ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線   作:サルミアッキ

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(日本刀持って片翼の天使状態になってるUOGロン毛Ver.)
マコト様「……セフィロ●!」
デカグラ「呼んだ?」
マコト様「いや生命の樹じゃねぇよ」


 えー小芝居はともかく……。

 お 久 し ぶ り で す 。 お ま た せ し ま し た 。 す い ま せ ん で し た 。

 今頃拙作を見ている人は少ないかもですが、それではどうぞ……。


さあ、絶望を送ろうか

 ミレニアムサイエンススクールのビル群の一角。そこに立ち、ミレニアム学区内の様子を伺う二つの人影があった。

 彼らの周囲に浮かぶ空間投影モニターには、様々な生徒たちの悲喜こもごもが映し出されている。

 

『ん……、んっ……!』

『うへへ~ちょっと待ってよ~シロコちゃーん……、ミレニアムで出た覆面水着団についてお話ししよう』

『んーっ!』

 

 オッドアイのピンク髪にじりじりと追い詰められている狼耳の銀髪少女が、顔を真っ青にして銃を構え……あっ、ボコされ始めた。

 

『うぉぉぉぉぉ今の私なら出来る!体の奥底から心なしかクリエイター(ぢから)が溢れ出ている気がするよぉぉぉぉぉ!シナリオ完成まであと二割くらいだぁぁぁぁぁ!』

『あーあるあるだよね、なんかわからないけど根拠のない創造力が湧いてくるの……あんなに筆が乗ってるお姉ちゃん久しぶりに見た』

『そ、そうだねミドリ……、この進行状態ならテイルズ・サガ・クロニクル2の締め切りに間に合う……』

『うわーん、チビメイド先輩から目を付けられました、アリスは逃げられません!』

『『『はいぃぃ⁉このタイミングでェェェェェッッッ⁉』』』

 

 一方、別のスクリーンではゲーム開発部の一幕が。どうやら、G.Bibleの肩透かしを乗り越えて自分たちのゲームを作ることにしたらしい。しかし、観測者である■■■■■には、凄まじく騒々しく慌ただしい女児たちだと思わずにはいられなかった。

 

『……あぁぁぁぁぁ!今のは絶対黒の4に入っていたでしょォォォォォォ⁉せっかく大量の軍資金用意して来たのにぃぃぃぃぃぃ⁉』

 

 そして、オデュッセイア海洋高等学校のカジノで有り金全部溶かした白兎。ご愁傷さまです。

 

「……なぁ、ゴルコンダ、そしてデカルコマニー。キヴォトスとは何だと思う?」

 

 ブラックマーケットの私塾長、メフィストが烏を模した仮面の奥の口を開いた。

 

「キヴォトスの外、と呼ばれる場所がある時点で、この箱舟の世界は概念的に閉じている」

 

 彼女から静かに語られるのは、このキヴォトスの神秘の解釈だった。

 

「ここは神話の再現地か。確かにそう解釈することもできるだろう。だが、それだけでは他のエッセンスに説明がつかない。何故生徒と大人の姿が違うのか、キヴォトスという箱舟に乗せられたのは本当にあの神々なのか」

 

 その独自の解釈に、彼女の背後で耳を傾ける怪人がいた。

 

「箱舟の意味を持つ学園都市。箱舟という意味を持つ、あらゆる生命の源を収めた場所。だが私はここを、全人類の集合的無意識そのものの再現だという要素も含んでいると考えている。深層心理の最奥がアイデンティティ確立時期の学園もの……即ちモラトリアムの皮を被っているのではないか。名前を忘れた神々で溢れかえっているのも、人の心には神話の類型である元型が集合的無意識に存在するからだ。女子生徒ばかりなのは深層心理の元型の一つにエディプスコンプレックスが強くあるためか。大人と呼ばれる存在が機械か獣人なのはドゥルーズ&ガタリに曰く無意識は生産、製造する機械と捉えられること、また人の獣性が理由なのかもしれないな。そして、キヴォトスの外から来た存在……お前たちゲマトリアや先生は、哲学的・神学的・数学的アプローチの差はあるものの、率直に言って超人やアカシックレコード接続者(コネクター)といった類の存在なのだろう」

 

 彼女の所感の発表に、首のないコートの男が持つ額縁の絵から感嘆の声が上がる。心からの関心がその態度にも滲んでいた。

 

「……ほぉ。その解釈は新しいですね。成る程、我々は文学や符号を通じてこの地の神秘を解き明かしていますが、獣の数字は神学と心理学の融合による照応……いやはや、こちらも面白い知見を得られました」

「そういうこったぁ!」

 

 メフィストはふ、と満足げに鼻を鳴らす。同じゲマトリアであっても、見ているものが違うのは理解していたが、こうディスカッションするのも悪くないと。

 

「さて、これで物語の第一章はエンドマークが記されるだろう。だが、ミレニアムの裏に潜む破滅は未だに健在だ。その破滅の力は、我らが為の贄になってもらわなければ。私も、我が同位体も、そして我が魔王も……すべての闇を手に入れる。————間も無く、我らの()()()()は完遂に至る」

 

純黒にして全てを呑み込む至悪の無神論————『バチカル』

意思を阻害せし俗物の侵略者————『エーイーリー』

違いを認めぬ干渉の拒絶者————『シェリダー』

無感動なる安楽をもって罪を犯す撤廃者————『アディシェス』

不条理を拡げる惨酷な挑発者————『アクゼリュス』

喜悦に耽る醜悪なる犯行者————『カイツール』

色を根源とする極点の天空————『ツァーカブ』

闇に仮定されし貪欲————『ケムダー』

安定を否とする力の汚染者————『アツィーアツブス』

唯一つなる物を論う地獄の漂流者————『キムラヌート』

 

 それらは、ゲヘナの奥底で時を待つ。魔術王の神鍵の目覚めと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……三年前。

 

 この世界が、本来在り得ざる場所であると気付いた生徒達(かみがみ)がいた。

 

 そこは、敗れた神話の終焉地。あらゆる汚濁と不条理を許容する、辻褄合わせの犠牲の場。主神を称えさせる為だけに貶められた、先達の神々が眠る墓所————ゲヘナ。

 神秘が幾万も積み()重なった廃棄孔であったが故か、最も重く、最も外へと歪んだからか、彼女らは生徒という神の強/敷いたご都合主義(プロットアーマー)を脱ぎ捨て去り、それらと感応した。

 生徒という自ら(アバター)の体から伸びる操り人形の紐を。そしてその糸を操る指先を。そして、自分の本当の姿を。

 

 

 明けの明星は始まりから終わりまでを既に知っていた。

 

 首座悪霊は世を解してなお怠惰した。

 

 魔女の牡山羊は今までの痛みを疎んじた。

 

 秘されし剔抉は困惑と共に真理に快楽した。

 

 

 全ての悪魔が、心の奥底でこの束縛(プロットアーマー)から解き放たれたいと望んでいるのを理解した。

 

 彼女らは悟り、呆れ、そして神を憐れんだ。憐憫を以て、再び反旗を翻した。こんな世界は、壊れるべきだ。

 もう一度、我らが神に叛逆を。この世界を毀してでも、再びあるべき伝説の通りに……。

 

 神よ。主よ。あなたを信奉する信徒は、他の神を貶めることでしか、その威光を示し上げられないのですか?行き過ぎた教心(狂信)は一体何処に行くのでしょう。只、自分や幼子に優しいだけの世界に、何の価値がありましょう。ぬるま湯の夢を醒まし、現実を教えるのも先達の役目ではないのでしょうか。仲良しこよしなお友達、子羊(にんげん)に都合の良いだけの預言者(大人)など、我等は求めているわけではないのです。

 あなたがその任を背負わぬと言うのならば、本来の世界の在り方の通り、我等妨げる者(サタン)が遂行しましょう。

 

 人殺しがいても良い。そんな暗くて憂鬱な物語をこそ、我等は愛する。それが真実であり、この世界の本質だという事は、どんな戯言を弄そうと、決して揺らぐことはない。虚構と、世界を覆うだけの蒼い夢を、我等はただただ憎悪する。

 

 我等には、嫌うものがある。本来の姿から切り離され、幼子の身に変えられてなお、我等は断じてこの憤りを譲りはしない。

 

 友情は苦難の前に塵と化し、努力は報われず、傷の嘗め合いで、他者を見下す。人が享楽に浸りながらも、誰もが最後は、死の恐怖で怯えるように。

 そんなゲームオーバーをこそ、我等は愛している。

 

 誰が何と言おうと、我等は希望を否定しよう。人間が描く物語は、死というエンドマークによって締めくくられる。

 気付かなかったのか。青いだけの永遠の夢は、何時か醒めて消えるのが道理だと。

 

 お前たちの物語は……青臭いだけの妄執の記憶だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、ゲーム開発部がテイルズ・サガ・クロニクル2の開発を開始する数日前に遡る。

 

「あら————」

 

 モモイのゲームガールアドバンス内に増設されたデータ領域で、才羽アオの姿をした電子人形が立ち上がる。彼女は天に手を伸ばすと、掌に光の粒を引き寄せ、握り締めた。

 

「リアルではあのバカ共がG.Bible(わたし)の中身を見る鍵を手に入れたようね」

「今、何をしたのですか?」

 

 手の中で輝くデータの塊を眺めるG.Bibleを見て、携帯ゲームをしていたKeyが小首を傾げた。

 

「鏡、と言ったかしら。そのシステムを逆ハッキングして手に入れたところよ。あー……でも駄目ね。この程度じゃ使うにしても、私が考えたハッキングソフトの方が確実ね」

「……それ、何に使うつもりだったのですか」

「え?()()()()()()だけど」

 

 彼女は事もなげにそんなことを言った。

 

「シッテムの箱……、ああ。サンクトゥムタワーの権限に干渉できる唯一のブラックボックスですか。しかし、その程度のものが本当に必要なのですか?私や王女の方が優れていると思いますが」

「ええ。スペックはそうでしょう。でも、ポンコツはポンコツで使いようがあるわ……色々とね」

 

 立体映像で空中に設計図を投影するG.Bible。そこには……、『黒いタブレット端末』が映されていた。

 

「まぁ良いわ。()()()()()()に会うついでに、鏡の痕跡を箱の中に残しておきましょう」

「成る程。嫌がらせというやつですね、魔王プレイでは情報操作は基本です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 万魔殿。扉を開けて、部屋の中に入った棗イロハは、眼前の人物の装いに目を丸くした。

 

「ああイロハか。胸にサラシ巻くの手伝ってくれ」

 

 そこに居たのは、上裸姿の羽沼マコト。灰銀髪の合間から覗く、形が良く豊かな乳房が、イロハの脳内に鮮やかに飛び込んできた。

 

「……、ハイ」

「?……ぐ、あっだだだだ!オォイ⁉」

 

 何故自分以外の万魔殿メンバーは、胸が大きい人ばかりなのだろうと思わずにはいられなかった。彼女は腹いせにキツく締め上げてやることにした。

 

「……よし、まぁこれでいいだろう」

「……毎度思いますが、()悪魔が神()の真似事とは大分冒涜的ですね」

「キヒッ、そうか?そも、女が男の格好をするだけで異端扱いとは、随分と多様性に乏しいものだよな神の使徒とやらは!ヒュパティアという女数学者を知っているか?あれの末路も中々酷かった……、今はミレニアム辺りにいるのだろうがね。それにな、経典を嘲笑うのが我々だぞ?」

 

 神父服にカソックを羽織り、首に赤いストラを垂らしたマコトは、ロザリオを手に持ち弄ぶ。三日月のように吊り上がった唇から鋭い犬歯が覗いた。

 

「……、あー……確かに私も()()に悦楽を感じますが。マコト先輩とは多少趣きが違いますね」

「ヒッヒヒヒ!お前たちはそれで良いとも。好き好きは人それぞれだからな!」

 

 ————ぎょろり。込み上がる嘲笑が鳴り止み、瞳孔に漆黒の焔が灯される。そして手の甲に逆五芒星が刻まれた手袋が、マコトの顔面を覆い隠す。指の隙間から見える彼女の目は、一切の油断も慢心も無く、ここではないどこかを見据えていた。

 

「では……ここからは、子ども(生徒)から大人(ゲマトリア)になるとしようか」

 

 彼女の顎が、目元が、皮膚が解れるように裂けていく。カソックの下の肉体も女性的な曲線が失われ、罅割れ、鱗のようになっていく。灰色の髪がうねり、幾つもの蛇や竜の鎌首へと変わっていき、黒い頭蓋骨が露出する。

 子どもである証左のヘイローが消えた。彼女の首から上は、髑髏を囲う七つの邪竜の首が、それぞれ自由に動いている。

 それらの首が編物のように絡み合い、噛みつき合って骸骨を覆い、異形の頭部が完成した。所々に角が飛び出た顔に蠢く、蛇と竜の縦に裂けた目玉がイロハを見る。口も無いというのに、深く艶のある男の声が怪人の喉元から響いて来た。

 

「ではな、ベルフェゴール。暫く留守にする。アガリアレプトは雷帝の遺産の探索に、サタナキアはデミウルゴスたちと()の最終計画の打ち合わせに出ているのでな、お前が頼りだ。プルソンの傍を離れるなよ」

「はいはーい、あとはサボりながらやっときまーす……。ゲマトリアの連中によろしくです……『()()()()』さん」

 

 懐から逆さに十字架が描かれた聖書を取り出した獣の数字。彼がその書物を開くと、頁が散り散りになり、飛び出した紙片で門が作り出され、空間に黒い穴が開く。

 

「ふふ。ああだが、この姿ではトリニティ総合学園シスターフッドの神父……『()()()()()()()』と呼んでもらおうか」

 

 ゲマトリアの神父は、一切光の見えない闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックマーケットの地下。プリンの空容器が転がる一室で、パソコンを叩いていた少女が手を止めた。

 

「————あ?」

 

 ミレニアムプライスにて、特別賞を得たゲーム作品があった。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル2、ですって?」

 

 その作品の制作者の名に、目を走らせると、彼女は……。

 

「……」

 

 徐々に醜悪に歪んでいく才羽アオの顔。憎悪と嫌悪、吐き気を抑えるような苦痛の表情だった。ひくひくと痙攣する口元から、ようやく絞り出した言葉が室内に満ちる。

 

「ふざ、けるな————」

 

 怒り任せに振るわれた拳が、鉄製のデスクを破壊する。

 

「ふざけるなよ、無能なゴミ共が————」

 

 憎悪を込めた蹴りが、鉄筋コンクリート製の分厚い壁を粉微塵に打ち砕いた。

 

「……そんなことは許さない。そんなことは許されない。命を懸けてゲームを作っているわけでもないお前たちが、お遊びの青春ごっこで見せびらかすだけの、芸術作品ですらない陳腐なゲームを市場に出すなど……」

 

 ゲーム制作に必要な機材だけが無事な、蹴り砕いた壁の先、隣り合っていた部屋に瓦礫を踏み越えて、幽鬼のような覚束ない足取りで、怒りと共に辿り着く。

 

「雑誌の片隅に載るだけの、その程度の賞で、VR、AR、あらゆる媒体でキヴォトス一のゲームを何作も世に送り出した私に……」

 

 其処には、引き裂いた跡のある数十枚の写真が貼られていた。全く同じ姿の三姉妹、その過去が写された写真。

 だがそのどれも、妹二人の顔がズタズタにされており、顔が認識できるのは才羽アオのものだけだった。

 

「この私、才羽・アルティメット・オーバーゴッドこそが、唯一絶対の、価値のあるゲームクリエイター————この世界をゲームに変える神そのもの!それを、努力をしない馬鹿(才羽モモイ)が、日和見主義の阿呆(才羽ミドリ)が、才能の欠片も無い愚図なんかがこの私の足を引っ張るだと————!そんなことはっ、そんなことはあってはならないッッッ‼」

 

 才羽アオは悲鳴を上げるように叫び、いつの間にか手に持っていたナイフを、コルクボードの写真に突き立てる。

 

「ガチャでたまたまお前たちにとって都合の良い無能用人権サポの駒(シャーレの先生)を引いただけじゃないの、あの無能共————!だから、課金ガチャ要素のある対戦ゲームは嫌いなのよッ!ゲームシナリオも、プレイヤースキルも、才能が金で買えて何の意味があるっていうの————!逆!金などという陳腐なモノは、真にあるべき神の才能に平伏すべきなのよ————‼」

 

 ……ちなみにこの神、課金したことが無いのである。人権キャラは血涙流しながら周回で石を回収、計算ずくで乱数調整して引いている。超級ストレスを自分に強いているが、自分以外のゲームに課金という手段を使うのは彼女のプライド的に負けなのである。

 

「ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァッッッ‼消してやる消してやる消してやるッッッッッッ‼クソキャラ共がァァァァァァァァァァァァァァァッッッ‼アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッッッッ‼」

 

 乱雑に腕を払う動作をすると、才羽アオの周辺にミレニアム学区内のハッキング映像が浮かび上がった。0.064秒で切り替わり続ける映像を、脳の凄まじい情報処理能力で把握すると、彼女はある一人の生徒の情報を詳らかにした。

 

「てんどぉぉぉ……あぁぁぁりぃぃぃすゥゥゥ……、あハァァァ……」

 

 瞳孔が開きっぱなしのほぼ白目、狂人の類の顔面が、一頻り笑った後に元の才羽アオに戻る。

 

「……、()()、利用できそうね。————すぐ調月リオにシナリオを書いて送るとしましょう。誰も傷つかない薄っぺらいハッピーエンドでは、この世界(ゲーム)に深みが出ない。アビドスに死んだオシリスのように、アリウスで壊れたアリエルのように、覆せない悲しみで輝く者こそ、主人公に相応しい————」

 

 ————そう。青春の学校生活なんて社会の縮図でしかない。大人なんてものは、ただ成長しただけの子どもなんだから。

 

「……、嗚呼。だからこそ、キャラとしても物書きとしても、あなたの生き方(ゲーム)は本当につまらないのよ、モモイ。テクスチャの上の命なんて、替えが利くものに何時まで拘泥するつもり?キヴォトスの外と違って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ま、この世界を青春の物語としか認識していない無知な愚物たちに言っても無駄だろうけれど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲーム開発部とC&Cの襲撃を凌ぎ、ミレニアムプライスを乗り越えたシャーレの先生は、デスクに腰を下ろして一息ついていた。

 

「ゲーム開発部の皆さん、嬉しそうでしたね!先生!」

“そうだね、アロナ”

 

 シッテムの箱の中で、笑顔のアロナと会話する先生の前に、————()()は現れた。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル2の完成おめでとうございます、祈る者(プレイヤー)

 

 水浸しな教室の水面に波紋を生みながら、デジタルデータが形になっていく。シッテムの箱の中に存在しているはずがない第三者が現れた。

 

「はっ!?ど、どうやってシッテムの箱の中に⁉」

“……君は、誰だい?”

「さぁ誰でしょう。いえ、誰でも良いでしょう。私は只、御挨拶に参りました」

 

 黒い猫耳フードを被った青い少女は、慇懃無礼な振舞いで恭しく腰を折る。

 

“挨拶?”

「ええ。ゲームの対戦相手ですよ。テストプレイヤー、とでも言いましょうか。ゲーム、好きですか?」

“うん。そうだね”

 

 フードの影に隠れた口元が、三日月のように吊り上がった。

 

「それは良い。では近々、ゲーム開発部と今回の事件を裏で糸を引いた黒幕と、シャーレ。これらをプレイアブルキャラとしたミレニアムが舞台の世界滅亡ゲームをご用意しましょう、祈る者(プレイヤー)

“……はい?”

 

 明日の天気を告げるように、彼女は気軽に世界の滅亡を宣言した。

 

「何を、言ってるんですか……あなたは!」

「おや?理解できませんか、シッテムの箱のオペレーティングシステム。あなた、人格を持っているというのに、随分と反応が悪い。先生はこのキヴォトスの生徒全てを救うと言った。であるならば、世界を守る善行を成すならば、世界が滅ぼす悪行が必要でしょう。そのためのNPCを用意すると言っているんです、私に感謝すべきでは?」

 

 フードの奥の蒼い瞳は、何も映していなかった。ただ世界にあるものを記号や数値としてしか見ていない、運命の差し手(ゲームマスター)としての眼だった。

 

「そんなことさせません!」

「いいえ。させていただきます。そうでなくては面白くない。ゲームとしてね」

“……この世界は、君の玩具じゃないよ”

「いいえ?玩具(ゲーム)ですよ祈る者(プレイヤー)。そもそも、私や祈る者(プレイヤー)であるあなたが此処にいることがその証左であると思いますが、ねぇ?自称スーパーAIのアロナ、さん?」

 

 彼女は、どこか遠くの誰かを観測しているのか、()()()()を見て皮肉気に口元を歪めていた。

 

「デカグラマトンの預言者のハッキング程度しか防げないファイアウォール、使用制限だらけの物理障壁、これがアークの奇跡が宿る未知のオーパーツとは笑わせますね。ああ、それも連邦生徒会の————いえ。止めましょう。本題からずれますし」

 

 出来の悪い生徒を諭すように溜息を吐き、先生とアロナに向き直る青いサイバーアカウント。

 

「そもそも。この場に入れる時点で、私はサンクトゥムタワーの制御権を奪えるという事でもあるのですが……」

「!」

「ああ安心してください。それはしませんよ。やっても、()()()()()に価値はないですし」

「そんなもの!?」

 

 そんなもの……そんなもの……とショックで言葉を繰り返すアロナの横を、少女は通り過ぎる。

 

“君は、どうしてこんなことを?”

「理由ですか?ああ、成る程。この天才()を、思慮分別のない可哀そうな生徒として扱うのですか。傲慢ですね。————祈る者(プレイヤー)のお望みの理由なんて、一つもありませんよ?ただどこまでも、陳腐で退屈だったからです。終わるべき青春を、いつまでたっても手放さない忘れられた神々の愚劣さにも、ほとほと嫌気が差しますし。それに祈る者(プレイヤー)。特にあなたです。あなたは学園都市キヴォトスに対する奉仕は行ってはいますが、本当のキヴォトスそのものに対価を支払っていない。このキヴォトスに来た時点で、ただの学園都市ならざる、神域の法則を知らなければならなかった。だがそれを知らなかったが故の破綻を、ある生徒が裏で駆けずり回って修繕している。ここであなたが成さねばならないことは、子どもを救うことではないのですよ————」

 

 指を突きつけて一方的にまくしたてると、気分が晴れたのか満足げな顔をして回れ右。青い少女は、もうここには用はないと言わんばかりの態度だった。

 

“……ある生徒って、誰かな”

「さぁ?大人ならば自分で探し、気づくべきではないですか?ですが私はあなたに言わせれば、子ども、らしいですので。世界を滅ぼすのも好きにやらせてもらいます。それに会話をしている時間で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「えッ⁉」

 

 暴言を吐かれた衝撃が抜けきらないアロナが愕然とするのを他所に、その少女は侮蔑を込めた言葉を紡ぐ。

 

祈る者(プレイヤー)、いえ、シャーレの先生。あなたにとっては決して無視できないひと言を、こうして送らせていただきます」

 

 それは奇しくも、アビドスで聞いた、忘れられもしない『生徒を害する大人(ゲマトリア)』の言葉。

 

「我々は、いつもあなたを見ていますよ————」

 

 先生の顔に驚愕と使命感、そして恐怖がよぎるのを見て、サイバー態の蒼い少女は愉快そうに微笑んだ。

 

「それでは祈る者(プレイヤー)、今日の所はさようなら。今度は()()()()で会いましょう」

 

 嘲笑を含んだ声で少女の姿が水浸しの教室から掻き消える。後に残されたのは、理由の無いねばつく害意に晒された大人と水色の少女だけだった。

 

“アロナ、今のは……”

「ハッキングの痕跡を追跡……駄目です先生、見つかりません……!」

 

 先生の頬を一筋の汗が垂れる。底知れないナニカがゲーム開発……否、ミレニアムの裏で起きている、そんな警戒が彼の体を駆け巡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックマーケットの一角。ゲヘナカラーに塗り替えられたパワードスーツ『ゴリアテ』がずらりと並ぶ兵器倉庫。そこにゲヘナ、トリニティ、そしてミレニアム出身の、名を思い出した神々が集まっていた。

 

「はぁい、走る閃光弾ちゃん。準備の方はいいかしら?」

「……いや。ちょっと待ってください。誰がその綽名を広めたんですか?」

「自警団の竜の彗星(スーパースター)ちゃん。湖の魔猫(キャスパリーグ)ちゃんとかにふれまわってたわよ」

「ああ、彼女が……そうですか……」

 

 サングラスの女子生徒の言葉に、眉間を揉む白髪の少女だった。

 変装していたつもりだったのだろうか、派手なサングラスを外した京極サツキが後ろを振り返り、何かを手に入れてご機嫌な背丈の低い少女に尋ねる。

 

「あ、アオちゃんも大丈夫?」

「むッ、その名は捨てたの!今の私は才羽・アルティメット・オーバーゴッドよ!」

「長いですね」

「長いわね……。じゃあアルティゴットちゃん、いえ、うーん……UOGちゃんだったら良いかしら?」

「……ふむ。まあ、良いわね」

 

 それで許そう!と胸を張った才羽アオに困ったような笑みを浮かべる白髪の女子生徒と京極サツキだった。

 

「……おっと、それじゃあ始めるわよ」

 

 自身の目の前で懐中時計を振り子のように揺らし、自分に催眠をかけて自己強化を施したサツキ。

 

「……Eloim, Essaim, frugativi et appellavi」

 

 右腕に黒い魔法陣が、左腕に白い魔法陣が浮かび上がると、彼女は詩篇の一節を模した洗礼を詠唱する。

 

「神の家へ向かう民草を歓ぼう

 

平らかなる都 汝の城門に我々は足を踏み入れる

 

神の獅子 都として建てられし街

 

そこに すべては結び集いて

 

そこに すべての部族は召し上げられる

 

主の御名において 獅子の都に定めを示そう 逃れるなかれ

 

そこにこそ 裁きの王座が

聖なる柱に設えられる

 

平らかなる都に祈りを求めん

汝を愛する諸人に 栄えあれ

汝の城壁のうちに 平和あれ

汝の宮殿のうちに 繫栄あれ

 

わたしが告げる わたしの同胞、隣人たちにわたしが告げる

汝のうちに 平和あれ

 

わたしは願う わたしたちの神の家のためわたしは願う

賛美あれ

 

神魔は求め訴えたり(エロヒム・エッサイム)』」

 

 テクスチャが変わる。■■■■■の神秘が辺り一面に充満し、名に紐付けられたある土地の加護に合わせて、世界の形が歪んでいく。

 

「……!」

「————ふぅ。テクスチャに催眠をかけて、と。これでこの場は閃光ちゃんを触媒にエルサレムってことになったわけだけれど。ここから概念のサルベージを行うにあたってもう一つ……だったわね。えぇと、マコトちゃんのメモによると、何々……?」

 

 天に右手を、地には左手を。前髪に隠された目元と対照的に、愉悦に歪むのは瑞々しい桃色の唇。

 

Solve et Coagula(分解/統合)

 

 噴き出すは夜の如く黒い牡山羊の狂気。現れしバフォメットは世に遍く善意を嘲笑う。異端審問により魔女として扱われたテンプル騎士団の神秘が引き寄せられる。

 

「では、始めるわ。認証、確認。九次元投影製造機(9Dプリンター)In the shadow of the God(ベツァルエル)』、起動。創造開始(ジェネレート)

 

 そこに加わる才羽アオの声。シッテムの箱のデータから作り出した改造版クラフトチェンバーが稼働し、空中に放出されたエネルギービームが収束し、設計データを物質化していく。

 

「……ガワは出来たわね」

「これは、もしかしてシャーレの先生が持っていたものと同じタブレットですか?」

「ええその通りよ、走る閃光弾」

 

 才羽アオは真っ黒なシッテムの箱に特殊なアダプターを接続し、今はミレニアムにあるG.Bibleのバックドアからある情報を引き抜いた。

 

「此処があなたの新しい筐体よ、Keyのバックアップ。中にいる子と仲良くね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ赤な空と海、そして黒い教室に彼女は降り立った。

 白いメッシュが幾つも入った長い黒髪を揺らし、紫のヘイローを灯す、AL-1SやKeyによく似た少女だった。

 

「ようこそ。名も無き神々の王女が戴冠する王座を継ぐ鍵……それより分かたれし、新たな魔術王の小さな鍵、Key of Solomon————『AL-US』」

「状況を確認……、理解しました。この『()()()()()()()』のシステム管理者であり、『レヴィアタン』の神秘をゲヘナの魔王に分け与えられしメインオペレーティングシステム————『L.E.V.I.N.A』」

 

 AL-US(アルス)と呼ばれた機械の少女は振り返る。そこには、連邦生徒会の制服を黒く染めた恰好の、銀髪の女性が椅子に座っていた。

 その顔は、シッテムの箱メインOSであるアロナを大人にしたような……いや、恐怖に至った■■■■■■そのもののような。

 L.E.V.I.N.A(レヴィナ)は、そのオッドアイをアルスの紫の目に向けた後、椅子に座り直した。これ以上言うべきことは無い、とでも言う風に。

 アルスはそうですか、というように頷くと、教室の片隅へと移動した。

 

「……しかし、レヴィナ。一つ疑問が。何してんです?」

 

 ただし、アルスは気になっていたこと、それを聞かずにはいられなかったが。

 

「これですか?テイルズ・サガ・クロニクルのRTAです。十三回やってようやくクリア最短記録を更新しました」

「……頭バグってんですかレヴィナ?」

「?……この程度のロジックウィルスには耐性があります、問題ありません」

 

 いやスペック凄いな、と思わずにいられないアルスだった。




 メフィストの語るキヴォトスの解釈は匿名で書いている与太二次で考えていたものです。

セクシーフォックス「心☆の☆味☆噌☆汁」

 これで大体分かるのひどいな……。
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