ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線 作:サルミアッキ
「……おや?」
辺りは既に闇に包まれている。とっぷりと夜の帳が下りる刻限に差し掛かっていた。万魔殿の戸締りをして帰宅しようとしていた私の鼻に、良い匂いが漂って来る。
この、醤油や出汁の芳しい香りの出所は……。
「—————あそこか」
その屋台から垂れた暖簾に見覚えがあった。
(ほぉ、柴関ラーメンが屋台営業を……。
——————懐かしい光景が記憶の奥から去来する。
『……と、以上が柴関ラーメンの営業見直しとして私の提示する案だ。キキッ、このマコト様が考えたのだ、確実に
『おぉー!すっごい!これで借金返済の足掛かりになりそう!』
過去の私の隣で、
『……マコト先輩、それで本当に上手くいくわけ?』
『何だとヒナ!?この計画にどこに穴があると言うのだ‼少なくともこのラーメンの味に対しては正当な評価だろう!』
ゲヘナ学園一般生用の制服を着た、当時はまだ一学年下だったヒナが顔を顰めて私を見ていた。心底面倒くさそうな顔で口を開くが、チャーシューを齧る箸は止まらない。
『先輩もそうです……、世の中そんな甘いわけないでしょう』
『ひぃん……、後輩が冷たいよぉ……』
——————そんな、懐かしい過去だった。
————本当に、らしくない。
——もう、終わったことだというのに。
……おっと、そういえば。ええと、どこにやったか……お、あったあった。
「
……というか、もしかしてだがアビドスの知名度向上の為に休日返上でやっているのか、あの大将?————嗚呼、性格的にありうる。
いやぁしかし、無性に夜食で時たま食いたくなるよな、ラーメンって……。
「————夜だが食うか!柴関ラーメン!」
※ラーメン大好き羽沼さん
暖簾をくぐると、柴犬の獣人である店主殿がちんまい体でラーメンのスープを掻きまわしていた。
「いらっしゃい…っておお。二年ぶりじゃないか、お嬢ちゃん」
「おや、お久しぶりです。憶えていただいて、ありがとうございます」
「いやいや。こっちも色々考えさせてもらった。ところで、あの日一緒にいた白い髪の嬢ちゃんは、今日はいないのかい?」
「……ええ。最近は委員会活動が忙しいようで」
お品書きと一緒におしぼりを出してくれる柴関ラーメンの店主殿。細やかな気配りが心地良い。肌寒い夜の時間帯でひやりとした指に、じんわりと温もりが広がっている。
さて、何を頼もうか……。流石にがっつり系の豚骨とか味噌は自重しよう。これでも年頃の女学生なのだ。となると、あっさりした醤油か塩か……。
よし、鶏ガラに生姜醤油のこれにしよう。あ、トッピングにはキャベツともやしと、メンマも多めに入れてもらおう。
「————では、これでお願いします」
「あいよ、ちょっと待っていてくれ」
レモンの香りが仄かに溶けたお冷で唇を湿らせる。火にかけた鍋から漂い出す良い匂いが鼻を抜け、体に多幸感が広がっていく。待っている時間だけでも楽しめるのが、良い料理店の条件だと私は思う。
「…?」
おや?この柴関ラーメンの屋台に近づいてくる足音が……。数としては、四人?この時間に、誰だろうか?
「……、マコトじゃん」
————暖簾を手で押しのけたその人物に目を向けた。
「……、
「まぁ。そんなところ……かな」
黒い斑が浮かぶ白髪を弄りながら、彼女は私に目を向ける。私の隣に一席開けて座ったのは、『鬼方カヨコ』。私とは少しの因縁、————些細なとある関係があるゲヘナ学園の生徒。
彼女はちらりとメニュー表を眺めると、後ろを振り返り控えていた三人に声をかけた。
「社長、あったよ。600円以下で量がとれそうなメニュー」
「え、本当!?よくやったわ!」
「わぁ~い、良かった!今日はお腹空かせて寝なくて良いみたい♪」
「あ、先客が……すみませんすみません、お食事中申し訳ございません…!」
次々と暗がりから姿をあらわすゲヘナ学生たち。その全員に見覚えがある。良くも悪くも目立つものな————『便利屋68』のメンバーは。
「……嗚呼、成る程。また金欠か貴様ら。実力はあるのだからもう少しマネジメントに力を入れれば良いものを」
少なくともヒナ抜きの風紀委員会と互角に戦える四人組って、ゲヘナでもトップクラスの戦闘能力だし、数に物言わせる温泉や逃げに徹する美食より個人的には高評価。ただし御覧の通り、便利屋事業は常に火の車に乗っている。
————
「…ってマ、マコト先輩!?」
「あ、議長閣下だ~。クフフ、
「あ、アル様……良かったですね」
おや、社長が目をキラッキラさせてこちらを見ているが……はて?
「……?」
頭をひねっても思い出せん。私、『陸八魔アル』に何かしたっけか…?
「————まぁ良い。相変わらずだな。お前たちはそのままで良いのかもしれんが。……ここで会ったのも何かの縁だ、大将殿。こいつらにラーメン四人分。好きなトッピングを選んでいいぞ」
「え!?い、良いんですか!?」
良いとも。理由はどうあれ支持者には良い顔をしておきたいしな。
「……、ふぅん」
「わぁ~議長閣下、太っ腹~♪」
「あ、ありがとう…ございます。すみません、すみません…」
カヨコは相も変わらずこちらを勘繰っているらしい……、まあ当然か。にしても、『浅黄ムツキ』と『伊草ハルカ』はいつ見ても対照的な性格しているよなぁ。この面々が軋轢無く活動できているのも、ひとえに社長の人柄か。
本当、ハードボイルドと言うより、某風都のハーフボイルド(誉め言葉)だなアル社長殿。何で給食部とかこんないい子がクソバカ環境のゲヘナにいるんだ。
一方の私は、結構打算でこいつらに近づいているのだが。では、交渉を切り出すとするか。
「……ああ。それにしても、こちらとしても丁度良かった。実は一つ仕事を頼みたくてな。嗚呼、仕事のスタイルとしてそちらが前金を受け取らないのは知っている。安心しろ、これは先輩からのお節介な奢りでしかないからな?成功報酬は別に、好きな額だけ用意しよう」
ぴくり、とアルとカヨコの眉が動いた。よしよし、食いついたな。
「へぇ…。万魔殿が仕事ね。風紀委員会ばかりが出張ってて、あなた達が仕事をしてるって話、聞いたことないんだけど」
おっと、辛辣だなカヨコ。流し目でこちらを見てくるその表情は、かつてと変わらず安心する。
「私たちもあまり派手に動けない立場でな。今着手している仕事を公にすると、ゲヘナの信用が落ちかねん」
「……とっくに底だと思うけど?」
「二年ほど前に比べればマシだろう?」
「……」
“アレ”をゲヘナ三年相手の引き合いに出すのは禁止カード?まぁ、そーだな。温泉開発部と美食研究会の三年組も顔顰めるしな……。
カヨコは言葉を噤み、溜息を一つ。どうやら納得してくれたようだ。
「————連邦生徒会長の失踪は知っているな」
私の言葉に便利屋メンバーは各々頷く。連日連夜クロノススクールの報道番組でも取り沙汰されているし、それはそうか。金欠でスマホのニュースサイトが見れなくとも、D.U.区に出かければ空に浮かぶ飛行船の電光掲示板にもでかでかと映ってるものな。
「ゲヘナ自治区を左右する外交上の問題で、エデン条約もあるというのに白紙になりそうな状況だ……、っと。大将。替え玉を一つ」
「あいよッ」
空っぽになりかけていた丼に入れられる縮れ麵————うん。美味い。
「むぐ…、ん。でだ。その連邦生徒会が今しているのが、これだ」
隣のカヨコに万魔殿の封筒ごと書類を渡す。
「—————これは?」
「超法規的組織の設立だとさ」
便利屋の四人は取り出された紙に書かれた情報に目を走らせる。こういうところは企業を立ち上げているのもあって、本当にプロだな。おっと、感心している場合ではない。
「————ああ。いや、別にこれの調査をしろというわけではないぞ?そちらはこちらの手勢に調査させる。頼みたいのは別のことだ」
「別のこと?」
「そうだ。どうにもD.U.区内…、特に連邦矯正局に収容されている囚人周辺がきな臭い。大方裏側で『教授』かが手引きをしているのだろうが……あ、いや今のは聞かないで良い。予想の域を出んしな。ただ、最低でも『災厄の狐』か『伝説のスケバン』辺りはその機に乗じて脱獄しかねん」
そうなのだ。情報網に引っかかった噂に至るまでを洗い出し、精査を繰り返した結果……、確実にD.U.区で暴動が起こる。
「便利屋68には超法規的組織『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』の設立時、イレギュラーの排除を頼みたい」
「————イレギュラー、ですか?」
「そうだ。何も脱獄した囚人全てと戦って勝て、などという割に合わない馬鹿なことは言わん。ただ、S.C.H.A.L.Eのフィクサーとなる人物の有する能力……戦闘指揮能力を見極めるまでは、場を乱す極めて危険度の高い連中を近づけさせないでほしい。そのイレギュラー戦力となる生徒名簿は後々精査して送らせてもらう」
醬油ベースのスープを飲み干し、両手で持っていた柴関ラーメンの器を屋台のテーブルに置く。嗚呼、少し冷えた夜の身体の臓腑に染み渡る。————ふう、御馳走様でした。大将殿は私の言葉ににこやかな笑みを浮かべて丼を下げてくれた。
「……、そうだ。これは私の予想だが、連邦生徒会の停止による治安悪化でまず騒ぎ出すのはヘルメット団やスケバン連中だろう。故に私は、その程度の戦力をS.C.H.A.L.Eのフィクサーはどう対処するのか、そして対処できるのか————邪魔が入らぬうちに観察しておく。サンクトゥムタワー復旧の為、決行日時は数週間後になるはずだが、もしかすると長丁場になるやもしれん。報酬は延長した日数分も加算させてもらうが……こんな具合か」
私はタブレット端末で、今支払える分の金額を便利屋メンバーに見せることにした。
「うわ……、こんなお金どこから出したの?」
「わー、すっごーい!これならしばらくテント暮らしからおさらばだね♪」
「ひっ、こ、こんなに貰っていいんでしょうか…!?」
その報酬金額を見て少し引き気味のカヨコ。小悪魔的な笑みを浮かべて舌なめずりのムツキ。額が額なので卒倒寸前のハルカ。でも、普通に傭兵を雇うより強いし、便利屋68の実力的に言えば正当な額だと思うのだがなあ?
「あぁ、問題ない。用意する金はゲヘナの予算ではなく、私個人がプライベートで拠点にしている
最終判断である便利屋68の社長の顔を伺う。————うん、見るまでも無かったな。
「……分かったわ!便利屋68に任せて頂戴!」
————数週間後。私はゲヘナ学園から離れ、District of Utnapishtim区内の連邦生徒会拠点付近に来ていた。一等地に立った高層ビルの眼下では、様々な銃火器を持った生徒たちや、クルセイダー戦車が“暴れまわっていた”。
そう、既に過去形だ。それらは、四人の生徒たちと————一人の“大人”によって鎮圧されていた。
「成る程、アレが例の——『S.C.H.A.L.Eの先生』か」
そのセリフを口にした次の瞬間、遠くのビルが吹き飛んだ。
「……んん?」
『こっ、コ…こッ』
私のスマホから聞こえてくる奇妙な声。どうした?鶏か?
『こ、こちら陸八魔です…。す、すみません…。あ、あのぅ、イレギュラー戦力のカイテンジャーが……はい。出まして、何とか撃退したのですけど…、続けざまに、海から変なのが、ですね…』
「————。……ああー。成る程事態は大体把握した…。海から出て来たのは、
いや、それは良い。いや財布の中身的に良くはないけど、それはまだしも……小型とはいえ何故『
(——————や、やってやるわよぉぉぉ!えぇと!?このロボットどう動かせばいいのかしら!?)
(戦車とかとは勝手が違うけど、何とかするしかない、か。はぁ…。マコトは相も変わらず無茶振りばかり……)
(くふふ~、最悪自爆させちゃう?)
(ば、爆弾ですか!?な、なら私が腕を振るって特攻しますッ‼)
あ、倒したカイテンジャーからカイテンロボをブン捕ったのか。…が、頑張れ。頑張れ便利屋68!ペロロジラJr.(仮)をどうにかできんことも無いが、流石に私がここで介入するのは色々と拙い‼何故今日に限ってキヴォトス崩壊カウントダウン案件が一気に来る!?えぇい、向こうはどうだ!
「……私だ。いま『
ドローンの望遠機能を使い確認してみる。……うわ、マジだ。流石に死なんよな、シャーレの先生?
「—————ま、まぁ。死んだら死んだでその時か…。器ではなかった…いや、この『学園都市というテクスチャ』から必要とされなかった
こちらとしては、キヴォトス全体の災厄の排除に不可欠だから、潰れると困るんだけどなぁ!?いや本当に‼
ハスミ「何?巨大なロボがでっかいペロロと戦っている?……そんな馬鹿な話がありますか?委員会活動に戻ってください」(メロン23-1が好きそうな生徒)
イチカ「ッ?なんか、悪寒がしたっす…」(シンリャクノカジツ…)
シャーレ設立直後に総力戦ペロロジラをすることになるの?この世界線の先生。