「ふーん、リムルって言うのか。俺はメルト・ダウンだ。よろしくな」
自己紹介した瞬間に空気が冷えた気がする。
名乗るだけで何かいけないのか?向こうだって自己紹介してきたのに?
もしかして、名前に何か由来があったら困るのか?
まあ核融合由来のものがやばくない訳ないし、もしかしたらそういう魔法がこっちにもあったりするのかもしれない。
『ユグドラシル』にも核攻撃魔法はあったからなぁ。
「まあ、よろしく。メルトでいいか?」
「別に構わない。むしろ後ろの名前で呼ばれることの方が少ないし」
「そっちで呼ばれることあるんだ…………結局さ、本当に何しに来た訳だ?」
「知らん。向こうが勝手に勘違いして連れて来ただけだから特に目的もない」
そう答えつつ青髪の鬼がこっそりと糸を飛ばしてきたので最低限の動き、横に僅かにずれて回避する。
「敵意を見せるのはいいが、ちょっと手荒が過ぎるんじゃないか?」
「ソウエイ、お前何かしたのか?」
「…………申し訳ありません」
「まあいい、俺はきにしてないから何処かで一息つかないか?」
そう言って暗に村に入れてくれないかと目で誘ってみる。
流石に向こうもこちらの意図を酌んでくれたようで仕方なしと、かなり渋々案内してくれた。どれだけ嫌なんだよ、未知の人間を入れるのは。
そういえばリザードマン達が漏らしていた事前情報から推測すると、鬼の方は完全に想定外だったようだし、本来ならゴブリンはもっと弱い種族だったのだろう。
それを打ち負かす戦力がいるとなった故かあまり見せたくないのかもしれない。
『あれもリザードマンですよね?それにしては妙にトカゲらしさが目立ちますが』
『名づけの影響かもしれないな。それにしては薄着と言うか』
『油断させるためかもしれません、警戒は怠らないように』
秘密の会談をしているようだが、俺を警戒するように言っているだけだろう。
無理もない、同じ種族を名乗っていても思いのほか姿が違うのだから。
それよりも気になっていることが彼らにはある。
鱗からでもひしひしと伝わる闘志。間違いなく俺を試そうと挑発している赤髪の鬼が誘ってくる。
こうまで誘われているんだ、まだ正体を明かさないにしても軽く遊んでやることはできる。
「どうせなら、さっきの彼みたいに
にやり、と笑ってみて挑発してみる。
さっきのは俺が挑発に乗らなかったが、こちらから仕掛けてみたらどういう心境になるのだろうか?
隠せていない闘気から血気盛んなことは間違いない。
ほら見ろ、鋭い眼光をしながらこっちを向いて笑ってるぞ。
「リムル様、先方から許可が下りた事なのでよろしいでしょうか?」
「ベニマル!?ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ」
「いいぞいいぞ、それでこそ男だ」
ざっ、と道中ではあるが互いに距離を取りあい、そして自慢の得物を構える。
やはりと思ったが、刀か。随分いい趣味をしている。異世界にも鬼が居たんだから刀が存在していても何らおかしくはない。
それに対して俺は徒手空拳。本来なら手刀をメインに手を平にするのだが今は握り拳を作っている。
まだ本気を出す時じゃない。向こうが挑戦者とはいえど、俺はまだレイドボスとして立ちはだかってないのだから。
「さあ、かかってこい」
くいくい、と手招きをした瞬間に切り掛かってきた。
赤髪の鬼はベニマルと言ったか。シンプルでまっすぐな太刀筋、よく見る正統派な立ち振る舞い。
そこそこ早い剣筋だが回避は余裕だ。
何度も放つ刀での攻撃を全て回避する。わざと紙一重で回避できるよう最低限の動きで、そして常にカウンターを打てるように。
これが俺の戦闘スタイルだ。回避してカウンターを叩き込むアタッカー、しかも攻撃力が馬鹿みたいに高くて防御無視攻撃も放てる面倒なキャラになってしまった。
これを闘技場みたいなPVPでやると塩試合を連発して出禁になった。マジで解せない。
で、紆余曲折あってレイドボスになったわけだが、スタミナも無限扱いになったから無限に避けられるんだよね。
だから、こういう耐久ではかなり有利になる。
「どうした、息が上がってるぞ」
「この…………調子に乗るなよ!」
お、黒い炎を飛ばしてきた。見るからにやばいですよっていう雰囲気を出した魔法だな。
確かに低レベル帯ならひとたまりもないだろう。同格でもそこそこの確率で致命になりかねないだろう。
「だが軌道が分かりやすい」
一瞬で当てられるようなものだったら紙一重で避けられたが、発射速度も遅いし0.3秒ほど棒立ちになるため隙が大きすぎる。
黒い炎を弧を描くように横に避け、力を込めて大地を踏み込んだ。
地面がへしゃげ、パンッという空気が弾ける音と共にベニマルの前に到達。
そして目の前に拳をーーー
「王手ってな」
寸止めした。
このまま拳を振り抜いたら頭蓋骨は簡単に砕く自信はあるが、こんな遊びで敵対する必要もない。
「どうだ、これで少しは満足したか?」
これで十分だろう。下手に傷つけると心象は悪くなるし、殺してしまえば敵対は避けられない。
もし死んだとしても蘇生薬は無いわけではない。『ユグドラシル』から持ち込んでしまったアイテムはかなりあるが、数に限りがあるし…………
「…………まいった、相当な強者だな、お前は」
「まあな、腕っぷしだけなら自信はある。そういや腹が減ったんだが何かご馳走でもしてくれないか?」
カラカラと何年振りに笑った俺は、呆れられた目で見られても空腹なことは隠さなかった。