転生したらトカゲさんだった件   作:蓮太郎

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第十八話 トカゲさんの修練

 

 トカゲさんの朝は早い。

 

 前世からの遅寝早起きが身に染みているせいか、どうしても早いうちに目が覚めてしまう。

 

 住処はしっかりと貰っており、ふかふかのベッドで寝ることを日課にしていた。

 

 特に昨日は魔王襲来と遊びによって疲労がいつもよりも溜まった日はぐっすりとよく眠れた。

 

 もっと寝たい気持ちはあったが、一度起きると寝入るのが難しいメルトはふわぁとあくびをしながらのそのそと外に出る。

 

 命がけの戦いから久しい彼は、戦いを心の底で求めていた。

 

 しかし、メルトが命を懸けなければならない敵など易々見つからない。

 

 なのでイメージする。要するに妄想で賄う。

 

 誰も居ない土地、本来なら修練所の空き地なのだが、この時間帯のみメルトの所有物となる。

 

 いつもの構え、しかしレイドボス化はせずいつものように無心で両腕を手刀にして構える。

 

 目の前に想像するのはとあるギルド。人ならざる身で人間種に対抗した41人の異業種。

 

 全員がレベル100の強者ばかりが集う恐ろしくも強いPVPに秀でたギルドメンバー。

 

 1人1人丁寧に相手していると範囲攻撃が飛んでくるか、もしくは近接攻撃で仕留められていただろう。

 

 気は抜けない、そんな彼らをイメージの中で相手するのだから。

 

 まず、最初に飛んでくるのは最大火力の超位魔法。近接攻撃一回、もしくは範囲攻撃を三回当てることこそがメルトを倒すための方法。

 

 その範囲攻撃に当たらないために高速で避ける。大移動のため一瞬で駆けださなければならない。

 

 ゲームとは違う本物の足で。

 

 身体に動作が染みついていたとしても心が追い付かない、出来る限り記憶の中でイメージして完全にものにする訓練が必要だった。

 

 実際、最初からものにしていると言えるのだが納得がいっていなかった。

 

 思うままに動くのは確かだ、しかしどこか現実味を帯びていない気がしてならない。

 

 その僅かな乖離を埋めるための修練だ。

 

 足に力を入れて一瞬で地面を砕きながら移動した。

 

 常人からしたら瞬間移動したようにしか見えないだろう。しかし、メルトはこの速度をモノにしていた。

 

 そして立ちはだかる二つの粘体生物(スライム)に音を超えた手刀を叩き込む。

 

 その二人はピンク色と紫色をしていたが、どちらも近接職としてふさわしいデバフの撒き方を取得していた。

 

 攻撃すれば状態異常の付与、メルトには耐性はあるのだが簡単に受けてやるわけにもいかない。

 

 だからシステムがデバフを受ける前に倒せばいい。そうしたらデバフを受けずに、ダメージを受けずに済むのだ。

 

 幻想に手刀を叩き込んだ瞬間、それは真空刃として斬撃を生む。

 

 その斬撃は其処らの生物では対処のしようもない一撃必殺だ。

 

 そして次に背後から襲い掛かるアサシンの攻撃をノールックで回避する。

 

 アサシンは何度も連撃を放ってくるが、それらすべてを残像が出る速度で避け続ける。

 

 イメージするのは常に先。自分が回避した先を狙い、それをさらに回避して次の攻撃を読む、もしくは感じ取る。

 

 振り向きざまの手刀で完全にアサシンを両断し、死角から飛んでくる多種多様の魔法を跳躍し、身体を捻って全てかすりもせず避け続ける。

 

 空中でも空気をはじいて回避するスキルを所有しているため立体起動も可能なのだ。

 

 そして、彼らの暫定的な主である不死者の王(オーバーロード)に向けて手刀を―――

 

「何をやってるのだ!」

 

 その幻覚は桃髪の少女にとってかわられた。

 

 振り下ろされる寸前の手刀を少女の額に触れる直前で停止させた。

 

「…………おいおい、朝のルーチンを邪魔するんじゃない。これが俺にとって一日の始まりなんだ」

 

「相当すごい動きをしていたな。周りのこともきにしてなかったのか?」

 

「配慮はしてる。観客は常に多いからな」

 

 そうしてメルトがチラリと周囲を見ると、特異な修練を一目見ようと潜んでいる街の住民がわんさかいる。

 

 リムルに修練のことを申請してこの時間帯だけ開けてもらったが、何をしてるのか気になったものたちがメルトの動きがヤバいとか何とかで話を広めてちょっとした見世物になってしまった。

 

 別に不満はない。これといった手を見せている訳ではないのだから。

 

「ふむ、先ほどの演武は一対多数を想定した動き。それもかなり手だれではないか?」

 

「まあな、記憶に残る最強の一角だ」

 

 メルトの記憶、そして最強の一角と言った。

 

 メルトとて全戦全勝のいう訳にはいかない。負ける時だって多々あるのだ。

 

 その中でも余裕を無くすほど強かった相手を『最強の一角』と勝手に呼んでいる。

 

 ほとんど廃れてはしまったが、かつてPVPでは右に出るギルドは居ないと言われた極悪ギルドを思い出し、それを仮想敵に戦っていたのだ。

 

 無論、骨のギルド長も厄介ではあるが、本命は全く別である。

 

「はぁー、興が削がれた。今日はこれくらいにしておくか」

 

「なんだ!ワタシじゃ不満があるというのか!」

 

「影響力を考えろ馬鹿たれ」

 

「むがー!誰がバカなのだ!」

 

 ミリムのじゃれつき(常人なら即死級パンチの連打)を背中を向けたまま避け続けるメルトの異常性は皆の目に焼きついた事だろう。

 

 そして、メルトの言う『最強の一角』とは誰なのか。

 

 その事を考え続けるが、答えはメルトに聞かなければ分からないだろう。

 

 こうして、いつもより少しちがう朝が終わった。

 

 ミリムが攻撃を止めるまで、あと2時間ーーー

 





 メルトが避けるということは、それは非常に危険な攻撃である可能性が高い証明である。

メルト「(うおお、ミスったら死ぬ!ミスったら死ぬ!)」

 飄々とした表情がわかりづらいトカゲの顔でもそんな気持ちで今日も命の危機を凌いでる。だって紙装甲なのだから。

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