――その獣は不自然で異形な姿をしていた。
――そんな姿から獣の事を人々から〝恐怖〟、〝混乱〟の象徴だとみられても無理ではないだろう……
――そして、またあるものの象徴であるという声も挙げられていた。
そのものとは――
――〝理解できない夢〟……
「ガァァァァ!!」
数々の負の象徴としても称されている獣――〝キマイラ〟に変身した小紫は間を置かずにオレを襲いかかってくる。
その姿勢に対してオレも能力を発動する――〝竜〟に変身しながら身構える。
「ガァァァァ!!」
「オォォォォ!!」
そうして――オレと小紫は取り組んだ。
――〝竜〟と〝キマイラ〟が戦う。
その光景はまさに――神話の如きであるといえよう。
「ガァァァァ!!」
小紫はまるで人間としての心を失っているかのように野生的に爪で掻いて――牙を剥いてきた。
今までの小紫の様子から彼女が不安定的な激情を抱いているのを勘付けられる。凶暴性を増される「肉食」の〝動物系〟を食ったという事実もあって、彼女の感情がもはや限界以上に暴走されている、そして彼女が獣の本能に呑まれてしまったのだろうと予想されても無理ではないだろう。
現にオレもそう考えている。ただ、その一方で――
「…(小紫はもしかしたら)」
見聞色を発動させながら小紫を凝視するオレはその可能性をも考えていた。
――そして、それが正しいであると証明するかのように本能のままに暴れている筈の小紫がオレの胸――傷がある辺りに向かってライオンの口を開く。その目にはやはり理性があった。
「〝熱息〟!!!」
その口が赤く光っていて――そこから火炎が放れてきたのだ。
だが、その瞬間にオレは尻尾を小紫の足に叩き込む事で彼女の体勢が崩されて、その火炎がオレから外された。
「〝風雲〟!!!」
その姿を見逃さないオレは自身の翼を広がらせ、振るう事で〝風雲〟を発生させて、それを小紫に包ませる事で彼女をを封じようとする。
〝風雲〟に包まれている中でもがき転んでいる小紫にオレは口を開く。
「やはり……感情が暴走しているのは間違いではねぇかもしれねぇが、冷静さを失っていねぇな」
さっきの攻撃を思い返したオレがそう指摘すると痛いところを突かれたのか小紫が否定できず、唸ってくる。
「……といえ、このままで――」
「ナメるなぁ!!」
とりあえず事態を落ち着かせようとするオレの考えを遮るかのように小紫がそう怒鳴りつけながら次の手に出てくる。
「〝嵐雲〟!!!」
小紫の身体から暗い雲が発生してきた。
その雲が〝風雲〟と衝突し、その各部には混ざり込まされるところもあった。そして――
――その雲内には雷と暴風が発生させられて、〝風雲〟をかき消そうと襲いかかってきた。といえ、オレの〝風雲〟はいずれ島を浮かばせるという目標に向けて鍛錬されてきた為にその質は半端ではない。
それ故に小紫の〝嵐雲〟は消滅してしまった――ただし、〝風雲〟をほとんど消滅させながら。
そして残っている〝風雲〟さえを打ち破った小紫は自由の身になり――
「今度はこれを食らってみるといい!!」
そう怒鳴りつけた小紫は4頭全ての頭を勢いよく振り回らせてみせる。
だが、その標的はこのオレであるのが分かっている為にオレ自身は身体に力を入れながら身構える。
そんなオレに対して振り回られている全ての顔――それぞれの口は赤く光っていた……
「!!」
「〝万口熱息〟!!!」
それに気付いたオレはその可能性を思い浮かべたところにその技が発動された。
全ての顔――ライオン、ヤギ、竜、蛇の口からそれぞれ、なんと〝熱息〟が放たれてきたのだ。
しかも、ただ一気に放たれてくるのではない。例えば、ある頭が〝熱息〟を放つと少し遅れて、ある頭が〝熱息〟を放っているのだ。そして攻撃の軌道を読ませないように不規則的にもさせているのだ。
その技の仕組みに思わず感心してしまったオレは〝万口熱息〟をただ身に受けてしまった。
「……ガルルル」
オレが〝万口熱息〟を身に受けたところから煙が発生されているのを小紫は油断を捨てずに凝視する。
彼女的には巧妙である〝万口熱息〟でもスサノオを倒せるとは思っていないからだ――そして、その懸念は的中していた。
「リュドドドド!!!」
「!?」
突如場にその笑い声が響かれ、小紫は眉をひそめてしまう。そして煙からオレが姿を現す――
その姿は平気そうにみえているが、少し焼かれていた――小紫の攻撃が少し効いていたのだ。
それ故か――オレは喜ばしそうに笑みを浮かべていた。
「――やるじゃねぇか!!」
「!!?」
オレがたまらずそう口にすると小紫が驚愕し――混乱する。当然だろう、手痛い攻撃を受けたのにも関わらずに褒めてきたのだから……
混乱している小紫にオレは称賛を続ける。
「お前が能力を手にして半年……それでいて、その洗練さ――やはりすげぇ!!!」
「!!?」
〝悪魔の実〟の能力をものにできている小紫の研鑽さにオレは素直に称賛していた。
その下心がない素直な称賛に小紫も思わず爽やかで誇らしい気持ちになり……
「!!!」
ハッとした小紫は全ての顔を激しく振らせ――
「〜そう言うのか!!スサノオ!!――なら!!次はこれを食らうがいい!!」
そう宣した小紫の全ての顔の口から黒い煙――「瘴気」が一気に出てきた。
「〝疑心暗鬼〟!!!」
その「瘴気」が急激に広がってきて――そのままオレの周囲を包んでいった。
「!」
周囲を「瘴気」に包まれたオレは目を見開く。そして身体に起こっている異変にも気付いた。
――どうやら、その「瘴気」は人の身体には毒になっているようだ。その毒は身体、そして感情さえをも蝕んでいく仕組みになっている。
――といえ鋼鉄の如き硬き肉体、そして半端ではない精神力を持ち合わせていると自負しているオレには微かしか効いていなかった。そして、そのままにしてはおけないと思ったオレは自身の翼を広がらせ、振ろうとする――
「〝堕地獄〟!!!」
「!!」
その瞬間、突如周囲から激しい火炎と凄まじい雷、暴風がオレを襲いかかってきた――小紫は〝疑心暗鬼〟で一時的に身動きを制止されたオレに向かって全力を込める攻撃を放ったのだ。
「オォォォォ!!!」
その攻撃の苛烈さにオレもたまらず悲鳴を上げてしまった。それ程にオレには効いているのだ。
「(すごく苛烈だな!!おい!!)」
その苛烈さにはオレも舌を巻いてしまう――だが、その一方で
「(――だが、これこそが……小紫の感情――〝心〟そのものかもしれん……!!)」
――そう考えていた……そう、オレは〝それ〟に気付けたのだ。
……今までは小紫が何を考えてこういう行動に移しているのか、それを何としてでも知りたいと考えているオレは見聞色の発動さえも全力でしてきた――だが、肝心の彼女の〝心〟に対しては抱いている感情が異常に昂っているという状態がかえって逆に見通しが立てなくさせていた。それ故にオレも彼女の意図をなかなか掴みにくい状況に陥っていた。
――だが、今は不思議な事に小紫の感情が分かるようになっている……っていうか、オレが身で受けている攻撃から彼女の感情を直で感じ取れている……!
――おそらく、小紫がオレに対しての攻撃に全力を込めているのは間違いないだろう……すなわち、その際に彼女自身の感情も込められていたのだろう。
今の彼女の感情は異常に昂っているからこそ、かえって――露わになっているといえよう……そして、オレの見聞色もまた少なくとも人より練度がある……
だからこそオレは今、小紫の感情――〝心〟を身に受けているという状況に陥ったといえるかもしれない。
――そして……
「(……2つの感情を持ってて――そして相克している……?)」
――オレは知る事になる。
――小紫の胸内には2つの強き感情が存在していて――そして……その2つが相克しているという事を……
「(……2つの感情の相克が小紫を苦しめているな?)」
その相克が小紫を苦しめているのがオレにも理解できた……問題は――その2つのそれぞれの源が何なのかであるという事であった。故に――
「リュドドド!!どうした!!お前の攻撃はこんなものなのか!?効かねぇぞ!?」
オレはそう挑発する事にした。
そうすれば――さっきよりさらに強い攻撃――〝心〟を身に受けられるだろうとオレは考えた。そして、その狙い通りにオレの挑発に乗った小紫からさらに強い攻撃を放ってきた。
その攻撃をオレは怯まずにただ身に受けてみせた。そして――
「(!……光月おでん――光月トキ……光月モモの助――だったか)」
オレは2つの感情のうちの1つ――その源を知った。
それは小紫――光月日和の光月おでん達に対しての想いであった……
豪快で強き父――美しく優しき母――精進する兄――優しく見守ってくれる家臣の皆……
それは日和にとっては大好きで、大切で――全てだった……だからこそ、突如それを奪った〝百獣のカイドウ〟と百獣海賊団の事が憎らしく憎らしくて仕方がなかった――故に誓ったのだ――復讐を……
それこそが亡き両親への弔い、そしていずれ再会するであろう兄達に胸を張る事になれるのだと信じて――
「…」
その想い――湧き出てくる強き嘆き、怒り、憎悪に対してオレは――何も考えずにただ――真剣な表情を浮かべていた。
――戦いは戦い。勝利もあれば――敗北もまたある……それは誰にもどうにもなれない真理である。
故に――だからこそ、オレは敗者もしくはその関係者をうかつに慰める訳にはいかねぇんだと考えている――ましてやワノ国最強の侍であれば、かえってだ……
だが、だからこそ――彼女に対してはできるだけ深入りせずに――しかし、その心を安がらせようと考えていた。
彼女をそういう境遇に追い込んだ者の縁者であるオレがそうするという事実が滑稽に見えられるだろうよ――だが、腹の中で何かを企んでいようが……今は仲間だ。
彼女を仲間として迎え入れた以上、船長としてちゃんと手助けしたいんだとオレはそう考えているのだ。もっとも、こういう状況に陥ってしまった事から手助けできなかったようだがな……
そう考えたオレに今度は更なる想いがもたらされてきた。
「(!こっちは――オレ?)」
もう1つの感情の源の正体にオレは呆然としていた。
それはスサノオに対しての――敬愛であった……
――小紫は怨敵〝百獣のカイドウ〟の息子であるスサノオに対して最初こそ憎悪を抱いていた――だが、彼の豪快さと人柄に充てられているうちに憎悪が少しずつ薄くなっていった……むしろ――逆に心惹かれてしまう始末だ。
それだけではない。ヤマトとブラックマリア達の温厚な人柄、その交流に心が安らいでいけた……
〝暴獣海賊団〟――そこの海賊達との交流もそうだが……〝光月〟の名に縛られずに自分の思うがままに生きていくという事実が小紫にとっては心が安らげる新たな居場所と化されていった――ワノ国のおぞましい闇を知って、そのあり方に嫌悪感を覚えた事で余計にその想いが強まっていった。
そのきっかけを作ってくれたスサノオに対しての謝意をも覚えるようになっていき、彼に対しての想いがますます強まっていった。
そんな小紫だが、ふとある考えを思い浮かばせる事もあった……
――もしかしたら……スサノオの事を……■■■■■■■かもしれない……
そういう想いが小紫の中に芽生え、そこから育んでいった――スサノオと関わっていくうちに少しずつ…少しずつ…大きくなっていった――
――だが、その想いは小紫の中の光月日和には認められなかった。許されなかったのだ。
当然だろう……おでん達を死に追いやり、光月家を滅亡させてきた不届き者達だぞ?そのような者達と寄り合う事等――許されぬ。おでん達に申し訳ないとは思わないのか。
その想いがスサノオへの想いに浸っている小紫を許す事はなかった――
――おでん達への想い……
――スサノオへの想い……
その相対する2つの想いが衝突していて――その相克が小紫の胸を裂けられていったのだ。
2つの想いに小紫は思い悩み――糸口を探ろうとしていたが……もたらされる痛みに少しずつ疲労し――とうとう耐えられなくなった彼女はやがて、ある考えに取り憑かれてしまったのだ。
――スサノオを殺す。
彼を殺せば、その想いが消滅し――相克そのものもなくなる。つまり――痛みを感じられずになれる……そう考えた小紫は実行に移ってしまったのだ――スサノオの抹殺に……
「……!!!そういう事か!!!」
スサノオ――オレはその事実に納得できた。そして自身の不甲斐なさに歯を食いしばった。
「(注意を払っているつもりが――気付いていなかったという訳か)」
自身の鈍感さを悔しんでいるオレはふと、ある事にも気付いてしまった。
「(しかし――おでん達に負けない程にオレの事を想ってくれているんだな……)」
「(……あれ?この感じ――どこかで……)」
そしてその想い、そしてそういう相克にオレは妙に既視感を感じていた。だが、感じただけでどこで同じものを感じてきたのか分からなくてオレは首を傾げていた。
「(――とりあえず、ここは)」
小紫からの〝堕地獄〟をただ受け続けているオレはそろそろ次に移そうとする。
「〝竜巻〟!!!」
オレは翼ごと自身の身体を激烈な勢いで振り回らせ――そこから発生させた〝竜巻〟が〝堕地獄〟――〝疑心暗鬼〟を吹っ飛ばしてやった。
「オォォォォ!!」
〝竜巻〟はもちろんだが、オレの身体の激烈な回転が場を支配する「瘴気」をキレイさっぱりかき消せたのだ。
そして――
「く……!!おのれ」
〝疑心暗鬼〟を打ち破られた事でその姿がハッキリ視認できるようになっている小紫。彼女は悔しげにしていたが――少なくとも自身を持っていた〝堕地獄〟を打ち破られたという事実に悔しさを感じられずにはいられないのだろう。
そんな彼女にオレは口を開く。
「……小紫」
「!」
「――どうにもオレが知らねぇ間にお前を追い詰めてしまったらしいな……気付けなくて悪かったよ……!」
「ッツ……」
まず、自身の不甲斐なさを素直に詫びてきているオレに小紫は言葉をなくす。そして言葉を続ける。
「その詫びとして――オレに好きに攻撃を放て!――なぁに!オレは死なねぇからな!!」
ニカッと笑みを浮かべるオレに小紫は動揺しながらも――顔を激しくしかめた。
「黙れぇ!!――ならぁ!!今度は――」
「よぉし!!来ぉい――」
やがて激上しながら更に新たな攻撃を放とうとする小紫に対して新たな決意を抱えたオレも身構えながら駆け向かおうとする――その瞬間
「〝芳香脚〟!!!」
「「!?」」
突如、黒髪の絶世の美女が小紫の顔――ライオンの顔を強勢よく蹴り込んだ!
吹っ飛ばされて――それでもなんとか体勢を取り直し――その直後に崩されるだけになんとか留まらせてみた小紫をよそにその女が空中を回転させながら――オレの前に堂々と着地した。
突如登場してきたその女にオレと小紫は驚愕する。
「「ハンコック!?」」
そう――「王下七武海」〝女帝〟ハンコックであった。
――〝暴獣〟と〝狂華〟にして〝狂獣〟の激化されていく決闘に〝暴獣〟に恋い焦がれる〝九蛇〟もまた混ざろうとしていた……