ビショップ――
彼は――「CP9」の者である。
その者は普段では冷静沈着だが――トラブルが起こると殺意が湧き出てしまう程の短気で荒っぽい一面も持ち合わせている。
そういう情緒を持つ彼では他の者との連携が長らえる事がない程だ……だからこそ、ビショップとは他の者となかなか組ませにくかった……
だが――ルークとは価値観の相違はあるものの〝生命帰還〟による体質もあって、それなりに上手く付き合っている。その為にビショップは必ずルークと組ませなければならないという暗黙の了解になっているのもご愛嬌である。
そんな彼は今、〝エレインホール〟でのある場所で暴獣海賊団の1人と対峙していた……その者、そしてその後ろにいる者達を始末しなければならないという状況に身を置いているビショップはある判断を下していた――んだが……
「何だ!?それは!?」
対峙している海賊――シシリアンは驚愕をみせていた。
それもその筈。彼が凝視しているビショップの腕からは――黒い触手が湧き出てきたからだ……
「まぁな、これが――オレの能力だ」
そう明かした彼は――〝テンテンの実〟を食った「触手人間」である。
〝テンテンの実〟――
それは食った者に触手を操る能力を宿らせるものである。
しかも、その取り扱う触手の種類は数々存在している――〝軟体動物〟、〝棘皮動物〟、〝刺胞動物〟、〝環形動物〟、〝触手冠動物〟――それぞれの触手を取り扱えるようになっているのだ。
――といえ、気味悪いのは確かで気が引けているシシリアンに対してビショップは容赦なく攻撃を仕掛ける。
「フン!」
ビショップの腕が突如――伸びてきたのだ。
正確にはその腕が前腕部辺りで分割され、その腕がロケットのように勢いよく放たれているのだ。
なお、その間には触手が繋がっているという状態だ。
「ウオッ!?」
その拳をシシリアンは驚くも、何とか剣で防いでみせた――だが
「そのまま終わりじゃねぇぞ」
ビショップがそう呟く通り、その腕から――無数の触手が湧き出てシシリアンに襲いかかる。
「!!――ハァ!!」
それに目を見開くシシリアンはしかし怯まずに素早く「エレクトロ」を流した。
「ぬぅ!!」
その「エレクトロ」が腕、その触手を通って自身の身体にもかかられたビショップも少し怯んでいるところにシシリアンは剣を振り上げた――
「〝獅子の爪〟!!!」
「エレクトロ」を纏うその剣が腕とビショップの間を繋げる触手を斬り捨ててみせた。
「!!」
その事に目を見開くビショップにシシリアンは胸を張る。
「どうだ!!――このまま貴様を斬り捨ててくれる!!」
そう宣したシシリアンはビショップに向かって駆けようとし――
「!?」
何かに勘付いた彼は素早く振り替えながら剣を構えた――その瞬間、彼に突如衝撃が走らされた。
それによって少し吹っ飛ばされたシシリアンは体勢を立て直しながら攻撃を仕掛けてきたであろうものを確認してみると――
「!?」
驚愕せざるを得なかった。何せ、そこにいたのは――ビショップから離させられた腕だったのだから……それは無数の触手が湧き出ていて、蠢いていた。
「……なぜ!?なぜ動いているんだ!?」
「さぁな」
ビショップ本体からハッキリ離れているにも関わらずに動いていて、しまいには自身に襲い掛かれる腕にシシリアンも戦慄せずにはいられなかった。
そんな彼に対してビショップはもちろん親切に答える事はなかった。
「まぁ……オレの能力を常識で捉えない方が良いだろうな」
ただ、ビショップは何かを含むような言いぐさでそう言い放った――
彼本体から離れている腕がまるで自身の意思を持っているかのように動き回っているという事態――
――それは実は〝生命帰還〟によってもたされたものである。
そう、ビショップも〝生命帰還〟を体得しているのだ。
しかも、彼も更なる過酷な修行を続けてきただけはあって、彼の扱う〝生命帰還〟はルークとは違う意味で異常的になっているらしい。
元々、如何なる触手の中には本体から切り離れてもしばらく動く種も存在しており、それを〝生命帰還〟の技能と併用させる事でビショップ本体から離れた触手が自身の意思を持つように活動できるようになったのだ。
それを知る由もないシシリアンに向かってビショップは分割させた前腕部辺りからさらに触手が湧き出ながら歩み進む。
「さて……やられてみるか?」
「ぐ……!」
そんなビショップ、そして蠢いている腕に挟まれているシシリアンだが――
「…!!」
そんな彼らの間に割り入った者がいた――それが……
「何のつもりだ!!――ジャックだ」!!
そう、ジャックだ。
彼はシシリアンの前に立ってビショップと対峙していた。
シシリアンからの文句を聞かないのかジャックは構わずに口を開く。
「――やはり、ここから去らずに様子見していて正解だったな……!」
「あぁ!?な「シシリアン」にを――!」
ビショップを正面から凝視するジャックのその呟きを拾ったシシリアンが激上しかけるも突如声を掛けられ、固まった。
シシリアンに声を掛けたのは――ペドロだ。彼はシシリアンを宥めるかのように言う。
「ここはジャックに任せろ――アイツはもはやお前の手には負えん……!」
そう言い張るペドロの目はビショップを鋭く凝視していた……その言葉、視線の鋭さにシシリアンが口を閉じてしまう――実は彼もその厄介さを感じ取っていて、対応が難しいと考えていたのだ。
改めてペドロからそう言われた事でシシリアンは大人しくせざるを得なくなった。
とにかく、これで戦況はジャックとビショップの戦いに移されていった。
「……今度はお前が戦うのか?」
「まぁな……というか」
ビショップからのその問いかけを肯定したジャックからも口を開く。
「テメェ……やはり、金融業者じゃ無理があんじゃねぇか」
ビショップの様相から改めてそうツッコまずにはいられなかったジャックだった。だが
「……そう言われても――このオレが金に関して詳しいからこそ、そういう事になったのに過ぎないからな……それに」
その理由を説明するビショップの雰囲気が突如重くなる。
「信じられるのは金だけだ」
薄暗い目をする彼がそう断言した――
――彼は優れた諜報員であるが……長らく諜報活動を続けてきただけはあって、色々なものを見てきたのだ。
その経験から「世界政府」を信じきれなくなり、その分金銭に対する執着心が極めて強くなっていったのだ。
今は「CP9」として「世界政府」に従っているが……万が一切り捨てられた場合に備えて――保身を用意している始末だ。
何やら執着を感じさせられる程の重々しい雰囲気を放ってきたビショップにジャックは目を細める。
「……まぁな、なんだっていい――テメェをさっさと叩き潰すのみだ」
「……確かにな、今はどうだっていい」
そう宣したジャックに対して同感したビショップは着ている黒マントを脱ぎ投げ――
「……ぐぐ」
「!!」
ビショップは自身の身体に力を入れる。そして、その身体から――何かの塊が数個も湧き出てきた。
それは――無数の触手が集まって形成された怪物であった。それも4体。
「〝ジオング〟」
その4体の触手の怪物――〝ジオング〟がジャックの前に立ち塞がっていた。
「……気味が悪ぃな」
「あぁ、見た目はそりゃな」
その〝ジオング〟を睨み付けるジャックがそう呟くのを拾ったビショップも否定せずにそう言う。
「ただ……その性能は半端じゃないぞ」
ただし、そう呟かれた途端に〝ジオング〟がジャックに襲いかかり始めた。
そんな〝ジオング〟にジャックは手に持つショーテルで斬って対応しようとする。
「オラァ!!」
4体の〝ジオング〟はそれぞれ単独で攻撃するのもあれば、連携して攻撃するのもあるのに対してジャックはその脳筋染みた外見から考えられない程によく考えられている身のこなしでショーテルを勢いよく振り回していた。
その攻撃に〝ジオング〟も一見劣勢を強いられて、ただ身に受けるしかないのだが――
「……チッ!やはりか」
優勢な筈のジャックが突如舌打ちした。
それもその筈――斬り捨てられた筈の〝ジオング〟はまるで斬り捨てられた事実がないように平然としていたのだから……
そもそも、それらは――元々触手の塊である。故にそれを斬り捨てても、一度切り離された触手が繋がり直される事でダメージを無効化できるのだ。そして――
「…!!」
〝ジオング〟の触手がジャックの身体に寄りかかった――ジャックの身体を強く握り込んでいるのはもちろんだが……
――〝軟体動物〟の性質を持つ触手が他のよりジャックを強く締めている上に付いている複数の吸盤により、その拘束を堅牢にしていた。
さらに、〝刺胞動物〟と〝棘皮動物〟それぞれの性質を持つ触手がそれぞれ毒、鋭いものでジャックの身体を刺してダメージを与えていた。
二重の意味でダメージを与えてくる触手の拘束にジャックも顔をしかめるが――
「〜〜オォォォォ!!」
突如声を上げたジャックの身体が大きくなり――マンモスへ変貌を遂げた。彼は能力を発動して身体を大きくさせる事で〝ジオング〟の拘束を剥がしてやったのだ。
「マンモス……!!迫力はあるな……だが」
その姿にビショップも眉を上げるが、気にせずに〝ジオング〟をジャックに襲いかからせる。
その指示に従う〝ジオング〟に襲いかかろうとされるジャックは――
「〝地裁〟!!!」
逆に突進しようとしていた。その〝地裁〟が〝ジオング〟を勢いよく吹っ飛ばしてやった。
その吹っ飛ばされた〝ジオング〟のうちの2体はどうやら大ダメージを負わされたのか、地に叩き付けられた途端に溶けていった。
だが、残り2体はそれでも生きていて――そしてジャックを凝視していた。
そんな〝ジオング〟に向かってジャックは――今度は上半身を上方へ振り上げらせていた……
「〝天裁〟!!!」
ジャックから繰り出される〝天裁〟がその〝ジオング〟を襲いかかった。
その凄まじい衝撃波に〝ジオング〟もたまらずに粉砕されていった――
その様を見届けたジャックは続いて――ビショップに視線を向ける。
「……で?やんのか?」
そう語気を強めるジャックの姿にビショップは――冷や汗を流していた。
「(これは……全力を惜しまずに出す方が良さそうだ)」
そう判断したビショップの身体に更なる異変が起ころうとした――
「……お、おぉ〜」
――ビショップの体内に潜んでいる無数の触手がその中から外へ爆発的に湧き出てきたのだ。
そうして――さっきまで各部から触手が湧き出ていたものの、まだ人間らしい部分を残していたビショップの姿は――もはや、触手だらけの怪物のになっていた。
その姿にジャックもさすがに眉をひそめた。
「……もはや、怪物だな――見た目ならばだがな」
そう皮肉るジャックにビショップはしかし、堂々と言い返す。
「お前の強さを認めたからこそだ――覚悟はいいか?」
そう宣したビショップにジャックもまた気合を入れ直す。
「怪物だろうが何だろうが――叩き潰すのみだ……!!」
「あの人の懐刀として――!!」
そう目を血走らせるジャックはビショップに向かって突進し始めた。
「〝地裁〟!!!」
「フン!!」
再び〝地裁〟を発動させるジャックに対してビショップは全方向に散らばっている無数の触手を一点にまとめ、突っ込む。
勢いよく突進するジャックとビショップの触手が激突し――凄まじい衝撃が発生した。
「ぐ……」
――ジャックは吹っ飛ばされていて、体勢を崩されていた。対するビショップの方は――
「おっと……」
少し体勢を崩されていた――ただ、余裕を感じられていた。
「――ソラァ!!」
故に体勢を立て直していないジャックにビショップは触手を再び放ってやった。
「!!」
ジャックが目を見開くも既に遅し。槍のように突っ込んでくる触手をただ身に受けるしかなかった。
そこから発生した煙をビショップは凝視する。
「…(手応えあり――……!?)」
手応えを感じた事から撃破したと思ったビショップだが、突如目を見開く。
その途端に煙が晴れされ、ジャックが姿を現してきた――んだが。
その姿は更なる変貌を遂げていた――それはジャックの下半身と頭部がマンモスに変身した四足歩行のケンタウロスになっていた……
――そう、ジャックは人獣型に変身したのだ。
「……それがお前の本気か?」
「あぁ――テメェの強さに対してこうしたまでだ」
その姿を目視したビショップからの問いかけに対してジャックは彼のさっきの言いぐさでそう返した。
その答えにビショップも意を決する。
「――このオレを倒してみるのかな!?」
そう言い放ったビショップの身体から更に触手が湧き出て、ジャックを突き刺そうとする。
その触手がジャックの身体を突き刺す――
「――オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!」
――かと思われたら、ジャックが咄嗟に強烈な勢いで駆け始めた事で弾かれていた。
「!?――クッ!!」
その事に怯んだビショップはすぐ触手を向け直す。
「オ゛ォ゛ォ゛!!」
だが、ジャックの突進は人獣型に変身した影響か心なしか獣型のより強まっていた。
故に襲いかかってくる触手を弾かしてやった。
「ば、バカな!?」
ますます動揺してしまうビショップに向かって近付いているジャックは――右拳を構えていた。
「!!――クソッ!!」
それを目視したビショップは全ての触手を自身の前に集まらせ壁と化させる。
その壁に対して大分近付いたジャックの右拳が――勢いよく放たれた。
「〝巨象正拳〟!!!」
その拳は壁――をあっさり貫き、そのままビショップを殴り付けた。
「ガァァァァ!!?」
その勢いは凄まじくて、胸を貫かれているビショップは絶叫しながら吹っ飛ばされた。
――獣型と違って人獣型に変身したジャックはマンモスのパワーを全て拳に込めてみせていたのだ。
その甲斐はあってビショップの触手さえを打ち破っていったのだ。
そして、吹っ飛ばされたビショップは数棟の建物を破り続けられ――そのまま地にまで叩き付けられていった。
やっと地に寝込んだビショップの姿は痛々しかった。
「ガ…バ……この…オレが……」
そう言うビショップはそれっきり黙った。
そんな彼に背を背けたジャックは呟く。
「……そんな様になったら、もう――大好きな金を拝めなくなるな……!」
『暴獣海賊団 シシリアン→ジャック
VS
CP9 ビショップ』
『〝エレインホール〟
「ある場所の戦い」』
『勝者 ジャック』