転生したらトカゲさんだった件   作:蓮太郎

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第十二話 『手加減』はしてる

 

 ドワーフ王であるガゼルと謎多きリザードマンのメルトの手合わせ。

 

 元々リムルが先に手合わせしていたせいか野次馬はさらに多くなり、そろそろメルトの真面目な戦いが見られるのかと期待されていた。

 

「何でこんなことに…………」

 

「武器はどうした?」

 

コレ(・・)が武器だよ」

 

 トントン、と自分の腕を叩いたメルトになるほどとガゼル王は納得した。

 

 メルトの服装も軽装、それどころか上半身は裸と言って差し支えない。

 

 目立つ装備といえば腰蓑と指輪、あと草履のようなものしかない。

 

 それら全てが神話級(ゴッズ)であり、周囲の力量であえて最適化していないという事実を周囲は知らない。

 

 

「よかろう、合図は樹木人(ドライアド)に任せる」

 

「分かりました。では両者構えて」

 

 トレイニーの合図に合わせてメルトは仕方なく構える。

 

 乗り気ではないが、両手を伸ばして双剣を幻視させるように構え、そして全ての漏れ出る気配が消えた。

 

 手加減はするが真面目にやる。メルトが戦う時のポリシー。

 

 王であろうと、英雄であろうと関係なく、

 

 メルトと戦う者は常に挑戦者だったのだから。

 

「はじめ!」

 

 合図と共にガゼル王が斬りかかる。

 

 リムルがたまたま剣筋を知っていたからこそ防げた剣筋、並大抵は速度で姿を見失うほどの速度で放たれる斬り込み。

 

 殺す気でかかってるのか周囲が思った。あんなものを受けたらリムルとて危なかったのだ。

 

 だが、メルトの目にはガゼル王の姿がスローモーションのように捉えられていた。

 

 右足を引き、身体を横にずらす。

 

 だったそれだけの動作でガゼル王の剣は空振りした。

 

 それでも英雄の攻撃が終わるわけもなく、返す刃で二太刀目、三太刀目と切り込んでくる。

 

 彼の師匠であるハクロウも褒めるであろう連撃の数々、簡単には躱せないソレを、メルトは容易く避けていく。

 

「ガゼル様の剣を容易く避けている…………?」

 

「だが見ろ、全て紙一重だ」

 

「避けるだけしかしないのか?あのリザードマンは」

 

「今までメルトさんが攻撃したのを見たことがないけど、何でだろう?」

 

「でもこの前は間違えて配置した石畳を素手で引っぺがしてたぞ」

 

 周囲の声を聴いてもますます評判が分からなくなる。

 

 回避だけで成り上がれるのか?絶対に何か隠し玉があるはずだ。

 

 全員が思っていても、メルトは高速で回避するのみ。

 

 しつこすぎて場がしらけかけていたその時、ガゼル王の手が止まった。

 

「貴様、何を恐れている?まるで戦いを恐れているようだ」

 

「……………………」

 

 メルトは両手の構えは解いていない。ガゼル王も同じだが、殺気の差は歴然であった。

 

 それにメルトの身体から一切の魔素が漏れていない。

 

 手加減しているのは明白であり、そして身体能力だけで全ての回避を行っていたという事実は残っている。

 

「他人を傷つけるのが怖いか?では何のためにその力はある」

 

「…………さあな。俺にも分からないな」

 

「避けるだけでは何も守れんぞ。いや、そもそも貴様に守るものはあるのか?」

 

 メルトの動きが止まる。

 

 真理を突かれたのか、メルトは体表上は何も無さそうだが動揺している。

 

 この世界に降りて何を成すのか、何をしたいのか?

 

 メルトにはそういったビジョンがない。何故なら既にその身は既に最高のものだと自負しているからだ。

 

「…………逆に、一つ聞かせてくれ」

 

 だから、敢えて何をしたいかなんて考えないようにしていた。

 

「これは俺に対する『挑戦』か?」

 

 だから、もう考えずに感覚で動くことにした。

 

「挑戦?ふっ、ならば挑戦してやろう。動け、その大口を叩けなくしてやろう」

 

 ガゼル王の全身から覇気が放たれる。

 

 一定レベル以下の生物なら即座に屈服してしまう圧だがメルトには通用している様子はない。

 

 逆に、覚悟を決めた目をしていた。

 

 自分の役目を思い出したようなギラギラと輝く爬虫類の目。

 

「いくぞ!」

 

 その掛け声と共にガゼル王は一歩足を前に出す。

 

 誰でも行う行動の一つ。踏み込んで攻撃に移るために武人が取る行動。

 

 しかし、既に目の前にメルトがいた。

 

 正確にはメルトの胴体だが。

 

 本来なら踏み込む足で前に進むのだが、メルトは踏み込む足と反対、つまり最初から地面についている足のみで超高速かつ低空で垂直に移動する跳躍を行ったのだ。

 

 では踏み込むはずの足はどうなっているのか?

 

 その足は既にガゼル王の胸に当てられていた。

 

 僅か一瞬、瞬きすら間に合わない速度で胸元に蹴り込んだのだ。

 

 ガゼル王が剣を振り下ろすよりも早く、それは放たれただけに過ぎない。

 

 そしてもう一つの変化があった。

 

 メルトの鱗はくすんだ緑色である。暗くて苔のような緑色なのだが、今は違う。

 

 一瞬、その鱗が輝いていた。

 

 力強く、誰もが目を奪われるエメラルドグリーンに。

 

 そして全身から溢れ出る力の本流が全員の肌に強制的に浴びさせる。

 

 ただの前蹴りなのに全員がガゼル王の死を確信するほどに。

 

 そして止まっていた一瞬が動き出す。

 

 ガゼル王は剣を振り下ろそうとする体勢のまま勢いよく吹き飛ばされる。

 

 素手を主力と言いながら王を足蹴にするという暴挙をなしているが、鎧を砕き、即死する威力を放った一撃を見たら誰にでも分かるだろう。

 

「…………『手加減』はしておいた。俺に挑むのはまだ早かったな」

 

 一瞬の輝きは既に失せており、かろうじて命を取り留め意識を失ったガゼル王を背にメルトは町へ戻っていく。

 

「リムル、俺が謝ってたと伝えてくれ」

 

「そ、それって自分で言うことじゃないのか?」

 

 急いで完全回復薬(フルポーション)を渡しに行こうとするリムルにメルトは言った。

 

 実際、思いっきり盟友になりそうな王を瀕死にさせた者の言う台詞ではない。

 

 だが、1つの矜持を思い出したメルトにはそうしか言えなかった。

 

「それと、レベルを上げて出直してこいって言っといてくれ」

 

「…………あ、お前、それって」

 

 メルトは振り返らなかった。

 

 もはや町に居られないだろう。そう思いながら1つの『レイドボス』として覚悟を決めたリザードマンは戻っていった。

 

 完全にノープランである。

 





全員「(いや、手を使わないんかい!)」

 ついに手を出してしまったメルト。しっかりと確認を取って一瞬だけレイドボス化してやってしまいました。

 そしてリムルにほのめかせる台詞。でも二人が転生する前の時代は違うんだよね。

スキル・『手加減』
 与えるダメージを半分にする代わりに必ず相手のHPが0にならない。不殺プレイを好むなら相応のリスクは必要だが、敵を殺してレベルアップするのは必要だろう?

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