ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線   作:サルミアッキ

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 すみません。ストレスとかで調子おかしくて精神科に……。そんな近況報告はどうでも良いだろうので、どうぞー。お待たせ。
 導入部なんでそこまで進展はないなこりゃ……。


Vol.2時計じかけの花のパヴァーヌ編『究極の超越神(アルティメット・オーバーゴッド)
「ん、先生とミレニアムに行く」


 私……ヴィッテンベルク総合学習塾の塾長『メフィスト』は一人、来客を待っていた。

 

 —————メフィスト。すなわちメフィストフェレス。とある伝説の流布によって世界中に知れ渡った悪魔。

 本来の私(羽沼マコト)が京極サツキの催眠術を用いてデザインし、ゲヘナ以外の場所での活動を主目的とした別人格。

 

「……」

 

 ドイツ民間伝承『ファウスト伝説』を下敷きにした幾つもの物語に登場し、あらゆる学問を修めた博士に付き従い、彼に魔術を授けた悪魔だということが共通している。

 しかし、人々に知られているのはそれだけである。有名な悪魔たちには、ルーツとなる異教の主神……つまりキリスト教によって貶められた、言うなれば蕃神たちの原型が大なり小なり存在している。

 だが、メフィストフェレスには『それ』が無い。辛うじての俗説として、————確かどこぞの専門書のすみに数行書かれた程度だったか————、カルデア人に伝わる地獄の七大君主の一角であるとか、ルシファーの配下であるとか、古くから存在する悪魔とする説がある一方で、名前の由来さえも不定であり、近代の創造上の創作悪魔でしかないとする説まで幅広い。

 ……それ故、だからだろうか。民間伝承において、そして、ゲーテがファウスト第二部に記したからだろうか。キリスト教にしか存在しない悪魔だが、トロイアのヘレネ、パリスを召喚できる魔術をファウストに与えることのできる怪物。そんな歪な在り方が形になった悪魔。つまり、私の————メフィストという神秘は活動できる神話大系(テクスチャ)を無視できる。世界観の影響を受け付けないという、相性無視の禁じ手だ。

 異教の徒であろうとも、縁という取っ掛かりさえあれば古代ギリシャにさえ行けるメフィストフェレス。羽沼マコトがこの神秘を疑似人格の核として選んだのは恐らく、これから起こることに備えてだろう。

 ギリシャ……ギリシャか。確かに、あの学校はメソポタミアの神性を持つ生徒も多いが、聖書世界の神話大系もまたメソポタミアにさかのぼれる。そもそも校名が『千年王国』な時点で、国教繋がりのギリシャ・ローマと親和性が高いのは当たり前、か。

 

 ……おっと、噂をすれば影だな。

 

「—————ようこそ。人払いは済ませてある。かけてくれたまえ」

「会談の場を設けてもらって感謝するわ。ヴィッテンベルク総合学習塾長」

「構わないとも。こちらもエデン条約の裏からの手回しがあるしな……。そもそも出歯亀共(ヴェリタス)のせいでプライバシー保護の欠片も無いあの場所(ミレニアム)では会話もできんだろう。あ、紅茶で良いかな?」

 

 “黒髪に赤い目、真っ白な肌の女生徒”が私の手から湯気立つマグカップを受け取り、口を付ける。

 紅茶で喉を潤し、ほぅ、と一息をついた黒いスーツの女生徒。整っていながらも冷徹で近寄りがたい鉄面皮は変わっていないが、そこそこ長い付き合いの私は、安堵の心が滲み出ていることを察した。

 頃合いか。私は懐から一枚の小切手を取り出した。

 

「……エリドゥ建設の出資は、これで足りるかね?『調月リオ』」

「————。ええ。これで最終プランが実行できるわ、ところでメフィスト。そちらからも人員を派遣するという話だったのだけれど、どのような塾生が来るのかしら」

 

 ああ、そうだったな。各方面への根回しで伝えるのが最後になっていた。おや?何やら不満顔……いや、計画に支障が出かねないノイズを嫌っている顔だな、これは。

 

「……。コードネーム04やお前の作品の力を疑っているわけではない。ただ、こちらから派遣する塾生本人たっての希望でな。貴女に伝えたいことがあるそうだ」

「?」

 

 心当たりがないという表情だな、調月リオ。まあ当たり前か。()()が、他人と深い関わり合いになるかと言われたら、なぁ。

 多分そろそろ……お。来たか。

 

「—————お久しぶりです。ミレニアムサイエンススクール生徒会長」

「……、っ。————そう、あなたが……。失踪した後、ここにいたのね」

「ええ。あの場所は窮屈でしたから。……、ああ。別にあなた方が悪かったというわけではないので、お気になさらないでください」

 

 ドアを開けてやって来た我が塾の生徒に、表情の起伏に乏しい調月リオが愕然とする。

 

「連邦生徒会長はいなくなり、自治区郊外にある廃墟への侵入が容易になった。この機会を逃すわけにはいかないでしょう?無名の王女はともかく、あの場所に封じられた鍵を、そして神名十文字を————是非とも回収、分解、解析し、自らの命題の一部としたいと思いませんか?」

「……怖いもの知らずの自信家ね。あなたと言い、『全知』の学位に認められる生徒はどうしてこう……。その選択が、自分の首を絞めないと良いわね」

「お気遣いいただきありがとうございます、生徒会長。ですが恐れ多いことですね。結局、その学位を授かるより先に自主退学してしまいましたし。今の私はただの……神をも超越する究極のゲームクリエイターですよ」

 

 —————蒼い猫が嗤う。ミレニアムサイエンススクールの校章が外された制服を整え、居住まいを正す。

 

「……、はぁ。変わらないわね、『才羽アオ』」

「————やめてください。その名はもう捨てました……」

 

 才羽。その名を聞いた才羽アオの顔は、屈辱に歪んでいた。開き切った瞳孔を両の手で覆いつくし、震え、俯きながら声を絞り出す。

 

「私はあんな凡庸な……、いいや?ゲームへの誤った情熱をドブに捨てることしかできない、あんな二人とは違う……。血が繋がっていることすら悍ましい。ゲームであるならばリセットがしたいほどに。私は……、神を超える私の恩恵の結晶であるゲームを通じて、才能に課せられた命題を解き明かすのです————青き黙示の記録を。この学園都市というレイヤーに覆われたキヴォトスの根底を」

 

 

 

 

—————「箱」の主、無名の司祭、箱舟……。それら全てを知っている。全ての名を知っている。私は、遍く神を超越できるアルティメット・オーバーゴッド。プレーローマのアイオーンを模倣し、世界を創造できるもの。これは驕りではない。当然の帰結でしかない。私はプラトンから変化したグノーシスの崇高、デミウルゴスであるが故に創ることができる……神のゲーム『ブルーアーカイブ』を。

 

 

 

 

「……あ、それと。私がブラックマーケットで立ち上げたゲーム会社が作った新作ゲームです。お近づきのしるしにどうぞ。新感覚の推理ゲームになったと自負しております」

「……、どうも。(やる時間はないでしょうけど……)えぇと、『ミレニアムロジック』?」

 

 ああそれか。私もやらされたが、良くできてたな。本当、性格がアレなこと以外は本当に天才ゲームクリエイターなの、始末が悪い……。だが、ゲームを楽しむ顧客なら普通に対処してくれるのは、倫理観と治安が終わっているキヴォトスの中じゃマシな部類か。

 そういえば……誰だったか、伝説のゲーマー『UZQueen』とか言うプレイヤーにご執心だったなコイツ。ぶら下げる人参として調べておいてやるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三小隊、遅れているわよ。スリーマンセルでの行動を心がけなさい。アコ、あとの指揮はお願いね—————戦闘演習にアビドスの砂漠を貸してくれて感謝するわ。アビドス高校対策委員会」

「いやいや~。こっちも使用料払ってもらって借金返済のアテになったし、お互い様だよ~。持つべきものは友達だねぇ~」

 

 その日。アビドス砂漠にて、ゲヘナとアビドス間で合同演習が行われていた。仮設テントで日光を避けながら、空崎ヒナと小鳥遊ホシノは風紀委員たちの奮戦を眺めていた。

 

「—————ホシノ先輩。ゲヘナの風紀委員長」

「?」

「どうしたの~。シロコちゃん?」

 

 キヴォトス最強格の二人に、一人静かに近づくのは砂狼シロコ。いつにもましてキリっとした、決意に満ちた表情で口を開いた。

 

「もっと強くなりたい。勝負しよ」

「うッへ何ぃ!?どしたのシロコちゃん!?二年前に逆戻りしちゃったの!?」

 

 ゲヘナの秩序維持組織のいる前で、突然の爆弾発言だった。

 

「……アビドスって個々人の気質で見るとゲヘナより暴の者よね…」

「“私”の後輩にそんなこと言わないでくれるかなヒナちゃん!?」

「否定できるの?二年前まであなたたち、弾代節約とか言って銃とか盾で殴りかかってたじゃない。しっかり後輩に受け継がれてるわよね」

「……うんやめよっかこの話。あとそれは仕方なく!本当に仕方なくだから!それにヘルメット団盾にしたのはそっちの議長が最初でしょ!」

 

 閑話休題(ちょっと待ってね)

 

「うーん……。でも、おじさんたちの戦い方はシロコちゃんには合ってないだろうしねぇ……」

「ん。それは私も分かってる。だから昔みたいに、まず強い人と戦って考える」

 

 やめなさい!と慌ててシロコの銃を持つ手を取り押さえるホシノ。こんなところで学校間のいざこざを出したくないホシノだった。

 

「……でもあなた、カイザーとやり合ってた時、ホシノちゃんの盾使っていなかったかしら?」

「うへ?そーなの?あれ、結構癖があるっていうか……、使う人選ぶっていうか?そんな武器なんだけど?」

「ん、そうなの?あの時も問題なかったし、気にしてなかった。それに、ホシノ先輩の動きは見て覚えた。使えない道理は無い」

 

 シロコの言葉に、二人は顔を見合わせる。

 

「「……もしかして」」

「?」

 

 

 

 

 

 

「それで私、か……」

「マコト。頼める?」

 

 シャベルを使って砂漠に穴を掘っていたマコト。やることが集団戦闘訓練の監視で暇だったらしい、待機していた風紀委員と一緒になって模擬演習用の地雷を一帯に埋めていた。

 

「……ねぇホシノ先輩。本当にこの人、強いの?何か、雑用やってるし」

「……うーん。素直に頷くのはなんか違うけど、まぁー……そんな感じ?」

「ん、歯切れ悪くない?ホシノ先輩救出作戦の時、前に出ようとして足払いされたのも、弱すぎて足引っ張らないようにするためかと思ってたけど」

「……、ずばずば言うわねこの子……」

 

 だが確かに、とヒナは思う。安全第三と書かれたヘルメットを脱ぎ、汗ばんだ額をタオルで拭う万魔殿の議長の姿に、救出劇の時のカリスマは感じられない。

 

「強くはないな。私の戦闘技量はまだしも、筋力や反射神経などは小鳥遊ホシノや空崎ヒナの足元にも及ばないだろう。だが……」

「—————っ!」

 

 —————シロコの喉元に、シャベルの先端が付きつけられていた。

 

「如何なる手段、あらゆる方法を使って良いならば、例え相手は奴らであろうと私が負ける道理は無い。————そうだ、何も馬鹿正直に真正面から勝つ必要がどこにある。勝ち負けで優劣を決めるのは大人がルールを定めたお遊びだけだ。だが現実は違う。要は幾ら失敗したとしても、最後まで“負けなければ良い”のだ」

 

 おおきく振りかぶられたシャベルが、空を切った。

 

「砂狼シロコ。お前は、空崎ヒナのような神秘による一撃必殺の攻撃も、小鳥遊ホシノのような頑強な神秘の防御も無い」

 

 素早く臨戦態勢へと移るシロコは、身を屈めて白い愛銃を構え距離を取る。

 

「突出した力が無い。だから一芸に秀でた者に憧れる。その気持ちは理解する。だが、お前の持ち味はそんなものではないと私は考えている」

 

 マコトの頭部、胸部、首元に向かって正確無比に飛んでいく弾丸。それをシャベルの幅広の刃で薙ぎ払いつつ身を翻し、肩にかけていたコートの裾を使ってシロコを牽制する。

 

「重要なのは経験に裏打ちされた選択だ。例えば、今の私には武器が無い。だからこそ—————」

「……っ、私の銃……!」

 

 鈍い音がして、シロコのアサルトライフルが宙を舞う。続けざまに、マコトの長い四肢から繰り出される蹴りや打撃がシロコの喉元や蟀谷に突き刺さる。

 

「ん……っ」

「と、このように相手から銃火器を奪えば、攻撃手段の確保、相手の無力化を同時に行える」

 

 砂上に落ちたシロコの銃を肩に担ぎ、左手でミサイルが内蔵されたドローンのリモコンを指先でくるくる弄るマコト。

 彼女は自然体のまま、アサルトライフルWHITE FANG 465を構え引き金を引いた。

 

「それに、この銃……アサルトライフルか————、やドローンも特徴さえ理解すれば扱えるしな」

「ッ————、んぐ!?」

 

 一発の弾丸が砂漠に着弾する。跳躍してその攻撃を避けたシロコだったが、腹部に衝撃が走り、酷く強かに地面に落下した。

 彼女の身体に突き刺さるように激突したのはドローン。シロコの周囲、付かず離れずの距離を移動しながら飛んでいる。

 マコトはシロコから奪ったリモコンにコマンドを入力し、ミサイルコンテナ部分を解放した。

 

「……切札としてではなく、火力支援用としてドローンを操っている————?あんな使い方をするなんて。でも、今はこっちも反撃を……」

 

 だが、シロコの手元には銃がない。砂漠をひた走りながら、シロコは周囲に虹彩異色の視線を巡らせる。

 

「……ん、セリカ。貸して」

「ちょ、シロコ先輩…!?あーもう!」

 

 後輩の傍を通り過ぎるついでに、彼女の手にあったアサルトライフルを捥ぎ取った。そして、身を屈めながらもゲヘナの長に銃を向け……。

 

「ん、当たった」

「……成る程。悪くない。機転の利きも良い。しかしそれは、アサルトライフルを持つ人間が傍にいたからこそだ。そこに黒見セリカがいなかった場合はどうしていた?十六夜ノノミだった場合、お前はガトリングガンを借りてそれを扱えるか?小鳥遊ホシノのショットガンは?戦闘用のヘリしかなかった場合どうする?」

 

 セリカの銃から何発も飛んでくる弾丸を、射線上にドローンを移動させることで防ぎながら、銃撃と言葉を続けるマコト。シロコの心を乱すように、抑揚を付けて唄うように聞かせる。その様子はさながら教師のようだった。

 

「……」

「そうだ。もっとよく考えろ。お前の趣味の、銀行強盗の計画立てと根本は同じだ。最終的な目的は何か?それを達成するために何を用意し、何を行えば良いか?起きうる不測の事態とは何がある?失敗した時、挽回する手段は何がある?」

 

 マコトの銃から、最後の銃弾が放たれた。

 

「良し、これで……!」

「ッ」

 

 しなやかな四肢をバネのように伸縮させ、シロコはマコトへと身を躍らせる。彼女は肉弾戦に持ち込もうと拳を握り、飛び蹴りを繰り出した。

 マコトの腹部にスポーツシューズが突き刺さる。もんどりうって倒れ込んだマコトに、シロコは容赦なく拳を振るわんとした。

 

 —————突如、マコトが横薙ぎに手を振った。

 

「砂ッ!?目、が……!」

「……甘い見通しは捨てろ。痛い目を見るぞ。リスクヘッジはしっかりな」

 

 目を擦り、たたらを踏むシロコ。ぼやけ、霞む目線の先でマコトがゆらり…と幽鬼のように立ち上がる。

 

「お前はあらゆることを“よく見ている”。そして手先も器用で、即座に考えたことを行動に移すことができる。それは価値あるものだ。無くすなよ」

 

 だが……と前置きをして、マコトは口角を上げ笑みを深めた。

 

「キヒッ……ここまでか、よくやった方だろう、—————っ!?」

 

 ……砂漠に風が吹く。チリ、と、マコトに喉元が焦げるような焦燥が襲い来る。

 

「これは……!?この短時間で————!」

 

 目を閉じたまま、シロコが駆ける。視覚に頼らず、四つの耳で空間を立体的に把握し、狼の嗅覚を頼りにマコトの元へと突き進んで来る。

 

(やはり、認めざるを得ないな。砂狼シロコ、お前に潜在する戦闘の素養は—————‼)

 

 

 

—————キヴォトス最高の神秘、小鳥遊ホシノに比肩する。

 

 

 

 

 

 

「んッッッ‼もーいっかい!勝負しよ!」

「イヤだが?そもそも私が戦ったのは空崎ヒナや小鳥遊ホシノからの要望だったからだ。そうでなければデスクワークの人間であるこの私が、お前たち頭アビドスと戦うものか。というか、お前普通に強いだろうに……」

 

 万が一に備えて懐に入れておいた万魔殿制式拳銃が決め手になって、本当に良かった。本当はこんな危ない橋を渡るのはこれっきりにしたいのだがね?年上の面目躍如になって、本当に良かった。

 

「もう一回、勝負しよ!」

「聞けよ話。……はぁ(策は幾らかあったとはいえ、本当にギリギリの勝負だったんだが?やはりおかしいなこの砂漠の民ども、全く小鳥遊ホシノもユメさんも、本当に…ッ!)」

 

 これからエデン条約でひと悶着ありそうだというのに…!手の内はできるだけ隠しておきたいが、そうは問屋が卸さんだろうあの茶飲み連中が!特に、そう!私と兄弟の崇高持ってるゴリラ!

 というかあのザクロ頭め、ろくでもない爆弾手に入れおって!ゲマトリア間の取り決めで仕方がないとはいえ、あの二人に文句の一つでも言いたいなぁ!

 —————ハァ……、今後が憂鬱だ。

 

「その、マコト?幾らヘイローがあるとはいえ、眼球めがけて砂投げつけるのは……もうちょっとこう手心というか……」

「……。何か文句でも?というか最も効果的だろうが。この場所に幾らでもある目への継続ダメージと視覚のジャミングができる優れものだぞ。使わない手などないだろう?」

 

 そういえば、昔からこいつは行儀の良い戦い方しかしないな……空崎ヒナ。まぁ、どんな相手でも小細工無しで叩き潰せるから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

“おーい、みんなー”

 

 ……おや?

 

「あれは、先生か?このアビドス砂漠までご足労だな……」

「うへ、何々~、どしたの~?」

「シャーレの仕事か何かかしら…」

 

 万魔殿親衛隊に案内され、仮設テント内に通されたシャーレの先生は頬を掻いて笑う。

 

“そうだね。これからミレニアムサイエンススクールに行かなくちゃならなくなって。それで、アロ……知り合いからの忠告で、一人護衛をお願いしたいんだけれど”

 

 ミレニアム、か。セミナー会長の計画が始まったということだな。案外と進行が早いぞ?てっきりエデン条約が終わってからだと思っていたが……。まぁ良い。ファウストの準備はとうに終わっている。あとは、才羽アルティメット・オーバーゴッドのアドリブ次第か。

 

「ふむ、ミレニアムに……だが、残念ながらゲヘナ学園の生徒は貸し出せんな」

「ちょ……マコト?」

 

 天井を見上げ、目元を軍帽で覆い目を閉じる。あー疲れた……。

 

「今、こちらは忙しい。外交上、トリニティ間の条約締結が差し迫っている時期に他校間で問題を起こしたくない。それに、我が校でシャーレに所属しているのは今のところ火宮チナツのみ。彼女は現在、ヒノム火山の演習に行っている。……アビドス、そちらはどうだ」

 

 というか、既に結論は見えているがね。

 

「えぇっと……セリカちゃんはこれから柴関でバイトがあるし、ノノミちゃんはちょっとハイランダー辺りとごたごたがあったらしくて、アヤネちゃんと一緒に行動してるよ~。残ってるのはおじさんとシロコちゃんだけど~、シロコちゃん一人で残しちゃうと……、銀行強盗しちゃいそうだし……」

「む、心外」

「……フン。そもそもお前自体がアビドス自治区の抑止力となっているフシがあるしな、小鳥遊ホシノ。お前自体がここから動くのはナンセンスだ」

 

 つまり……。

 

「となると、護衛は決まったようなものね……」

「ん、先生とミレニアムに行くのは、私」

 

 むふー、と胸を張る砂狼シロコだった。元気だなコイツ……。

 

 

 

 

 

 

 その時、ホシノのホルスの瞳にノイズが走った。

 

 ————先生の立っていた場所には、引きずる程に長いマントと、デスマスクを着けた巨躯の怪人が。

 

 ————怪人の傍らには黒いセーラー服の白髪の子供が。

 

 ————そして、砂狼シロコによく似た黒いドレスの美女が。

 

 

 目の前で砂漠を歩く、大人(せんせい)後輩(シロコ)、二人の姿に重なった。

 

 

 

「————っ!?」

 

 恐怖を感じた。梔子ユメの死んだ時と、似たような……心臓を掴まれるような、喉の奥が締め付けられる、あの感覚だった。

 

「……?どうしたの、ホシノちゃん」

「え、あ……うん。なんでもないよ?」

 

(なん、だったの。今のヴィジョン……)

 

 空崎ヒナの心配の声も届かない程に動揺し、震える手で口元を押さえる。

 

(大丈夫、だよね。シロコちゃん……)

 

 

 

 

 

 ほう。流石はホルスの目。その可能性を見通すか。

 黒服にはああ言ったが……砂狼シロコ、奴も崇高に近づけば私の目的を遂げるための手段になりえる。新たな死の神として……梔子ユメの()()として。

 かの狼の神は、プトレマイオス朝の信仰でケルベロスと同一視された。そして、ケルベロスはソロモン七十二柱の内の一つ……ナベリウス。エジプト神話のレイヤーであるアビドスではなく、あらゆる神話の悪へと貶められた神々が混沌を成す地獄のレイヤー、ゲヘナならば————。

 

 

 

「だが、梔子ユメの崇高をセラピス習合したほどの存在にはならない、か。そもそもメサイアの崇高に通じる生徒が極少数なのもあるがな。偽救世主は従来の計画の通り—————」

 

 

 

——————————私が救世主(せんせい)相対(てきたい)するとしよう。




 本当はエデン条約編を先にしようか、とか思ってた。ただ、この世界線だとほぼ同時進行(パヴァーヌ一章→エデン条約編→パヴァーヌ二章)な流れに。だけどパヴァーヌは一纏めになります、はい。
 本作マコト様の戦闘技巧をどうするかで悩んだ。けれど、今後の流れ的にこのくらいの強さ持ってないとマズイので……。
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