ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線 作:サルミアッキ
マコヒナは無いです怪文書
「あーひどい目に遭った…」
S.C.H.A.L.Eの様子を見て来たが、その後の便利屋68への報酬受け渡しもトラブルに次ぐトラブル続き。金銭の受け取りを丁度見つけたヴァルキューレの生徒が乱入して銃撃戦。それに巻き込まれて私の車が爆発お陀仏お釈迦様。結果爆破テロに勘違いされて、便利屋を一時的に率いて連邦矯正局相手に撤退戦するとか聞いてないぞ……。私はヒナではないんだが?私の戦場は現場ではなく会議室なんだが?クソォ!顔バレしてなかったとはいえ、もみ消すの肉体的に疲れたのだが!
「————はぁ」
……反省はまた後日にしよう。
溜息が青空に溶けていく。ささくれ立つ私の心中とは真逆の、のどかな景色が広がる公園の角……日陰になったベンチに座る。頬杖をついて視線を巡らせれば、私の隣には食パンを持ち鳩に餌をやる獣人が一人。
「あら、大丈夫かしらお嬢さん。ため息ついていると幸せが逃げちゃうわよ?鳩は平和の象徴とも言うし、あやかって餌でもやってみる?」
「……感謝いたします、ご婦人」
柔和な表情をした猫のご婦人からパンを受け取ると、足元にパンくずを落としていく。毟り、千切り、毟り、千切り…。指先に、何か固いものが触れた。
「……」
隣にいたご婦人はいなくなっていた。手の中には、パンの中から出て来た“小さな小さな鍵”がある。
私の足元で、粉末となったパンを啄む鳥たちを見る。その中の鳩の一羽の脚には、細い筒が付けられていた。
「おいで」
人懐っこく、私の肩に止まる伝書鳩。この子とも長い付き合いになったな……と思いつつ、アルミ製の筒の中から例の情報を取り出した。
……!これは……!
「————この座標、“
……情報を得られたのは良いが、アビドスの生徒会長が死んだのが痛いな。ヤツの言っていた宝探しとは、予想にはなるが大方アビドスに隠された『雷帝の遺産』関連だろう。そんなオーパーツを分解・処理して借金返済資金のアテにする腹積もりだったのだろうが……。
最悪、我々としてもあれらが再建造されなければ、金にしてもらって全く構わなかったのだがな……。だが、今のアビドスでその情報を持っていそうなのは————。
「……“暁のホルス”」
『だが、ヤツが我々の要求に応じるとは思わんな』
私の足元の影が蠢く。黒い映し身の目にあたる場所に赤黒い光が灯っていた。
「……そうだな、それは仕方がない。だから前々から進めていた代案がある。
今、万魔殿で暇をしていそうなのは、……イロハか。モモトークを開きメッセージを送ると、こちらに向かってくれるらしい。サボっているところ、悪いことをした(思ってない)。
『キキッ。我がことながら、遺産関係の情報を潰すために奴らの懐に潜り込むとか、さてはお前……正気じゃないな?』
「……ゲヘナ連中のトップがマトモな思考をしている訳が無いだろうに」
『おっと、それはごもっともだなぁ!』
頭の中から、闇のように深い場所から響く笑い声。それはもう、本当に楽しそうだった。
—数時間後—
「お久しぶりです。カイザーPMC理事」
「ご足労頂いたようだな、ゲヘナ学園の生徒会長」
私はアビドスにあるカイザーの子会社、その応接室に通されていた。眼前にはソファに尊大な様で座ったガタイと声の良いロボット(ビジネススーツ装備)。
「さて、有意義な時間にしようではないか。今回はどのような情報だ?前回のデカグラマトンの情報の精度は高く、今回は色を付けたいと思っているのだが」
「それはそれは……。二年前から取るに足らない私の情報を高く買っていただいてありがとうございます。ですが————此度の手に入れた情報は毛色が違いまして」
今の時点で、カイザーが『雷帝の遺産』に手を出されると厄介極まりない。ならばどうするか。ミスディレクションやレッド・ヘリング……注意を盲点に追いやることだ。今のカイザーPMCを危機的な状況へ至らしめる毒。それは—————。
「ほう?というと?」
「連邦生徒会が立ち上げた機関、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eについてはご存じですか?」
まあ、そちらの会社が連邦生徒会の防衛室とべったり癒着しているのは数年前から知っているのだがな。
「連邦生徒会が?……いやすまない。ゲヘナ学園のトップともあろう方が、烏合の衆とも言えるあの組織について危惧する部分があるとはとても思えなくてな」
「ええ。私もそう思っていたのですが……、どうやらキヴォトス外から来た大人が顧問となった部活のようで、その活動範囲は治外法権すら超えているらしいのです。それこそ、カイザーPMC理事が計画なされている『宝探し』についても干渉してくるやもしれません」
「!」
おや?この感じ、カイザーPMC理事はS.C.H.A.L.Eの内容までは知らなかったのか?それともさらに上から情報のカットでもあったのか?
「……、どこまで知っている」
「おや。目の色が変わりましたね」
「当たり前だ……、私が今までどれ程この計画に時間と金を割いてきたと思っている…!それを、こんなところで……!」
「キヴォトスの現状と相まって、正しく沈みゆく箱舟といった様相ですね」
ならば都合が良い。煽り、囁き、不信や虚偽を真実に混ぜて
「……貴様、そのS.C.H.A.L.Eとやらに垂れ込む腹積もりではなかろうな…!?」
「まさか。私としてはあなた方とことを交えるつもりはありません。カイザーはこのキヴォトスにおいて、交通インフラや様々な分野のサービスを展開していらっしゃる。ここはあなた方の恩恵を受ける生徒の一人として協力したく……」
—————ゲヘナ学園のトップとして
「……。そうか。やはり、ゲヘナの生徒会長を務める者は、政治というものを良く理解しているな」
「ええ。ありがとうございます。—————、ですが一つ」
飲んでいた珈琲のカップをソーサーに置く。
「私の役職は生徒会長、ではなく……細かいようですが万魔殿の議長です」
「……ふむ?分かった、気を付けよう」
分かっているのかいないのか、カイザーPMC理事は私に話の続きを促した。
………………………………………。
……………………………。
…………………。
………。
よし、何とか秘密の会談は終わったな。話は随分と詰められた。それだけカイザーはカイザーで、アビドスのお宝にご執心というわけか……。奴らがそれを動かせるかはさておいて、見つけるだけなら『ウトナピシュティムの本船』は掘り起こしてもらった方が良いしな。
金もカイザーのダミーカンパニーを使ってゲヘナに流れた……ま、悪徳飲食店やグレーゾーンの施設などにだが。あとは美食研究会と温泉開発部を使って証拠隠滅だな……金は学区内に悪影響を与えたとかの理由をでっちあげ、それらの企業から賠償金として回収しよう。こうすれば裏金問題とは扱われづらいし、ゲヘナ学園のルールの範囲内、正当性のある内のものだ。
「……全く。理事殿は随分と我々を舐めてかかっているようだ。確かに
黒塗りの車の後部座席に揺られ、私は窓の外で遠ざかるカイザービルを見る。柄にもなく、文句の一つでも言いたい気分だった。
「だが、リスクヘッジができないなど大人の風上にも置けん。あらゆる面の考慮くらいはしておくべきだ。あーあ、ああいう大人にはなりたくないな。どうせ止まらんだろうが、今すぐに宝探しを止めなければ良くて蜥蜴の尻尾切りだろう、あの理事は。……せいぜい反面教師として学ばせてもらうか」
斜め前の座席にてハンドルを握るイロハが、バックミラー越しに表情を歪めて私の顔を見てきている。
「あー…議長、毎度のことですけどこの会談の内容と言い今のと言い、聞かなかったことにしますね。面倒事は嫌いなので」
「キキ…ッ。ああ是非そうしろ。怠惰だが聡いお前のことだ、口に出して厄介な事態に巻き込まれるより、口を噤み無関係である方を選ぶ……賢明だな。だからお前は特に信用に値するゲヘナ生徒の一人だ」
「……それ、褒めてます?」
「ああ。呆れ半分にだがな」
「……そうですか」
他は……なぁ。損得勘定が分からん連中多すぎるもの、ゲヘナ。こういうシンプルな欲求に素直な生徒はマジでありがたい。イロハはサボり癖があるが、それを加味しても優秀な点が多いしな。
「……それにしても議長。カイザーの駐車場で待っている時もPMCの部隊に見張られてまして、生きた心地がしませんでした。……私なんかより、
—————?
「—————ほう?私が、ヒナを、頼る?キ、キヒヒッ……ヒハハハハッ!?面白い、面白いことを言ったなイロハ!だが、あり得んなぁ!ヒナが私の懐刀足りえる生徒でないことは、お前も見ていてわかるだろう…?組織上層部である万魔殿、その議長である私の指示を聞かず、独断行動の多い……ある意味“秩序側の問題児”。過剰なほどの暴力と防御の厚さ、風紀委員会を一人で回せるほどの情報処理能力、それらを適材適所に割り振らず、自己完結した運用方法で突貫する暴走ミサイルがヤツだ。しかも、自らのパフォーマンスを落としながら、己がモチベーションも維持することもできぬまま、反射的に行うその所業は度し難いにも程がある。ゲヘナ学園の混沌とした日常に、ただ一人の抑止力として束の間の秩序をもたらしたところで焼け石に水。真っ当な方法で今のゲヘナを変えようなどと、非現実的なことを宣う。奴の理想は今のゲヘナには早すぎたものであり、また叶うことのないものだ。規則違反者を見てみろ。奴ら、ヒナとその他風紀委員会で脅威と思っているのか否かが良く分かる。そう、それが如実に示すのは空崎ヒナがゲヘナにおいて最強の存在であるということだ。そして自由と混沌を是としたゲヘナを否定する対義の象徴。絶対の力とはまさに空崎ヒナの為にある。—————私はそれが不愉快で、落胆せざるを得ない。ヒナは二年前の雷帝政権の再来を危惧したのか、政治的権力に自身の力が混じるのは拙いとでも思ったのか、あろうことか万魔殿に入ることは無かった。……それならまだ良い。ヒナも馬鹿ではない、何か考えがあってのことだと納得もしよう。だが、そうでありながら、最近のヤツは風紀委員会委員長としての立場を越えた越権行為も見受けられ始めた。それも、私の領分にまで手を出し始めてまで……!ヒナめ、そこまでしてゲヘナを憂う筋合いがどこにある?青春の三年間、取るに足らない程度であろうと自分の時間を、好きでもないゲヘナの連中の為に使いつぶすなど愚の骨頂。責任なぞ、他のゲヘナ生と同じく他人に放り投げてしまえばいいものを。他人を都合よく使う才能だけが無い独り善がりめ。それで自分だけが効率的に仕事をすれば、とでも思っているのだろうか。トップであることが、全能足りえるとでも思っているのだろうか。そうだな……、例えば私は確かに身を守る術として、ヒナに並び立てるほどの格闘センス、天賦の才を持ってはいない。だが不良生徒だらけのゲヘナ学園において、効率的に問題児どもを外交の為の鉄砲玉にして運用するくらいのことはできる。そして、自分ができんこともしかと把握しているし、自分ができないことができる他人に仕事を投げる方法も知っている。だが、ヤツはどうだ?ヤツは自分一人で行うこと以外、何もできん。周りの連中に手助けをして欲しい、とさえも懇願できない孤高で無意味な強さが足を引っ張り続けている。何れ己が破綻を思い知らされ、後戻りできぬ事態になって初めて助けてだのと宣い、年長者に泣きつくであろう凡愚……そんな生徒だ、空崎ヒナは。絶対の力を持つ者がそのような平凡な欠点で劣るなどあってはならない……!私の信用に値する存在足りえない…‼」
「—————ッスーッ……、あーはいすみませんでしたー」
—————んぁ?……し、しまったァ!気が緩んだか!?怒涛の勢いで自然と口が回ってしまっていた!クソォ!イロハが引いているのが視線を合わさずとも分かる!?分かってしまう!
「……あー、すまんイロハ。変なことを言ったな……」
「いえいえー、聞かなくとも分かってましたので。…別にどうでもいいです」
「何?それは、どういう……?」
イロハはウィンカーを出しつつ小さく返答した。……なんか、不機嫌そうだった。
関係性が複雑骨折ってこれでいいのか……。区切りの良い所でぶった切りました。