ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線   作:サルミアッキ

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 クロスオーバーが絡まない小説を書いてみようと思い立ち、初投稿。

 この世界のマコト様の立ち絵はアートワークスにあった初期案カリスママシマシの方。『いろいろ』あって、相手の力量などを見誤ることが無くなった世界線。


vol.0『(ルーツィフェル)あれ』或いは『初めに真の言葉(ロゴス)ありき』
万魔殿の長/暁の子


 —————嘗てのあの日。天から暁の光が堕ちた。堕ちていく時、自分だと思っていたものが崩れて壊れていくのを感じた。

 自身の死を幻視する。色彩やかな光、全てを汚らしく混ぜ合わせたような醜い黒。ここではないどこか—————行く末だろうか、そんな地獄の景色が見えた。

 

 ——————この世界(・・)で、『雷帝』と呼ばれた存在が生み出した災厄が……この星に、底知れぬ処の孔を開く鍵が起動する。(この身)が見ている景色の中で、太陽も、空気も黒に染まる。

 

 耳の奥で風切り音が鳴っている。逞しい————自分()が持ちえない巨大な翼が、目の前で起きる空間の崩壊から逃れようと、(この体)を抱えて飛んでいく。

 

 動かない体で、辛うじて動く目を使い、自分を抱える彼女を見る。明けの明星が輝く空に向かって、彼女は懸命に羽ばたいている。薄汚れた白い髪が風と、背後で巻き起こる重力子の奔流に靡くのを見て————私は、場違いにも、神々しい光景だと思ってしまった。

 

 彼女の頭上に輝く、王冠のような紫の光輪(ヘイロー)(自分)にはない、覇者の気質。本当の力持つ者が誰か、運命という因果そのものが如実に示しているかのような……。

 

 ————代わりに、()はどうだ?

 

 途切れそうになる意識の中で、最後に残ったものを見る。手の中に残った、助けられなかった無意味な、救いを求めていた光。つかめなかった命。取り返せない、その命。炎と硫黄の匂いの中で、永劫に苦しむのを予見する。

 

 ————————嗚呼、そうか。

 

 ——————これが、()の結末か。

 

 ————()の中にあった、その神秘の行く末か。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、む?」

 

 懐かしい夢を見ていた。かつての、世界の外側の価値基準を思い出した日のことだった。アイマスク替わりにしていた帽子の鍔を目元から取り去り、天井を見上げた。

 私は窓際の机に座り直し、執務室の卓上に置かれた週刊漫画雑誌を無造作に広げながら眼下の風景を眺めてみる。

 

 ここは、学園都市キヴォトス。数多くの学校が自治区を纏め上げる歪な世界。

 

 『前世か何か(キヴォトスの外)』の記憶がある身としては、子供なんぞに政治をやらせるなと思うのだが、周りの大人は何をして……いや、大人で良いのかアレらは?人間ですらなく、ただのロボットか二足歩行の哺乳類なんだが?

 

 あの日の事故を境に現在の自分を確立させた自分に限って言えば、頼れる大人であるはずの保護者の存在も記憶から消えたのか、物的証拠も見当たらんし。他の生徒はどうなのか、激しく聞いてみたい。

 

 その上、このキヴォトス————ものすごい治安が悪い。学園都市というだけあって、住人は多感な思春期の生徒が大部分を占めている。それが治安に何故関係するのかと言われると、精神的に未成熟な問題児が多いから————というのではない。いや、それもあるかもしれんが、後述する理由に比べれば些細な要因だろう。

 

 この『生徒』という枠組みの存在が、まあ色々おかしい。自分もそうだが、もうそういう別種の生命体だろう、このキヴォトスの生徒。

 大人のカテゴリーの生き物に比べて、体の頑強さと体力、運動能力などが異常なのだ。その硬度は銃弾が当たっても砂利がぶつかった程度のダメージで、命を脅かすものですらない。そんな肉体を持っているせいで価値基準がキヴォトス外と全く違くなるのは当たり前。

 

 ——————うん、だからと言って銃をこれ見よがしにプラプラさせるのは違うと思うのだが、私だけか?スケバンが釘バット持っているようなものか…?いや、良いのだけどな。もう価値観は理解できないなりに、『そういうものだ』と扱うことにしたし。

 

 私の所属する学校————悪魔が学生として在籍する『ゲヘナ学園』から下校する生徒たちの、肩や腰に吊り下がるガンマニア垂涎の銃を見て、溜息を一つ。ついでとばかりにダイナマイトか手榴弾か何かが遠くで爆発した音がする。

 

「全く……。今日もゲヘナの生徒共は支配から逃れようと平和だな」

「いや、滅茶苦茶騒がしいんですけど……」

 

 私の呟いた声に対してツッコミが入る。暗がりで読んでいた文庫本から顔を上げたのは、赤髪に黒コートが特徴の女子生徒……『棗イロハ』。私がなんやかんやあって右腕にした、一学年下の生徒である。

 

「…ま、二年ほど前に比べれば雲泥の差だ。さて、今週の『妖術怪戦』は……っと」

「あー、議長。ネタバレやめてくださいねー?私も読むんで」

 

 『議長』。議長かぁ……、改めて考えれば大層な肩書だ。学区自体が国のような扱いのキヴォトスで、学校のトップともなればもはや国王や総理大臣に相当する。流れに身を任せていたらそんな地位に就いてしまった。

 自分で言うのもダメかもだが、かなりアレだぞ私。記憶は地続きのかつての『自分』と、あの日思い出したキヴォトス外の『私』が完全に融合した結果、物事を見る目が多角的な感じになってはいるが。

 まあ、やるからには自分がやりたいようにさせてもらう。折角生まれ変わった心持ちなんだ、好きなことをしなければ後悔するだろうしな。

 

「こんにちはー!マコト先輩ー!」

 

 お?この声は……。

 

「おぉ、良く来たな~イブキ。今日は特別に『ルワゾー・ブッレ』のプリンを買ってある。食べて良いぞ?」

 

 扉を開けて、低い身長でぴょこぴょこ歩いてくる我らが生徒会のマスコット、『丹花イブキ』11歳。飛び級で高校生のカリキュラムを修学している天才児であり、ゲヘナ生とは思えないほどの良い子でもある。本当に、テロリスト倶楽部共もイブキのことを見て少しは学んでもらいたい。……いや、奴らも純粋さで言えばどっこいどっこいなのが質悪いな。

 

「わぁい!ありがとうマコト先輩!それとね、それとね!廊下で風紀委員長(・・・・・)と会ったからね、ここまで案内してきたよ!」

 

 ……——————。

 

「そう——か」

 

 イブキの言葉の後に開く生徒会室の扉。見惚れるほどの豊かな白髪が揺れていた。小柄な体躯でありながら大人びた面立ちでこちらを見る『彼女』が、口を開く。

 

「久しぶりね、『マコト』」

「————何か用か、『空崎ヒナ』風紀委員長?」

「万魔殿議長であるあなたに尋ねたいの。連邦生徒会長失踪の件について。三大校と特につながりが深かった彼女がどうしていなくなったのか、分かる?」

「……ほお?」

 

 彼女の冷静な性格によく似合う、黒い軍服型のゲヘナ学園制服に袖を通した腕が伸ばされる。その手には、私がとあるツテで調べていた『超法規的組織(仮)の設立』のメモがあった。というかこいつ、これを持ってきたということは、私のセーフハウスに勝手に入ったな?

 

「……もうそこまで見つけたのなら、答えなど分かり切っているのではないか?というかまたお前は一人で突っ走ったのか……。余計なことまで抱え込むのは生真面目すぎるお前の短所の一つだな」

「————ええ。でもそうせざるを得ないから。最近、万魔殿(あなた達)風紀委員会(こちら)に情報を隠蔽することが多いでしょう?嫌がらせかなにかかしら」

 

 嫌がらせ……ときたか。全く、ワーカホリックが過ぎるのではないか?予算削減で風紀委員会の活動を一時停止にして、無理やり休ませたほうが良いのだろうか?

 

「————必要な分の情報は流している。それで察しろ。我々は行政を、そしてお前たちは軍事を担当し、互いを監視し合うのが今のゲヘナではベストな選択なはずだ。お前らが我々の抱えている問題まで知るとゲヘナ全体の不利益にしかならん。特に————『天雨アコ』行政官が勝手なことをしないと言い切れまい?」

 

 いや、本当に。あいつヒナが絡むと大暴走する可能性あるからな……。おいイロハ、なんだその似た者同士とでも言いたげなジト目は。

 

「アコは、……兎も角。私にも多少の情報の共有はないわけ?」

「無いが。それが?何か問題でも?」

 

 面倒くさがりの癖に全部背負いこむお前のことだ、結果なぞ見えているわ。エデン条約にも首突っ込もうとしているの、私は知っているんだからな。

 

「……平行線ね。そんなだからクロノスの報道部から、偏向報道で『ゲヘナ学園の独裁者』なんて言われるのよ」

「はっ、二年前からここまで学園運営の規律や仕組みを変えてもなお、『雷帝』の影が残っているのだ。その程度の汚名なぞ気にする必要があるか?何処かしらに膿くらいは出るものだ。何より大半のゲヘナ生たちに認知されていない現状は、色々(・・)と都合が良いしな」

 

 なんだ?納得のいかない顔をしているな。本当に真面目が過ぎる、ゲヘナの連中に正論を説いても無駄だろうに。裏から事後承諾でことを起こしても、奴らは何も気にしない。連中が政治に興味がないならそれを利用すれば楽だろう?

 

「…………」

「————。ま、未だサンクトゥムタワーが沈黙してまだ一週間も経っていない。連邦生徒会本部は奴のワンマン運営の弊害で、間違いなく完全停止する。動きがあるとすれば早くともあと数週間後だな。そちらで時間ができたら『火宮チナツ』でも連邦生徒会本部に送っておけ。ゲヘナの中でもマシな人選だろう」

 

 だから退陣の際の引継ぎマニュアルくらい作っておけというのに…。その点においてはウチは万全の状態だ。今は風紀委員会や万魔殿の裏部隊が平定していると言え、治安がクソなのは変わりない。万が一が発生したらの想定くらいは為政者として当然の義務だ。

 

 というか一年周期の任期なのだから、内訳程度なら残しておけよ歴代生徒会……。いや、雷帝時代を焚書にしたかったのは分かるんだがな?情報網をフル稼働させて方々の生徒会を調査していい感じにするの大変だったんだぞ。

 アビドス?赤冬?あそこは参考にならん!

 

「あなたは二年前から変わったわね。……マコト」

「それは、情報部の時のことを言っているのか?だとしたら、————それはもう終わったことだ」

 

 

 

 ……嗚呼。全く頭が痛くなる。あの頃の自分にあった、根拠のない自信が今となっては眩く思う。

 少なくとも生徒ではありながら、既に大人になってしまったからなのか。現実の冷淡さが改めて良く分かる。年齢で言えば、あの事故で留年した私は18歳。前世とやらの経験則を含めれば、四半世紀分はとうに生きている。当然自分の行動には責任を持たなければならない年齢だ。大人たちの中に混じれば、『18で年下だから』、何て言い訳はもはや通用しない。

 甘えはもう、必要ない————。

 

 

 

 

 

 私は一人、執務室にいた。

 

『……キヒヒッ。ところでお前、空崎ヒナと未だ友好関係を続けているのか。————ヤツのことなど心の底から(・・・・・)嫌いだろう(・・・・・)に、良くもまぁ自分の心を殺せるものだ』

「————ふん。それが『本来の羽沼マコト』だから……とでも言うわけか、お前は」

 

 不意に、鏡の中から声が届く。空気を伝わることなく、脳に直接届く……愉楽に富んだ声音だった。

 万魔殿の壁にかけられた鏡の中に視線を向ける。そこには、私の姿が映るのみ。ところが、『鏡の中の私』の姿が闇に包まれ服装が変わる。

 

『キハハハッ!……それで、どうする?もう間もなくで、シャーレに先生(・・)がやってくるぞ?』

 

 日が暮れた黄昏の夜空を思わせる濃紺のドレスを着た、もう一人の私。後頭部で結った長髪を靡かせる彼女は“いつも通りの/昔の私の”笑い声を響かせ、こちらを向いて、蛇の視線で問いかける。

 

 —————さあ、どうする?……と。

 

「……、先生か。さて、外の世界から来た人間は、今度はどんな大人なのか……。この銃社会のキヴォトスで、暴力だけしか持たない子供にも救いの手を伸ばすようなお人よしなら、我々にとっては好都合だとは思うがな」




 注)ただしPONの気配がある……シリアスパート多めなアル社長with生徒会バージョンだこれ。
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