ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線 作:サルミアッキ
—————眼下には、戦場が広がっていた。
—————私の指揮に躍るのは、便利屋68たち。
—————戦場音楽は未だ鳴り止まず、廃れた街に砂塵が舞う。
—————薬莢が零れる。弾丸が飛び交う。モーセの如く
—————広陵たる砂漠、その地平の彼方より来たりしは、暁纏う天空の神秘。
—————『ウジャト』と『ラー』、その両の眼が見開かれる。
「嗚呼、全く……」
………………本当、どうしてこうなった?
—数時間前—
「万魔殿が運営しているリゾートの売り上げは好調、だったが……温泉開発部の爆破で修繕が必要か。予算は……、よし支出としては問題ないな。許可しよう。ふむ、現在建築中のコンベンション施設は二ヶ月後に完成するか、順調だな。この分ではバレンタインの社交パーティーの会場候補にもなる。ただ仮名称のマコトタワーというのは、どうにかならんのか、これは?」
私は卓上に山積みになっていた書類を黙々と捌いていた。三時間かけてやっと終わりが見えて来た。今日は進みが早い方だな。
「まあ、良いか……悪い気もしないし。それで……次の書類は、各校の学区内に流れたゲヘナの戦車、銃火器は先月の116.2%になった……と。次回のエデン条約締結会議の議題に上がる可能性があるな。ブラックマーケット経由で流れたか」
「S.C.H.A.L.Eができて以降、ブラックマーケットじゃヘルメット団各派閥とスケバンの他に、ビリオンファミリーとか五黄麒麟党、統一学徒戦線に光の家の互助会、果てはカイザーみたいなブラック企業他非合法組織も本腰を上げて『先生』を狙っているようですよ!その為の武力のつもりでしょうかね?」
「現ブラックマーケット暴力装置のバーゲンセールね。どうしようかしら、マコトちゃん?」
ちょうど私と共に仕事をしていた二人も目途が付いてきたらしい。私に話しかけてくるのは、首から一眼レフのカメラを提げた黒髪の生徒————『元宮チアキ』と、懐中時計を弄る蠱惑的に制服を着崩した桃色髪の生徒————『京極サツキ』。
「そうだな……サツキ、四日後だ。ブラックマーケット唯一の中立地帯、ヴィッテンベルク総合学習塾の塾長と連絡を取れ。あとは塾長が現地で情報収集だな。チアキは探偵業務のようで悪いが、ゲヘナの武器の証拠を集めてくれ。その際に、トリニティの揚げ足でも取れればなお良いな」
サツキは
「ふふっ……。マコトちゃんはトリニティと仲良くする気あるのかしら?」
「ああー、あるともあるとも。……失踪した連邦生徒会長の
「成る程ー、顔を立てるのも大変ですね!」
チアキ、言い直さんでいい。そもそもあちらの政治形態として一枚岩でないことが厄介なんだよな。
「……政治の世界は、銃なんぞでは解決しない。そこではやりたいようにさせてもらえないのが常。手段なぞ選べるわけがない。ならば、使える手はどんなものでも使う。汚い手、口に出すのも悍ましい手も、最低限かつ重要な結果を得るための手段だ」
どっかの政治家もそんなことを言っていた気がする。最近じゃハイランダー鉄道学園ゲヘナ支部と裏で手を結ぶのは大変だった……。
「……。ん?」
スマホに連絡が来ている?何々、アビドスにいるスパイから連絡……?っておい、ちょっと待て。カイザーと思しき企業が便利屋68やヘルメット団、傭兵を雇いアビドス高等学校を襲撃する模様?確か今、S.C.H.A.L.Eの先生もアビドスにいたよな……。
……これ負け戦では?便利屋68。
「……こういうことも含めてな」
「……うわぁ」
「……大変ね」
この時点では、万魔殿がアビドスに干渉してもメリットはない。メリットはないが、……放置していたらデメリットになる可能性が無きにしも非ず。
特に便利屋の連中にかこつけて、風紀委員の行政官なんかS.C.H.A.L.Eの先生目当てに何かしでかしそうなんだよな。
だが、ここまでを見るにあの横乳女も動きが無い。チナツの報告書を見て問題なしとしたのか、はたまたヒナに釘でも刺されたのか……。
……そういえば、カイザーPMC理事が前回の会談で言っていたな。
(—————ところで一つ。腕の良い傭兵を雇いたい案件があるのだが、今の戦力では心もとない。ゲヘナ学園の生徒の中で、戦闘能力が高く我々に協力してくれる生徒はいるだろうか?)
……そんな質問に、素直に答えるほど馬鹿ではない。カイザーに誤魔化したのは良いのだが、奴らこうも事態を急くとは。判断が速いのはまぁ美徳……、なのか?だが。
「—————潮時だな。お前たち二人には後日、オデュッセイア海洋高等学校の賭場に向かってもらう。そこで白兎と呼ばれるハッカーに金を渡せ。十中八九ギャンブルの元手にされるだろうが、揉み消しのための必要経費だ」
「あら。じゃあマコトちゃん、その兎ちゃんが
「……そういうことだ」
「成る程。では、サツキ先輩のフォローは任せてください!」
—————無駄かもしれんが、陸八魔に手を引くように言っておくか。分割払いしている前回の報酬も、今週の分渡していなかったしな。
「……事務仕事は任せた。大半は終わっているが、一部計算が残っている。イロハとイブキが来たら手伝ってもらえ。あと冷蔵庫にプリンがある、終わったら全員で食って良し」
「はーい!」
「いってらっしゃい、マコトちゃん」
一方のアビドスと先生の様子は、と……。
「成る程、キヴォトスの外……“本来のエジプト”のアビドスにはラムセス2世の遺跡があったな。
今から向かえば、ギリギリ間に合う……か?
■
アビドス高等学校。砂漠が広がるアビドス地区、唯一の学校。在校生徒が十人にも満たないその場所に、便利屋68たちの姿があった。
「ラーメン奢ってあげたのに—————殺してやるわよ、陸八魔アル!」
(な、なんでこうなるのよーっっ!?)
謂れも過失もあり過ぎる怒りに白目ひん剥いている陸八魔アル。だが、アビドスの生徒からしてみれば柴関ラーメンで色々あって仲良くなったゲヘナの学生が、アビドスを潰すために襲撃してきたのだからさもありなん。ブチギレても仕方がない。
アビドス廃校対策委員会の怒りもあって、徐々に押され始めている襲撃者たち。
「くぅッ何よ、十分強いじゃない!(嘘でしょ、何が五人しかいない廃校寸前の学校よ!依頼主ももうちょっと情報精査しなさいよ!?)—————うひゃあ!?」
ショットガンが生んだ爆発にひっくり返りそうになるアル。砂塵が舞い、一時的に互いの身を隠す天然のシェードが生まれた。
「……このままじゃ—————、あら?これって」
「どうしたの、社長?」
足元に落とされていた小さい支援物資用のボックス。身を低くしつつそれを取ると、中からは黒いマイク付きイヤホンが現れた。ちょうど便利屋68の人数分だけあったのが気になり、近くにいたカヨコと共に耳に付ける。
—————耳に、良く知る人物の声が届いた。
『すまん、以前の金を届けに来ただけだったのだが、これより便利屋68に戦闘指揮で援助する。余計なお世話だったら首を突っ込むのは止めるとするが……』
「あ、ええと……マコト先輩ですよね?」
『ああ。ここでは便利屋68の
何故ここにいるのかとか、どうして援助してくれるのかとか、言いたいことが脳裏に溢れ出すアル。だが、それを声に出すより先に、カヨコの言葉によって遮られる。
「社長。ここは受けよう……、こういうことする時のマコトなら信用に値する」
「カヨコ?え、ええ!分かったわ」
『それはありがたい。それに、————S.C.H.A.L.Eの力を実際に見せてもらいたくてな』
その時のイヤホンから漏れ出る声は興奮していたのか、武者震いでもしていたのか—————少し震えていた。
「—————っ」
「ん。空気が変わった」
戦いの風向きが変わったことに初めに気が付いたのは、長方形の盾を持った桃色髪にオッドアイのアビドス生…『小鳥遊ホシノ』と、ドローンを扱う灰色髪をした無表情の犬耳生徒…『砂狼シロコ』だった。
二人の感じた、老獪な蛇に睨まれているかのような気配は、徐々に戦場にも波及していく。追い詰められていた便利屋68の傭兵部隊も、自分たちがどうしてこれほど戦えているのか疑問に思い始めたようだった。
“優秀な指揮官が参戦したのかな?”
『傭兵部隊の立て直し、再編制も早い…?先生、このままでは!』
S.C.H.A.L.Eの先生と、後方でオペレーターをしている赤い縁の眼鏡の少女『奥空アヤネ』が戦況の確認と戦略を再構築しようとする隙を、便利屋68は見逃さない。
ムツキとカヨコが駆け出した。ムツキは鞄の中から取り出した爆弾を放り投げ、それをアルがスナイパーライフルの弾丸でピンのみを撃ち外した。
「め、目ぇいったァ!?さ、催涙弾!?」
「くふふ~。爆弾だけかと思った?いやぁ、あの人のアドバイス通り持ってて良かった~。んじゃ、先生にもプレゼント~♪」
「そんなこと、させませんよ~♧」
「呆れた、前線に立つ指揮官を狙うのはセオリーでしょ」
目をこすりながらアサルトライフルを乱射する猫耳にツインテールの『黒見セリカ』、先生に投げられたもう一個の催涙弾をガトリングガンで破壊する亜麻色髪の生徒『十六夜ノノミ』。
カヨコとムツキも近接戦闘を交えながら銃口から火花を散らす。アビドスと便利屋68の総合的な戦闘能力はほぼ同じと言ったところだった。
戦況が傾きだしたのは、それから十数分が経った頃だった。徐々に傭兵たちの動きが鈍っていく。
「通信妨害?……例の、先生が持つシッテムの箱の機能?(————特殊プロテクトがかかったこのイヤホンは通じる…、でも傭兵が使ってるカイザー製の方はダメっぽいね)」
“……どうしてシッテムの箱のことを知ってるのか聞きたいけど、まずはこのアビドスを攻めて来た理由から教えてくれないかな”
「お生憎だけど、先生。あなたも大人なら分かるだろうけど、こっちも会社で守秘義務がある」
先生のすぐそばで戦っていたカヨコが、サイレンサー付きの拳銃、デモンズロアをノノミに突き付けながら口を開く。
「それに、こういうことが起きるのも織り込み済み。
“あいつ?”
カヨコの言葉に、先生は小首を傾げた。
『……先生!便利屋68のイヤホンの電波から通信元を割り出せました!ここから450m先、北東部の廃ビルに指揮官がいます!』
“ありがとうアロナ。……シロコ、頼める?”
マガジンを装填した銃を構え、サムズアップをするシロコ。
「ん、まかせて」
「…っ。社長!お願い!」
「分かってるわよ!」
カヨコの声よりも先に動いていたアルが、愛銃ワインレッド・アドマイヤーを片手で操る。
「うへ~。邪魔はさせないよ~」
シロコへ放たれたアルの弾丸をホシノは盾で防ぎきっていた。嘘でしょ、とばかりに苦々しく表情を歪めるアル。その顔を見たハルカの中で、何かが切れた。
「—————アル様に…、アル様に手出しはさせません‼」
散弾や瓦礫片が身にぶつかることも気にも留めず、ハルカはホシノに突貫した。戦況は刻一刻と変化していく。S.C.H.A.L.Eの先生も、そして便利屋68の背後にいるであろう指揮官も、互いに戦場の状況や流れを的確に冷静に読み切って指揮を続ける。
「ごめん。マ……
『問題ないカヨコ。迎撃する』
—————背後の戦闘音を聞きながらシロコは愛用のドローンと共に走る。先生から言われた場所に……聳える廃ビルに辿り着いた。
(階段を上るより、こっちの方が良い……)
頭上に浮いていたドローンを掴み、便利屋68を指揮する存在を見つける為、ビルの側面を上昇するシロコ。
薄暗いコンクリートの部屋に、次から次へ鋭い青い視線を向けていく。やがて、その瞳に人影が映る。
(—————見つけた、ここで仕留める!)
ドローンを掴んでいた手を放し、そのまま廃ビルの窓ガラスを蹴り破ったシロコ。その指揮官を拘束せんと、銃を構え—————。
「—————それも織り込み済みだ」
「ッ!?」
ビルの中へと身を躍らせた瞬間、視界に広がるのは自分に向かって飛んでくる人影。彼女に投げつけられたのは、ガムテープで目や耳、口を塞がれたヘルメット団員。予期せぬ攻撃に呆気にとられるシロコ。
これが銃弾や爆弾であれば余裕をもって対処できたであろう、奇をてらった一撃。その一瞬の思考の逡巡の隙に、蛇が蠢く。
「お帰りはあちらだ」
暗がりにいた『覆面の謎の人物』が、手に持ったスナイパーライフルを躊躇なく撃った。
「しまッ—————」
弾丸は寸分違わずに飛んで行く。それはヘルメット団の少女の胸に巻かれていたものに着弾した。
—————目も眩む閃光と轟音を立ててTNT爆弾が廃墟内に爆風を撒き散らし、侵入者を排除する。
「うぇえぇッ!?シロコ先輩!?」
「くふふ♡意外と派手な方法使うじゃ~ん、あの人も」
黒煙の中から吹き飛ばされるシロコ。自由の利かない空中で、何とか崩れた姿勢を直して道路を転がり着地する。
「……ん、油断した」
「ぐべッ」
一拍置いてアスファルトに落下した黒焦げヘルメット団員を気にも留めず、シロコは顔に付いた煤を拭う。戦場はアビドスのチームワークが分断されつつあり、不利な状況になっていた。だが、便利屋68も被害がないとは言い難く、彼女らが率いてきた傭兵団はホシノに蹂躙されつつある。
『便利屋68!乗れ!』
死屍累々の傭兵たちを跳ね飛ばしながら、戦場に一台のホルヒ108が突っ込んできた。その車の運転手の言葉に弾かれたように跳び乗るカヨコたち。
「行くよ社長!」
「あははッ、今日のところはここまでかな~?」
「アル様、ああアル様、すみませんすみませんすみません…。アル様の邪魔をした、が、害虫を吹き飛ばせませんでした…」
ここで撤退しておけば消耗は少ない。おまけに被害は最小限。未だ敗北したわけではないため、依頼主にも武力偵察という名目は立つ。アルの頭の中では今、ぐるぐると利益と被害、それと自分の見栄を天秤にかけては入れ替えられている。
ふぅ、と意を決して口を開いた。その笑みに、アビドス高等学校の廃校対策委員会の面々に緊張が走る。
「—————、これで終わったと!思わないことね!」
ドップラー効果が効いた声をその場に残しながら、便利屋68と傭兵団たちは撤退していった。
“……何とか引き分けにできて良かったよ”
『そうですね……これ以上長引いたら、物資が少ないこっちが不利になるでしょうし』
先生は額の汗を拭ってアヤネと言葉を交わしていた。このキヴォトスに来て、初めての苦戦に溜息をつく。今後の戦闘指揮の反省をしなければと、周囲を見渡している時だった。
(今の戦い方と、その指示の仕方って…………)
「どうしたの?ホシノ先輩」
小鳥遊ホシノの表情が曇っていたのを、S.C.H.A.L.Eの先生は見逃さなかった。
「…うへ?何でもないよ~セリカちゃん」
小鳥遊ホシノの脳裏に浮かび上がる、二年前と同じ軽薄で底知れない悪魔の笑み。
(…………もしかしてこの件を裏で糸引いているのは、お前?
やべぇ!
・その辺で拾ったSR!
・その辺で拾ったTNT!
・その辺で拾ったカイザーの車!
・その辺で(ボコって)拾ったヘルメット団員一名!
……これでなんとか撤退戦完遂しました。どーなってんだよ本作マコト様。
カヨコ「何でこの通信用イヤホン、ハッキング無効機能付いているの?シッテムの箱って滅茶苦茶凄いAI搭載されているってレポートになかったっけ」
マコト「ハッキングしてくるAIにテイルズ・サガ・クロニクルのデータをぶち込む機能が付いてるだけだ。このイヤホン開発者曰く、クソゲー開発者たちへの嫌がらせだと」
カヨコ「……誰がこれ作ったの」
マコト「ブラックマーケットの知り合い」