紫は自身の激しき感情に振り回されているのだ。現に彼女の動きには非効率的なところもみられている。
まぁ、それでも冷静で鋭い身動きをみせられて見惑わされたのは実に見事だと言いようかない。これも小紫の努力の賜物――かもしれない。
そう考えているオレに対して小紫は更なる技を放とうとする。
「〝天魔王流〟」
「〝矢如・雷振〟!!!」
小紫は「振動」を纏っている刀の柄頭を「雷」を纏っている刀の切っ先で突いて押し飛ばした。
押し飛ばされた勢いを受けた刀の「雷」が激化されながら矢の如し飛ばされていた。
「!」
その刀がオレの胸を貫く――かと思われたら、その刀をオレが素早く握った事で胸に当てかける寸前で止められた。
「!」
だが、その刀の柄頭には――いつの間にか飛び浮かんでいる小紫に蹴られそうとしていた……
「オォォ!!」
小紫はその刀を激烈な勢いで蹴り込んだ。その勢いを受けた刀がオレの胸を微かだが――貫きかけていた。
「!――オォ!!」
それに気付いたオレは覇気を放ちながら握っている刀ごと小紫を振り払った。
振り払われた小紫は後ろに下がり――飛ばされた刀を手にしながらオレの胸にできた微かな傷を凝視する。
「……ふ、ふふ!〝自慢の肉体〟だという面子が潰されたな〜」
オレの首と胸から少し血が流れてきているという事実に笑みを浮かべた小紫だが、その笑みはやはりどこか苦しげだった。
その笑みを見たオレは口を開く。
「……本当にどうしたんだ?」
「!?何が?」
オレの言葉の内容に小紫も訝しげにする。そんな彼女にオレがハッキリ指摘する事にした。
「……笑っているようだが……苦しそうだぞ?」
「!?な、何を言ってる!!――もちろん、嬉しいに決まっておろう!!お前に傷を付けられたからなぁ!!」
その指摘にうろたえ、強気にそう主張する小紫の様子から彼女の感情は不安定にも見受けられた。
そんな小紫の姿にオレは指摘を続ける――さっき考え浮かべている事を口にする。
「……今のお前の心は安定していねぇな。故に――真の力を思うがままに発揮できていねぇ」
「これではオレに傷を付けられても――殺せねぇぞ?」
「ッツ!!――黙れぇ!!」
オレがそう指摘すると痛いところを突かれた気がした小紫が激上しながら攻撃を仕掛ける。
「〝天魔王流〟」
「〝天地決別〟!!!」
「〝雷鳴八卦〟!!!」
だが、小紫の居合斬りに対してオレからも放った攻撃により――相殺させてきた。それを目にした小紫は顔を激しくしかめながらも次の手に出る。
「〝天魔王流〟」
「〝風之巻〟」
「〝千変万化〟!!!」
「フン!」
だが、小紫の〝千変万化〟にも慣れたオレは対応できていた。対応されているという事実に動揺を隠せない小紫を押さえようとオレは手を掲げるが――
「!!チィィィ!!」
だが、その手を否定するかのように振り払った小紫は下がりながら――オレを睨み付ける。
「……今の私の剣ではお前を殺せない訳か」
「……なら、どうする?」
その事を嫌でも理解してしまう小紫にオレはそう促してみる。そう促された彼女は考えてある手を打つ事にした。
「……なら、こうするまで!!」
そう宣した小紫の身体が突如変貌していく――〝悪魔の実〟の能力を発動したのだ。
――彼女が食った実とは……〝動物系〟である。そして、その〝モデル〟は……
「ガルル……」
「メェェ……」
「ガァァ……」
「シャア〜……」
「……威力があるな……!」
変貌を遂げた小紫の姿にオレもさすがに感嘆の声を上げた。
その姿は――ただの獣の姿ではなかった。
それはライオンをベースとして左部にはヤギ、右部には竜、背中には竜の翼、尻尾として蛇が生えている姿になっていた。
そう、それこそが――
「……〝キマイラ〟は……!」
オレがそう言う通り、小紫は〝自然系〟より希少である〝幻獣種〟――〝ネコネコの実〟モデル〝キマイラ〟を食っていて、その姿に変身したのだ。
といえ、その姿は今の小紫の複雑に歪んでいる心にふさわしいといえよう――
――その華に秘められている狂わしく複雑な心から形作られた――〝狂獣〟が〝暴獣〟の前にその姿を現してきた……