ルーク――
彼は――「CP9」の者である。
粗雑で口が悪い不良風の彼だが、任務に対しては意外に真摯である。
むしろ、任されている任務を達成する為に力を惜しまない始末だ――そういう姿勢から少し評価を受けていても無理ではないだろう……
そんな彼が今、〝エレインホール〟でのある場所で暴獣海賊団の1人と対峙している――なんだが……
「きもちイイ……!」
緊張感が漂う戦況中である筈なのにルークは――恍惚の表情を浮かべていた……
そもそも、彼は傷を負わされているのにそれを痛むどころか――快楽を感じていた……そう、彼はドMの変態である。
「うわ〜」
そんな彼と対峙している海賊とは――ヴァニカである。
彼女もまた戦闘狂ではあるが……さすがにああいう変態と戦うのはさすがに気が引けてしまうらしい――そういう彼女もある意味、変態なんだが……
とにかく、ルークを前にやる気をなくしてきているヴァニカだが……かといって背を背けるのもどうなんだとも思っていて、次にどうすべきかを考え悩んでいた。
そんな彼女に近付く者がいた――
「ヴァニカ」
「!?――ハクジ」
――ハクジだ。ヴァニカに近付いた彼はそのまま彼女の前に立ち、ルークと対峙する。
「アイツは――オレがやっておく……構わんか?」
ルークから目をそらさないハクジはヴァニカにそう確認してみる。それに対して彼女は――
「……いいよ〜!」
あっさりと譲った。
「……本当か?」
「うん♪……さすがにああいう変態は勘弁〜」
「そうか」
オエッと不愉快な表情を浮かべたヴァニカの新たな面を見た気がしたハクジは苦笑を浮かべながらルークとの対峙に集中する。
「……おいおい、交代かよ?」
「あぁ……不満か?」
相手の交代に不服そうなルークにハクジは眉を上げる。対してそう問いかけられるルークはニッと笑みを浮かべる。
「……このオレは殺戮がモットー。半殺しはダメだと決まってる」
「だから、その女を殺していねぇうちに引き下がられるのはどうにも気になるんだよ」
ルークは自身の考えをそう口にするが、その考えの異常さにハクジは顔を激しくしかめる。
「……やはり、交代して良かった」
故にハクジもそう呟く――
そもそも、彼はヤマトとうるティの影響で少し柔らかくなっているが……それでも女が戦うのはできるだけ避けたいと考えている。
ましてや――その異常さからハクジにとって忌まわしいある男を思い出させてしまうルークが相手ではかえってだ。
「あん?何か言ったか?」
ハクジの呟きを聞き取れなかったルークがストレートにそう問いかけるが、ハクジはそれに答えてやらずに――駆け始める。
「さっさと貴様を倒す!」
「あぁ!?やってみろよ!!」
ハクジからのその宣言に軽く激上したルークは自身に向かって駆けてきている彼に三連鎌に鎖鎌を足したような武器を勢いよく振り下ろそうとする。
「――ハァ!!」
「!!」
だが、ハクジはなんとその鎌を――見事掴んでみせた。それに目を見開いたルークに向かって彼は拳を放つ。
「〝破壊殺・砕式〟!!!」
「!!」
自身の血管そのものに「武装色の覇気」を纏わせたハクジの拳を受けたルークの身体に衝撃が走らせられた。
それによるダメージでルークも血を吐くが――
「き、きもちイイィ〜!」
それでも……恍惚の表情を浮かべた。その表情、そして自身の攻撃の手応えに違和感を感じたハクジは眉をひそめた。
「んん〜…やっぱ、あれは――」
そして、その戦いを近くで観戦しているヴァニカも呟く。
「――ダンテの〝ニクニクの実〟の能力に近いような……?」
ルークの様相からかつての同僚との類似点をヴァニカは感じていたのだ。
ハクジとヴァニカからそう違和感を感じられているルークの身体にはある秘密があった。
それは――〝生命帰還〟によるものである。
〝生命帰還〟――
それは〝悪魔の実〟の能力でもない特殊技能である。
本来脳の命令で意識的に動かす事ができない髪と内臓等を自身の意識を張り巡らせる事によって操る事ができる技能である。
その部位だけでなく、果てはつま先と産毛の先に至るまで操りきれない箇所はないという。
現に体得者が多量の食品を食った後に自身の体形を元に戻す、〝動物系〟共通の変形以外の姿へと変化させパワーの向上を図る、なんなら――伸ばした髪を操って敵を捕縛するという芸当もできるぐらいだ。
この技能は能力者でなくても使用できるが――ただし、並外れて過酷な修行を積み重ねる必要があるのだ……それこそ仙人暮らしの修行を越える程だという。
その修行をルークも行ってきた事で条件を満たしたのだ。
……なお、ドMの変態である彼はそれでも満足せず――更なる過酷な修行を続けてみせたのだ。
そうする事でルークの扱う〝生命帰還〟はもはや、かなり強力になっている。
それこそ――重傷を負わされても何の事はないように動けるぐらいだ――まぁ、急所を突かれるとさすがに死ぬが……
「クク……」
――そして
「ゲハハハ!!」
「!?」
「既にテメェはオレに呪われた……」
突如の高笑いに肝を抜かれたハクジに対してルークはそう宣言する。
「!?」
その宣言に危機感を覚えたハクジは素早く後ろに下がる。そんな彼にルークは――
「―!」
なんと、鎌で自身の胸を刻んでみせた!
「!?……!!」
突如の自傷に混乱するハクジだが――すぐ異変を感じた……自身の胸に痛みを感じてきたのだ。
その痛みに驚愕せざるを得ないハクジにルークは笑みを浮かべていた――その笑みは狂気に溢れていた……
「どうだ!?これこそが――オレの呪いだ!!!」
「ぐ…呪いだと……!!?」
勝ち誇ったかのようにそう言い放ったルークにハクジはやはり混乱していた。
「クク……そうさ!これこそがオレの呪術――」
「〝死司憑血〟!!!」
「〝死司憑血〟……」
その名を明かしたルークにハクジは深刻な表情を浮かべていた……それもその筈。
彼も今、身置かれている状況からまさに呪いだとしか思えなかった――
必ずカラクリが存在する筈なんだが……その正体に見当が付かなくて、また見破るには骨が折れるだろうと考えてしまう。
ハクジにそこまで思わせる〝死司憑血〟――それは……
……ルークの〝生命帰還〟による応用技である。
実は――まず、ルークの数本の髪毛が密かにハクジにかけさせていた。
そして、その毛を由来してルークはハクジの身体を少しながら操ってみせた――といっても、精々ハクジの共感性を上昇させたぐらいだが……
後は――ルークが傷さえを負えば、共感性が上昇されたハクジもその傷による痛みを共有する事になるのだ。
それこそがルークの呪い――〝死司憑血〟の正体である。
「ゲハハハ!!」
〝死司憑血〟に対して警戒しながら、その正体を見極めようとするハクジにルークはまるではっちゃけったかのように勢いよく駆けてきた。
そして彼が激しく鎌を振り回してくるのに対してハクジは避ける、腕と足で防ぐ等で対応していた。
といえ、〝死司憑血〟によると痛みと混乱でハクジの身動きが少し鈍くなっているのに加えてルークの鎌さばきも鋭くて、ハクジの身体が少しずつ刻まれていった。
「――ええい、ならば」
だが、こういう状況をそのままにしておけないと思ったハクジは試しにルークを殴り付けた。
突如顔を殴られたルークだが、その顔は――笑っていた……
「……!!」
ハクジは突如顔を殴られたかのような痛みを感じてしまった。
「……!!(もしや……そういうカラクリか?)」
だが、その痛みにハクジは何かを掴んだのか、逆に冷静になった。
それから一旦後ろに下がったハクジをルークは揶揄った。
「ゲハハハ!!さあぁ!!オレと一緒に最高の痛みを味わおーぜぇぇ!!!」
「断る」
狂喜しているルークからの誘いをキッパリと切り捨てたハクジは身構えた。
「あん?何をするつもりだ?」
「知れた事――貴様の呪いを解く」
その様子に訝しげにするルークに対してそう宣したハクジは自身の身体に力を入れる。そして――
「喝!!!」
ハクジはそう自身に喝を入れた。その勢いは凄まじく、その場に吹き出された。
「ムダぁ!!!」
その姿勢を嘲笑うかのようにルークは鎌を自身の胸に勢いよく刻み込んだ。
これでハクジは更なる激しい痛みを味わう事になってしまうのだろう――
「ゲハハハハ!!!」
「…」
「ゲハハ――……あれ?」
それを確信したからこそ優越感に浸ったルークが高笑いしたが……その高笑いが続けられる事はなかった。
今の状況の異常に気付いたルークは呆気に取られた――何せ、彼の呪術により激しい痛みを味わう筈のハクジは……
「…」
痛む様子さえ見せずに平然としていた。
「な、なぜぇ!!?」
その様子にルークは動揺せざるを得なかった。彼は自身の呪術に自身を持っているからこそ、それが効かないように見受けられる様子に混乱せずにはいられないのだ。
「なぜ、オレの呪いが……!!?」
「さぁな?」
だからこそルークがたまらず、そう問いかけてくるのに対してハクジは応じてやらなかった。当然だ。答える義務がどこにもないのだからだ。
「強いて言うなら……貴様の呪いをオレの精神が上回った――ではないか?」
「ぐ、ぐぎぎ……!!」
そう揶揄うハクジに歯を食いしばったルークだが、かといって納得できる理由を見つけられないのもあって黙るしかなかった。
屈辱を感じているルークの姿にハクジも爽快な気分になれた――そもそも、なぜ彼が平然としているのかというと――
――実は彼もまた〝生命帰還〟をある程度体得できていたからだ。
〝生命帰還〟は能力の有無に関係なく誰でも体得できるんだが……ただ、なぜか――〝動物系〟の能力者が体得しやすくなっているという点もあった。
故に――〝動物系〟の能力者が多い百獣海賊団と暴獣海賊団の中にも体得できている者も少なからず存在している。
ハクジは自身に相性が良さそうなその技術に関して彼らに教えを乞ったのだ。
そうして――ハクジは〝生命帰還〟を体得してきたのだ。
ルークの戦闘スタンスから〝生命帰還〟の気配を感じ取れたハクジは自身も発動してみせた――そう、その技能でルークからの念を弾してやったのだ。
そうした事で彼にかかった呪術は無効化させられたのだ。
それを知る由もないルークは――
「〜〜…なら!!ギタギタのズタズタのグチャグチャにしてやるぜぇえ!!!」
激上した彼は鎌を激しく振り回しながらハクジに向かって駆けてきた。一見冷静さを完全に失ったかのようにみられたルークだが……
「(……オレの呪術がどういう訳か、効かねぇようだが――)」
「(……まさかオレの肉体まで破られる訳がねぇだろ!!)」
まだ冷静さを失っていないルークは自身の身体の性能に関してはそう判断したからこそ、迷いなくハクジに駆け向かっていた。
そんな彼に対してハクジは――
「〝術式展開〟」
「〝破壊殺・羅針〟」
自身の武道に従う構えを取っていた――気のせいか、その足元には彼を中心とした雪の結晶を模した陣が出現されたようにみられた……
「ゲハハハハ!!!――随分と大げさなもんだぜ!!」
その様を笑ってきているルークに対してハクジは――構えていた拳を容赦なく放った。
「ハァ!!!」
ハクジからの拳をルークは余裕満々に受けるが――
「がぽぁ!?」
突如ルークの身体が弾かれた。そうして地に叩き付けられたが、何とか起き上がったルークだが――顔をしかめながら混乱していた。
「何だ!?この痛みは!?」
ルークは深刻そうにそう言い放つが――ドMの変態である彼にとって初めての痛みだった。
その痛みは彼でもさすがに耐えられなかった程だ。
その様子にハクジは痛快そうに笑みを浮かべる。
「……やはり、この技術は良い――」
「――「流桜」は」
「流桜」――
ワノ国では「武装色の覇気」をそう呼ばれる。
――ただ、ワノ国におけるその覇気は位置付けも異なっている。
ワノ国においては「武装色の覇気」もただではあらず――「内部破壊の覇気」として化されていた。
そういう覇気を使う際、まず「力む」のではなく不必要な場所の覇気を拳と武器に「流す」イメージの元で使う事で「「武装色」硬化」の更に上位に位置する技能たる覇気の鎧となるのだ。
覇気を必要な場所に「流す」事で身体の外に大きく覇気を纏い「見えない鎧」となって敵の攻撃を触れる事なく防御し、さらに攻撃に転ずれば、敵の内部からも破壊するより大きな力となる――
それは端から見ると衝撃波で敵を弾くような様子となるという。
そのような技術をスサノオを含む暴獣海賊団の海賊達でも――なかなか体得できにくかった。
そんな中で体得できた者がただ1人いた――ハクジだ。「武装色の覇気」関連に長けている彼だからこそ体得できたのだ。
――そして、その「流桜」はルークにも通じせていたのだ。
それが分かった以上――
「さっさと終わらせるか」
「ほざけぇ!!」
そう宣するハクジに激上したルークだが、その様子からは――余裕が感じられていなかった……
「ヴォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
暴れながら駆け向かってきているルークにハクジはもう既に拳を構えながら力を込めていた――そして
「〝破壊殺・滅式〟!!!」
ハクジから勢いよく放たれた拳を受けたルークは強烈な勢いで吹っ飛ばされ――地に飛び跳ねられ……しまいには倒れていった。
「が…ば…い゛、い゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」
そのあまりな痛みにそう叫んだルークが血を吐き――そのまま黙った。そんな彼をハクジは冷めた目で見下ろしていた。
「……倒すのはおろか、戦うのも自慢になれない敵だったな……」
ハクジはそう言い捨てた――
『暴獣海賊団 ヴァニカ→ハクジ
VS
CP9 ルーク』
『〝エレインホール〟
「ある場所の戦い」』
『勝者 ハクジ』